召喚者は一家を支える。

RayRim

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第1部

69話

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 レベルが上がるのが分かったのでどんどん進もうという事になった。
 ボス以外素材取りの必要も今はなく、天然素材も高層の方が良いので不要という結論になった。
 ボスはおよそ五層に一体。およそというのは、何かしらの理由で発生するのが居るからだそうで、前のオレなら原因も分かっていただろうが、今は不明だ 。

 二体目のボスは巨大なハサミを持つ虫で、遥香はクワガタと呼んでいる。
 低層は虫ボスで、中層になると切り替わるとの事。これがあと八体居るそうだ。
 まあ、秒殺でしたが。
 登場して威嚇動作をしている内に遥香が指示を出し終え、炎が爆ぜたかと思うと終わったと言われる。
 後ろを向いているので、何が起きたのか全くわからなかった…

「お、お疲れ…」
「まあ、ほぼなにもしなかったけど。」
「冗談を。爆風でひっくり返してたじゃねぇですか。」
「体は動かしてないからね。二人は羽と足と首斬ってたから。」

 という事らしい。説明ありがとうございます。

「回収終わりました。次へ行きましょう。」

 淡々と素材を回収し、進むことを促される。

「遥香と初めての共闘だったけど、思ったより淡々としているな。」
「あれは後で悶えるんですぜ。夜の休憩時間は」
「ユキ?」
「ナンデモアリマセン。」

 だいたい察したのでこれ以上は何も言うまい…




 20層を越え、中継ポイントに触れたところで2日目を終える。
 想像以上のサクサクぶりだが、より高層の素材装備とオリハルコン武器がある事に加え、遥香がルートとボスを覚えているのも大きい。
 おかげでカトリーナとユキも体力の消耗が少ないようで、

「カトリーナさん、服が少し汚れてやすぜ。」
「ああ、気付きませんでした。ありがとう。」
「あ、洗浄と浄化掛けておくね。」

 と、疲れている様子は全くない。みんな、まだまだ進めそうだ。

「まだ行けそうですが、三日のルールは厳守しましょう。油断はいけませんからね。」
「しかたありやせんね。」
「二十五層越えた所で引き返すよ。」

 遥香の提案に二人共頷く。

「なんだかんだで下層も折り返しですか…
 信じられやせんね…」

 オレの固定を解除しながらユキが言う。

「そうですね…イグドラシルに登っていること自体が不思議ですが。」

 固定が外れると、遥香がオレの手を取って立たせてくれる。

「お父さんのおかげだね。お父さんが居なければ無かった冒険だよ。」

 屈託のない笑顔を向けられ、なんだか気恥ずかしい。ただ、座っているだけだというのに。

「そういう顔は無し。どんな形でも、お父さんと冒険してるのが私たちは嬉しいんだから。」
「そうか…」

 そんな事を言われると、表情が綻んでしまう。
 カトリーナの事を、いつも遥香にはデレデレじゃないかと思っていたがもうどうこう言えない。

「あたしは戦うところ見てるだけでしたからね。今度は旦那に見ててもらう番でさぁ。」
「すまん。速すぎて見えてない。」
「おおう…そんな落とし穴が…」

 笑い出すカトリーナと遥香。

「ちゃんと私たちは見てますよ。」
「だから手は抜かないでよね。油断は出来ないから。」
「へぇ…どれも当たったら痛そうですからね…」

 しょんぼりしてはいるが、やる気が損なわれている様子はなかった。

 今晩もとりとめのない話をして一日が終わる。
 挑戦一回目もいよいよ最終日となった。




 いつも通りの流れで終える朝の時間。
 機動力と力技で道中省略を繰り返し、あっという間に今回最後のボスとなった。

「カマキリ…鎌持ちの虫で最後だよ。機動力もだけど、攻撃範囲が広いから気を付けて。」
『はい。』

 【インクリース・オール】【バリア・フィジカル】
【エンチャント・ファイア】
【エンチャント・ファイア】

 今回は防御魔法まで使い、準備をする。

【ファイア・ストライク】

 火蓋を切ったのは今回も遥香の魔法。
 鎌で防がれてしまい、あまりダメージは無いようだ。

【ファイア・ストライク】

 もう一発背後から胴体に魔法が叩き込まれる。防御動作の間に回り込んだユキだ。
 気が付くと、カトリーナがオレたちの前でしゃがんでいる。カマキリの羽が落ちた。

口から嫌な音を立て、ぐるんと大きく一回転する。
 動作の意味がわからなかったが、ユキが弾き飛ばされていた。

「見えてた?」
「のようです。厄介な。」
「お父さん、ちょっと我慢してね。」
「我慢だけなら得意だ。」

 目を瞑り、歯を食い縛り、グッと体に力を入れた。
 それでも、固定してる部分で体が引きちぎられるかと思うような衝撃。それが二度。

「後はお願い。」
「承りました。」

  カトリーナが返事をすると何かが落ちる音がした。

「終わったよ。」
「…そうか。」
「いやぁ、えらい目に遭いやした…」
「怪我は?」
「無いですぜ。軽いのが幸いして、葉っぱの中に飛ばされやしたから。」

 念のためか、魔法で回復と浄化を行う。

「旦那は?」
「体がバラバラになるかと思った…」

 二度の衝撃で体がどうにかなりそうな気がしている。

「えぇ…そんなに…?」

 オレにヒールを掛け終えると、カトリーナさんも素材を回収し終えて戻ってきた。

「体が耐えられてないのが、見てて怖くて怖くて…」
シュウお姉ちゃんに背負ってもらった方が良かったかもね…」
「そうかもしれませんね…」

 体の痛みは消えたが妙な精神的なダメージは消えない。

「じゃあ、中継点から戻ろうか。」

 こうしてオレたちの最初のイグドラシル攻略は無事に終わった。

 57だったレベルは78と戦闘回数の割に大きく上がっている。
 他の三人も遥香が上がらずに91、カトリーナは73、ユキは58という感じだ。
 大した事ない相手のように思えるが、二人とも装備と魔法のおかげと何度も口にしていた。
 素材を含め、なかなかの収穫を得て、イグドラシルから堂々の途中帰還となる。

 
 意気揚々と帰宅するが誰も出てこず、居間に入ってカトリーナさんが短い悲鳴を上げた。
 食器は洗わずに出しっぱなし、洗濯物も干したのを取り込んだままだった。
 そんな悲惨な居間のソファーにはアクアが昼寝をしている。
 嫌な予感がしたのか、キッチンへ向かい、秒で戻って来た。
 何が起きるか分かってしまった遥香とユキがスッと耳を塞ぐ。オレは右耳だけ向けて塞ぐ。

「アクアー!!!」

 一家の皆が初めて聞く、カトリーナの雷のような怒号が屋敷の中に響き渡ったのだった。




 めちゃくちゃ怒られたのはココア、ノラ、柊、ジュリアもだった。アクア、ノラはべそをかき、ココア、柊、ジュリアはしょんぼりしていた。
 調合作業中だったのか、アリスとバニラは落として壊した器具を買いに行った。
 梓はこの事態から逃れる為に、装備の回収をしている。

「て、手が回らなかったんです!許して下さい!」

 泣きながら許しを請うアクア。

「働いていたならその言い訳も受け入れました。だけど、昼寝をしていたのは誰ですか。キッチンの汚れ物は何回分ですか!?」
「そりゃあ、怒るよね…」

 キッチンの辺りで怒りが爆裂気味のカトリーナ。ここは息を殺してジッとしておこう…
 梓が無言で肩を叩き、訓練場へと誘導してくれた。

「シュウちゃんとジュリアは絶望的に家事が出来なくて触らないでって言われちゃったからね…
 ノラもキッチンで大騒ぎしたと思ったらいなくなってて、手伝おうかって言ったけど、私たちにはやらせられないって一人で頑張ってたんだよ…
 ココアは部屋と外の掃除で手一杯だったし…」
「キッチンだけでも片付いてればね…」
「だよねー…アドバイスと後始末くらいは、と思ったけどもう混乱の極みだったから…」

 遥香が外した装備を台に置いていく。服も着替え始め…

「ハルちゃん、おとーちゃんいるよ!?」
「あっ!」

 オレは慌てて目を閉じる。

「見てないからどうぞ。」
「じゃあ、着替えちゃおう。」
「…度胸あるねぇ。背だけじゃなく、胸も大きくなってきたね。まだ調整は不要そうだけど。」
「そう?あまり実感ないけど。」
「まだそうかもね。ハルちゃんも成長期かー」
「お母さんみたいになれるかな?」
「食生活一つで変わったって言ってたよね。タイミングも良かったんだろうけど、やっぱり体は遺伝の要素があるから…」
「ママ、大きかったよ…?」
「…ほほう。それでは下着も考えないとなりませんな?」
「アリスさん着けてる?作れるかな。」
「えっ。そうなの?私、作ってもらったからてっきり…」
「気のせいかな?肩露出してること多いし…」
「それであのポーズはけしからんですな。少し聞こう。」
「帰ってきたみたい。」
「どぉれ。おとーちゃんは待っててね。あ、目は開いて良いよ。」
「おう。」

 複雑な気持ちで娘たちの話を聞いていた。
 …成長するのは悪い話じゃないからな。
 深い、深いタメ息を吐き、一人残って訓練場から枝葉に覆われた空を見上げるしかなかった。




「どうしてこんなことに…」

 訓練場にやって来て、向かいに座って顔を赤くしながらしょんぼりするアリス。よくわからないが気の毒に…

「メイド達は?」

 話を逸らしてやる為に、さっきまで話題の中心だった連中を尋ねる。

「大掃除。キッチンが思った以上に悲惨でね…
 どうもノラが原因らしいんだけど、料理は私とバニラでやれば良かったわね…」
「ココアは?」
「バニラもスキルに依るところが大きいらしくて、作るのはまだ思うようにならないって言ってたわ。まあ、下ごしらえや簡単な物とかは問題ないみたいだけど。」
「そうか。」
「…少し逞しくなったように見えるわね?」
「実感が全くないがレベルは30くらい上がってる。」
「少しどころじゃなかったわ…常識が壊れそうで怖い…」

 頭を抱えるアリス。赤かった顔も元に戻っている。

「カンスト…カウントストップだっけ?それが何処なのか、それが気になるわね。」
「バニラは知らないのか?」
「99だろう、と言ってたわ。ただ、その通りとは限らないから。」
「なるほどな…」

 事情が違い過ぎて、そこに辿り着かないと分からないという事か。

「最初の君は一人でどうやったのかしらね。オリハルコンの入手経路もよく分からないし。」
「そうだな。」

 返事をすると腕組みをしたままタメ息を吐くアリス。
 どうやら、良い返事ではなかったようだ。

「…ダメね。やっぱり君の顔を見てると期待しちゃう。答えを持ってそうな気になっちゃうのよ。良くないって分かってるはいるけど…」
「…すまん。」
「ごめんね。謝るのは私の」

 手を握るとそこで言葉が止まる。向かい合っている今だからできた。

「…そんなのズルいわよ。」
「オレだってその気持ちは分かる。答えが欲しいのは同じなんだから。」
「そうよね。きっと答えが欲しいのはみんな一緒。でも、冒険ってこういうもののはずよね。答えを探すのが冒険のはずだもの。」
「そうだな。」
「少しだけ抱き付かせて…?」
「お手柔らかに頼むよ。」
「…大丈夫。私はそんなに力ないから。」

 体を密着するように抱き着いてくる。
 頭は横に胸の上辺りに押し付け、特徴のある角がなかなか危うい位置に来るが、鋭く尖ってはいない。手入れをしたような痕跡があった。

「私、二番目でも良いから…その気があるならいつでも受け入れるから…」
「…もっと自分を」
「一生分の成果を与えてくれたんだもの。これでも安いくらい。」

 引き離そうとするが離れる様子がない。

「もう強がるの疲れたよ…私、大した事ないのバレちゃったし…それなのに虚勢は張り続けられないよ…」
「一家を回してるの、お前とカトリーナじゃないか…」
「説得力がない…考えに考えて導きだした提案をしてるけど、いつも不安だよ…」

 涙声になり、鼻を啜る音もする。

「ユキにもレベル越されちゃって、もうサブリーダーも名乗る自信ないよぉ…うぅ…ぁぅ…」

 ついに泣き出し、見ていたのかカトリーナが慌てた様子でやって来た。
 ただならぬ様子に、オレの部屋へ誘導するよう促される。

「向こうへ行こう。みんなが見ている。」
「ごめん…ごめんね…」

 オレよりずっと背の低い、泣いているアリスから逆に支えて貰っている状態だが、なんとか歩いて椅子がないのでベッドに座った。

「アリス…」

 カトリーナとオレでアリスを挟むように座り、気遣うように声を掛けるが、触れるべきかどうか、その手は宙をさまよう。

「こんなの良くない…一番情けないのは分かってる…けど、私はヒガンが好き…無しじゃもう歩けないよ…」

 何も言えなかった。何か言えばカトリーナを裏切ってしまう。なし崩し的にもっと多くを認めてしまう。
 そんな気がしていた。
 だが、アリスを見棄てる事も出来ない…
 ただ、頭を撫でるのが精一杯だった。

「アリスなら良いと私は思っていますよ。」

 思いがけない発言に、オレもアリスも驚いてその穏やかな笑みを浮かべた顔を見る。

「旦那様が冒険者として、一番信頼をされているのは間違いなくアリスですので。」
「そうだな。今、パーティーを任せられるのはアリスだけだ。」

 離したくない。放すわけにはいかない。
 その気持ちから、思わず右腕でアリスの体を抱き寄せる。

「フィオナもハルカもいる…私にはもう…」
「ちゃんと一家全体を見てるのはアリスだけだ。フィオナは攻略班だけ、遥香は敵と自分を中心にしか見えていないそうだからな。
 二人とも、まだまだ未熟だよ。」
「一家を見ているのはカトリーナも一緒よ…」

 ようやくカトリーナがアリスの背に触れた。

「私は家の中での事だけ。外の事までは考えられませんから。それが出来ているのはアリスだけです。
 …残念ながら、私はメイドですので。」

 苦笑いをしながら言うカトリーナ。

「それに、何かの場で横に立つのが私では、旦那様が侮られてしまいます。
 アリスがいるなら、その心配もなくなります。」

 アリスはスカートを握り締め、再び声を出して泣き出す。

「ズルい…ズルいわよ…みんなズルい…
 やくたたずって…きりすててくれた…ほうが…どれだけ…らくか…」

 下を向いているせいで、涙以外にもぼろぼろ流れるとても情けない姿。とても他に見せられる姿ではない。

「アリスが必要だ。オレにも一家にも。
 アリスと話している時間は楽しいし、色々なことが見えてくる。ちゃんとみんなを見ていて、ちゃんと考えてくれている事は分かっている…」

 左手で顔を、顔を…こちらに向けさせる事が出来ない…
 ただ顔を撫でるだけのようになってしまう…

「あぁ…ごめん…ごめんね…」

 とても辛いものを見るように、オレの方を向く。

「はは…オレもダメだな。大事な人の顔を向かせる事もできないよ。」

 我ながら情けなくなってくる。何がレベルだ。
 こんな簡単な事もできない数字になんの意味がある。

「これでレベル78なんて笑えるよな…」

 二人とも笑ってくれない。
 カトリーナも辛そうな顔になり、アリスは再び悲しみで泣き始める。

「一番ズルいのはオレだよ。一人で立つのも歩くのも辛いのにレベルばかり高い。
 アリスみたいに優秀な人間を縛り付けておくのが、苦しい…」

 右腕を離す。
 もう触れている資格がない。そんな気がしていた。
 もう顔も見ていられない…あまりにも自分が情けなかった。

「君が…あなたが一番ズルい!」

 そう言って、アリスはオレに抱きつき、支えられないオレは倒れるしかなかった。

「どうしてこんなに弱いの…なのにどうして…こんなに自分の事を後回しにしちゃうの!」

 オレの体の事などお構い無し、と言わんばかりに抱き締め、体を押し付ける。
 体が軋み、上手く息が出来ない…

「あ、アリス!旦那様が…」
「…ごめん。」

 カトリーナに言われ、スッと力を抜く。

「あなたが一番凄いのも、一番お人好しなのも…一番弱いのも知ってる。今のあなたの優しさは弱点だよ…」

 オレの服が涙で濡れているのを感じる。
 自由になってる左腕でなんとかアリスの背に触れる。

「ごめんねカトリーナ。やっぱり私…」

 アリスの唇がオレの唇を塞ぐ。
 カトリーナとは全く違う感じに戸惑うが、すぐにこれがアリスなのだなと理解する…
 だが、カトリーナとは違うところは他にもあった。
 カトリーナに比べ、積極的な口付けに加え、小さな体で力強くオレを抱き締める。

「大好きだよ…ヒガン。」
「アリス。オレもだ。でも…」

 それで今は満足したのか、アリスはオレから離れる。

「うん。今はこれで満足。」

 まだ涙を流しながら笑顔で言う。
 アリスの背に腕を回し、力を込める。
 微動だにしないアリスだが、意図を察したのかオレに覆い被さるような形になった。
 左手でなんとか髪を払いのけ、溢れ出る涙を拭う。

「オレには勿体ないよ。」
「そんなこと言わないで。あなたはこんなものじゃない。だから…」

 両手でオレの顔を抑え、震えた声で

「一生あなたの側に居る。元に戻ったら続きをしようね。」

 少女のような笑顔でそう言った後、目を閉じて短いキスをした。

「アリス、やりすぎです。」

 カトリーナは真っ赤な顔でもじもじしながら不満を口にした。

「か、カトリーナ…」
「良いのです。私はもう旦那様だけと決めておりますから。」

 アリスと入れ替わるようにカトリーナが覆い被さり、口付けをしてくる。
 やはりアリスとは違う躊躇いがちなそんな口付け。

「カトリーナ…アクアたちは良いのか?」

 身体をしっかりオレに密着させ、アリスのように力強く、それでいて明らかに手加減をしている様子。部屋の外を気にするオレの言葉に、困惑の表情を浮かべる。

「旦那様は意地悪ですね…少し、少しだけ三人で居させてください…」
「私も三人で居たい…」

 二人は倒れたままのオレの肩の辺りに頭を乗せ、向かい合いながらオレの腹の上に手を絡め合うように乗せていた。
 二人の角に順番に右手で触れ、撫でる。感覚があるのか二人ともくすぐったそうに笑う。
 その様子がとても子供っぽく、愛しい。

「…この瞬間がずっと続けば良いのに。」
「…そうですね。」

 しばらくし、オレの体を確かめるのに満足した様子の二人は同時に起き上がる。

「毎晩こうやって寝る?」
「私は構いませんが…」
「好きにしてくれ。どうせベッドが広すぎて参ってたんだ。それに…」

 手を伸ばすと二人が掴み、起こしてくれる。

「二人もそばに居るなら、嫌な夢はもう見ないかも知れない。」
「旦那様…」
「あなたって人は…」

 二人揃って悲しそうな顔になる。

「お願いだから辛いことは話して。
 あなたはだいたいの事が顔にすぐ出る人だけど、辛いことだけは笑顔で誤魔化して隠れちゃってる。」
「だからちゃんと話してください。旦那様の笑みを疑わせないで下さい。」

 二人が懇願するように言う。

「そうか…これからはちゃんと話すよ。
 二人が側に居てくれるなら、辛いことは多くない。」

 照れた様子で二人がオレの頬にキスをした。
 大丈夫。アリスもカトリーナも大丈夫だ。
 辛いことはまだある。でも、二人が一緒に歩いてくれるなら大丈夫。
 確信めいたものがオレの心に湧いていた。
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