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第25話 「そのまま、動かして」
しおりを挟む股の下をこえて二人のものが重なったところを、ぬるぬるとほんのすこし前後にこすられる。その揺れだけで、すでに膨張しそうな僕のものはさらに固さを増した。
一緒に。
え、それは、先輩と僕のを、僕が、一緒に触って、握って、それで。
先輩に前は触らないでほしいとお願いしているからか、先輩の手は僕の正面にはまわってこない。
先輩のもの、つまり、男性器、を触ることに嫌悪感はない。頼まれたらもちろん喜んでする。だけど自分のものと一緒に、というのは。
硬くなっている自分のものを、先輩の前で処理することは恥ずかしさと、どうしようもなく男の体でしかないうことをさらすようで、とてもじゃないけれどできない。でも、先輩のものも同様に張りつめていて、このままだと、いつまでもイけなくて、先輩だって苦しいのはよくわかる。
そうすることで、先輩を楽にするためなら、それが先輩のためになるなら。
その言葉を免罪符に、こわごわと、二人のものが重なっている場所に手を伸ばす。
「あっ、っん、は、ぁ」
「っ、つっ……」
おそるおそる握りこんだらその刺激だけで声が出た。後ろの先輩からもくぐもった息が出る。
二人分のものをあわせて、なんとか片手で収められる範囲で。自分のとは別の、青葉先輩のものを直接触っていると思うと、頭が沸騰しそうだった。びくびくと脈打っているのが、ますます生々しさを増して、現実味がないのに、はっきりと存在している現実感がかみ合わない。
「……そのまま、動かして」
茹だった頭はかすれた声に従うしかなかった。ゆっくりと二人分のものをまとめた手を上下に動かし始める。
ようやく直接的な刺激がもたらされて、わかりやすい快感に目の前がちかちかする。
ぬられたローションがこわごわと動かしているうちに手にもうつって、動きをスムーズにさせる。
他人の性器を触るなんて初めてだ。実際に触ると、硬くて、滑らかで、大きい。その形を確かめるように指を絡ませて、おぼつかない手つきで動かす。
「ん、あ、……ぁ、は、ぁ」
ローションのぬめりも合わさって、普段自分でオナニーをするときよりもわかりやすい快感が背筋をのぼっていく。だけど、なにより先輩のほうもびくびくと震えるているのが、僕の手で気持ちよくなってくれるんだと、嬉しくなる。
現実感は薄れていって、羞恥よりも先輩をきもちよくしたい、という思いが先に立つ。
今にも達してしまいそうな中、たしか前回のとき、先輩が一人でしている時はくびれのところを触るのが好きそうだったと思い出して、指をえらがはっている部分にひっかけるように動かす。
ぐっ、と後ろで先輩が息を飲んだのがわかった。ああ、よかった、きもちいいんだと思って、くびれに指がかかるようにしながら、動かす速度を早くする。
それに合わせるように、いまだに後ろにはいったままの先輩の指が動き出した。
「え、あっ、ぁっ!」
さっきよりも性急な動き。中に入って抜いて、また入ってという、出入りするだけの動きだけど、躊躇なく奥へと潜り込もうとする三本の指は遠慮なく甘さを超えた刺激を僕にたらして。
先輩のものを扱きながら、しかもこんな格好、いわゆるバック、という体位で。そんな風に指を出し入れされると、まるで、その、疑似的に挿入されているような感覚に陥ってしまう。
もともと、今触っている先輩のものがはいりやすくするための準備で。それを僕は今触っていて、硬くはりつめて、熱さが直接伝わってきて。
先輩の指の動きは、その錯覚をより強めるように、容赦なく出入りする。
でも止められなくて。むしろその速度につられて上下にこする手を早めていく。
背筋からぞくぞくと気持ちいい刺激が走る。
「や、あ、あ、ん、んん……!」
こらえきれない声が漏れ出る。
だんだん昇り詰めていく快感と、後ろを出入りする指からもたらされる刺激と、疑似的に行為をしているような錯覚で、あっという間に限界に近づいていく。手の中でびくびくと震えている。
ヤバい、先輩より先に出てしまいそうだ、どうしよう。押し寄せる射精感を食いしばって耐える。先輩のほうもきっと限界が近いと、思う、けれど。
熱に浮かされた頭で考えた時、硬くはりつめていた先輩のものがすっと自分の手の中から抜ける。
「えっ……あ、あぁッ!」
いままでずっと出入りしてただけの指が、狙いすましたかのように、ぐっと前立腺を押した。
頭を焼きそうな刺激に耐え切れなかった。
ぱんっと視界が白くなる。
溜まりこんでいた熱が一気に放たれる解放感。
考える余裕もなく、自分の手の中に熱が吐き出された。
思考を奪われる射精感のあと、力がぬけてベッドに頭から倒れる。
背中の後ろから、先輩が息を飲む音がする。
一瞬、部屋の中に沈黙が生まれる。
すこしあと、走り終えた後のような荒い息が聞こえる。
ああ、先輩もイったんだな、とぼんやりした頭の中でわかった。
部屋の中に二人分の荒い呼吸が混ざる。いつの間にか僕の中にはいっていた指は抜かれていた。
少し経った後、ごそごそとした音が聞こえる。
「ん、……コーヨー、これ、使って」
後ろ側からタオルを渡されて、綺麗なほうの手で素早く受け取って、先輩に見えないように自分の出したものを処理をする。
「はあー……」
先輩のほうも片づけたのか、倒れたままの僕の横に寝そべる。わざわざ、まだ裸のままだった下半身を隠すようにタオルを上からかけてくれた。
抱え込まれるように腕を回されてぎゅっと横抱きにされる。
一度落ち着いた心臓の鼓動がまた跳ねた。
感触的に下着も服もきれいにしたようだけど、相変わらず先輩も上は裸のままだ。
先輩はしばらくそのまま僕の肩に頭を押しつけていた。
無言の先輩に不安がわきでそうになるころ、はあ、と大きなため息の音が聞こえた。
「あー……ごめん、コーヨーのほうがシャワー使いたいと思うんだけど。全然賢者タイムこなくておさまんないから、先にシャワーいってきてもいい?」
その言葉の意味を咀嚼してから、え、と思考が止まりそうになった。
おさまらない。それが意味することは、つまり、先輩のものは、いまだ元気っていうことで。
見てはいないけど、あの気配からして確かに先輩もイったのはわかる。それなのに、おさらまらない、というのは。
「すぐ終わらせてくるし、ちょっとシャワーで頭冷やしたい」
終わらせる、というのは、それこそおさまらないから、オナニーをする、ということだろう。
いまだに裸のままの下半身がむずがゆくなる。ローションをたくさん使われた後ろの部分は、まだ濡れていて。
途中で振り返って見てしまった、あのこらえた表情を思い出す。ずっと触られていたところがひくつく。
一度出しても、そんな風になっている、のは。
先輩は、もっと先を、求めてる、という、ことだろうか。
もし、そうなら。そうだという、なら。
震えないように、なるべく普通のことのように、言葉をつむぐ。
「あの、もし、あれなら……その、最後まで、します、か」
こんなところに勇気があったのかと、自分でも驚く。
回されていた腕がぴくっと反応したのがわかった。
「たぶん、その、大分準備、できたとおもう、んで。あの、きっと、大丈夫だとおもうん、ですけど」
あれほど丁寧にほぐされたのだから、きっと、そう、できる、と、思う。先輩のものを受け入れることを。
つまり、セックス、を。
こんなことを自分から言うなんて、本当に熱で頭がおかしくなったかもしれない。
けど。先輩が、望んでいる、なら。あんな風に我慢してまで、求めてくれている、なら。
僕は。
黙っていた腕が、急に動きだした。
くるりと体を反転させられた。
なにが起きたかわからないまま、仰向けになった僕の視界に映ったのは、思った以上に真剣な表情で僕を見下ろす青葉先輩で。
「……本気で言ってる?」
ひたりと。まっすぐな、強い目で見据えられて、言葉がでなくなる。
怒らせたかと思って心臓が氷漬けになった。だけど、瞬きもせず見つめるその目から離せないでいると、だんだん、それは怒っているとか、そういう類ではない、とわかった。
僕自身の中にある、僕も気づいていない、何かを、探そうとしているような目だった。
くい、と先輩は、ずっと着たままで、汗で濡れた僕のシャツをつかむ。
その動作にびくっと体がこわばった。
「……オレの前で、服も脱げないのに?」
こわばった体がそのまま、魔法をかけられたみたいに一ミリも動けなくなる。
服を脱がないのも、触らないでというのも、一方的にお願いしただけで先輩は理由を聞かなかった。
だけど、もしかしたら、青葉先輩は理由を察している、んじゃないだろうか。
僕が先輩に見せたくないもの。拒まれるのが怖くて、さらけだしたくないもの。
裾から手を離して、先輩は僕の頬を、大きな手で優しく包む。
「コーヨーは、オレと、」
珍しく途中で言葉を止めて、逡巡した先輩は「いや、これ聞いたらズルいかな」とひとりごとを呟いた。
それから何でもないことのように笑いかけてくる。
「オレは今でもかなり楽しんでるし、焦んなくていいよ」
頬を撫でて、親指で僕のくちびるを撫でる。
その動作にさきほどまでの、触れるだけで濡れそうな湿度はもうないけれど。優しく、丁寧に触られる。
それからふっと顔を崩して、からかい気味に口の端をあげる。
「それに、もうちょい慣らしたほうがいいだろ。結構、まだきつそうだし。でもまあ」
身をかがめて、耳元で、わざとらしく低くひそめた声で囁く。
「……めちゃくちゃ、したいのは本当だけど、な」
今度こそ思考と体は完全にフリーズした。
口を開けないでいる僕を見下ろしながら、先輩はふっと顔を崩して笑ってキスをする。
「ま、全然コーヨーのこと甘やかし足りないから。まだ最後までしないよ」
ぱっと体を起こして先輩はベッドから立ち上がって、「じゃあちょっとシャワーいくな」と寝室からでていった。
残された僕はベッドの上でしばらく固まっていた。浴室からシャワーの音が聞こえてきて、ずっと裸だった下半身を思い出して、慌ててベッドわきにたたまれていた服を着直す。
それでもしばらく呆然としたまま、先輩のさっきの言葉と、触っていた時の熱と、夜にそめてしまいそうな色の表情が、ぐるぐると頭の中を駆け巡って。
ついさっきまで感じていた先輩の熱を思い出して、身体の表面だけじゃなくて、中から深い藍色に侵蝕されたみたいに、下がったはずの体温が、熱くなっていく。
僕のほうこそ、シャワーで頭も心臓も冷やしたい。
あつくてたまらない顔も、なりすぎて痛い心臓も、とめてしまいたい。
ああもう、僕のからだは、こんな簡単に先輩にゆさぶられるのに。なにひとつ、僕の思い通りにならない。
そのあと、先輩はシャワーから戻ってきた先輩はいつも通りの様子で。着替えとタオルをくれて。僕はシャワーの熱で多少はマシになったけど、心臓は止まってはくれなくて。
持ってきたビールも総菜の味も、わからないままだった。
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