最後の魔女は目立たず、ひっそりと暮らしたい

アイイロモンペ

文字の大きさ
上 下
79 / 580
第5章 渡りに船と言いますが…

第78話 いきなり現れたら普通は驚くと思います

しおりを挟む
「おじいさま、何をされているので?」

 私は転移魔法の発動媒体の上に立って私の手を取るおじいさまに尋ねました。

「決まっておるであろう、マリア姉上の孫達に顔を見せに行くのだ。
 顔も見せないで、ロッテに預けたら私がその二人を歓迎していないように思われるであろう。
 一度会って、事情を説明してやらんといかんかと思うてな。」

 おじいさまはもっともらしいことを言いました。

「それで、本当のところはどうなのです?」

「いや、私も一度転移魔法というものを経験してみたくてな。
 それに、ベルタではないが、私も一度アンネリーゼの住んでいたところを見てみたい思っていたのだ。
 マリア姉上の孫に会うという建前もあるし、良い機会だと思うてな。」

 おじいさま、今、あの二人に会うことを建前とおっしゃりましたね。そっちがついでなのですか…。
 
 おじいさまは梃子でも動きそうではない様子でしたので、仕方なくアルムハイムの館へ案内することにしました。
 この押しの強さ、母が皇室に取り込まれるのではと警戒した気持ちが良く分かりました。
 ただ、母のことが大好き過ぎるだけとも思え、今のところ判断が付きかねています。


     **********


 転移魔法を発動し、二人と大きなトランクを伴ってやって来たのは生前に母が使っていた寝室です。
 光の魔法を灯し部屋を明るくすると、…。

「あれは、アンネリーゼがまだ幼い頃に私が与えた人形ではないか。
 まだ持っていてくれたのか、大切にしてもらえて嬉しいことだ。」

 寝室のキャビネットに置かれたアンティークな人形を目敏く見つけたおじいさまが感極まった声を漏らしました。
 どうやら、単なる親バカのようでした。母も私もおじいさまを警戒し過ぎていたようです。

 ただ、…。
 あの人形、非常に高名な人形職人の手によるもので相当の値が付くものだとは聞いていましたが、おじいさまから頂いたものだとは聞いたことがありませんでした。
 おじいさまとの血縁関係を内緒にするとしても、あの母なら皇帝陛下から頂いた物だと自慢したと思うのです。
 憶測ですが、母はあの人形をおじいさまから頂いた物ということを忘れていたのではないでしょうか。
 もちろん、おじいさまが不憫なのでそんなことは言いませんが。

 感動に浸るおじいさまを何とか動かして、三人でリビングルームに向かいます。

「姫様、その浮遊の魔法というのは便利なものですね。
 アンネリーゼ姫様は良くソファーに腰掛けたまま本棚の本を手元に引き寄せていたのですが。
 まさか、こんな重い物まで運べるとは思いもしませんでした。」

 ベルタさんの大きなトランクを浮遊の魔法で浮かして廊下を歩いているとベルタさんが呟きました。
 当面の生活に必要なものが詰め込まれているせいかとても重く、ベルタさんが運ぶのでは気の毒だと思い、魔法で運ぶことにしたのですが思いの外感心しているようです。


 リビングルームに入ると隅に控えていたカーラがすぐに私に気づきました。

「お帰りなさいませ、お嬢様。」

 カーラの言葉でリビングルームにいる人の目が私の方に集まります。
 リーナはすぐにおじいさまに気が付き緊張した様子でソファーから立ち上がりました。

「ああ、皇帝陛下だ!皇帝陛下、いらっしゃい!」

 リーナが声を発するより早く、アリィシャちゃんがおじいさまに挨拶をしました。
 まるで、近所のおじさんを迎えるように。
 やはり、そろそろ、礼儀作法を教えないといけませんね。

 私が気まずい顔をしていると、

「良い、良い。子供は元気が良いのが一番だ。
 礼儀作法なんてものはもう少し大きくなってからで十分だ。
 アリィシャと言ったかな、こんにちは。
 そっちのクラーシュバルツの姫もそんなに固くならんで、肩の力を抜いておくれ。」

 おじいさまは気を悪くした様子も見せずに、二人に声をかけてくださいました。

 アリィシャちゃんの言葉で、私の横に立つ人物の正体がわかったフランシーヌさんとシャル君が、慌てて起立します。
 まさか、皇帝陛下自らがここを訪れるとは考えてもいなかったのでしょう、フランシーヌさん達は目を丸くしています。

 そんな二人におじいさまは優しく声を掛けました。

「そなた達がマリア姉上の孫であるか。遠いところ、良く来たな。
 ロッテから話は聞いておる。
 カンティ公爵には気の毒であったが、そなた達が無事で何よりだ。
 私はそなた達を歓迎する、そなた達の安全と今後の生活は私が保証するので安心するが良い。」

「お初にお目にかかります、皇帝陛下。
 私はフランシーヌ・ド・ベルホン=カンティと申します。
 横に居りますは弟のシャルル=ルイ・ド・ベルホン=カンティでございます。
 皇帝陛下自らご足労いただいたうえ、寛大なお言葉を頂戴し恐悦至極に存じます。」

 おじいさまの言葉を受けてフランシーヌさんが慌てて返答しましたが、その声は緊張で震えています。

「そんなに緊張しなくても良い。ここは謁見の間でもなければ、皇宮ですらないのだ。
 親戚のおじさんと話すと思って気楽にすれば良い。
 立ち話もなんだし、座って話をすることにしよう。
 今後についての説明もしないといかんからな。」

 おじいさまは、緊張した様子のフランシーヌさんに席を勧め、自らもその向かいに腰を落ち着けました。

「だいたいの事情はロッテから聞いておる。
 マリア姉上が残した大事な孫を粗末に扱う訳にいかない。
 ただし、そなた達を公然と保護することができないのは、そなた達自身が解っていることだと思う。
 私はそなた達が安心して暮らせる場所を用意するつもりであるが、すぐにというのは難しい。
 それで、良い場所が見つかるまでの間、ここロッテの領地で二人を保護してもらうことになった。
 後でロッテから説明があると思うが、ここは世界中で最も安全な場所なのでな。」

「はい、皇帝陛下のご配慮に感謝いたします。
 だだ、こちらは余り人気がない様子ですが、私達がお世話になるとご迷惑をお掛けするのではないでしょうか。」

 フランシーヌさんは周囲を見回して不安そうな表情で言います。
 何せこの館に来てから私達以外の人に会わないのですから当然ですね。

「それについては、そなた達の世話をするために、皇宮から一人侍女を遣わした。
 私の後ろに立つ者がそうだ、名をベルタという。
 ベルタはロッテの母親の侍女をしていたのでこの家の事情にも明るいから頼ると良い。」

 おじいさまはベルタさんを紹介して、二人を安心させて言いました。

「ところで、私にはこの館の可愛い住人たちを紹介してはくれないのかい?」

 おじいさま……。


*お読み頂き有難うございます。
  本日20時にも続きを1話投稿しますので引き続きお読み頂けたら幸いです。
しおりを挟む
感想 137

あなたにおすすめの小説

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】

一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。 追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。 無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。 そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード! 異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。 【諸注意】 以前投稿した同名の短編の連載版になります。 連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。 なんでも大丈夫な方向けです。 小説の形をしていないので、読む人を選びます。 以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。 disりに見えてしまう表現があります。 以上の点から気分を害されても責任は負えません。 閲覧は自己責任でお願いします。 小説家になろう、pixivでも投稿しています。

平民として生まれた男、努力でスキルと魔法が使える様になる。〜イージーな世界に生まれ変わった。

モンド
ファンタジー
1人の男が異世界に転生した。 日本に住んでいた頃の記憶を持ったまま、男は前世でサラリーマンとして長年働いてきた経験から。 今度生まれ変われるなら、自由に旅をしながら生きてみたいと思い描いていたのだ。 そんな彼が、15歳の成人の儀式の際に過去の記憶を思い出して旅立つことにした。 特に使命や野心のない男は、好きなように生きることにした。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる! ×ランクだと思ってたギフトは、オレだけ使える無敵の能力でした

赤白玉ゆずる
ファンタジー
【コミックス第1巻発売中です!】 皆様どうぞよろしくお願いいたします。 【10/23コミカライズ開始!】 『勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる!』のコミカライズが連載開始されました! 颯希先生が描いてくださるリュークやアニスたちが本当に素敵なので、是非ご覧になってくださいませ。 【第2巻が発売されました!】 今回も改稿や修正を頑張りましたので、皆様どうぞよろしくお願いいたします。 イラストは蓮禾先生が担当してくださいました。サクヤとポンタ超可愛いですよ。ゾンダールもシブカッコイイです! 素晴らしいイラストの数々が載っておりますので、是非見ていただけたら嬉しいです。 【ストーリー紹介】 幼い頃、孤児院から引き取られた主人公リュークは、養父となった侯爵から酷い扱いを受けていた。 そんなある日、リュークは『スマホ』という史上初の『Xランク』スキルを授かる。 養父は『Xランク』をただの『バツランク』だと馬鹿にし、リュークをきつくぶん殴ったうえ、親子の縁を切って家から追い出す。 だが本当は『Extraランク』という意味で、超絶ぶっちぎりの能力を持っていた。 『スマホ』の能力――それは鑑定、検索、マップ機能、動物の言葉が翻訳ができるほか、他人やモンスターの持つスキル・魔法などをコピーして取得が可能なうえ、写真に撮ったものを現物として出せたり、合成することで強力な魔導装備すら製作できる最凶のものだった。 貴族家から放り出されたリュークは、朱鷺色の髪をした天才美少女剣士アニスと出会う。 『剣姫』の二つ名を持つアニスは雲の上の存在だったが、『スマホ』の力でリュークは成り上がり、徐々にその関係は接近していく。 『スマホ』はリュークの成長とともにさらに進化し、最弱の男はいつしか世界最強の存在へ……。 どん底だった主人公が一発逆転する物語です。 ※別小説『ぶっ壊れ錬金術師(チート・アルケミスト)はいつか本気を出してみたい 魔導と科学を極めたら異世界最強になったので、自由気ままに生きていきます』も書いてますので、そちらもどうぞよろしくお願いいたします。

田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。

けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。 日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。 あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの? ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。 感想などお待ちしております。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

異世界でタロと一緒に冒険者生活を始めました

ももがぶ
ファンタジー
俺「佐々木光太」二十六歳はある日気付けばタロに導かれ異世界へ来てしまった。 会社から帰宅してタロと一緒に散歩していたハズが気が付けば異世界で魔法をぶっ放していた。 タロは喋るし、俺は十二歳になりましたと言われるし、これからどうなるんだろう。

処理中です...