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第1.5部
番外編 〈白閃法剣〉は後輩の晴れ舞台を観戦する
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〈白閃法剣ハルカ〉
スラム、孤児院関連の問題が片付いた事で、見に行けないと思っていた闘技大会本戦の観戦が出来ることになった。
ここに来るのは二度目だけど、あの時も大捕物を手伝ったなぁ、となんだか懐かしい気持ちになる。
今回はそんなことはないと信じ、屋台の食べ物を大量に買い込んだ。
前回は気付かなかったが、模倣品や粗悪品が多い。私にミニ串の粗悪品を売ろうとするとは良い度胸である。
闘技大会本戦。やはり、私にとっては退屈だったが、連れてきた後輩たちは目を輝かせていた。
「いつか、この場に立ちたい…!」
年少組の女子が拳を握り締め、顔を紅潮させながら言う。
「うん。近接も、魔法も、勉強も頑張らないとね。」
「はい!」
全て優れていなくては立てないこの舞台。サポートとしてならお姉ちゃんたちのように立てるが、この子の望みはそういうことではないはずだ。
なんだか、こんなやり取りをした覚えがある。予選の時だったかな?
さて、予選の時はレベルの向上に驚いたが、他の学校はそれほどではない様だ。
うちの子たちが別格というのが正しい。そして、それは学園内の他の子の成長にも寄与していた様だ。
「まだ、時間が掛かりそうですわ…」
一人挟んで隣のソニアちゃんは苦々しく呟く。それは私も同感だ。
「たくさん送り出さないとね。それがきっと、良い切っ掛けになるから。」
「ええ、そうですわね。
夏には一先ず公共訓練場が解放できるそうですので、私たちの訓練をお披露目する機会になりますわ。」
ソニアちゃんが言い終える前に歓声が上がる。
うちに通う子達が最初の勝利を納め、相手に対し深く礼をしていた。
舞台から降り、ようやく初勝利に大喜びしてみせた。
お姉ちゃん達みたいに毎回ハイタッチするのも良かったけど、こういう喜び方も見ていて気持ちが良い。
「今年も凄いな。私には何をやっているのか分からなかったぞ…」
私とソニアちゃんの間にいたのはエディさんだった。ミニ串用の木箱お弁当から一本取り出しながら言う。すぐに頬張って、美味しそうに食べてくれる姿は微笑ましく、嬉しい。
木箱お弁当は12本のミニ串が味ごとに階層になって入っており、食べ終えた串を溝に入れるというもの。私たちなら魔法で使い回せるが、基本的に使い捨てなVIP向けのスペシャルセットだ。
「来年はもっとレベルが高くなってるかもしれないよ?観戦する側もレベルアップが必要かもしれないね。」
「…私もスタンピード潰しに参加せねば。」
「エディ様、危険な事はお止めくださいね。」
とんでもないことを言い出すエディさんをソニアちゃんが諌めた。
エディさんには安全なところに居て貰わないと私たちも安心できない。
「ところで、母三人の状態はどうだ?
直接尋ねても、はぐらかされそうで聞けなかったのだが。」
「アリスお母さんが早産になるって言ってたよ。自分の体が小さいし、双子らしいからって。」
「…そうだったか。お腹を触ったりはしてみたか?」
答えに躊躇う。
「なんだ触ってないのか。今だけだから触らせてもらうといい。」
「潰しちゃう気がして…
それに、荒事の準備でちょっと気が立ってたから…」
「じゃあ、帰ったら触らせてもらうといい。
初めては驚きと感動があるからな。」
「うん。エディさんがそう言うなら…」
なんだかそこまで言われると、どんなものか気になってしまう。
「ソニアは?」
「お姉様のを何度か触らせていただいております。生の胎動に感動いたしましたわ。」
ソニアはアリスお母さんが気になるのか、よくお世話をしている姿を見る。メイド服姿が意外と様になっていた。
いったい、これまでに何着作ってしまったのだろうか?
「うん。帰ったら触らせて貰おう。」
そう決意して、大会の試合に集中することにした。
5分で飽きてしまったが。
お昼は事前に買い込んだ物と、家で用意してもらったお弁当を食べることになった。
エディさん用ということで、リナお母さんが頑張っているのを眺めた。
専用お弁当をエディさんに渡し、私とソニアちゃんはそれぞれ共通の物を分け合う形だ。
「なんだか悪いな。」
「いいよ。お母さん、張り切ってたからね。」
「ハルカにも準備してやりたかっただろうに。」
多分、そうかもしれないが、それだとソニアちゃんだけ仲間外れになってしまうのを懸念してだろう。アリスお母さんが普段通りなら、という所だろうが、今日はなんだか動くのが辛そうだったし…
「ソニアちゃんと半分なら構わないよ。それに、食べ物はいっぱい買ってきたから足りない子は言ってね。」
『はーい!』
既に屋台で買ってきた物を振る舞っているのだが、ストックはまだまだある。食いしん坊共の欲求は底無しだからね。
「やっぱりカトリーナの料理は独特だ。ハルカのミニ串に似た味でもある。」
美味しそうに食べながら褒めてるのかよく分からない感想。でも、きっと称賛しているのだろう。南方から、この日のために戻ってきたと言っていたし、期待もしていたはずだ。
「ミルクにも食べさせたかったよ。」
まだ吹っ切れていないのだろう。時々、虚空を見つめる瞬間がある。以前はそんな瞬間は全く無かったのに。
「でも、おばあちゃんのおかげで出来た料理だから。新春祭の屋台はそうなんでしょ?」
「ああ。発案は私だが、実現はミルクのアドバイスあってこそだ。」
「じゃあ、エディさんのおかげでもあるね。ありがとう、エディさん。」
エディさん急に涙ぐみ、正面を向いてすすり泣き始める。泣かせてしまった…
「…間違いじゃなかった。私たちのやって来た事は間違いじゃ…うわあぁ」
声を出して泣き始めたので、私は慌ててエディさんに防音の魔導具を着けた。
わんわん泣いてる様子のエディさんだが、声は全く聞こえてこなかった。
バニラお姉ちゃんにも感謝しなくてはいけない…
「危うく大惨事でしたわね…
きっとミルク様も苦労されたのでしょう…」
「ううん。きっと楽しんでたと思うよ。
まだ、エディさんがこんなだからお姉ちゃんには会わせられないけど、いつかお姉ちゃんと二人で歩いていくはず。
創士と呼ばれるお姉ちゃんとなら、もっと色々な事を実現してくれるよ 。」
私がエディさんの頭を撫でると、ソニアちゃんはエディさんの顔を拭い始める。
一家で一番手の掛かる末っ子は、エディさんなのかもしれない。
決勝だけは私の心を揺さぶってくれた。悪い方に。
「先輩…」
横の後輩が心配そう、というより恐る恐る私に声を掛けた。
「あ、ごめん。うちの子たちに怒ってるんじゃないから。」
気に入らないのは相手の方だ。出来るだけ手の内を隠し、決勝だけ全力を出す。そういう戦い方を悪いとは言わない。だが、限度がある。
準決勝まで一人目で出ていたやたら弱いヤツを、決勝では二人目に持ってきた。
実際の強さはうちの子たちに匹敵するほど。ここまでわざと負け続ける事に、何も思わなかったのだろうか?
「調子を崩すことなく、いつも通りに対処できた二人目の子が個人的なMVPかな。
妨害や搦め手の多い戦い方だったけど、そんなものを打ち崩す気迫、冷静さは見習うべき所だね。」
全力を出し続けていれば、大会中に学べるもの、磨けるものがあったかもしれない。
だが、相手はその機会をフイにした。その差は大きいはず。
「結果、2連勝でチームは優勝ですからね。あの子達の決勝の相手には不足でしょう。」
ソニアちゃんが私を見てニヤリとする。
「祝勝会を兼ねて、相手をしてあげようか。」
「真の決勝戦ですわね。」
「面白そうじゃないか。私も見に行くぞ!」
ざわめきだす後輩たち。この後の予定はキャンセルとか言いだして、なんだか大事になってしまいそうであった。
サラさんの実家の食堂へは遅れて行くと連絡し、私たちは訓練ダンジョンに用意された舞台で先に待っていた。
私の装備は模擬戦用の片手剣といつもの盾。防具は無しだ。
ソニアちゃんは訓練用の棒に、服だけ戦闘用という状態。
そして、もう一人は、
「後輩たち、覚悟していただきますわよ?」
ノリノリで模擬戦用の剣を素振りするフィオナだった。
柊お姉ちゃんとじゃんけんをして、勝ったのがフィオナだったのだ。
…お姉ちゃんもそこまで悔しそうにしなくても。
「ハンデ装備は付けているな?」
ディクリース・オール2つのハンデで私たちは挑む。
体が重く、なんだか全身金属鎧を着ているみたい。
でも、時間と共に馴染んでくる。出番の頃には問題はないはずだ。
「じゃあ、最初はハルカだな。」
「えっ!?」
思わず声を上げる。
「お前は慣れてしまって、ハンデがハンデじゃなくなるだろう…」
「ぐぬぬ…」
「闘志は向こうに向けろ。」
準備万端、といった様子で高等部の後輩が待っていた。
得物は槍。だが、その手の内はよく知っている。真っ向勝負か、搦め手か…
「じゃあ、始めよう。その慄える魂を燃やし尽くしてみせてよ!」
「いきます!」
合図は向こうの踏み込み。
真正面からの一撃が私の盾を削る。受け流したつもりだが、少し遅れた。感覚がまだ掴めていない。
攻撃は一撃で終わらずに追撃が続く。だけど!
「っ!」
私の踏み込みに反応して魔法。
こっちは…間に合わない!
【ファイア・ストライク】
盾で受ける間にカウンターの準備をする。
【スーパーノヴァ】
周囲を高温に上げる方を選択した。
間のある大爆発で周囲の温度は急上昇。私も、後輩も暑さで思わず表情が歪む。
お互いに長期戦は難しい。だったら、より環境を悪くする選択を私は選んだ。
【ファイア・ストライク】
相手は更にもう一発。防いだが、それによって気温は更に上がった。
【ファイア・ブラスト】
【アイス・ブラスト】
こっちは更に温度を上げていく。
後輩も意図に気付いたのか、対抗するがもう遅い!
相殺され、水蒸気が発生して視界を奪うが、読み通り。
一気に踏み込み、盾で殴り付ける。
「くっ!」
距離を詰められるのを嫌がり、柄を跳ね上げて来るが当たってやるわけにはいかない。紙一重で避けて、盾でもう一発。
牽制の一撃だったが、衝撃を利用されて距離を開けられる。
その距離はまずい!
完全に相手有利の距離となってしまい、素早い突きの連打。盾で、剣で捌き、体を捻って避け、ジャンプしたところで渾身の一撃が私を突き飛ばした。
盾を持ってなきゃやられてた…
甘く見ていたわけではないが、私の予測を越えてきたのは確かだ。認めよう。この子も強い!
想いが、力が滾る。久しぶりの感覚だ。
【闘気】
【闘気】
この温度じゃお互いに長丁場は無理と判断し、切り札を使う。
気持ちの良いくらいの真正面勝負だ。受けて立とう!
「ふっ!」
「やあぁっ!」
盾を突き出して突進する私と、槍を振りかぶる後輩。
軌道が…見える!
振り下ろされた槍を紙一重の所で横に跳んで避け、突き!
後輩の胸のちょっと右に私の突きを叩き込む。
勢い良く吹き飛ばされる後輩。だが、
「ま、まだぁっ!!」
必死に喰らいつくかのように槍を地面に突き刺して、踏み留まった。でも、そこまでだ。
追撃の蹴りが後頭部にヒットして倒れ、動かなくなった。
やりすぎじゃないよね…?
『勝者、ハルカー!』
サクラが勝利宣言をし、ようやく試合終了である。
負けた後輩にリザレクションを掛けてあげ、抱き起こす。
「なんであのタイミングで避けられるんですか…意味がわかりませんよ…」
「見えちゃったからね。だから避けられたんだよ。
適正距離からの突きの猛攻も良かった。」
「こちらの優位性が悉く崩されて自信を失くしそうですよ…」
「ギリギリでの経験の差だ思う。去年の私となら、君が勝ってたのは間違いないよ。」
「…私、もっと強くなりますから。いつか、ハンデなしの先輩にも、一本くらい取れるようになります。」
「うん。期待してる。」
握手をし、後輩を仲間の所に送り、私もソニアちゃんたちの所に戻ってからお互いに礼をした。
『一旦、休憩よー。上がった温度を下げるからー』
サクラの言葉を聞き、私も思わず気が抜けて倒れそうになる。フィオナに支えられて転ばずに済んだ。
そのまま長椅子に連れていかれ、座らせてもらう。
「ありがとう。闘気使ったの忘れてたよ…」
「強かったですわね。汗だくじゃないですか。」
「息するのも辛い暑さだったから…フィオナ、冷たくて気持ちいい。」
「複雑な気分ですわ。でも、お疲れ様でした。良い試合でしたわ。」
そう言うと、タオルを冷やして渡してくれる。とても気持ちいい。
「出番が終わったならハンデ装備はずして良いぞ。お疲れ様。」
バニラお姉ちゃんが、そう言ってブレスレットを回収した。
抜けてた力が戻ってくる様な感じがして、さっきまでの疲労感は消し飛ぶ。
「後輩はどうだ?」
「強かった。技術じゃ負けてる気がしたよ。」
「乗り越えてきた戦闘はハルカに分がありますが、人相手は勝手が違う様でしたわね?」
「そうだね。お父さんが人と戦うところは見たことなかったし…」
「全く、お前ってヤツは。母さんが泣くぞ。」
「え?」
「対人で一番強いのは、今でもカトリーナさんですわ。」
「…お母さんに謝らないとダメだね。」
笑顔のまま涙を流す姿を想像する。
本当にそんなことになりそうで怖い…
「まあ、得物が違うからな。気にする必要はない。」
「うん…」
「それに、やっぱりお前は父さんを目指すべきだよ。母さんを目指すのは柊に任せよう。」
「でも、お母さんの動きは目指したい。どっちも目指したい。」
「まあ、それも悪くない。父さん譲りの魔法、母さんの動き、どっちも出来たら手に負える者はいなくなりそうだ。」
「でも、中途半端になる可能性もありますわ。
二人とも、天性のものを更に磨き上げた技術。そこに至るのはとても厳しい道のりかと。」
信じてくれるお姉ちゃん、心配してくれるフィオナ。ちゃんと考えてくれている二人がいるのは安心できる。
「うん。だからちゃんと見てて欲しいんだ。私の魔法を、私の剣を。それをお願いできるのは二人だけだから。」
「あの、私は…」
「ソニアちゃんはライバルだから。私の訓練相手になってもらうからね。」
「…気が休まりませんわね。」
深いタメ息を吐き、顔を叩いて気合いを入れる。
「では、見ていてくださいませ。〈白閃法剣〉のライバルであるという事、皆に、ハルカさんに証明して見せますわ!」
出した棒を回してから、トンと地面を叩いた。
次はソニアちゃんの出番だ。ライバルの戦い、しっかり見させてもらおう。
スラム、孤児院関連の問題が片付いた事で、見に行けないと思っていた闘技大会本戦の観戦が出来ることになった。
ここに来るのは二度目だけど、あの時も大捕物を手伝ったなぁ、となんだか懐かしい気持ちになる。
今回はそんなことはないと信じ、屋台の食べ物を大量に買い込んだ。
前回は気付かなかったが、模倣品や粗悪品が多い。私にミニ串の粗悪品を売ろうとするとは良い度胸である。
闘技大会本戦。やはり、私にとっては退屈だったが、連れてきた後輩たちは目を輝かせていた。
「いつか、この場に立ちたい…!」
年少組の女子が拳を握り締め、顔を紅潮させながら言う。
「うん。近接も、魔法も、勉強も頑張らないとね。」
「はい!」
全て優れていなくては立てないこの舞台。サポートとしてならお姉ちゃんたちのように立てるが、この子の望みはそういうことではないはずだ。
なんだか、こんなやり取りをした覚えがある。予選の時だったかな?
さて、予選の時はレベルの向上に驚いたが、他の学校はそれほどではない様だ。
うちの子たちが別格というのが正しい。そして、それは学園内の他の子の成長にも寄与していた様だ。
「まだ、時間が掛かりそうですわ…」
一人挟んで隣のソニアちゃんは苦々しく呟く。それは私も同感だ。
「たくさん送り出さないとね。それがきっと、良い切っ掛けになるから。」
「ええ、そうですわね。
夏には一先ず公共訓練場が解放できるそうですので、私たちの訓練をお披露目する機会になりますわ。」
ソニアちゃんが言い終える前に歓声が上がる。
うちに通う子達が最初の勝利を納め、相手に対し深く礼をしていた。
舞台から降り、ようやく初勝利に大喜びしてみせた。
お姉ちゃん達みたいに毎回ハイタッチするのも良かったけど、こういう喜び方も見ていて気持ちが良い。
「今年も凄いな。私には何をやっているのか分からなかったぞ…」
私とソニアちゃんの間にいたのはエディさんだった。ミニ串用の木箱お弁当から一本取り出しながら言う。すぐに頬張って、美味しそうに食べてくれる姿は微笑ましく、嬉しい。
木箱お弁当は12本のミニ串が味ごとに階層になって入っており、食べ終えた串を溝に入れるというもの。私たちなら魔法で使い回せるが、基本的に使い捨てなVIP向けのスペシャルセットだ。
「来年はもっとレベルが高くなってるかもしれないよ?観戦する側もレベルアップが必要かもしれないね。」
「…私もスタンピード潰しに参加せねば。」
「エディ様、危険な事はお止めくださいね。」
とんでもないことを言い出すエディさんをソニアちゃんが諌めた。
エディさんには安全なところに居て貰わないと私たちも安心できない。
「ところで、母三人の状態はどうだ?
直接尋ねても、はぐらかされそうで聞けなかったのだが。」
「アリスお母さんが早産になるって言ってたよ。自分の体が小さいし、双子らしいからって。」
「…そうだったか。お腹を触ったりはしてみたか?」
答えに躊躇う。
「なんだ触ってないのか。今だけだから触らせてもらうといい。」
「潰しちゃう気がして…
それに、荒事の準備でちょっと気が立ってたから…」
「じゃあ、帰ったら触らせてもらうといい。
初めては驚きと感動があるからな。」
「うん。エディさんがそう言うなら…」
なんだかそこまで言われると、どんなものか気になってしまう。
「ソニアは?」
「お姉様のを何度か触らせていただいております。生の胎動に感動いたしましたわ。」
ソニアはアリスお母さんが気になるのか、よくお世話をしている姿を見る。メイド服姿が意外と様になっていた。
いったい、これまでに何着作ってしまったのだろうか?
「うん。帰ったら触らせて貰おう。」
そう決意して、大会の試合に集中することにした。
5分で飽きてしまったが。
お昼は事前に買い込んだ物と、家で用意してもらったお弁当を食べることになった。
エディさん用ということで、リナお母さんが頑張っているのを眺めた。
専用お弁当をエディさんに渡し、私とソニアちゃんはそれぞれ共通の物を分け合う形だ。
「なんだか悪いな。」
「いいよ。お母さん、張り切ってたからね。」
「ハルカにも準備してやりたかっただろうに。」
多分、そうかもしれないが、それだとソニアちゃんだけ仲間外れになってしまうのを懸念してだろう。アリスお母さんが普段通りなら、という所だろうが、今日はなんだか動くのが辛そうだったし…
「ソニアちゃんと半分なら構わないよ。それに、食べ物はいっぱい買ってきたから足りない子は言ってね。」
『はーい!』
既に屋台で買ってきた物を振る舞っているのだが、ストックはまだまだある。食いしん坊共の欲求は底無しだからね。
「やっぱりカトリーナの料理は独特だ。ハルカのミニ串に似た味でもある。」
美味しそうに食べながら褒めてるのかよく分からない感想。でも、きっと称賛しているのだろう。南方から、この日のために戻ってきたと言っていたし、期待もしていたはずだ。
「ミルクにも食べさせたかったよ。」
まだ吹っ切れていないのだろう。時々、虚空を見つめる瞬間がある。以前はそんな瞬間は全く無かったのに。
「でも、おばあちゃんのおかげで出来た料理だから。新春祭の屋台はそうなんでしょ?」
「ああ。発案は私だが、実現はミルクのアドバイスあってこそだ。」
「じゃあ、エディさんのおかげでもあるね。ありがとう、エディさん。」
エディさん急に涙ぐみ、正面を向いてすすり泣き始める。泣かせてしまった…
「…間違いじゃなかった。私たちのやって来た事は間違いじゃ…うわあぁ」
声を出して泣き始めたので、私は慌ててエディさんに防音の魔導具を着けた。
わんわん泣いてる様子のエディさんだが、声は全く聞こえてこなかった。
バニラお姉ちゃんにも感謝しなくてはいけない…
「危うく大惨事でしたわね…
きっとミルク様も苦労されたのでしょう…」
「ううん。きっと楽しんでたと思うよ。
まだ、エディさんがこんなだからお姉ちゃんには会わせられないけど、いつかお姉ちゃんと二人で歩いていくはず。
創士と呼ばれるお姉ちゃんとなら、もっと色々な事を実現してくれるよ 。」
私がエディさんの頭を撫でると、ソニアちゃんはエディさんの顔を拭い始める。
一家で一番手の掛かる末っ子は、エディさんなのかもしれない。
決勝だけは私の心を揺さぶってくれた。悪い方に。
「先輩…」
横の後輩が心配そう、というより恐る恐る私に声を掛けた。
「あ、ごめん。うちの子たちに怒ってるんじゃないから。」
気に入らないのは相手の方だ。出来るだけ手の内を隠し、決勝だけ全力を出す。そういう戦い方を悪いとは言わない。だが、限度がある。
準決勝まで一人目で出ていたやたら弱いヤツを、決勝では二人目に持ってきた。
実際の強さはうちの子たちに匹敵するほど。ここまでわざと負け続ける事に、何も思わなかったのだろうか?
「調子を崩すことなく、いつも通りに対処できた二人目の子が個人的なMVPかな。
妨害や搦め手の多い戦い方だったけど、そんなものを打ち崩す気迫、冷静さは見習うべき所だね。」
全力を出し続けていれば、大会中に学べるもの、磨けるものがあったかもしれない。
だが、相手はその機会をフイにした。その差は大きいはず。
「結果、2連勝でチームは優勝ですからね。あの子達の決勝の相手には不足でしょう。」
ソニアちゃんが私を見てニヤリとする。
「祝勝会を兼ねて、相手をしてあげようか。」
「真の決勝戦ですわね。」
「面白そうじゃないか。私も見に行くぞ!」
ざわめきだす後輩たち。この後の予定はキャンセルとか言いだして、なんだか大事になってしまいそうであった。
サラさんの実家の食堂へは遅れて行くと連絡し、私たちは訓練ダンジョンに用意された舞台で先に待っていた。
私の装備は模擬戦用の片手剣といつもの盾。防具は無しだ。
ソニアちゃんは訓練用の棒に、服だけ戦闘用という状態。
そして、もう一人は、
「後輩たち、覚悟していただきますわよ?」
ノリノリで模擬戦用の剣を素振りするフィオナだった。
柊お姉ちゃんとじゃんけんをして、勝ったのがフィオナだったのだ。
…お姉ちゃんもそこまで悔しそうにしなくても。
「ハンデ装備は付けているな?」
ディクリース・オール2つのハンデで私たちは挑む。
体が重く、なんだか全身金属鎧を着ているみたい。
でも、時間と共に馴染んでくる。出番の頃には問題はないはずだ。
「じゃあ、最初はハルカだな。」
「えっ!?」
思わず声を上げる。
「お前は慣れてしまって、ハンデがハンデじゃなくなるだろう…」
「ぐぬぬ…」
「闘志は向こうに向けろ。」
準備万端、といった様子で高等部の後輩が待っていた。
得物は槍。だが、その手の内はよく知っている。真っ向勝負か、搦め手か…
「じゃあ、始めよう。その慄える魂を燃やし尽くしてみせてよ!」
「いきます!」
合図は向こうの踏み込み。
真正面からの一撃が私の盾を削る。受け流したつもりだが、少し遅れた。感覚がまだ掴めていない。
攻撃は一撃で終わらずに追撃が続く。だけど!
「っ!」
私の踏み込みに反応して魔法。
こっちは…間に合わない!
【ファイア・ストライク】
盾で受ける間にカウンターの準備をする。
【スーパーノヴァ】
周囲を高温に上げる方を選択した。
間のある大爆発で周囲の温度は急上昇。私も、後輩も暑さで思わず表情が歪む。
お互いに長期戦は難しい。だったら、より環境を悪くする選択を私は選んだ。
【ファイア・ストライク】
相手は更にもう一発。防いだが、それによって気温は更に上がった。
【ファイア・ブラスト】
【アイス・ブラスト】
こっちは更に温度を上げていく。
後輩も意図に気付いたのか、対抗するがもう遅い!
相殺され、水蒸気が発生して視界を奪うが、読み通り。
一気に踏み込み、盾で殴り付ける。
「くっ!」
距離を詰められるのを嫌がり、柄を跳ね上げて来るが当たってやるわけにはいかない。紙一重で避けて、盾でもう一発。
牽制の一撃だったが、衝撃を利用されて距離を開けられる。
その距離はまずい!
完全に相手有利の距離となってしまい、素早い突きの連打。盾で、剣で捌き、体を捻って避け、ジャンプしたところで渾身の一撃が私を突き飛ばした。
盾を持ってなきゃやられてた…
甘く見ていたわけではないが、私の予測を越えてきたのは確かだ。認めよう。この子も強い!
想いが、力が滾る。久しぶりの感覚だ。
【闘気】
【闘気】
この温度じゃお互いに長丁場は無理と判断し、切り札を使う。
気持ちの良いくらいの真正面勝負だ。受けて立とう!
「ふっ!」
「やあぁっ!」
盾を突き出して突進する私と、槍を振りかぶる後輩。
軌道が…見える!
振り下ろされた槍を紙一重の所で横に跳んで避け、突き!
後輩の胸のちょっと右に私の突きを叩き込む。
勢い良く吹き飛ばされる後輩。だが、
「ま、まだぁっ!!」
必死に喰らいつくかのように槍を地面に突き刺して、踏み留まった。でも、そこまでだ。
追撃の蹴りが後頭部にヒットして倒れ、動かなくなった。
やりすぎじゃないよね…?
『勝者、ハルカー!』
サクラが勝利宣言をし、ようやく試合終了である。
負けた後輩にリザレクションを掛けてあげ、抱き起こす。
「なんであのタイミングで避けられるんですか…意味がわかりませんよ…」
「見えちゃったからね。だから避けられたんだよ。
適正距離からの突きの猛攻も良かった。」
「こちらの優位性が悉く崩されて自信を失くしそうですよ…」
「ギリギリでの経験の差だ思う。去年の私となら、君が勝ってたのは間違いないよ。」
「…私、もっと強くなりますから。いつか、ハンデなしの先輩にも、一本くらい取れるようになります。」
「うん。期待してる。」
握手をし、後輩を仲間の所に送り、私もソニアちゃんたちの所に戻ってからお互いに礼をした。
『一旦、休憩よー。上がった温度を下げるからー』
サクラの言葉を聞き、私も思わず気が抜けて倒れそうになる。フィオナに支えられて転ばずに済んだ。
そのまま長椅子に連れていかれ、座らせてもらう。
「ありがとう。闘気使ったの忘れてたよ…」
「強かったですわね。汗だくじゃないですか。」
「息するのも辛い暑さだったから…フィオナ、冷たくて気持ちいい。」
「複雑な気分ですわ。でも、お疲れ様でした。良い試合でしたわ。」
そう言うと、タオルを冷やして渡してくれる。とても気持ちいい。
「出番が終わったならハンデ装備はずして良いぞ。お疲れ様。」
バニラお姉ちゃんが、そう言ってブレスレットを回収した。
抜けてた力が戻ってくる様な感じがして、さっきまでの疲労感は消し飛ぶ。
「後輩はどうだ?」
「強かった。技術じゃ負けてる気がしたよ。」
「乗り越えてきた戦闘はハルカに分がありますが、人相手は勝手が違う様でしたわね?」
「そうだね。お父さんが人と戦うところは見たことなかったし…」
「全く、お前ってヤツは。母さんが泣くぞ。」
「え?」
「対人で一番強いのは、今でもカトリーナさんですわ。」
「…お母さんに謝らないとダメだね。」
笑顔のまま涙を流す姿を想像する。
本当にそんなことになりそうで怖い…
「まあ、得物が違うからな。気にする必要はない。」
「うん…」
「それに、やっぱりお前は父さんを目指すべきだよ。母さんを目指すのは柊に任せよう。」
「でも、お母さんの動きは目指したい。どっちも目指したい。」
「まあ、それも悪くない。父さん譲りの魔法、母さんの動き、どっちも出来たら手に負える者はいなくなりそうだ。」
「でも、中途半端になる可能性もありますわ。
二人とも、天性のものを更に磨き上げた技術。そこに至るのはとても厳しい道のりかと。」
信じてくれるお姉ちゃん、心配してくれるフィオナ。ちゃんと考えてくれている二人がいるのは安心できる。
「うん。だからちゃんと見てて欲しいんだ。私の魔法を、私の剣を。それをお願いできるのは二人だけだから。」
「あの、私は…」
「ソニアちゃんはライバルだから。私の訓練相手になってもらうからね。」
「…気が休まりませんわね。」
深いタメ息を吐き、顔を叩いて気合いを入れる。
「では、見ていてくださいませ。〈白閃法剣〉のライバルであるという事、皆に、ハルカさんに証明して見せますわ!」
出した棒を回してから、トンと地面を叩いた。
次はソニアちゃんの出番だ。ライバルの戦い、しっかり見させてもらおう。
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主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
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俺、空田広志(そらたひろし)23歳。
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何故、そんなことが分かるかと言えば、自分の目の前には木の棒……棍棒だろうか、それを握りしめた緑色の醜悪な小人っぽい何か三体に囲まれていたからだ。
それに俺は少し前までコンビニに立ち寄っていたのだから、こんな何もない平原であるハズがない。
そして振り返ってもさっきまでいたはずのコンビニも見えないし、建物どころかアスファルトの道路も街灯も何も見えない。
見えるのは俺を取り囲む醜悪な小人三体と、遠くに森の様な木々が見えるだけだ。
「えっと、とりあえずどうにかしないと多分……死んじゃうよね。でも、どうすれば?」
にじり寄ってくる三体の何かを警戒しながら、どうにかこの場を切り抜けたいと考えるが、手元には武器になりそうな物はなく、持っているコンビニの袋の中は発泡酒三本とツナマヨと梅干しのおにぎり、後はポテサラだけだ。
「こりゃ、詰みだな」と思っていると「待てよ、ここが異世界なら……」とある期待が沸き上がる。
「何もしないよりは……」と考え「ステータス!」と呟けば、目の前に半透明のボードが現れ、そこには自分の名前と性別、年齢、HPなどが表記され、最後には『空間魔法Lv1』『次元の隙間からこぼれ落ちた者』と記載されていた。
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