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第5章 渡りに船と言いますが…
第91話 ランチを取りながら話をします
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戦列艦の引き渡しを終えて、艦から埠頭に降りてくるとミリアム首相が尋ねてきました。
「レディー・シャルロッテはこれからどうなされるのですか。
これで、使者としての役目は終わったのでしょう。」
「ええ、実は、こう言っては失礼なのですが。
使者としての役目の方がついでだったのです。
元々、私は貴国を訪問する計画を立てていました。
それを偶々皇帝陛下が聞きつけて、渡りに船と私にあれを託したのです。
何分、事は極秘裏に運ばなければならなかったものですから。
小娘の私が周囲の目を欺くのに好都合だったのです。」
「ほう、それは興味深い。
レディーのような年若いお嬢さんが、遠路我が国まで足を運ばれる程の目的とは何でしょうか。
ちょうど、時間も良い具合です。
ランチでも取りながら、お話をお聞かせ願えませんか?」
ここで断るのも失礼かと思い、私はミリアム首相のお誘いを受けることにしました。
私は、ミリアム首相と帝国の大使と三人で首相官邸まで引き返すことにします。
ニルソン提督は、戦列艦に乗艦していたセルベチア兵の収容をするために港に残りました。
ですが、実際は一刻も早く戦列艦の中を検分したいというのが本音のところのようです。
ウキウキした感じで戦列艦を見ているのですもの。
案内されたのは首相官邸のティールーム、三人掛けの丸テーブルを三人で囲みます。
「レディーには、かしこまった部屋よりもこの方が肩の力を抜けて良いかと思いました。
ここからは、固い話は無しにしましょう。
しかし、帝国にレディーのような隠し玉があるとは思いませんでした。」
「いやぁ、私も恥ずかしながら我が帝国の領邦にアルムハイム伯国という国があることは初めて知りました。
魔女などという存在が実在したのも驚いています。」
ミリアム首相の言葉に、帝国の大使が答えます。
大使としては別に隠していたものではないと言いたいのでしょう。
「大使がご存じないのも仕方がないです。
私の国は過去の経緯から伯国と名乗っていますが、人里離れた山の中に私の館があるだけですもの。
しかも、クラーシュバルツ王国を挟んだ飛び地になっていますし、帝都の社交界にも顔を出していませんから。
魔女は忌まわしき者として排除されてしまったので、今では公然と魔女を名乗っているのは私一人だと思います。」
私は料理が出てくるまでの間、茶飲み話としてアルムハイム伯国の由来や聖教との関係を話して間を持たせてみました。
「ほう、魔女狩りを主導していた聖教が公認している魔女とは面白い。
しかし、魔女狩りを逃れて隠れ住んでいたのですか、万の兵を撃退するだけの力があれば抵抗も出来たでしょうに。」
私の話を聞いていたミリアム首相が感想を漏らしました。
「そんなことをしてしまったら、周囲の人達は私の一族を脅威とみなし本腰を入れて潰しに来たでしょう。
こちらは女性が中心の少人数なのです。
数の力に抗し切ることはかなわないでしょう。
それに、私達の力は戦いに用いるのには本来不向きなものが多いのです。
基本的に私達は争いを好みませんので。」
「レディーのご先祖が理性的な方々で良かった。
魔女狩りの時代に、レディーのご先祖達が魔女狩りに抵抗してその力を振るわれていたら大陸は大騒ぎになったと思います。」
私の話を聞いていて、ミリアム首相は大分警戒心を和らげてくれたようです。
私がセルベチアの艦隊を壊滅させたことを告げてからのことです。
実は、ミリアム首相の私を見る目が、好意的な言葉とは裏腹に何か得体のしれないモノを警戒する目に変わったのです。
私の話の中で、私を含めて私の一族が争いを好まないことを理解してくれたようです。
ミリアム首相の表情が言葉と同じような友好的なものに和らいできました。
**********
「私としては、是非とも我が国の伝統料理の臓物のプディングを食べて頂きたいところなのですが。
官邸のシェフが友好的な関係を維持したい国の人物にお出しするモノではないと言って止めるのです。
仕方がないので、ありきたりな料理になってしまいました。
この魚のフライなんて、屋台で貧困層も食している料理で、賓客にお出しするモノではないと言ったのですが。
シェフはこれが一番癖がなくてどなたにでも受けるというのです。
お口にあうか分かりませんが、召し上がってください。」
目の前に饗された料理を見てミリアム首相が言いました。
ミリアム首相が臓物のプディングと言った時、大使の顔が一瞬曇りました。
そして、実際に目の前に出された魚のフライを見て大使はホッとした顔を見せました。
どうやら、官邸のシェフの言うことが正しいようです。
大使が顔を曇らせる料理というものにも興味がありますが、余計なことは言わないでおきましょう。
白身魚のフライはサクッとした触感の厚付けの衣が特徴的な料理でとても美味しいものでした。
小麦粉ベースの衣は酢と重曹を加えることで気泡ができ特徴的な触感になるそうです。
エールを加えるのが隠し味なんだそうです。
「とっても美味しいですわ。このサクッとした触感がとても良いです。
それに、この細かいオニオンとピクルスの入った白いソースが甘酸っぱくてとても料理にあいますね。
脇に添えられたポテトのフライも美味しいです。」
私が料理を絶賛するとミリアム首相は少し顔を歪めて言います。
「そうですか?お口にあったなら何よりです。
いえ、ポテトなど我が国では貧者のパンと言われていまして。
レディーのような高貴な方にお出しするモノではないと思っていたのですが…。」
帰り掛けに同乗した馬車の中で大使から聞いた話では、この魚のフライ、元は労働者階級の食べ物だったそうです。
階級社会のアルビオン王国では上流階級の方は、労働者階級の食べ物を口にするのに忌避感があるようです。
ですが、この魚のフライ、最近流行りだした料理のようなのですけど。
癖のない味が受けて、今では上流階級向けの高級レストランでも供されているとのことなのです。
まあ、屋台で供されるものと高級レストランで供されるものは、素材にしても、味付けにしても違うようですが。
屋台の物は酢と塩だけを振りかけて食べるそうですが、高級レストランでは添えるソースに店ごとの特徴があるそうです。
今日、添えられた白いソースも、やはり最近、上流階級の間で流行り始めたものだそうです。
卵・酢・オリーブオイルを攪拌したものがベースだそうで、そこにオニオンとピクルスをみじん切りにしたものをあえてあるようです。
その後に供されたローストビーフもとても美味しかったのです。
事前に調べたところでは、アルビオン王国の料理はどれも美味しくないというのがもっぱらの噂でした。
噂は間違いだったのかしらと大使に言うと、
「今日の昼食は、お客様がシャルロッテ嬢の様な年若い女性と聞いて、官邸のシェフが気を利かせてくれたのだと思います。
今日出された料理はどれも最近の若い方に好まれる料理ばかりでした。
私が大使就任のご挨拶に伺った時に、やはり昼食に誘われまして。
供されたのが、首相の言っていた臓物のプディングでした。
あれを食べさせられた時、私は我が国に対する宣戦布告かと思いましたぞ。」
酷い言われ様です。
ミリアム首相の話では、臓物のプディングはアルビオン王国のソールフードで、れっきとした上流階級の食べ物だそうですが…。
ちなみに、この臓物のプディング、大使によると逸話の多い料理だそうです。
かつて、犬猿の仲のセルベチアの王が、「臓物のプディングのようなひどい料理を食べるような連中は信用がならない」といったとか。
友好国の王が訪問した際に、「臓物のプディングが出されることを懸念している」と事前に牽制したとか。
そこまで言われる料理って、いったい……。
「レディー・シャルロッテはこれからどうなされるのですか。
これで、使者としての役目は終わったのでしょう。」
「ええ、実は、こう言っては失礼なのですが。
使者としての役目の方がついでだったのです。
元々、私は貴国を訪問する計画を立てていました。
それを偶々皇帝陛下が聞きつけて、渡りに船と私にあれを託したのです。
何分、事は極秘裏に運ばなければならなかったものですから。
小娘の私が周囲の目を欺くのに好都合だったのです。」
「ほう、それは興味深い。
レディーのような年若いお嬢さんが、遠路我が国まで足を運ばれる程の目的とは何でしょうか。
ちょうど、時間も良い具合です。
ランチでも取りながら、お話をお聞かせ願えませんか?」
ここで断るのも失礼かと思い、私はミリアム首相のお誘いを受けることにしました。
私は、ミリアム首相と帝国の大使と三人で首相官邸まで引き返すことにします。
ニルソン提督は、戦列艦に乗艦していたセルベチア兵の収容をするために港に残りました。
ですが、実際は一刻も早く戦列艦の中を検分したいというのが本音のところのようです。
ウキウキした感じで戦列艦を見ているのですもの。
案内されたのは首相官邸のティールーム、三人掛けの丸テーブルを三人で囲みます。
「レディーには、かしこまった部屋よりもこの方が肩の力を抜けて良いかと思いました。
ここからは、固い話は無しにしましょう。
しかし、帝国にレディーのような隠し玉があるとは思いませんでした。」
「いやぁ、私も恥ずかしながら我が帝国の領邦にアルムハイム伯国という国があることは初めて知りました。
魔女などという存在が実在したのも驚いています。」
ミリアム首相の言葉に、帝国の大使が答えます。
大使としては別に隠していたものではないと言いたいのでしょう。
「大使がご存じないのも仕方がないです。
私の国は過去の経緯から伯国と名乗っていますが、人里離れた山の中に私の館があるだけですもの。
しかも、クラーシュバルツ王国を挟んだ飛び地になっていますし、帝都の社交界にも顔を出していませんから。
魔女は忌まわしき者として排除されてしまったので、今では公然と魔女を名乗っているのは私一人だと思います。」
私は料理が出てくるまでの間、茶飲み話としてアルムハイム伯国の由来や聖教との関係を話して間を持たせてみました。
「ほう、魔女狩りを主導していた聖教が公認している魔女とは面白い。
しかし、魔女狩りを逃れて隠れ住んでいたのですか、万の兵を撃退するだけの力があれば抵抗も出来たでしょうに。」
私の話を聞いていたミリアム首相が感想を漏らしました。
「そんなことをしてしまったら、周囲の人達は私の一族を脅威とみなし本腰を入れて潰しに来たでしょう。
こちらは女性が中心の少人数なのです。
数の力に抗し切ることはかなわないでしょう。
それに、私達の力は戦いに用いるのには本来不向きなものが多いのです。
基本的に私達は争いを好みませんので。」
「レディーのご先祖が理性的な方々で良かった。
魔女狩りの時代に、レディーのご先祖達が魔女狩りに抵抗してその力を振るわれていたら大陸は大騒ぎになったと思います。」
私の話を聞いていて、ミリアム首相は大分警戒心を和らげてくれたようです。
私がセルベチアの艦隊を壊滅させたことを告げてからのことです。
実は、ミリアム首相の私を見る目が、好意的な言葉とは裏腹に何か得体のしれないモノを警戒する目に変わったのです。
私の話の中で、私を含めて私の一族が争いを好まないことを理解してくれたようです。
ミリアム首相の表情が言葉と同じような友好的なものに和らいできました。
**********
「私としては、是非とも我が国の伝統料理の臓物のプディングを食べて頂きたいところなのですが。
官邸のシェフが友好的な関係を維持したい国の人物にお出しするモノではないと言って止めるのです。
仕方がないので、ありきたりな料理になってしまいました。
この魚のフライなんて、屋台で貧困層も食している料理で、賓客にお出しするモノではないと言ったのですが。
シェフはこれが一番癖がなくてどなたにでも受けるというのです。
お口にあうか分かりませんが、召し上がってください。」
目の前に饗された料理を見てミリアム首相が言いました。
ミリアム首相が臓物のプディングと言った時、大使の顔が一瞬曇りました。
そして、実際に目の前に出された魚のフライを見て大使はホッとした顔を見せました。
どうやら、官邸のシェフの言うことが正しいようです。
大使が顔を曇らせる料理というものにも興味がありますが、余計なことは言わないでおきましょう。
白身魚のフライはサクッとした触感の厚付けの衣が特徴的な料理でとても美味しいものでした。
小麦粉ベースの衣は酢と重曹を加えることで気泡ができ特徴的な触感になるそうです。
エールを加えるのが隠し味なんだそうです。
「とっても美味しいですわ。このサクッとした触感がとても良いです。
それに、この細かいオニオンとピクルスの入った白いソースが甘酸っぱくてとても料理にあいますね。
脇に添えられたポテトのフライも美味しいです。」
私が料理を絶賛するとミリアム首相は少し顔を歪めて言います。
「そうですか?お口にあったなら何よりです。
いえ、ポテトなど我が国では貧者のパンと言われていまして。
レディーのような高貴な方にお出しするモノではないと思っていたのですが…。」
帰り掛けに同乗した馬車の中で大使から聞いた話では、この魚のフライ、元は労働者階級の食べ物だったそうです。
階級社会のアルビオン王国では上流階級の方は、労働者階級の食べ物を口にするのに忌避感があるようです。
ですが、この魚のフライ、最近流行りだした料理のようなのですけど。
癖のない味が受けて、今では上流階級向けの高級レストランでも供されているとのことなのです。
まあ、屋台で供されるものと高級レストランで供されるものは、素材にしても、味付けにしても違うようですが。
屋台の物は酢と塩だけを振りかけて食べるそうですが、高級レストランでは添えるソースに店ごとの特徴があるそうです。
今日、添えられた白いソースも、やはり最近、上流階級の間で流行り始めたものだそうです。
卵・酢・オリーブオイルを攪拌したものがベースだそうで、そこにオニオンとピクルスをみじん切りにしたものをあえてあるようです。
その後に供されたローストビーフもとても美味しかったのです。
事前に調べたところでは、アルビオン王国の料理はどれも美味しくないというのがもっぱらの噂でした。
噂は間違いだったのかしらと大使に言うと、
「今日の昼食は、お客様がシャルロッテ嬢の様な年若い女性と聞いて、官邸のシェフが気を利かせてくれたのだと思います。
今日出された料理はどれも最近の若い方に好まれる料理ばかりでした。
私が大使就任のご挨拶に伺った時に、やはり昼食に誘われまして。
供されたのが、首相の言っていた臓物のプディングでした。
あれを食べさせられた時、私は我が国に対する宣戦布告かと思いましたぞ。」
酷い言われ様です。
ミリアム首相の話では、臓物のプディングはアルビオン王国のソールフードで、れっきとした上流階級の食べ物だそうですが…。
ちなみに、この臓物のプディング、大使によると逸話の多い料理だそうです。
かつて、犬猿の仲のセルベチアの王が、「臓物のプディングのようなひどい料理を食べるような連中は信用がならない」といったとか。
友好国の王が訪問した際に、「臓物のプディングが出されることを懸念している」と事前に牽制したとか。
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