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第2部
20話
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探索メンバーはオレ、四姉妹、アリス、ジュリア、ソニア、リリ、ジゼル、アクア。アクアはどうしても見ておきたいという事で参加となった。ユキが残るのは意外であるが、海は勝手が分からないという事らしい。
ただ、まとまって行動するには余りにも人数が多いので、パーティーを分けることになる。
第1パーティーはオレ、アリス、ジュリア、フィオナ、ソニア、ジゼル、アクア。
第2パーティーは娘4人とリリとなった。
人数はこちらが多いが、戦力的にはあちらが上だろうか。
装備は金属パーツを減らし、水中を考慮した浸水しにくい服に切り替えてある。ブーツも気休めだが少し深めになっていた。
「後衛が多めだな…やはり、オレが前に出るしかないか。」
「ピラーがあるんだし、盾や妨害に使えないかしら?」
「お兄様、私が前に出ますわ。」
ソニアを前に出して、ピラーを妨害に使うか…
「そうしよう。戦闘中は地形に気を付けて魔法を使うようにな。」
感電、凍結、水蒸気爆発に注意するよう伝え、装備の最終チェックに移った。
温度は入ってみないと分からないが、魔法や魔導具でもなんとかなるだろう。
甲板に出るとメイプルが人魚姫の歌を歌っており、既に第2パーティーは出発したようだ。
バニラと遥香の操作するピラーに乗って渦潮に突っ込んだそうで、見ていたカトリーナはソワソワしている。
『底に到着した。聞こえたなら返事をしてくれ。』
「聞こえている。バブルは必要か?」
オレが返事をすると、破裂音が聞こえる。
『大丈夫だ。ちゃんと呼吸も出来てるよ。』
『これ、どうやって外に出るの?』
「とりあえずは奥へ行くしかない。行けば後は流れだな。」
『ふーん?』
返事をしながらキョロキョロしている遥香が思い浮かぶ。
きっと、新鮮な光景に見えているに違いない。
「ボックスとピラーの準備できたわよ。」
「分かった。これから突入するから先に行って良いぞ。」
『そうさせてもらうよ。遥香を抑えられそうにない。』
『そ、そんな事ないから。あ、リレー代わりに私のボックス置いておこうか?』
「いや、大丈夫だ。リレーは置かずに行く予定だからな。」
『分かった。』
第2パーティーとのやり取りを終え、見送りに来たカトリーナとエディさんを見る。
「行ってらっしゃいませ、旦那様。皆様も。」
「土産話を待っているぞ!」
1週間、下手したら2週間は待つハメになるのだが、いつも通りに送り出してくれる。
ただ攻略するだけなら2時間で良いが、未踏破である以上、多くの情報を持ち帰りたいからな。
「留守は任せた。」
「子供達をよろしくね。」
【バブル】
全員がしっかり連結したピラーと箱に乗り、掴まったのを確認してからフィオナがバブルを発動。
「行くぞ。周囲に気を取られ過ぎるなよ。」
『おー!』
皆の掛け声を合図に、ピラーと箱を渦潮へと突入させた。
小舟を木っ端微塵にする渦潮は健在で、油断するとバブルが維持できないくらいだそうだ。
荒れ狂う渦の中、ひたすら潜り続けると、暗い海溝へと導かれる。
【ライト】
ソニアが明かりを生むと、周囲の殺風景が鮮明になった。
荒れ狂う渦潮は急流へと変わり、オレたちを海底へと引き込み続ける。
魔力は捉えているが、生命は…あるな。過酷な環境にも関わらず、生き物の鼓動を感じられた。
半刻くらい潜り続けただろうか。ゲームだとムービーが入って一瞬で到着なので、現実であるという実感を嫌でも味わう事になっている。
水圧の変化はあるが、中は魔法で空気が循環されているので問題はない。流石はバニラの魔法である。
「底が見えた。」
全員が息を飲むのを感じる。
こちらはアクア以外は現地組なので、想像できない光景だろう。
「あれが海中ダンジョン、海淵の園の入口だ。」
ゲーム中は固定のダンジョンナンバーしか無かったので、ユーザーが勝手に付けた名称である。
「お城?」
ゆっくり近付くと、徐々に全貌が明らかになり、アリスがオレに訪ねてきた。
「まあ、そうだな。」
「竜宮城ですよねこれ。」
と、アクア。知っていればそういう感想になるよな。
しっかりと組まれた石垣と城壁。広大な建物は、石積だが平屋建ての館ように見えている。
「あれはバニラたちですわね。」
フィオナが表門付近を歩く一団を指す。
「バニラ、見えているな?オレたちは逆から調べるぞ。」
『すまん。中からはよく見えないが了解した。光は確認したぞ。』
「光の屈折の問題でしょうか。」
「かもしれない。大きな海中動物園ってところかもな。」
迂回し、全貌を確認してから逆側へと回る。
同じような門があり、近付くとゆっくりと開いてオレたちを勢いよく吸い込んだ。
吸い込んだ海水は地面を流れ、どこかから排水されたようである。
「降りても大丈夫だな。」
久し振りの陸地、と言っても海底だが、妙に安堵感があった。
「亀に乗ってやって来たようなものですし、なんだか浦島太郎みたいですね。」
「戻ったら1000年経っていた、というのは勘弁してもらいたいな。」
こういう話題が出せるので、アクアがいて大助かりである。
「子供の絵本にあったけど、実在していたからリアルだったのね…」
『違います。』
「えっ。えぇ?」
地元のおとぎ話だと説明し、勘違いを解いておいた。訂正は早い方がいいからな。
「だが、鬼はディモス、天狗はエルフ、河童はドワーフ、となると、おとぎ話が実話だというのも否定できなくなってきたな…」
「案外、鬼ヶ島はこの大陸かもしれませんね。
持ち帰った金銀財宝は、この地の物という線もありそうですし。」
「確かにな…」
ゲーム初期のディモス領の荒廃っぷりを知っていると、鬼ヶ島だったと言われても否定できない。
「まあ、今は攻略に専念しよう。考察は戻ってからだ。調査をするからアクアはここを描くなら今のうちにな。」
待機組への報告と調査を済ませている間に、アクアも下絵は済ませたようだ。
「何か気付いたことはあるか?」
「誰が作ったのか気になりますね。どう考えても、石垣の組み方も館も自然発生とは思えませんから。それに…」
そう言って、辺りをぐるっと見回す。
「海水の流れる場所に、苔や海藻が全く生えていません。」
「ああ、確かにそうだな。」
『ねえ、これ戦って良いの?あまりノリ気じゃないみたいだけど…』
どうやらバニラたちが何かと遭遇したようだ。
「バニラと梓に任せるぞ。」
『じゃあ、友好を示そうかー。別に侵略や虐殺に来た訳じゃないからねー』
という梓の発言で、オレたちの方針は決定した。
「そっちは任せる。じゃあ、落ち着いたら合流しよう。」
『わかったー』
通話器は有効状態にしておく。この深度でも、船と繋がるならリレーは不要だろう。
「私の同行を許可してくれたのは意外でしたが、そういうことだったのですね。」
「さて、どうだろうな。オクトデーモンを見せたいだけかも知れないぞ?」
話している間にアクアも準備を終えたようで、装備も万全な状態になっていた。
「先頭はフィオナ、ソニア、中衛にオレ、ジゼル、後衛はアリス、ジュリア、アクアだ。」
魔導師寄りの装備のアクア。色々とやって来たが、バッファ役に落ち着いたようだ。
【絵画召喚・八咫烏】
三本足の大きめのカラスを召喚するアクア。名称はイメージ固定化の為なので、実物という訳ではない。
意外と有能なスキルで、箱同様の運用ができる。ここに至るまで色々とやって来たが、魔法適正の高いアクアには最適なスキルとポジションだ。
「さあ、出発だ。武器は抜かないで良いからな。」
バニラたちの方針に従い、盾だけ構えたままオレたちは調査を開始した。
『地上からの来訪者よ。この地に何のようだ。』
現れたのは魚人。いわゆる、マーマンというヤツで、身形は海産物で飾られている。だいぶ人寄りのマーマンで、魚だがビーストと呼んで良いだろう。
体の多くは鱗で覆われ、エラもあるな。
「フィオナ、何て言ったか分かるか?」
「いいえ…発音が異質すぎて聞き取れません…」
「旦那様、私もよく分からないのですが…」
フィオナどころか召喚組のアクアも分からないという事は、【認識拡張】が仕事をしてくれているという事だろう。有能なスキルでありがたい。
「話し合いはオレがしよう。」
フィオナ達より一歩前に出て、話し合う意思を示す。
「エルディー魔法国から来た、冒険者のヒガンだ。ここのダンジョンの攻略にやって来た。」
『帰れ。地上の者が挑んだ所で、命を粗末にするだけだ。』
即答である。
帰れ、と言われても、そこを突破しないと帰るに帰れないのだが。
「ここへ望んで来るのにも相応の準備が必要なはずだが、それでも帰れと言うのか?」
『ただの偶然だ。地上の者が来れるはず』
『通しなさい。』
女性のマーマンがやって来た。色の白い成熟した肢体を惜しみ無く見せつけており、なかなか目に毒だ。
アリスとフィオナとアクアの視線が気になる。
『しかし…』
『陛下は一部始終を把握しております。付いてきなさい 。』
話が早くて助かるな。
「ついてこいと言っている。」
「あなたを見る視線が気になる。」
「恵まれた体型が気になりますわ。」
「旦那様がまたたらし込むのか気になります。」
優秀なスキルが拾ってしまうプレッシャーに耐えながら、オレたちは奥へと連れていかれるのであった。
『チッ。娼婦が調子に乗りやがって…』
優秀なスキルは聞き捨てならない一言も拾ってしまった。
これはまた、冒険どころではない気がしてきたぞ…
『陸より参られた戦士達よ。聖域の試練に挑みたいとは真か?』
バニラ達と合流したのは謁見の間のような部屋で、奥の中央には巨大な魚人が座していた。名はウェンドルガと言うそうだ。
見た目はまだ魚だが、角が生えていたりとかなり東洋的な龍に近い。他の屈強な戦士もそうなので、マーマンは成長すると龍寄りの見た目になるのかもしれないな。
エルディーの礼儀に乗っ取り、跪き、右手を左胸に当ての謁見だ。アクアの八咫烏も含め、全員がそれをしている。器用なカラスだ。
「はい。そして、最深部の光景を絵に残したいと思っております。」
『ふむ…絵か…』
魚の王は興味深そうに顎に手を当てる。
「こちらにイグドラシルの頂上、虹の橋から見た光景の絵がございます。差し上げる事は叶いませんが、どうぞご覧下さい。」
亜空間収納からアクアの絵を出し、見せる。
『そ、そうか。いや、言いたいことは他にあるが、どれ…』
お付きの人に渡すと、『おお…』という声が漏れる。
陛下が受け取ると、また『おお…』という声が漏れる。
『かつて感じた風を思い起こす、大変素晴らしい絵だ。これはいったいどなたが…』
「一番後ろのアクアでございます。その技術は、一家の至宝の一つと言っても過言ではございません。」
『素晴らしい腕前。さぞ、名のある絵描きなのであろう。完成した暁には、是非ともワシにも見せてもらいたい。』
「と言っている。」
「きょ、きょうしゅくでございます!」
アクアにはオレから伝えると、舞い上がって発音が危うくなっていた。
種族を越えたのは歌だけではないようだな。
『虹の橋か。神話の物語だと思っていたが、汝らはそこまで行ってきたのだな?』
「はい。踏破し、オーディンへの謁見を果たしております。」
『ならば、引き留める理由はあるまい。戦士達よ、試練に挑むことを許可しよう。
高い技術、失うには忍びない。必ず生きて帰ってくるのだぞ。』
「我ら一同の身を案じていただける事は、感謝の極み。相応の成果で報いることにいたします。
ただ、一つ訂正させていただきます。」
『なんだ?』
「我々は戦士でもありますが、それ以前に冒険者であります。冒険者集団のヒガン一家、そう記憶していただければ幸いです。」
『ハハハッ!これは失礼した。冒険者のヒガンとその仲間よ、その力で試練を乗り越えてみせよ。その時は、褒美を一つ与えるぞ!』
「ありがたき幸せにございます。」
挑戦的な様子の陛下。陸の者に越えられるなら越えてみせろという雰囲気がある。
久し振りの新天地に、皆がうずうずしているのを感じた。
踏破を証明して、ここにいる全員をあっと言わせてやろうじゃないか。
去り際にここへ先導した白い女性マーマンと目が合うと、ニッコリと微笑んできたので軽く会釈だけしておいた。
色だけでなく、雰囲気も他のマーマンとも違い、何かただならぬものを感じる。
「鼻の下が伸びてる。」
「えっ!?」
バニラの一言で、思わず慌てた声が出てしまう。
違う、違うんだ。そんなつもりで見ていたわけじゃないんだ…
余計な一言になりそうな気がして反論もできず、痛い視線を背に一身に受けながら白いマーマンについて行くしかなかった…
ただ、まとまって行動するには余りにも人数が多いので、パーティーを分けることになる。
第1パーティーはオレ、アリス、ジュリア、フィオナ、ソニア、ジゼル、アクア。
第2パーティーは娘4人とリリとなった。
人数はこちらが多いが、戦力的にはあちらが上だろうか。
装備は金属パーツを減らし、水中を考慮した浸水しにくい服に切り替えてある。ブーツも気休めだが少し深めになっていた。
「後衛が多めだな…やはり、オレが前に出るしかないか。」
「ピラーがあるんだし、盾や妨害に使えないかしら?」
「お兄様、私が前に出ますわ。」
ソニアを前に出して、ピラーを妨害に使うか…
「そうしよう。戦闘中は地形に気を付けて魔法を使うようにな。」
感電、凍結、水蒸気爆発に注意するよう伝え、装備の最終チェックに移った。
温度は入ってみないと分からないが、魔法や魔導具でもなんとかなるだろう。
甲板に出るとメイプルが人魚姫の歌を歌っており、既に第2パーティーは出発したようだ。
バニラと遥香の操作するピラーに乗って渦潮に突っ込んだそうで、見ていたカトリーナはソワソワしている。
『底に到着した。聞こえたなら返事をしてくれ。』
「聞こえている。バブルは必要か?」
オレが返事をすると、破裂音が聞こえる。
『大丈夫だ。ちゃんと呼吸も出来てるよ。』
『これ、どうやって外に出るの?』
「とりあえずは奥へ行くしかない。行けば後は流れだな。」
『ふーん?』
返事をしながらキョロキョロしている遥香が思い浮かぶ。
きっと、新鮮な光景に見えているに違いない。
「ボックスとピラーの準備できたわよ。」
「分かった。これから突入するから先に行って良いぞ。」
『そうさせてもらうよ。遥香を抑えられそうにない。』
『そ、そんな事ないから。あ、リレー代わりに私のボックス置いておこうか?』
「いや、大丈夫だ。リレーは置かずに行く予定だからな。」
『分かった。』
第2パーティーとのやり取りを終え、見送りに来たカトリーナとエディさんを見る。
「行ってらっしゃいませ、旦那様。皆様も。」
「土産話を待っているぞ!」
1週間、下手したら2週間は待つハメになるのだが、いつも通りに送り出してくれる。
ただ攻略するだけなら2時間で良いが、未踏破である以上、多くの情報を持ち帰りたいからな。
「留守は任せた。」
「子供達をよろしくね。」
【バブル】
全員がしっかり連結したピラーと箱に乗り、掴まったのを確認してからフィオナがバブルを発動。
「行くぞ。周囲に気を取られ過ぎるなよ。」
『おー!』
皆の掛け声を合図に、ピラーと箱を渦潮へと突入させた。
小舟を木っ端微塵にする渦潮は健在で、油断するとバブルが維持できないくらいだそうだ。
荒れ狂う渦の中、ひたすら潜り続けると、暗い海溝へと導かれる。
【ライト】
ソニアが明かりを生むと、周囲の殺風景が鮮明になった。
荒れ狂う渦潮は急流へと変わり、オレたちを海底へと引き込み続ける。
魔力は捉えているが、生命は…あるな。過酷な環境にも関わらず、生き物の鼓動を感じられた。
半刻くらい潜り続けただろうか。ゲームだとムービーが入って一瞬で到着なので、現実であるという実感を嫌でも味わう事になっている。
水圧の変化はあるが、中は魔法で空気が循環されているので問題はない。流石はバニラの魔法である。
「底が見えた。」
全員が息を飲むのを感じる。
こちらはアクア以外は現地組なので、想像できない光景だろう。
「あれが海中ダンジョン、海淵の園の入口だ。」
ゲーム中は固定のダンジョンナンバーしか無かったので、ユーザーが勝手に付けた名称である。
「お城?」
ゆっくり近付くと、徐々に全貌が明らかになり、アリスがオレに訪ねてきた。
「まあ、そうだな。」
「竜宮城ですよねこれ。」
と、アクア。知っていればそういう感想になるよな。
しっかりと組まれた石垣と城壁。広大な建物は、石積だが平屋建ての館ように見えている。
「あれはバニラたちですわね。」
フィオナが表門付近を歩く一団を指す。
「バニラ、見えているな?オレたちは逆から調べるぞ。」
『すまん。中からはよく見えないが了解した。光は確認したぞ。』
「光の屈折の問題でしょうか。」
「かもしれない。大きな海中動物園ってところかもな。」
迂回し、全貌を確認してから逆側へと回る。
同じような門があり、近付くとゆっくりと開いてオレたちを勢いよく吸い込んだ。
吸い込んだ海水は地面を流れ、どこかから排水されたようである。
「降りても大丈夫だな。」
久し振りの陸地、と言っても海底だが、妙に安堵感があった。
「亀に乗ってやって来たようなものですし、なんだか浦島太郎みたいですね。」
「戻ったら1000年経っていた、というのは勘弁してもらいたいな。」
こういう話題が出せるので、アクアがいて大助かりである。
「子供の絵本にあったけど、実在していたからリアルだったのね…」
『違います。』
「えっ。えぇ?」
地元のおとぎ話だと説明し、勘違いを解いておいた。訂正は早い方がいいからな。
「だが、鬼はディモス、天狗はエルフ、河童はドワーフ、となると、おとぎ話が実話だというのも否定できなくなってきたな…」
「案外、鬼ヶ島はこの大陸かもしれませんね。
持ち帰った金銀財宝は、この地の物という線もありそうですし。」
「確かにな…」
ゲーム初期のディモス領の荒廃っぷりを知っていると、鬼ヶ島だったと言われても否定できない。
「まあ、今は攻略に専念しよう。考察は戻ってからだ。調査をするからアクアはここを描くなら今のうちにな。」
待機組への報告と調査を済ませている間に、アクアも下絵は済ませたようだ。
「何か気付いたことはあるか?」
「誰が作ったのか気になりますね。どう考えても、石垣の組み方も館も自然発生とは思えませんから。それに…」
そう言って、辺りをぐるっと見回す。
「海水の流れる場所に、苔や海藻が全く生えていません。」
「ああ、確かにそうだな。」
『ねえ、これ戦って良いの?あまりノリ気じゃないみたいだけど…』
どうやらバニラたちが何かと遭遇したようだ。
「バニラと梓に任せるぞ。」
『じゃあ、友好を示そうかー。別に侵略や虐殺に来た訳じゃないからねー』
という梓の発言で、オレたちの方針は決定した。
「そっちは任せる。じゃあ、落ち着いたら合流しよう。」
『わかったー』
通話器は有効状態にしておく。この深度でも、船と繋がるならリレーは不要だろう。
「私の同行を許可してくれたのは意外でしたが、そういうことだったのですね。」
「さて、どうだろうな。オクトデーモンを見せたいだけかも知れないぞ?」
話している間にアクアも準備を終えたようで、装備も万全な状態になっていた。
「先頭はフィオナ、ソニア、中衛にオレ、ジゼル、後衛はアリス、ジュリア、アクアだ。」
魔導師寄りの装備のアクア。色々とやって来たが、バッファ役に落ち着いたようだ。
【絵画召喚・八咫烏】
三本足の大きめのカラスを召喚するアクア。名称はイメージ固定化の為なので、実物という訳ではない。
意外と有能なスキルで、箱同様の運用ができる。ここに至るまで色々とやって来たが、魔法適正の高いアクアには最適なスキルとポジションだ。
「さあ、出発だ。武器は抜かないで良いからな。」
バニラたちの方針に従い、盾だけ構えたままオレたちは調査を開始した。
『地上からの来訪者よ。この地に何のようだ。』
現れたのは魚人。いわゆる、マーマンというヤツで、身形は海産物で飾られている。だいぶ人寄りのマーマンで、魚だがビーストと呼んで良いだろう。
体の多くは鱗で覆われ、エラもあるな。
「フィオナ、何て言ったか分かるか?」
「いいえ…発音が異質すぎて聞き取れません…」
「旦那様、私もよく分からないのですが…」
フィオナどころか召喚組のアクアも分からないという事は、【認識拡張】が仕事をしてくれているという事だろう。有能なスキルでありがたい。
「話し合いはオレがしよう。」
フィオナ達より一歩前に出て、話し合う意思を示す。
「エルディー魔法国から来た、冒険者のヒガンだ。ここのダンジョンの攻略にやって来た。」
『帰れ。地上の者が挑んだ所で、命を粗末にするだけだ。』
即答である。
帰れ、と言われても、そこを突破しないと帰るに帰れないのだが。
「ここへ望んで来るのにも相応の準備が必要なはずだが、それでも帰れと言うのか?」
『ただの偶然だ。地上の者が来れるはず』
『通しなさい。』
女性のマーマンがやって来た。色の白い成熟した肢体を惜しみ無く見せつけており、なかなか目に毒だ。
アリスとフィオナとアクアの視線が気になる。
『しかし…』
『陛下は一部始終を把握しております。付いてきなさい 。』
話が早くて助かるな。
「ついてこいと言っている。」
「あなたを見る視線が気になる。」
「恵まれた体型が気になりますわ。」
「旦那様がまたたらし込むのか気になります。」
優秀なスキルが拾ってしまうプレッシャーに耐えながら、オレたちは奥へと連れていかれるのであった。
『チッ。娼婦が調子に乗りやがって…』
優秀なスキルは聞き捨てならない一言も拾ってしまった。
これはまた、冒険どころではない気がしてきたぞ…
『陸より参られた戦士達よ。聖域の試練に挑みたいとは真か?』
バニラ達と合流したのは謁見の間のような部屋で、奥の中央には巨大な魚人が座していた。名はウェンドルガと言うそうだ。
見た目はまだ魚だが、角が生えていたりとかなり東洋的な龍に近い。他の屈強な戦士もそうなので、マーマンは成長すると龍寄りの見た目になるのかもしれないな。
エルディーの礼儀に乗っ取り、跪き、右手を左胸に当ての謁見だ。アクアの八咫烏も含め、全員がそれをしている。器用なカラスだ。
「はい。そして、最深部の光景を絵に残したいと思っております。」
『ふむ…絵か…』
魚の王は興味深そうに顎に手を当てる。
「こちらにイグドラシルの頂上、虹の橋から見た光景の絵がございます。差し上げる事は叶いませんが、どうぞご覧下さい。」
亜空間収納からアクアの絵を出し、見せる。
『そ、そうか。いや、言いたいことは他にあるが、どれ…』
お付きの人に渡すと、『おお…』という声が漏れる。
陛下が受け取ると、また『おお…』という声が漏れる。
『かつて感じた風を思い起こす、大変素晴らしい絵だ。これはいったいどなたが…』
「一番後ろのアクアでございます。その技術は、一家の至宝の一つと言っても過言ではございません。」
『素晴らしい腕前。さぞ、名のある絵描きなのであろう。完成した暁には、是非ともワシにも見せてもらいたい。』
「と言っている。」
「きょ、きょうしゅくでございます!」
アクアにはオレから伝えると、舞い上がって発音が危うくなっていた。
種族を越えたのは歌だけではないようだな。
『虹の橋か。神話の物語だと思っていたが、汝らはそこまで行ってきたのだな?』
「はい。踏破し、オーディンへの謁見を果たしております。」
『ならば、引き留める理由はあるまい。戦士達よ、試練に挑むことを許可しよう。
高い技術、失うには忍びない。必ず生きて帰ってくるのだぞ。』
「我ら一同の身を案じていただける事は、感謝の極み。相応の成果で報いることにいたします。
ただ、一つ訂正させていただきます。」
『なんだ?』
「我々は戦士でもありますが、それ以前に冒険者であります。冒険者集団のヒガン一家、そう記憶していただければ幸いです。」
『ハハハッ!これは失礼した。冒険者のヒガンとその仲間よ、その力で試練を乗り越えてみせよ。その時は、褒美を一つ与えるぞ!』
「ありがたき幸せにございます。」
挑戦的な様子の陛下。陸の者に越えられるなら越えてみせろという雰囲気がある。
久し振りの新天地に、皆がうずうずしているのを感じた。
踏破を証明して、ここにいる全員をあっと言わせてやろうじゃないか。
去り際にここへ先導した白い女性マーマンと目が合うと、ニッコリと微笑んできたので軽く会釈だけしておいた。
色だけでなく、雰囲気も他のマーマンとも違い、何かただならぬものを感じる。
「鼻の下が伸びてる。」
「えっ!?」
バニラの一言で、思わず慌てた声が出てしまう。
違う、違うんだ。そんなつもりで見ていたわけじゃないんだ…
余計な一言になりそうな気がして反論もできず、痛い視線を背に一身に受けながら白いマーマンについて行くしかなかった…
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出版社: アルファポリス
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【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~
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気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。
だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう――
――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。
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