召喚者は一家を支える。

RayRim

文字の大きさ
上 下
306 / 307
間章 1000年前の記憶

19話

しおりを挟む
〈※※※※※〉

 更に数年後のある日。
 2人組の先客が置いていった花束が置かれているボブ達の墓の前に、子連れのドラゴニュートと尻尾が9つある白い狐のビーストが居た。

「子作りで帰郷している間に二人共亡くなっていたでござるか…」
「なんとも御主らしい理由じゃの。それが息子か?」
「5人の内の1人でござる。」
「いくらなんでも多すぎるわ!」
「こちらでの禁欲生活が長かったものでつい…」
「常々、鱗のない女は好みでないと言っておったからのぅ…」

 呆れる狐だが、竜人は豪快に笑ってみせた。

「我らの中で、ボブだけは普通に生き、普通に死んでみせた。少し羨ましいの。」
「そうでござるな。拙者はエルフ以上の長命種ゆえ、老いるのはまだまだ先でござるよ。」
「ちゃんと老いるのか?」
「オジジとオババの顔はシワシワ、鱗は真っ白でござる。」
「ククク。その時を楽しみにしておるぞ。」

 クスクス笑う狐。子供が出来ても変わらないドラゴニュートの言葉が心底愉快だった。

「小さいの、名を何と言う?」
「ソウでございます!」
「ソウ?」
「今日の空の色でござるよ。拙者が陛下達と出会った時と同じでござる。」
「あの時の空の色か…」

 もう詳細はボンヤリとしか覚えていないが、忘れられない事は山ほどある。
 見上げた空の色は透き通るように蒼く、雲一つない快晴だった。

「あの石頭が逝った日も空が蒼く綺麗じゃった。憎たらしい程にの。」

 狐はタメ息を吐くと、虚空から大きな花束を出して墓前に添える。
 先に置いてあった花束と比べるとあまりにも大きさが違う為、隠れないように動かしてから置いていた。

「今年は大地の隅々まで巡って摘んで来たのじゃぞ。夫婦、親子で愛でてくれ。」

 それは先に置いてあった物とは違い、『エルディー魔法国』には無い花で占められており、花の種類と量にドラゴニュートの親子も目を丸くする。

「出来ることなら皆と一緒に巡りたかったが、一人旅も悪くないの。」
「拙者とは逆になってしまったでござるな。」

 そう言うと二人で笑い合い、思い出したかのように子供の頭を撫でるドラゴニュート。

「忘れてたでござるが、ソウは娘でござるよ。」
「は?」

 そう言われ、驚いた顔で瞬きを繰り返す狐。
 幼い上に性別の分かり難い異国装束という事もあり、勘違いしていたようである。

「そ、そうであったか。すまぬの。」
「いえ、こちらに来てからはよく間違えられますので…」

 まだ幼いにも関わらず、父親よりずっとしっかりしているだけでなく、言葉が珍妙じゃない事にも驚いた。

「ところで、この後はどうするのじゃ?また『西の山』に戻るのか?」
「いえ、アズサ殿には申し訳ない事をしてしまいましたので…」
「その割に、しっかりやる事はやっておるの?」
「傷心で帰郷したらこうなってしまっていたでござる…
 そして、また追い出されたでござる…」
「娘は巻き込まれたのか?」

 情けない理由に狐は呆れてしまう。

「話に聞いた『大陸の向こう側』に興味がありましたので。」
「母親の許可も得ているでござるよ。」
「ふむ。外の事は見当つかぬが、得るものがあると良いの。」
「種族ごとに領土が綺麗に分かれていることに感動しました!あちらは曖昧で、特に職人気質の強いドワーフや、短命で秩序を重んじないビーストが国を持っているなんて信じられません!」

 穏やかな笑みを浮かべながら狐が言うと、子供は両手で顔の前に握り拳を作りながらこれまで見てきた光景が己の知るものと違う事を熱弁する。

「陛下のおかげかもしれませぬな。」
「2割位じゃよ。元々、種族ごとに集まってこの地に散ったからの。
 ただ、中央に建国した国が苛烈な粛清を行ったおかげで他種族の移動が阻害されたのは大きい。そして、働き盛りのヒュマスの多くを消す暴挙もな。」

 200年経った今でもヒュマスの人口と土地は回復しておらず、肥沃な土地を求めての侵略が度々行われていた。
 しかし、決戦で天空都市の遺産を破壊され尽くした事、召喚による逆転の目論見が上手くいかなかった事、土地が回復しないせいで大軍を率いられるだけの食糧を確保出来ないという問題が解決されずにいる。

「それは他種族も同様での。荒れ果てたヒュマス領も、影響を受けてしまった土地を統治下に置いたエルディーも、無理に掠め取るメリットが薄くなったわけじゃよ。」
「陛下の交易推進政策も効いておりますな?」
「冬は雪で埋もれてしまうからの。強引に奪っても維持が出来ん。
 それなら、現状のままの方が賢いというもの。」

 だが、タマモはそこで大きなタメ息を吐く。

「しかし、どの種族も派閥を作り、内部で争い合っておる。
 エルフは4種に割れておるし、ディモスも都市間の争いが無くならない。ビースト領も詳細は分からぬが似たようなものらしいの。」
「エルフが4でござるか?3ではなく?」

 ギンの知る限りエルフは白、長耳、褐色の3種しか住んでおらず、4種に増えていた事に驚く。

「半耳と呼ぶべきかの。そういう特徴のエルフが森の北部で排斥されたのを切っ掛けに、各地から森の西部へと集まって種族として都市を形成したのじゃ。
 都市を一つ生み出す手際の良さは妾も驚いた。」
「そうでござったか…」

 やった人物が気にはなるが、タマモもビースト領での人助けが忙しく、探して会いに行く暇が無い。
 〈九尾白狐〉と呼ばれて信仰の対象とまでなり、亜神として魔法の苦手なビーストに代わって魔素払いに従事していた。

「それを成した当人は既に退いて隠居したと聞いておる。
 当時は誰かさんと同じで本当に怖れられておったが、今は若い連中に慕われておるそうじゃ。」

 そう言うと、遠い目をしながら目の前の墓を見る。

「〈魔国覇王〉は命を賭して守り切ったが、状況は違えどそれを真似てもっと上手くやってみせる者が現れた。それは、喜ぶ事なのかも知れぬの。」
「良い後継者が現れたのでござるな。」

 タマモはその言葉に頷くと、墓に背を向け一際大きな木のそびえるエルフの森を指差した。

「巨大な蛇が現れたと思ったら次の日にはあの木が立っておった。
 何処かの誰かが『また』とんでもない事をやったのかもしれんの…」
「えっ!?陛下が存命だったのでござるか!?」

 巨木の成り立ちに驚くギンだが、タマモは首を振って否定する。

「確証が持てぬ。ビースト領からでは遠過ぎて何も出来なかったからの。」
「そうでござるか…」

 かつての主以外に出来そうな人物は思い当たらないが、200年の間に次ぐ人材が出て来ても不思議ではなく、ボブやカレンに確認する事は最早出来ない。
 重大事件と無縁な場所に居る事が、タマモ達には少し寂しく感じられた。

「昔話はもう良いじゃろ。
 既に世は妾たちの手を離れ、次代が動かしておる。」
「…そうでござるな。して、どちらへ?」

 尋ねられたタマモは立ち止まり、扇子を北方向へ突き付ける。
 見える山脈の向こうは、冬が長く未だ猟と採取が生活を支えるビースト領。道の険しさから他の3種族と積極的な交流は行われていない。

「ビースト領じゃ。最近はドラゴンが大暴れして手を焼いておる。」
「それは楽しみでござる。拙者も何か【極致】への切っ掛けが掴めるかもしれぬでござるからな。」
「道が見えると良いの。」
「まだ隠居まで数百年はありますぞ。それまでに見つけるでござるよ!」

 こうして二人と一匹の珍道中が始まった。

 一人と一匹は多くのビーストと力を合わせてホワイト・ドラゴンを封じる事になるのだが、それはもうしばらく先の事である。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

修行マニアの高校生 異世界で最強になったのでスローライフを志す

佐原
ファンタジー
毎日修行を勤しむ高校生西郷努は柔道、ボクシング、レスリング、剣道、など日本の武術以外にも海外の武術を極め、世界王者を陰ながらぶっ倒した。その後、しばらくの間目標がなくなるが、努は「次は神でも倒すか」と志すが、どうやって神に会うか考えた末に死ねば良いと考え、自殺し見事転生するこができた。その世界ではステータスや魔法などが存在するゲームのような世界で、努は次に魔法を極めた末に最高神をぶっ倒し、やることがなくなったので「だらだらしながら定住先を見つけよう」ついでに伴侶も見つかるといいなとか思いながらスローライフを目指す。 誤字脱字や話のおかしな点について何か有れば教えて下さい。また感想待ってます。返信できるかわかりませんが、極力返します。 また今まで感想を却下してしまった皆さんすいません。 僕は豆腐メンタルなのでマイナスのことの感想は控えて頂きたいです。 不定期投稿になります、週に一回は投稿したいと思います。お待たせして申し訳ございません。 他作品はストックもかなり有りますので、そちらで回したいと思います

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

突然だけど、空間魔法を頼りに生き延びます

ももがぶ
ファンタジー
俺、空田広志(そらたひろし)23歳。 何故だか気が付けば、見も知らぬ世界に立っていた。 何故、そんなことが分かるかと言えば、自分の目の前には木の棒……棍棒だろうか、それを握りしめた緑色の醜悪な小人っぽい何か三体に囲まれていたからだ。 それに俺は少し前までコンビニに立ち寄っていたのだから、こんな何もない平原であるハズがない。 そして振り返ってもさっきまでいたはずのコンビニも見えないし、建物どころかアスファルトの道路も街灯も何も見えない。 見えるのは俺を取り囲む醜悪な小人三体と、遠くに森の様な木々が見えるだけだ。 「えっと、とりあえずどうにかしないと多分……死んじゃうよね。でも、どうすれば?」 にじり寄ってくる三体の何かを警戒しながら、どうにかこの場を切り抜けたいと考えるが、手元には武器になりそうな物はなく、持っているコンビニの袋の中は発泡酒三本とツナマヨと梅干しのおにぎり、後はポテサラだけだ。 「こりゃ、詰みだな」と思っていると「待てよ、ここが異世界なら……」とある期待が沸き上がる。 「何もしないよりは……」と考え「ステータス!」と呟けば、目の前に半透明のボードが現れ、そこには自分の名前と性別、年齢、HPなどが表記され、最後には『空間魔法Lv1』『次元の隙間からこぼれ落ちた者』と記載されていた。

処理中です...