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第2部
91話
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嵐の海に近付くほど船は大きく揺れ、箱に乗って移動する者が増える。
カトリーナと柊は酔わないが、非常に居心地悪そうにしていた。レオンやビクター、ケリー親子やノラなど、箱を操作出来ない面々は自室に籠ったまま出て来れない。
突入前で既にこれなので、突入したらと思うと恐ろしくなる。
「作業どころじゃなくて切り上げてきた。操縦は出来てるか?」
バニラがロッティを連れてやってくる。ロッティも箱に乗っているが、操作しているのはバニラのようだ。
「ああ。速度を上げすぎない分には大丈夫そうだ。」
「早く切り抜けないとみんな参ってしまう。こんな浮いていても酔いそうな海に長居したくない。」
体は平衡を保っていても、視界の物はすごい勢いで傾く。遥香はその違和感に耐えられず、箱の上で瞑想をする事を選んでいた。
「来た時も荒れてましたけど、ここまで酷くなかったですよ…
これじゃ食事もお茶も大変ですね…」
「大部屋に集まってもらって、箱を操作できない面々はオレがピラーに乗せた方が良さそうだな。」
「サクラのダンジョンを設置したまま移動出来れば良かったが…」
「出来ないのは仕方ないさ。」
浮き沈みが激しいせいで座標の固定が上手く出来ず、サクラはダンジョンを設置できずにソニアと子供の面倒を見ていた。タマモとセットだとよく喋るので、子供の相手に最適である。
急に外がどしゃ降りになり、船は更に大きく前後に傾く。
「ひぃー!だ、大丈夫なんですか!?本当に!」
「分からんが突破するしかない。父さん、どのくらい距離があるか分かるか?」
「300~400くらいありそうだ。途中に穏やかになる場所があるからそこまで頑張ってくれ。」
「長いな!遥香の出番は中ほどで大丈夫か?」
「遥香次第だ。足りなくても何とかするしかない。」
「信じるしかないか。操縦は変わろう。父さんはロッティの箱と周囲の確認を頼む。ロッティはわたしの操縦を学んでくれ。」
そう言って、操舵席の側まで箱で移動し、何にも触れずにグロリアスを操縦し始める。
管理者権限によるフルコントロールとバニラは言うが、隅から隅まで熟知していないと出来ない芸当だ。
最初は困惑の表情を浮かべたロッティだが、次第にやっている事が分かってきたのか、納得した様子で魔力の流れを目で追っていく。
目立つ子供ではなく、才能はそこそこ。オレの中ではそういう評価のロッティだったが改めざるを得ない。
魔導具へ情熱は人一倍だし、魔力の感知能力、制御力は共に優れている。それに手先も器用だと聞いており、戦闘能力分を技術力に回したユキのような感じだろうか?
信用して良いのかはまだよく分からないが、成長すれば相当な魔導具技師になる事に疑いはない。
「みんな、聞いてくれ。ここまでも酷かったがここらは更に酷くなる。大部屋にピラーを出しておくから、操作出来ないヤツはそこに座ってくれ。
出来るのは移動のサポートを頼むぞ。」
船内のあちこちに仕込まれたリレーを利用し、大部屋にピラーを出して結合させていく。寝るには足りないが、なんとか耐えてもらおう。
『ヒガン様、全員の準備が済みました。ハルカだけ通路に控えておりますわ。』
しばらくすると、フィオナが教えてくれる。
移動までは把握できるが、それぞれが吹っ飛ばされないように体を固定しているかまでは分からないからな。
「それと、全員が座ってボックスでしっかり体を押さえるんだ。足りないならピラーでも良い。」
バニラの指示を聞き、大部屋で更にピラーや箱が用意される。
「これから、グロリアスは半分飛ぶ状態になる。あまりお喋りはするなよ。
…じゃあ、突入だ!」
バニラがそう言って、舵輪を掴むと、グロリアスが加速を始め、揺れが微かな衝撃へと変わる。
今、グロリアスは波を突き抜け、合間を滑空している。バニラの魔力も多くなっているが、消耗と距離が釣り合わない。
後で戦力外になられるととても困るので、早めにオレの魔力をバニラへと渡していく。
オレの魔力の方が相性が良いのか、更に加速。船全体を覆うシールドも強化された。
「と、飛んでる…!こんな大きな船が飛んでる…!」
半ば悲鳴のような声で、オレの箱にしがみつきながらのロッティ。
飛んでいる訳ではないのだが、そう感じても仕方ない。
10のライトクラフト、4のエアロジェットによって空を滑る船となっているグロリアス。暴風雨の中を高波に押し上げられながら突き進んで行く。
従来は障害となる岩礁や大きな渦。全てを強引に飛び越えていくのは実に爽快だ。
適切な角度なら、こうやって速度も高度も維持も容易いのだなと感心する。
「なかなか上手いじゃないか。こういうゲームは得意だったのか?」
「そ、そ、そんなわけないだろう!い、いま、いまにも緊張で吐きそうだ!!」
『えぇ…』
青い顔でガッチガチになりながら集中する操舵士の訴えに困惑するしかなく、この様子は皆に伝えられないと決意するのであった。
バニラはひたすら操船に集中し、ロッティにはバニラへの給水などを行わせ、オレは魔力タンクとなること2時間。嵐の海の中央へと辿り着き、束の間の平穏が訪れる。
「バニラ、小島がある。そこで一度停泊するぞ。」
「お、おう。」
徐々に速度と高度を落とし、小島と珊瑚礁が形成する湾内にグロリアスを入れる。
「みんな、ここで一度休憩する。まだ先はあるから、今のうちに体も気持ちも休めておけ。」
言い終えるよりも早く、フィオナと柊がやって来て錨を下ろす。仕事が早くて助かるよ。
「だいぶ浅いようですわ。出港する時はお気をつけください。」
「分かった。」
フィオナの忠告に、舵輪へ体を預けながら返事をするバニラ。もうくたくたのようだ。
「ちょっと休憩してくるよ…」
「ロッティ、側に居てやってくれ。」
「はい。」
箱に座って移動するバニラの手を取り、大部屋へと向かうロッティ。自室ではなくそっちで休むのか。
「遥香は瞑想したままか?」
「ええ、そうですわね。これでようやく落ち着いて準備が出来るのではないでしょうか?」
「どんなのを見せてくれるのか楽しみだよ。」
暢気な二人だが、それにはオレも同意する。
今日までずっと鍛練を重ね、温存してきた一太刀がどういうものか楽しみだ。
「それにしても、ヒガン様の魔力は無尽蔵ですか?もう回復してるじゃないですか…」
驚く、というより呆れた様子のフィオナ。
確かに気だるさは既に消えてしまっている。
「壁を一つ越えた気分だが、おかげでジュリア状態でなぁ…」
「普通に生活が出来るだけマシですわ。お姉様はそれも困難でしたので…」
カップはどう扱っても割れる、スプーンやフォークは使い捨て、他にも色々あるが、それでも生きてこれたのは実家のお陰だろう。フェルナンドさんとフロリアーナさんには頭が下がる。
「少し上陸してみようと思うがどうする?」
「良いですわね。皆、参っているようでしたので。」
そんな中、すぐに動けるこの二人は流石だ。
柊に至っては、箱やピラーにも頼ってないんじゃないか?
「よし、上陸だ。準備はしておくから、みんなに伝えてきてくれ。」
「分かりましたわ。」
「任せて。」
二人が大部屋へ向かったのを見届けると、オレはグロリアスを起動状態のままロックする。子供達が悪戯すると困るからな。
海面に向かって縄梯子を下ろし、飛び降りて一足先にじょうり…思ったより深く、足が着かなかった。
縄梯子とピラーを結び、着地出来るようにしておく。
深いのはピラー2本分程度の距離で、そこまで行けば足は着くが子供達やアリス、梓にはまだ深い。箱も並べて足場を延長し、ようやく脛ほどの深さのところに到着。ようやく上陸である。
小島は全体的にゴツゴツしており、珊瑚礁だった名残のように見える。あちこちから小さな命を感じ、ここも生き物の住み処なのだというのがよく分かった。
「ここも珊瑚礁ですかね?」
アクアがやって来て尋ねる。
「そうみたいだ。立派な生態系が築かれているぞ。」
「おお、どれどれ…んひぃっ!?」
何か小さな虫がアクアの覗いていた辺りからわさわさと一斉に出て来た。
驚くアクアは、裾が濡れるのなどお構いなしに跳び退き、ドボンと腰の辺りまで浸かってしまっている。鍛えているだけあって、えらい跳んだな。
「あぁ…こんなはずでは…」
しょんぼりしながらじゃぶじゃぶと戻ってくる姿に、周囲から笑いが起きていた。
それを見たノエミが飛び込み、『ノエミー!?』と悲鳴を上げて飛び込むジュリアといういつもの光景。ノエミに続いてジェリーも飛び込み、ココアも『ジェリー!』と声を上げて飛び込んでいた。
水着姿のフィオナと柊も加わり、普通に夏休みの一時という感じになってくる。
「なんだか申し訳ないです…」
「むしろ、よくやってくれたよ。子供達も楽しそうだ。」
悠里達もノエミ達の所に加わり、水遊びを始める。船酔いも吹き飛んだようだな。
こんな時の為に、用意して貰っていた道具を取り出す。木や軽い金属で作られた水鉄砲だ。
海水を充填して発射すると、水の塊がジュリアの後ろ頭に直撃する。撃てるのはだいたい6発くらいだろうか?
「ノエミに貸すぞ。存分に撃つと良い。」
「おおー!ボスみたいにできるー!」
水の入っていて重い大きめの水鉄砲を持ち、あれこれポーズを決めるノエミだが、無言で恨めしそうにこちらを見る母の視線が痛い。もうびしょ濡れなんだから大差ないじゃないか。
「ジェリーの分もあるぞ。ノエミと一緒に暴れると良い。」
こちらはハンドガンサイズの水鉄砲。ノエミに渡した物ほど威力も迫力も無いが、ジェリーには十分なサイズだろう。
渡すなり、オレの顔に向かって3連射。容赦ないジェリーの先制攻撃にジュリアもニンマリ笑顔だ。
「二人に負けませんわよ!シュウ!」
「叔母さん達も持ってるんだよ。」
そう言って、自分の水鉄砲構える二人。
「私も負けないよー!」
「ハルカさんの分まで楽しませていただきますわ!」
更に混ざる梓、ソニア。
「私たちも負けていられませんわ!」
「僕たちの腕前を見せよう。」
悠里とレオンも加わり、混戦状態になる水鉄砲戦争。
そして更に乱入者が一人。
まるで鉄砲水のような激流が皆を島へと押し流し、眺めていた母達が青くなった。
『深海仕込みの水鉄砲をお見せしましょう!』
「ミンスリフ、レギュレーション違反で退場だ。」
『えーっ!?』
手で銃の形を作り、魔法をぶち込んだ体勢のまま固まるミンスリフ。その姿に、という訳ではないだろうが、ノエミから始まる参戦者達の笑いの連鎖。
本人としては手加減したつもりなのだろうが、携帯武器相手に攻城兵器をぶちかましたようなもんだからな…
退場処分を喰らったミンスリフは、素直にオレたちの方に来て正座で反省する。横で呆れ顔のランフリアにお小言を言われ始めた。どうやら向こうでも子供に混じって同じ事をやらかしていたらしい。
全員がびしょ濡れになった事で、遠慮もしなくなったのは良かったけどな。
子供達は娘達に任せ、オレたちはシールドスフィア内からその様子を眺めることにした。
ただ遊んでいるだけだが、この息抜きが大事なことは皆が分かっている。
1刻程度の岩場での水遊びは、高波によって揉まれに揉まれた精神を持ち直してくれたようだ。
カトリーナと柊は酔わないが、非常に居心地悪そうにしていた。レオンやビクター、ケリー親子やノラなど、箱を操作出来ない面々は自室に籠ったまま出て来れない。
突入前で既にこれなので、突入したらと思うと恐ろしくなる。
「作業どころじゃなくて切り上げてきた。操縦は出来てるか?」
バニラがロッティを連れてやってくる。ロッティも箱に乗っているが、操作しているのはバニラのようだ。
「ああ。速度を上げすぎない分には大丈夫そうだ。」
「早く切り抜けないとみんな参ってしまう。こんな浮いていても酔いそうな海に長居したくない。」
体は平衡を保っていても、視界の物はすごい勢いで傾く。遥香はその違和感に耐えられず、箱の上で瞑想をする事を選んでいた。
「来た時も荒れてましたけど、ここまで酷くなかったですよ…
これじゃ食事もお茶も大変ですね…」
「大部屋に集まってもらって、箱を操作できない面々はオレがピラーに乗せた方が良さそうだな。」
「サクラのダンジョンを設置したまま移動出来れば良かったが…」
「出来ないのは仕方ないさ。」
浮き沈みが激しいせいで座標の固定が上手く出来ず、サクラはダンジョンを設置できずにソニアと子供の面倒を見ていた。タマモとセットだとよく喋るので、子供の相手に最適である。
急に外がどしゃ降りになり、船は更に大きく前後に傾く。
「ひぃー!だ、大丈夫なんですか!?本当に!」
「分からんが突破するしかない。父さん、どのくらい距離があるか分かるか?」
「300~400くらいありそうだ。途中に穏やかになる場所があるからそこまで頑張ってくれ。」
「長いな!遥香の出番は中ほどで大丈夫か?」
「遥香次第だ。足りなくても何とかするしかない。」
「信じるしかないか。操縦は変わろう。父さんはロッティの箱と周囲の確認を頼む。ロッティはわたしの操縦を学んでくれ。」
そう言って、操舵席の側まで箱で移動し、何にも触れずにグロリアスを操縦し始める。
管理者権限によるフルコントロールとバニラは言うが、隅から隅まで熟知していないと出来ない芸当だ。
最初は困惑の表情を浮かべたロッティだが、次第にやっている事が分かってきたのか、納得した様子で魔力の流れを目で追っていく。
目立つ子供ではなく、才能はそこそこ。オレの中ではそういう評価のロッティだったが改めざるを得ない。
魔導具へ情熱は人一倍だし、魔力の感知能力、制御力は共に優れている。それに手先も器用だと聞いており、戦闘能力分を技術力に回したユキのような感じだろうか?
信用して良いのかはまだよく分からないが、成長すれば相当な魔導具技師になる事に疑いはない。
「みんな、聞いてくれ。ここまでも酷かったがここらは更に酷くなる。大部屋にピラーを出しておくから、操作出来ないヤツはそこに座ってくれ。
出来るのは移動のサポートを頼むぞ。」
船内のあちこちに仕込まれたリレーを利用し、大部屋にピラーを出して結合させていく。寝るには足りないが、なんとか耐えてもらおう。
『ヒガン様、全員の準備が済みました。ハルカだけ通路に控えておりますわ。』
しばらくすると、フィオナが教えてくれる。
移動までは把握できるが、それぞれが吹っ飛ばされないように体を固定しているかまでは分からないからな。
「それと、全員が座ってボックスでしっかり体を押さえるんだ。足りないならピラーでも良い。」
バニラの指示を聞き、大部屋で更にピラーや箱が用意される。
「これから、グロリアスは半分飛ぶ状態になる。あまりお喋りはするなよ。
…じゃあ、突入だ!」
バニラがそう言って、舵輪を掴むと、グロリアスが加速を始め、揺れが微かな衝撃へと変わる。
今、グロリアスは波を突き抜け、合間を滑空している。バニラの魔力も多くなっているが、消耗と距離が釣り合わない。
後で戦力外になられるととても困るので、早めにオレの魔力をバニラへと渡していく。
オレの魔力の方が相性が良いのか、更に加速。船全体を覆うシールドも強化された。
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半ば悲鳴のような声で、オレの箱にしがみつきながらのロッティ。
飛んでいる訳ではないのだが、そう感じても仕方ない。
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適切な角度なら、こうやって速度も高度も維持も容易いのだなと感心する。
「なかなか上手いじゃないか。こういうゲームは得意だったのか?」
「そ、そ、そんなわけないだろう!い、いま、いまにも緊張で吐きそうだ!!」
『えぇ…』
青い顔でガッチガチになりながら集中する操舵士の訴えに困惑するしかなく、この様子は皆に伝えられないと決意するのであった。
バニラはひたすら操船に集中し、ロッティにはバニラへの給水などを行わせ、オレは魔力タンクとなること2時間。嵐の海の中央へと辿り着き、束の間の平穏が訪れる。
「バニラ、小島がある。そこで一度停泊するぞ。」
「お、おう。」
徐々に速度と高度を落とし、小島と珊瑚礁が形成する湾内にグロリアスを入れる。
「みんな、ここで一度休憩する。まだ先はあるから、今のうちに体も気持ちも休めておけ。」
言い終えるよりも早く、フィオナと柊がやって来て錨を下ろす。仕事が早くて助かるよ。
「だいぶ浅いようですわ。出港する時はお気をつけください。」
「分かった。」
フィオナの忠告に、舵輪へ体を預けながら返事をするバニラ。もうくたくたのようだ。
「ちょっと休憩してくるよ…」
「ロッティ、側に居てやってくれ。」
「はい。」
箱に座って移動するバニラの手を取り、大部屋へと向かうロッティ。自室ではなくそっちで休むのか。
「遥香は瞑想したままか?」
「ええ、そうですわね。これでようやく落ち着いて準備が出来るのではないでしょうか?」
「どんなのを見せてくれるのか楽しみだよ。」
暢気な二人だが、それにはオレも同意する。
今日までずっと鍛練を重ね、温存してきた一太刀がどういうものか楽しみだ。
「それにしても、ヒガン様の魔力は無尽蔵ですか?もう回復してるじゃないですか…」
驚く、というより呆れた様子のフィオナ。
確かに気だるさは既に消えてしまっている。
「壁を一つ越えた気分だが、おかげでジュリア状態でなぁ…」
「普通に生活が出来るだけマシですわ。お姉様はそれも困難でしたので…」
カップはどう扱っても割れる、スプーンやフォークは使い捨て、他にも色々あるが、それでも生きてこれたのは実家のお陰だろう。フェルナンドさんとフロリアーナさんには頭が下がる。
「少し上陸してみようと思うがどうする?」
「良いですわね。皆、参っているようでしたので。」
そんな中、すぐに動けるこの二人は流石だ。
柊に至っては、箱やピラーにも頼ってないんじゃないか?
「よし、上陸だ。準備はしておくから、みんなに伝えてきてくれ。」
「分かりましたわ。」
「任せて。」
二人が大部屋へ向かったのを見届けると、オレはグロリアスを起動状態のままロックする。子供達が悪戯すると困るからな。
海面に向かって縄梯子を下ろし、飛び降りて一足先にじょうり…思ったより深く、足が着かなかった。
縄梯子とピラーを結び、着地出来るようにしておく。
深いのはピラー2本分程度の距離で、そこまで行けば足は着くが子供達やアリス、梓にはまだ深い。箱も並べて足場を延長し、ようやく脛ほどの深さのところに到着。ようやく上陸である。
小島は全体的にゴツゴツしており、珊瑚礁だった名残のように見える。あちこちから小さな命を感じ、ここも生き物の住み処なのだというのがよく分かった。
「ここも珊瑚礁ですかね?」
アクアがやって来て尋ねる。
「そうみたいだ。立派な生態系が築かれているぞ。」
「おお、どれどれ…んひぃっ!?」
何か小さな虫がアクアの覗いていた辺りからわさわさと一斉に出て来た。
驚くアクアは、裾が濡れるのなどお構いなしに跳び退き、ドボンと腰の辺りまで浸かってしまっている。鍛えているだけあって、えらい跳んだな。
「あぁ…こんなはずでは…」
しょんぼりしながらじゃぶじゃぶと戻ってくる姿に、周囲から笑いが起きていた。
それを見たノエミが飛び込み、『ノエミー!?』と悲鳴を上げて飛び込むジュリアといういつもの光景。ノエミに続いてジェリーも飛び込み、ココアも『ジェリー!』と声を上げて飛び込んでいた。
水着姿のフィオナと柊も加わり、普通に夏休みの一時という感じになってくる。
「なんだか申し訳ないです…」
「むしろ、よくやってくれたよ。子供達も楽しそうだ。」
悠里達もノエミ達の所に加わり、水遊びを始める。船酔いも吹き飛んだようだな。
こんな時の為に、用意して貰っていた道具を取り出す。木や軽い金属で作られた水鉄砲だ。
海水を充填して発射すると、水の塊がジュリアの後ろ頭に直撃する。撃てるのはだいたい6発くらいだろうか?
「ノエミに貸すぞ。存分に撃つと良い。」
「おおー!ボスみたいにできるー!」
水の入っていて重い大きめの水鉄砲を持ち、あれこれポーズを決めるノエミだが、無言で恨めしそうにこちらを見る母の視線が痛い。もうびしょ濡れなんだから大差ないじゃないか。
「ジェリーの分もあるぞ。ノエミと一緒に暴れると良い。」
こちらはハンドガンサイズの水鉄砲。ノエミに渡した物ほど威力も迫力も無いが、ジェリーには十分なサイズだろう。
渡すなり、オレの顔に向かって3連射。容赦ないジェリーの先制攻撃にジュリアもニンマリ笑顔だ。
「二人に負けませんわよ!シュウ!」
「叔母さん達も持ってるんだよ。」
そう言って、自分の水鉄砲構える二人。
「私も負けないよー!」
「ハルカさんの分まで楽しませていただきますわ!」
更に混ざる梓、ソニア。
「私たちも負けていられませんわ!」
「僕たちの腕前を見せよう。」
悠里とレオンも加わり、混戦状態になる水鉄砲戦争。
そして更に乱入者が一人。
まるで鉄砲水のような激流が皆を島へと押し流し、眺めていた母達が青くなった。
『深海仕込みの水鉄砲をお見せしましょう!』
「ミンスリフ、レギュレーション違反で退場だ。」
『えーっ!?』
手で銃の形を作り、魔法をぶち込んだ体勢のまま固まるミンスリフ。その姿に、という訳ではないだろうが、ノエミから始まる参戦者達の笑いの連鎖。
本人としては手加減したつもりなのだろうが、携帯武器相手に攻城兵器をぶちかましたようなもんだからな…
退場処分を喰らったミンスリフは、素直にオレたちの方に来て正座で反省する。横で呆れ顔のランフリアにお小言を言われ始めた。どうやら向こうでも子供に混じって同じ事をやらかしていたらしい。
全員がびしょ濡れになった事で、遠慮もしなくなったのは良かったけどな。
子供達は娘達に任せ、オレたちはシールドスフィア内からその様子を眺めることにした。
ただ遊んでいるだけだが、この息抜きが大事なことは皆が分かっている。
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