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第24話 「オレの触るのはイヤ?」
しおりを挟む「っ、ぁ、はっ、ん、っ」
こらえきれない声が、食いしばった口の隙間から漏れる。
三本の長い指が、くちくちと僕の中を出入りする。
逃げられないようにするためか、腰はしっかりとつかまれている。
顔から汗がつたって、枕に染み込まれていった。
身体は熱くて、上に着ているシャツが汗でじっとりと肌に張りついている。部屋の温度も湿度も、ベッドの上だけ、異常に高くなっている気がする。
男性の、それも青葉先輩はもともと手が大きいから、三本分の指となるとさすがに最初は抵抗感があった。だけれど何度も継ぎ足されるローションの甲斐があってか、今は窮屈そうにしながらも、かなりスムーズに中を動き回る。
いっぱいいっぱいになっている中はそのまま、僕の許容量を超えていて、ずっと頭と熱がスパークしそうだった。
最初は一本だった指は、うれしそうな先輩の声と共にやわらかくほぐしていって。その時から断続的にもたらされる甘い刺激は、指が二本に増えたころにはさらに強くなって。
収縮する肉癖を確かめるように探った後、執拗に前立腺をいじられた。背筋を駆け上る刺激に僕は背中をそらして、それでも何とか声をこらえようとして。だけどそれを許さないように、何度も先輩にそこを触られて。
とっくのとうに前にある僕自身の高ぶりは大きくなって、触ってなくても先走りが漏れているのがわかった。見られたくなくて、シーツにうずめるように隠そうとすると、先輩はタイミングを計ったように強く的確にポイントを押して。
結果的に、腰だけが持ち上がって、崩れた正座のまま倒れたようなうつ伏せになった。前は隠せている、と思うけれど、結局先輩の指が入っているところはよりさらけ出すことになった。
頭がおかしくなりそうで、それでも一歩たりない、微妙に理性を崩せない、もどかしい快感がひたすら襲い掛かってきた。前とおなじように、さすがに後ろのそこだけでは達せられなくて、生殺しの状態は悪化していた。
熱を解放したい即物的な欲求と、先輩からもたらされる甘ったるい刺激と、それを先輩に見られている恥ずかしさで頭はぐちゃぐちゃになって。
もう何を考えたらいいのかもわからないころに、たっぷりとローションをたらされて、ついに指を三本に増やされた。
中の空洞をすべて埋めてしまうような、いままでよりも大きな質量感と、どう動いても中がこすれて、息も絶え絶えに喘ぐしかなかった。
「はっ、あっ、は、っ、んん」
三本の指ははじめは性急に動くことはせず、ぐるりと中で回転して、ひたすら僕の内部がその大きさに馴染むのを待っていた。そして少しずつ息を取り戻したころに、ゆるやかに引いては戻るという行為を繰り返しはじめた。肉を持ってかれるような感覚と、中に再び入ろうとするときに前立腺をこすられて、僕はたちまち体を支える力を失って、上半身は潰れるようにベッドに沈んだ。
ゆっくりした速度でも、いやだからこそか、先輩の指の感触を内部は敏感に感じ取って。目がちかちかして、もう頭がろくに働かないのに、先輩がそこを探るたびにどんどん鋭敏になっていく。
僕の知らない、別の組織に作り替えられる。先輩の指の形を教え込むように、丁寧に丁寧に、僕の内側から先輩の感触が侵蝕していく。
そんな風に恐ろしいほど慎重なこの行為が、どれくらい続いただろう。
隠している僕の高ぶりはずっとプルプル震えて、吐き出せない熱がもれでて、透明な先走りをこぷこぷと溢れだす。「きもちいいことしかしない」という言葉通り、痛みも苦しみもほとんどない。けれども、こんな中途半端な状態でこれ以上続けられたら、おかしくなってしまうんじゃないか。
でも先輩は飽きることなく、一定のリズムを保って、じっくりと指を出し入れ続ける。
指を中ほどまで引いたら、もう一度奥まで入る。そんな単調な動作。それでも前立腺を触られながらそれを繰り返されると、だんだんと、前立腺以外の部分を触られても腰をくすぐるような刺激を受け取るようになっていく。先輩の指が通るたびに、どんどん、ただ触られるだけの刺激が、少しずつ溶け出すような刺激へと変化していく。
中途半端な熱が頭のほうも犯したのか、脳がうまくはたらかない。なんとか手放さないでいる理性で、もっと大きな声をあげたいのを、最小限におさめようとすることと、どれだけ解放したくても自分から触ることだけはこらえていた。
これ以上続いたら、体力がなくなるのと一緒にせき止めている理性がなくなってしまうかもしれない。それは怖かった。だけどそんなことをまともに考える力もどんどん奪われていく。僕の肌に、中に触る先輩の指と、もたらされる、きもちよさのことしか考えられなくなっていく。
大きく息を吐く。それがひどく熱っぽく、そして甘さに震えているのが自分でもわかった。
もうずっとこうしていて、先輩はどうするつもりなんだろう。というか、先輩は、この行為が楽しいんだろうか。
自分から言うことは、絶対にできないけれど。正直、こんなに丁寧にほぐされて、ゆっくりゆっくり作り替えられた僕の内部は、その、きっと、先輩自身のものを、受け止められるだろう、と思う、おそらく、たぶん。
痛くないように、傷つけないようにしてくれているのは、わかる。コストパフォーマンスなんて考えてないようにたっぷりとローションをたらされて、どんな反応も見逃さないようしてくれているのも、神経がはりつめられた指先を、中でしっかり感じている。
もどかしくて、じれったくて、緩やかな快感を送り続けられている僕は、たしかに、きもちいい。いっそそれが苦痛に反転しそうなほどでも。脳がぐずぐずに溶けだしているのもわかっている。
でも先輩自身はどうなんだろう。
いくら準備が大変だから、きちんとしたほうがいいからといっても、ただ男の尻を指で拡げていく行為を繰り返し続けるのは先輩は面倒じゃないんだろうか。変な話、飽きてしまうものじゃないんだろうか。
ずっと枕に押しつけていた顔をおそるおそる上げる。
ほんの少しだけ、頭だけで振り返って先輩の様子を見た。
汗ばんだ肌。こめかみから汗がひとすじ流れている。でもそれをぬぐうこともせず、じっと、まっすぐ、自分の動かしている指の先を、僕のことを見ている。
唇はこらえるように引き絞られて。ひたと見据えるその目には、一瞬で夜に染めるような、そんな色と香りが満ちていて。
やけに、先輩の耳のピアスが、赤く光って見えた。
熱でぐずぐずなのに、それをまともに見て、平気でいられるわけがなくて。
そんな顔で、そんな目で、ずっとこうしていたのか。
かっこいいなんていう言葉じゃおさまらない。流れる汗の動きすら、綺麗だと思えるくらいで。
艶めかしい、けれどなにか耐えるような、そんな顔を見て、心臓がどくんと大きく鳴る。
心臓の鼓動が体に広がったのかわからない。けれど、ずっと自分の指が出入りしているところを見ていた先輩が顔を上げる。
前髪が肌に張りついていて、それだけで、もう、色気の暴力みたいだった。
その強力な暴力さを抱えたまま、先輩は優しく唇を持ち上げる。そしてかがんで、呆けた僕にキスをする。
熱い舌が口の中に入ってくる。おかしい。僕だってものすごく熱い筈なのに。それでも先輩の舌が熱いと、そう感じる。
後ろをいじる丁寧さと同じようにゆっくりと口内を舌が這う。
ああ、きっと、粘膜が触れたところから、また別のものに作り替わってしまう。びくびくと刺激が走る。熱を交換するように舌を絡められて、唾液があふれる。
口で甘いそれを飲み込んで、後ろを触る指からじりじりとした刺激を与えらえて。もう体は限界だった。いますぐにでも、熱を解放したい。
プルプルと、力が入らなくて、与えられる快感に支えきれない体が小刻みに揺れる。
息継ぎの合間に口を離して、バカみたいに泣きそうな声を出した。
「……あおばせんぱ、い」
それでもここにいたっても、僕は、何をどうしたいかなんて、素直に先輩に伝えられなくて。
ただ涙声ですがるしかなかった。
先輩は眉を下げて笑った。子どもを慰めるように額にキスをして、それから少し考えるように首をかしげて、言った。
「……コーヨー、自分で、自分の触って、出せる?」
ぼくが、じぶんで、じぶんの。
意味はすぐに分かったけど、脳がそれを認めるのを拒否した。だけれどそれ以外に回答はなくて、間抜けに口をポカンと開けた後、慌てて首をふった。
「むり、です、それは」
先輩が見ているのに。先輩の前で、自分で、そこを、熱で高ぶった性器、を、触るなんて、そんな。
もちろんすぐにでも吐き出したい。できるならそうしたい。先輩には、前を見ないでほしいと、触らないでほしいと前にお願いしている。だから、自分で処理をするのはある意味当然だ。
けれど、そんな、自慰行為を先輩の前でするなんてことできるはずがなかった。それなら、どうかトイレとか、ひとりきりの場所で処理させてほしい。
「うーん」と先輩は目を巡らせて、もう一つ提案した。
「じゃあ、オレのと一緒なら?」
「せんぱい、の」
「コーヨー、オレの触るのはイヤ?」
「それは、いやじゃない、です」
「うん、じゃあさ」
体を起こして、空いている片手で先輩は自分のボトムに手をかける。
カチャカチャと音がしたあと、服をずらして、先輩自身のものが出てくる。
前にも見たそこは、相変わらず大きくて、先輩のお腹につきそうなほどそりあがっている。
あ、今日も、たってる。
また間抜けな感想が出てきた。こんな、こっちが苦しくなるほどひたすら丁寧に、触りながら、青葉先輩自身もそんなふうになるまでこらえていたのか。
器用に片手でローションを取り出して、先輩は自分自身と、僕の太ももにローションを塗り付ける。
そして、後ろから、僕の尻のくぼみのすぐ下、太腿を割り開くように、先輩のものがぬるりと突き進んでくる。
あ、と思っても止める間もなく、ローションで濡れた先輩の長いものが、股の下をくぐって、先走りを出しながら震えている僕のものとこすれる。
は、と熱い息をこぼしながら、先輩はそれでも優しく、からかい混じりに笑った。
「オレも、けっこーツラいから、一緒に触ってもらえると助かる」
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