召喚者は一家を支える。

RayRim

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第1.5部

番外編 〈魔国英雄〉達は調査を始める

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〈魔国英雄ヒガン〉

 目が覚めると、同じ寝床にフィオナが居た以外、無事に朝を迎えることができた。
 本気で間違ったらしく、起きるなりビックリして外へ飛び出して行った。普通の下着姿で寝てたが、寒くなかったのだろうか?コンテナの中は暖かくしてあるが外は流石に寒いはずだ。

 朝食、準備運動、出発準備をし、調査開始。
 キャンプ地はこのままにし、魔導具で防御魔法を維持しておく。
 隊列は先頭がオレとバニラ、その後ろに遥香と梓、最後が落ち着かないフィオナとなった。
 フィオナにとっては暑いくらいだったらしく、下着姿でちょうど良かったくらいだそうだ。
 魔力の傾向が特化すると、体質まで変化するのはゲームでもあったので納得する。

「本気で誘惑するならもっとちゃんとした下着にしますわ…」

 お嬢さん、鍛え抜かれた身体は十分魅力的だったのでそれ以上は然るべき相手にとっておきましょうね。

「父さん、連中の痕跡はあるか?」

 何事もなかったかの様にバニラが尋ねてくる。話が拗れずありがたい。

「転送先はオレたちのキャンプ地だな。もう何も残ってなかったが。」

 人の踏み入らないこの地で、不自然に魔力の痕跡だけが残っていたのだ。
 元々、野ざらし近いか、テントの様なもので囲っていた程度だったのだろう。建物跡までは無かったしな。

「貴重な道具もあっただろうに。雑な転送で無事だったとは思えない。」
「それに関しては、不自然なゴミの山がありましたわ。そこに壊された棚や瓶などがまとめて埋められておりました。」

 衝撃でダメになったか。単純に荷物を減らしただけかもしれないが。

「それは後で調べよう。今は目の前の遺跡がわたしたちを呼んでいるからな!」

 目を輝かせるバニラ。落ち着きがないのは遥香も同様だ。

「気付かれて隠蔽されるのも癪ですので、一帯を防御魔法で覆っておきましたわ。」
「助かるよ。」

 それなら後回しでも大丈夫だろう。
 ネズミがいるのは感知で分かっている。調査を優先したいので、今すぐ捕まえても邪魔になるだけだ。

「フィオナ、ネズミは捕捉出来ているな?」
「ええ。うろちょろと気になりますわね。」
「貴重なものを破壊されるのも困る。何かしようとしたら始末して良いぞ。」
「承りますわ。」

 フィオナを出し抜ける程でもないだろう。足止めにも最適な人材だしな。

「指示はバニラに任せる。いつも通りで良い、やれるな?」
「任せろ。遥香、ステップ1の指示まで攻撃は無しだ。」
「うん。わかった。」
「遥香、魔力の流れは見えてるか?」

 ほぼ機能は死んでいるが、生きているものもある。どれほど意味のある機能かはわからないが。

「うん。これ動いてるよね。」
「無闇に触るなよ。防衛機能かもしれないからな。」
「…あぶなかった。」

 間に合ったようだ。
 調べる前から、そんなお約束トラップには掛かりたくないからな。

「よし、探索開始だ。面白いものを見つけるぞ。」
『おー!』

 こうして、一家として初めての遺跡探索が始まる。
 他では見れない光景に埋蔵品への期待を抑えられそうになかった。




 ネズミは相変わらず追ってきているが、仕掛けようにも距離があって手が出せない。なので、防音魔導具と通話器を駆使してやり取りをすることにした。

 ライトクラフトで上から表層を確認し、調べる建物を絞る。
 細かい場所も気になるが、期間が限られているからな。

「中央の建物からか?」
「機能が生きてるとは思えないが、最初に調べるならそこだろう。」
「大きいところから、はお約束だもんな。」
「そういうことだ。」

 横についてくるバニラと話ながら、中央の建物のドアをこじ開けて入る。 
 封印されている、という訳でもなく、単純に機能を失って自動で開かなくなっていたのだろう。

「けほっ…」

 1000年以上経っても壊れず残る、締め切られた建物。横でバニラが手を振りながら咳き込む。どうということないが、反射的なものだろう。風が吹き込んだ事で埃が舞い上がっていた。

「けほっ…ひどい埃だね…」

 梓は平気のようだが、遥香も咳き込んでいた。
 フィオナは察してなのか、入ってきていない。

「退避場所を作るか。一度、外に出てマスクとゴーグルをしてこい。」

 オレの言葉に従い、4人は外で準備をする。
 作ったのは木で囲み、木製の長机と椅子を置いただけの簡素なものではあるが、これだけでも有無の差は大きい。

「終わったぞ。」
『早すぎる。仮説トイレ作ってるから待ってろ。』

 オレもバニラ&梓製ガスマスクとゴーグルを着け、ライトクラフトを使い、吹き抜けになっているロビーを浮上しながら屋内をチェックする。
 開いているドア、閉まっているドアがだいたい半々くらい。ドアの開閉状態は壊れた結果の様だ。埃の上に足跡らしい物はなく、人は本当に長いこと踏み入れてない様子。

「お待たせ…ん?上だったか。」

 バニラがこちらを見ながら言う。

「少し調べていた。」

 ゆっくり着地すると、装置の影響で少しだけ埃が舞う。風の力で浮く様な物だと大惨事だっただろう。

「やはり、何も居ないようだな。
 ここの振り分け方だが、わたしはフィオナと、梓は遥香と、父さんは一人で良いか?」
「それで良いぞ。」
「おとーちゃん、だいじなものはすぐに片付けようね。」
「子供じゃないんだから、それくらい分かってるよ。」

 そう言って、一足先に目星を付けていた部屋を調べる。
 魔力の痕跡が残っており、棚がたくさん並んでいる部屋だ。
 棚の中は空が目立つが、びっしり何か押し込んでいる物もあった。
 石板のようなもので、一つ手にとって表面を撫でると。

〈告知。『一人暮らしの為の入門料理』を閲覧しますか?〉

 サポートが反応し、石板のようなものについて教えてくれた。
 なんなんだこれは?

〈回答。石板はブックタブレットと呼ばれる古代文明の遺物です。資格のある者のみ、閲覧が許されています。〉

 タブレット…タブレットか…
 記憶を呼び起こすと確かに知識にある。
 使い方も分かる。目の前に浮かぶ内容はシンプルな料理のレシピだ。
 資格とはなんだろうか?

〈回答。全ての人間、免許のある亜人種、一定期間以上滞在している全ての召喚者となります。〉

 オレが見れた、という事は、姉妹たちも見れるな。
 手にしたものを置き、隣の物を手にする。なにも出ない。
 空いている手で表面を撫でると告知が来る。

〈告知。『食わず嫌い克服大百科』を閲覧しますか?〉

 しよう。アリスのイグドラシルの実嫌いを克服出来るかもしれないからな。
 しかし、役立ちそうになかった。食材が聞いたことないものばかりじゃないか…
 サポートもアドバイスをくれることはなかった…

 棚の他のタブレットも、背の部分をなぞるだけでタイトルがわかるが、料理関係の書籍しかない。これは期待が薄いかもしれない。
 他も似たようなものばかりだが、どうしたものか…

「バニラ、料理のレシピはいるか?」
『欲しい。』

 では、持っていくとしよう。
 亜空間収納に入れ、違う棚も調べていく。
 魔法物理学、高度錬金術、原初魔法学、召喚術入門…
 役立つかわからんが貰っていこう。

 こうして盗掘紛いの事を繰り返し、図書室のような部屋は空になった。
 大きな建物に図書室。ここは学校のような気がしてきた。ゲームの頃はどうだったか…
 テキスト類は流し読みしていたので、ほぼ記憶に無いな…

 部屋から出ると、遥香と梓が待っていた。
 何もなかったらしく、早々に出てきたそうだ。

「レシピがどうこう言ってたけど、何かあった?」

 不満げな遥香がオレに尋ねてくる。

「漬け物石が大量にあった。」

 そう言って、タブレットを梓に投げ渡した。

「わっとっと…原初魔法学!?」
「仰々しいタイトルだが、役に立つかわからん。」
「…魔法の歴史書みたいなものだろうしねぇ。おねーちゃんの領分かな。」
「高度錬金術なんてのもあるが、金を諦めてない様子で眉唾だ。」
「それは確かに…」

 役に立つものもあるかもしれないが、もっと多くの人間が検証してきた技術の方を信じたい。

「料理のレシピもそんな感じなの?」
「全く聞き覚えの無い材料だからなぁ。」
「そっか。文明が違っちゃうと、食材が違っちゃうんだ。」

 興味深そうに尋ねてきたのは遥香。どちらかというと、食い気に目覚めつつあるようだ。
 食べ過ぎてカトリーナを泣かさないようにな。

「似たものはあるかもしれない。その辺は、料理担当に任せよう。」

 タブレットを受け取り、再び片付けた。

「わたしたちが最後だったか。」

 そう言って、バニラが物騒なものを携えて戻ってきた。

「銃か?」

 ゲームにもあったが、ダメージが固定値な上、スキルの影響を全く受けないという事で、早々に産廃扱いされた武器である。
 ゴーグルにガスマスクに銃という装備に、別ゲー感が強くなってきた。

「そうだ。ただ、カテゴリーとしては魔導銃と言った方が良いな。」
「そんなのあったのか。」
「あったし、作った。無限水鉄砲が流行っただろう?」
「ああ、そうか。あれも魔導銃なのか。」

 かつて、どこからともなく流行りだした無限水鉄砲。その原因が目の前にいた。

「色々と克服できなくて、遊び以外で使い物にならなかったが、今は魔石結晶があるからな。きっと実用化できるぞ。」 

 オレに銃を向けて、撃つような素振りを見せる。
 なるほど、様々な問題点を魔石結晶で克服出来るようになるのか。
 そう考えると、バニラに技術が伝わってなかったのが惜しいな。

「銃を普及させちゃうの?私は反対かな。」

 全く乗り気じゃ無い様子で梓が言う。

「誰でも兵士になれちゃう武器はダメだよ。」
「分かってるよ。普及させるつもりはない。
 ただ、作れるなら作りたいんだ。ゲームの時に諦めた技術の一つだからな。」
「私は形しか手伝わないよ?」
「十分だ。スプリングも必要ない。」
「スプリング?」
「ああ、バネ…金属、針金を螺旋状にしたものだよ。」

 ピンと来ないフィオナにバニラが説明する。
 なんとなく、そんな物で遊んだ記憶があるな。それがスプリングか。

「良い馬車にはサスペンションが使われてるから、既知の技術なんだけどね。
身近な所だと、ドアノブが戻るのもそのお陰だよ。」
「そうでしたの…」
「過去に召喚者が持ち込んだんだと思うけど、発展はさせられなかったみたいだね。」
「バネ職人なんて聞いたことがないな。」
「鍛冶魔法一つでできちゃうからね。専門の工場がいらないから、使い方を広げる必要もないのかも。
 ライトクラフトの各所にも使ってるよ。レバー、浮力、推進装置の開閉、ベルトを外すスイッチとかね。」
「…梓なしじゃ完成しなかったよ。」
「気付いてないだけで、色々な所にあるんだね…」

 梓には足を向けて寝られそうにない…
 後光が差すように見え、神々しさすら感じる。なんて言うと怒られそうだが、気付いてない所で利便性の向上が行われている気がする。

「まあ、実証さえ出来ればわたしは満足だからな。資金も潤沢だから、お披露目も必要ない。」
「出資者がいない強みだよねー。歴史上の発明家が羨む環境だよー?」
「アリスという審査員もいるからな。一家の最後の良心だ。
 あの良心を守る為に、なるべく兵器類は回収しておきたいな。」
「大丈夫。ちゃんと空にしておいた。処分はキャンプ地に戻ってからにしよう。」

 その後、途中に昼食を挟んで、5度の調査を終えたところでこの建物は学校だと結論付ける。
 兵器がある理由までは流石に分からないが。

「最後にちょうど一部屋残ったか。」
「ライトクラフトの出番だねー」

 経年劣化か、他の要因かは分からないが、最上階の階段の先が崩落しており、進めなかったのだ。一部屋だけあるのは見えたが。

「死体も、痕跡もなかったぞ。」
「完全に密閉されてるから、服や骨くらいあっても良さそうなんだが。」
「そうだよねー」

 人一人死ぬことなく退避できたか、こうなる前に死体は片付けられてしまったか…

「最後の部屋に手掛かりがあると良いな。」
「そうだね。」

 来た時と同じ組み合わせでライトクラフトを使い、残った部屋の前に辿り着く。

「開けるぞ。」

 開け放つと、横にいたバニラが呻き声を上げる。
 最後の一人がそこにいた。
 とうに朽ち果てており、首が外れて机の上に転がっている。

「ひぃっ!?」

 悲鳴を上げたのは意外にも遥香である。

「ストップ!ハルちゃんストップ!!」

 慌てて梓が遥香を思い止まらせる。魔力の様子から、ヴォイド・ストライクを撃つつもりだった様子。大袈裟過ぎるぞ。

「よ、四女よ。い、意外と可愛いところがあるな。」
「お、お姉ちゃんも、ふ、震え声じゃない。」
「二人にも、可愛いところがあるのですね。」
『どういう意味?』

 怒りの矛先が、死体じゃなくてフィオナに向かって助かるよ。

「そこまでだ。故人の前ではしゃぐな。」
『は、はい…』

 梓と部屋に入り、故人の状態を確認する。
 看破が通り、死因が判明する。

【屍】
 天空都市の住民の遺体。魔力の枯渇により生命を維持できなくなった。

【天空都市】
 有翼の民フリューゲルが築いた古代文明都市。

【フリューゲル】
 有翼の民。原初の民。高度な文明を作り上げたが、災害により都市は墜落。マナ濃度の高い大地に順応出来ずに絶滅した。

 とんでもないものに遭遇してしまった。
 フリューゲル?神話の民じゃないか。このまま朽ちさせておくのも忍びないな…
 転がる頭を持ち上げると、それだけで崩壊してしまった。
 箱を作り、その中に塵芥と成り果てるだけの遺体を入れる。

「フリューゲルはもういないのか…」

 残念そうに言うバニラ。
 フリューゲルとの出会いはゲームにおいて一つの目標だった。ついに実装される事はなかったが。
 この辺りのゲームとの相関性は、考えても分からないな…

「ゲームではどうだったの?」
「テキストだけの存在だ。公式イラストには居たけどな。」
「今との時間関係が分からないんだよねー。エディさんがどえらい長命なせいもあるんだけど。」
「怖くてココアにも聞けなかったからなぁ。ミルクから聞いていると良いが。」

 箱の蓋を閉め、亜空間収納に片付けた。
 偉大なフリューゲルも、ここまで朽ちるとただの物か…

「人は朽ちても物は比較的綺麗だな。」
「流石に紙はないか。これもタブレットだ。」

 バニラが机の上のタブレットを手にする。

「…日記か。」
「読まなくて良いぞ。最後の一人なんて闇が深すぎる。」
「お、おう…」

 タブレットを取り上げてしまっておいた。
 後でかいつまんでまとめておこう。

「…埃は積もってるけどきれいなままだね。最後の一人なのに全く狂った様子が無いよ。」
「カップは最後の一服ということでしょうか。」

 部屋の様子を見て、バニラが意を決した様に言う。

「やっぱり後で読ませて欲しい。弱気も絶望も書かれているだろうが、気になってしかたない。」
「…分かったよ。」

 折れたのはオレの方だった。
 ここまで身辺を整えた最期。どうしても気になってしまう。

「…手を付けるのはタブレットだけにしよう。この部屋を荒らすのは忍びない。」
「そうだねー。錬金術系の道具はあるけど、古すぎるし。」
「家具や調度品を持って帰っても、皆様きっと困りますわ。」

 こうして、オレたちの調査一日目は幕を下ろす。
 休憩室は撤去し、入口もしっかり閉めておいた。
 キャンプ地に戻る前に途中にあった墓石群で止まり、日記を確認した。

「…ここにするのか?」
「故人の願いだ。」

 真ん中の奥はここに埋めてくれと言わんばかりのスペースがあり、後から回収したカップを遺体と一緒に箱に納めて埋葬した。

「…冒険者ってこういう事もよくするんだね。」
「わたしたちだけかもしれんがな。」
「そうでないことを願いますわ。」

 遠征の度に埋葬しているのは気のせいであってもらいたい…

「…最初がわたしたちで良かったよ。」
「普通じゃここまで来れないだろうからな。亜空間収納なしで長期間無補給は無謀だ。」

 人里から遠すぎる故のほぼ手付かずの地。
 連中がどうやってテレポーターを獲得したのかは気になるが、旅慣れている事に違いない。
 ユキも放浪生活でなんとか食い繋いでいたしな。何かしらノウハウはあるのだろう。

「さて、戻って休もう。夕食は任せて良いな?」
「おう。タブレットの確認は頼むぞ。」

 こうして、一日目が無事に終了した。
 魔物の巣ではあるが、それは周囲と地下階層。本当に大変なのは地下を調べ始めてからになるだろう。
 一応、母親たちにも連絡をしておいた。
 埋めてきたリレーもしっかり機能しているようで、バニラも満足の様子。
 ライトクラフトにテレポーターに長距離通話にと、魔法や魔導具の力って凄いなーと改めて思い知らされるのであった。
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