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第二話 相交の儀
しおりを挟む「っ、ふっ、はっ……」
真新しい布団をつかみ、肌襦袢一枚の身体を震わせる。畳を蹴って、歯を食いしばる。
離れにあるこの別棟は相交の儀のためにある。
浴室と、布団があるだけの、相交の儀なんて仰々しいことを言っているけれど、ようはセックスをするためだけの部屋。
身を清め、先に離れにはいっていた晧生は、魔力不足の暴走に蝕まれ始めていた。
血液が沸騰しているようだ。がんがんと耳鳴りがする。
身体中が熱い。
下着を身に着けていない、剥き出しの下半身にあるモノは、すでに先走りをまき散らして、立ち上がっていた。
あつい、あつい、あつい。
熱を出したい。吐き出したい。
いや、それよりも、ほしい。
ほしくて、ほしくて、たまらない。
胎の底が、疼く。
衝動をなんとか押さえようと、布団に横たわって自分の腕に爪を立てる。痛みで紛らわせようとしても、焼け石に水だ。それでも理性を壊そうとする性的衝動に屈したくなくて、何度も肌を爪でかきむしる。
痛みがわからないほど朦朧としている中、その声だけははっきりと聞こえた。
「――晧生様。相交の儀のため、黒雉冬人、はせ参じました」
障子の開く音。近づいてくる人影。
涼しい目元に、晧生と同じく肌襦袢一枚の姿。けれどすでに乱れている晧生とは違い、そこには皺一つの乱れもない。余計に首に巻かれたままの包帯が目立つ。その包帯で隠されているものを考えると、また晧生の腹が重くなる。
ああ、ついにこの時がきてしまった。
冬人がきてしまった。
いま、いちばん会いたくて、そして、いちばん会いたくない、ひと。
「晧生様、御身にそのようなことをされてはいけません……ああ、こんなに血が出て」
晧生の横に跪いた冬人は晧生がかきむしっていた腕をとる。
そこは何本も赤い線が引かれ、赤い血がじわりと浮かび上がっていた。
冬人は悩まし気に眉を寄せて、近くから清潔な布を取り出してその傷跡にあてる。かすかに触れる冬人の爪の硬さにすら、今の晧生は敏感に感じ取る。
普段、従者としてひかえている冬人が表情を変えることは珍しい。
こんな自分の、たかだか爪でつけた傷くらいで、そんな顔をするのか。
そんな価値、自分なんかにないのに。
簡単に包帯を巻いてから、冬人は汗に濡れた晧生の顔に触れる。
体温の低い冬人の指に、ゾクリと身体が震える。
「ああ、だいぶお辛そうですね。気休めですが、先にこちらを」
この離れには、食事も水も、なにかの時のために必要な道具類が揃っている。包帯と一緒に取り出したのであろう小刀を、冬人は自らの手のひらに切りつける。
白い肌から、滴る赤い血。
そんなはずないのに。そこからかぐわしい香りするようだった。
ゴクリ、と喉が鳴る。そんな浅ましい自らの反応に嫌悪する。
なのに、止まらない。
その赤いものが、ほしい、と、頭の奥で獣が叫ぶ声がする。
彰人はそんな晧生をわかっているとでもいうように、やわらかく微笑んで、赤い手のひらを晧生の口元に寄せる。
「さあ、どうぞ。晧生様」
ダメだ。それを舐めたら。
乾いた喉が鳴る。
だめだ、がまんしないと、だいたい、冬人にそんな、傷までつけさせて。
そんな。
「よろしいのですよ、晧生様」
赤い血が、滴って、唇に落ちる。
途端。我を忘れて冬人の傷口に舌を這わせていた。
脳を揺らすような香り。口の中に広がる甘さ。渇いた砂に水が広がるように、飢えた身体が貪欲にそれを求める。
己のために、つくりあげられた、至上の飲み物。
気づけば夢中になってそれを吸い上げて、舐めて、飲み込んでいた。
ああ、おいしい。こんなおいしいものがあるなら、もっとのみたい。
もっと。
恍惚として我を忘れていた晧生だったが、もともと浅い傷から血が出なくなり、冬人の血を通して摂取した魔力で渦巻いていた衝動が落ち着いたころ、ようやくハッとして自我を取り戻す。そして呆然とする。
ああ、悍ましい。こんなにも忌み嫌っているのに、白鷺の血は、黒雉を、冬人を求めてやまない。
その衝動に負けた自分が情けなくて、苦みと冷たい絶望が襲ってくる。
なのに、そんな晧生を嫌悪することなく、穏やかな笑みを浮かべながら冬人は晧生の頬を撫でた。
「すこしは落ち着きましたか? ですが、これだけだと足りないでしょう」
冬人はそっと晧生の肌襦袢の裾に手を入れる。反射的に逃げようとしても、それはすぐにとらえられてしまう。
「もうこのようになって……今回はかなりお辛いようですね」
体内の暴れる魔力が外に出ようと、晧生の男性器は先走りをたらして今にも達してしまいそうだ。
その高ぶりに冬人の指が絡む。「あっ」と高く、力の抜けた声が飛び出る。恥ずかしくて、そんな風に触られたら更にみじめな姿を見せることになりそうで。
晧生はその指から逃げるように冬人の身体を足で押しのける。
「そこは、い、い。さっさと儀式をすませば、落ち着く」
それにどうせ幾度精を吐き出したところで、それこそ気休めだ。一旦は落ち着いても、暴走する魔力は何度だって熱をあげて、また同じようなことになる。
そう、結局、この身体に、冬人の魔力を注いでもらわなければ。
冬人は少し逡巡したようだったが、もともと晧生が痴態をさらすことを好んでいないことは冬人も承知している。なにせ、晧生の相交の儀の相手は冬人がずっと務めているのだから。
昂りから大人しく手を離して、横になっている晧生の帯をしゅるりと解く。
肌襦袢のあわせをめくられることで、冬人の眼前に晧生の裸がさらけ出される。
何度見られても、冬人にそこにあるものを見られることがイヤで、思わず顔をそらす。
晧生の臍の周りをぐるりと囲む、歪な刺青のような文様。
白鷺家と黒雉家は契約で結ばれている。
黒雉の魔力をきちんと吸い上げられるように。男の身体であっても、その魔力を胎で受け止められるように。黒雉の魔力が白鷺に滞りなく供給できるように。
そのための魔術印が、晧生の臍の周りに刻まれている。
臍を一周するように、神代文字と呼ばれる古い文字と蔓のような模様が巡らされている。
晧生にとっては忌々しい、冬人と自分を結ぶ、契約の証。
冬人にも似た魔術印がある。冬人の場合は首の周りを一周するように刻まれている。普段は人目につかないように冬人はそれを包帯で隠している。
晧生としては、冬人のことを人を人とも扱わない、冒涜的な魔術印を目にする機会がないことに安堵している。
ただ。たとえ二人の時でも包帯を外さないことが、本当は冬人がその契約を、晧生から逃れられない宿命を厭うているからではないかと、チラリと暗い感情が儀式の度に顔をだす。
この魔術印は晧生だけではなく、姉の春日にも、他の本家の人間にも刻まれている。そして黒雉家のもので、魔力の素質があるもの――白鷺の道具になれる素質があるものにも刻まれる。
晧生は本家のものとして、相応しい魔術師の素養があった。
そして晧生の傍仕えができる、晧生と同年代の黒雉家の息子の冬人にも、哀しいことに、白鷺に仕える素養があった。
冬人は産まれたころから、白鷺家が次に産むであろう子に仕えることが決められていた。
もしも晧生に魔術師の素養がなければ、冬人は悍ましい血と血の契約から逃れられたかもしれない。
冬人の長い指が、晧生の臍の周りをたどる。魔術印に触れながら、小声で祝詞を呟いている。それはこれから行われる相交の儀で――晧生の尻の穴に突き入れられた冬人の性器から、放たれる精をきちんと受け止めることができるようにする準備。
冬人の紡ぐ言葉に合わせて、臍の周りがじくじくと熱を持ちだす。はっ、と口からこぼれる息すら、熱の塊のようだった。
女性の胎のように、精をきちんと受け止めるべき場所は男の身体にはない。全く吸収できないわけではない、が、より効率的に魔力を吸いとれるために、晧生の内臓の機能が書き換えられていく。
内臓の構造そのものに変化はない。ただ、腹の下にまるでからっぽの器ができたような錯覚が起こる。魔力で作られた、かりそめの器。
脳髄が痺れて、呼吸が整わない。心臓が早鐘を打つ。
さっきまで暴走していた、どこに向かえばいいかわからない衝動とは別の、はっきりとした欲望が頭を支配していく。
はやく、はやく、この器を満たしてほしい。
からっぽの器に、はやく、魔力を。
冬人の熱を、はやく。
冬人の指が、臍から上に上がって、胸の飾りを触る。
びりっとした電流のような感覚が頭を揺らす。ああ、確かにこの身体は、冬人からもたらされる刺激に喜んでいる。
だけど、それでは、ダメなのだ。
浅ましい欲を振り払うように、包帯を巻かれた腕に爪を立てる。
そして横になったまま、ぎりっと冬人を睨んだ。
「……もういいい。さっさとしろ」
「ですが、きちんと準備をしなければ、辛くなるのは晧生様です」
案じる冬人の声は、優しい。こんな因習に縛られた儀式を呪う姿を見せず、ただただ主人である晧生を案じている。
でも。冬人の優しさを感じると、それに嬉しさを覚えるのと同時に、晧生の心臓は穴があいたように冷たい風が差し込んでくる。
いくら魔術印があったところで、男の身体であることは変わらない。女のように自然と受け入れるところが濡れる身体なんて持ち合わせていない。
だから晧生の負担にならないように、冬人は丁寧な愛撫を、前戯をしようとする。それを晧生が拒むのは、毎回のことだった。
ほんとうは、触れてほしい。胸に限らず、冬人が触ったところから、思考を侵すような快楽が襲ってくる。それがどこであったとしても、肌が、皮の下の血が、魂が冬人が欲しいと叫んでいる。
それが白鷺の血のせいなのか、または別の、晧生自身の感情からくるものなのか。その問いにも、目をそらす。
冬人は自分が辛そうに眉根を寄せて、「では」と布団の横に手を伸ばした。
「せめて、香を焚きましょう。少しは晧生様が楽に――」
「――ッいらない! 香は焚くな!」
苛立ちを混ぜて、冬人より先に香炉を跳ねのけた。ガシャン、と割れる音がする。
儀式に用意されているものはいくつかある。その一つが今の香炉だった。
香炉の中には頭の思考を奪う――催淫効果のある香が入っている。
これもまた、男の身体でも儀式が進むように用意されているものだ。弛緩剤の効果もあって、香をかげば痛みもなく、ただ快楽を追い求めることができるだろう。
けれど晧生は、痛かろうがそんなものを使いたくなかった。
もしも、香によって理性がはがれ、自分で自分がわからないまま、あらぬことを口走ってしまったら――。
恐怖のほうが勝り、たとえ痛みがあろうと、そんな薬を使う気にはならなかった。むしろ痛いほうがマシだと思う。
魔力不足で頭も体も重たく、行き場のない熱に侵されているが、まだ限界ではない。
きっと魔力を使い果たし、本当に限界になったら、香を使うも拒むことも、考える余裕などなかったろう。
残る理性をどうしても、晧生は手放したくなかった。
冬人は晧生が香炉を叩き割ったことで怪我をしていないか気にしていたようだったけれど、荒い息を出しながらも睨む晧生に根負けしたのか、「潤滑剤を使うことだけはお許しください」と言って、小瓶を取り出す。
小瓶から垂らした潤滑剤が、晧生の下腹部をひやりと濡らす。
ぬるり、とした滑りとともに冬人の指が、晧生のしぼまリに触れる。
慎重に、傷をつけないように、晧生の中へと指が侵入してくる。
くちゅりという湿った、いやらしい音。
異物感。中から圧迫される感覚。なのに、苦しみ以上に、晧生の奥は喜びに、これからもたらされるものへの期待にひくひくと震える。
それがイヤで、晧生はぐっと力を込めてしまう。
「晧生さま。もう少しお力を抜いてください」
何度も冬人の指も、それ以上のものも受け入れてきたのに、晧生の孔は処女のようにかたくなに拒む。
潤滑剤をさらに足して、冬人の指が増える。びくびくと中が波打つ。反応が冬人に知られるのがイヤで、ぐっと晧生は奥歯を噛み締める。
かたくなに身体の緊張をほどかない晧生に、穏やかに冬人は呼びかける。
これからセックスをしようとしているとは到底思えないほど、優しい声で。
ぬくもりはあるけれど、晧生のような暴れる熱はない、いつもの冬人らしい声音で。
「これは儀式です。私のことなど、ただの道具と思ってくださればいいのですよ」
そんな優しい声で、冬人は残酷なことを言う。
「……うるさい」
儀式のための道具なのだから、気にするなと冬人は言う。痴態をさらすことも、ぴくぴくと先走りを垂れ流す男性器の反応も、道具の前なのだから、気にするなと。
だから、イヤだというのに。
相交の儀は、魔力を補うために、魔力不足で暴走しないように行われるものだ。
そのために、白鷺は黒雉の精を欲する。
本当に、ただ、抑制剤の道具として。
ただ暴走を抑える精を放つだけの、棒としての扱いで。
そんなの。
そんなの、ひどすぎるじゃないか。
冬人はちゃんとここにいるのに。冬人にだって意思があるのに。
白鷺と黒雉の血の契約が、意思も人格もすりつぶし、冬人を只の道具へと貶める。
もしも。契約がなければ。きっと。
冬人だって、晧生とこんなことを。
晧生を抱くことなんて、嫌がるに決まっているのに。
「――んんっ! あ、や、そこ、はっ、アッ、だめ、だ……っ」
丁寧にほぐしていた冬人の指が、くいっと中の一点を押す。
そこから全身にしびれるような快感が走る。その快楽に理性をなくしそうで、力なく首を振る。
けれど、冬人は誰よりも晧生のことを知っている。晧生の知らない、自分で触ったことのない中を、一番熟知しているのは冬人だ。
「ほんの少し、我慢してください。ほぐしておかないと、痛むかもしれません」
「いい、べつに、いいっ……痛くて、いいから……あっ、やぁっ! だから、そこは……あ、ああっ!」
ぐりぐりと容赦なく冬人は晧生の弱いところを責め立てる。瞼の裏が白く明滅して、快楽の波がぞわぞわと押し寄せる。
ぐっと中の質量が増した。冬人の指が三本に増えて、ぐちゅぐちゅと音を立てながら、その一点をかすめながら出入りする。
波がもっと大きくなって、ゾクゾクと腰から頭へと押し寄せる。
「あ、あ、ダメだっ、あ……あ、あああっ!」
瞬間、目の前が真っ白になる。
絶頂の波に乗せられた意識は、快楽の波をたゆたい、脳が溶けたようにしばらく呆ける。
はっはっと荒い息遣いを、どこか遠くのもののように聞く。
けれどまだ絶頂の余韻が戻らないうちに、中の指はうごめく。
ひくりと喉が震える。まだ達した感覚が抜けきらないうちに快楽を送り込まれて、頭がおかしくなりそうだった。
やめてくれ、だめだ、これ以上は。
きもちよくなんか、なったりしちゃ、いけないのに。
冬人を道具扱いした、こんな行為を、喜ぶ資格なんて、自分にはないんだから。
「――いい、もう、いいっ! はやく、しろ、冬人」
悲鳴のように叫ぶ。冬人の動きがピタリと止まる。
眉根を寄せているのは、まだ晧生の孔は十分な準備できていないから、この先を懸念しているのだろう。しかし晧生は引く気はなく、鋭く冬人を睨み上げる。
わずかに二人の間で沈黙が落ちる。そのあと、観念したようなため息が落ちた。
「……わかりました」
ずるりと冬人の指が抜ける。急に空洞になったそこを惜しむように、晧生の孔がぱくぱくと物欲しげにひくつく。
自身の気持ちに反する身体が忌々しい。かぁっと羞恥に溺れる間もなく、ひたり、と指とは別のものが宛がう。
「あっ、…ふゆ、と」
「……痛かったら、すぐにおっしゃってください」
眉間にしわを寄せたままで、冬人の男性器が、晧生の中へと入ろうとしてくる。
押しはいられる感触だけで、言葉にならない叫びを発しそうになる。
あつい。おおきい。ふゆと、の。
まだほぐしきれず、苦しい筈なのに。それ以上に貪欲な内部の肉襞が、もう冬人の性器の先走りから、魔力を感じ取って歓びに蠢く。
ぐっと押し進んでくる冬人のものを、もっと奥へ、奥へと導こうとするように、晧生の胎につながる道がくわえこもうとする。
気持ちとは裏腹に、身体は冬人の形も味も覚えていて、自ら飲み込もうとする。
気を抜けばはしたない嬌声をあげそうで、必死に歯を食いしばって、ぎゅうっとシーツをつかむ。
「……はッ」
中へはいっていく冬人から、熱っぽい息がこぼれる。汗ばんだ肌で、眉を寄せる冬人の表情がたまらなく艶やかで、罪悪感と、そして浅ましい興奮が押し寄せる。
冬人のそんな顔を見られて嬉しいなんて、思っちゃいけない。こんな、冬人の意思を無視して、ただの棒としての役割だけを求めるような、残酷な儀式を早く終わらせなければいけないのに。
冬人の切れ長の目が、晧生を見る。
その目に何もかも見透かされそうで、ドキリと心臓が跳ねる。
「痛くは、ありませんか、晧生様」
「……っ平気だッ。だから、さっさと……イってしまえ」
内臓をかき回される圧迫感など、冬人の熱に比べれば塵のようなものだ。だけどそんなの言えない。晧生ができることは、快楽に喜んでいることを知らせず、早く行為を終わらせるように命ずるだけ。
だって、この行為を冬人は望んではいないのだから。
それを証明するように、晧生の言葉を聞いた冬人の眉がぐっとさらに深く寄せられる。晧生以上に、苦痛を耐えるような顔。
それを見て、歓びに跳ねていた心臓が冷たくなる。
ほら。いつもこうだ。冬人はどれだけ優しい言葉を言っても、丁寧な仕草をしても、実際に晧生と交わったら、いつも苦しそうな顔をする。
そんなの当たり前だ。白鷺の、晧生の身体の身勝手に振り回されて、道具扱いされるなんて、イヤに決まっている。
わかりきっているその事実に、晧生の心臓はさらに冷え冷えとしていく。
でもどれだけそれに絶望しても、腹の下は熱を求めて、蠢く。
「……失礼いたします」
あくまで丁寧な言葉を崩さないまま、冬人は晧生の脚を持ち上げて、それまでゆっくりだった腰の動きを一気に早める。
がつんと奥を穿たれる感覚。抽挿されるたびに弱い場所をこすられて、さらには奥を狙うように動かれて。一気に身体の熱が腹の底に集まって、高まっていく。
「あ、あ、ああっ、んっ、あっ!」
どうしてもこらえきれない声が漏れる。また視界がちかちかと白く明滅する。求めてやまないものが近づいてくる予感に産毛が泡立つ。
ほしい、はやく、ほしい。そそいで。
からっぽのところに。はやく。
ふゆとの、ねつを。
身体を駆け巡る快感に意識を手放しそうになる。なんとかこらえて、今にも冬人に縋りついて、みっともなくねだる衝動を抑えて、唇をかみしめる。
力強く、グイっと冬人の腰を押しつけられる。最奥を開くように冬人の熱が押し当てられる。
何度も体験しているからか、それとも白鷺の血か。ようやく欲するものが与えられると本能的に察して、ぱくりと晧生の最奥が口を開いて、冬人の切っ先を飲み込む。
「あ、あ、あっ――」
ようやく欲していたものが与えられる感覚に、身体中が痺れて、ふわりと宙に浮かび上がるような感覚。
冬人はより一層、眉間にしわを寄せ、けれどこじ開けるように最奥に自身を突き立てる。
「――こう、き、さま」
低くて掠れた声と同時に、ついにそこに欲していたものが注がれる。
どくどくと与えられる、熱。精液から伝わる冬人の魔力に、全身の神経が爆発する。
気づけばずっと震えていた男性器から白濁の液が吐き出されていた。
からっぽだったところに、欲しくてたまらなかった魔力がしみわたっていく。甘さと酔いと、浮遊するような快楽を伴って、晧生の身体も脳も侵す。
声にならない恍惚の快楽に飲み込まれる。「あ、あ、」と風船から漏れるような息をだしながら、全身が満たされていく喜びに震える。
至上の快楽に意識が飲み込まれそうになる間際、それでも晧生はハッキリと見た。
己の中に精を吐き出して、普段は滅多に変えない整った表情を、より一層苦し気に顔を歪めて、辛そうに汗を流して、首の包帯を濡らしていく冬人の姿を。
抗えない快楽に飲み込まれながら、晧生は。
ああ、やっぱり。冬人にとってこの儀式は苦痛なのだと。
どれほど自分が冬人と繋がれることが嬉しくても、冬人にとってはそうではないと。
それを認めると、満たされる胎とは別に心臓が空っぽになって。濡れる目元を誤魔化すように瞼を閉じた。
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