召喚者は一家を支える。

RayRim

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第1部

番外編 チビッコ達は街を駆け抜ける1

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〈中等学生リンゴ〉

 とにかく体を動かしたい。
 その欲求を満たす為、私はユキちゃんに誘われて、ソニアちゃんと一緒に伯爵主導の大捕物に加わった。
 伯爵も闘技大会という大事な行事に水を差された事に憤慨し、前代未聞の事態を捨て置けないと怒っている。

「お嬢様方、相手は召喚者でチャーム系の能力を持っているようです。お気をつけて。」
「大丈夫。多分、レジストできる。何か触媒がないと効果が続かないみたいだったし。」
「ありゃ。そうでしたか。まあ、どちらかが掛かったらアンティマジックで対処しやしょう。」
「向こうも使ってくるから気を付けてね。」
「えぇ…あたしより把握してるじゃねぇですか…」

 しょんぼりするユキちゃん。控え室にいたのでは仕方ない。

「伯爵様、あたしはこちらのお二人と捕縛に当たりやす。」

 打ち合わせしてることなんて気にせず、伯爵様に話し掛けるユキちゃん。
 お父さんの事があると言っても、流石にどうだろう?不敬ではないのかな?

「そうか、頼む。何か必要なら持っていくと良い。」

 話が早い。そして、伯爵も当然のように対応し、全く表情を変えない。
 ユキちゃん、裏で伯爵の所で闇メイドとかしてないよね…?
 横でソニアちゃんもその光景に、他の人と比べて小さな角を揺らしながらそわそわしている。同じ貴族だけど、家の格は天と地くらい違うみたいだからね…

「ありがとうございやす。お二人とも、刃物は無しですぜ。相手が死んじまうんで。」
「叩いて大丈夫?」
「腕や尻なら割れるまで叩いても構いやせんよ。」
「わかった。」

 私とユキちゃんはショートソードサイズの棒を、ソニアちゃんは先が二つに別れた長い棒にした。

「どう使うのそれ?」
「引っかけたり、押さえ込んだりしますわ。」
「なるほど。」

 一振り、二振りして感触を確かめ、準備完了。

「では、猟犬隊の出動ですぜ!」
『おー!』

 私たちは手を繋ぎ、再び影に落ちた。
 その瞬間の伯爵様たちの驚いた顔は、しばらく忘れられそうにない。



 この犯人、なかなか厄介だった。
 協力者を大量に用意し、警備兵を無力化していた。おかしな市民の対処に労力を奪われ、捜索が進んでいないようだ。
 しかし、私たちには魔力による繋がりと流れが見えており、その大元を辿っている。
 闘技場の外、商業区、行政区と痕跡は続く。
 素早く、音を立てずに屋根から屋根へと跳び移り、痕跡を追う。
 ここまで距離はそれなりにあり、私たちのような手段を取らず、闘技場から移動してきたにしては早すぎる気がする。

「相手の移動早すぎない?」
「かもしれやせんね。取っ捕まえて、箱を開けて見ればよろしいかと。」
「確かに。」

 痕跡を更に辿って行くと、行政区内では小さい建物に到着する。厳重な警備となっており、正面から堂々とは入りにくい。

「どうしますか?」
「正面から行きやしょう。ソニア様、伯爵様の名を出しやしょう。一応、印も預かっておりやす。」

 外套の内ポケットから勲章のような物を出し、ソニアの胸に着けた。
 よそ行きの派手な服装、しかもメイド付きという事なら子供の遊びに思われないかもしれない。

「リンゴ様は花火を上げて、様子を見ててくだせい。出来やすよね?」
「うん。任せて。」
「名目は如何しましょう。」
「馬鹿正直でも構いやせんぜ。どうせロクでもない連中ですから。」
「では、アンティマジックをぶちかましてくだせい。」

【アンティマジック】

「〈魔国伯爵〉ハインツ・バッヘムの監査である!門を開けよ!」

 ソニアちゃんとユキの大芝居が始まるのを見届けて、私は速やかに隣の建物の影に身を潜めた。



 小さな二人は当然のように小馬鹿にされ、野良犬を追い払うかのように立ち去るよう促されていたが、途中で番兵の様子が豹変、顔を真っ赤にして持っていた槍を振り回し始めた。
 魔力だけど、どうやら魔法ではないらしい。アンティマジックの影響下にあるせいか、魔力は不安定になっているがしっかり何処かと繋がっている。
 正当防衛と言わんばかりに、借りてきた得物で番兵を叩きのめすと二人は速やかに建物へと正面から入っていく。ドアを蹴り壊して。

 さて、私も仕事をしよう。
 お姉ちゃん製30連発スターマインを打ち上げ、影を通って隠れていた建物の隣の建物へと移る。
 わりと大騒ぎになり、離れた所に人々が集まってきた。
 少しすると、魔力の流れに変化が起きる。
 闘技場の方に向かっていた魔力が、集まってきた人々へと向かい始めた。騒ぎに紛れて逃げるのかな?
 感知を使い、建物の様子を伺う。他と比べて練り上げられた綺麗な魔力はソニアちゃん。横の異常に反応が弱いのはユキちゃんだろう。特徴的な二人が一緒だと分かりやすい。
 集まってきた人たちに変化が現れる。突如、一斉に走り出し、二人が突入した建物に殺到する。
 これはまずい。
 子供を蹴散らし、お年寄りを薙ぎ倒し、妊婦を突き飛ばしている。見逃すわけにはいかない。

【スリープクラウド】

 アンティマジックを解除し、周囲に眠りの雲を撒いて暴走住民を鎮圧。すぐ怪我人の手当てに向かう。
 数が多いので、応急処置しか出来ないが仕方ない。一人一人の怪我を直し、おかしくなっていない近くの大人に後を任せていく。
 妊婦さんはどうしたら良いか分からず、とりあえずヒールを掛けておき、近くの大人に万が一の為のポーションを渡しておいた。

 応急手当が済み、隠れていた場所に戻ると、二人の反応がなくなっている。いや、離れていた。
 犯人は私のスリープクラウドを突破したのかな?と思ったが、どうやら上の階から逃げ出したらしく、窓が割られているのが見えた。
 見失い様の無い二人だけど、万が一がある。私も急いで後を追う。
 三つ、四つ建物を越えた所で花火が上がる。
 また、人が集まり出したところで魔力の流れが変わり、不意に周囲へ広がる魔力が消えた。どういう事だろうか?

 距離を詰めすぎない程度に屋根伝いに移動し、様子を見る。
 人通りの無い路地裏。二人の前で男が四つん這いになって嘔吐しており、感知の反応から魔力が枯渇してしまっているようだ。吐いているのは殴られたからかな?
 容赦なく、ユキの追撃が側頭部に入り、男はげろげろの上に倒れてしまった。反応はあるので生きてはいる。

「お疲れ様。」
「お嬢様、良い判断でしたぜ。」
「ちょっと妊婦さんには悪いことしちゃったけど。」
「しかたありやせんよ。こいつが足掻くのが悪いんですから。」

 棒で頭をつつきながら言う。
 これで終わりか、魔力の反応を集中して探るが…

「二人とも、おかしいよ。反応が消えてない。」

 私の話を聞き、ユキちゃんが慌てて男の服を漁る。

「やられた…こいつ、囮ですぜ!」

 ネックレスを千切り取り、刃を突き立てた。

「どうやら中継点にされていただけのようですね。大元は…」

 私とソニアちゃんはすぐに魔力の痕跡を追う。
 強くはなく、この町ではすぐ紛れてしまうような弱い魔力。それをどれだけ伸ばせるのか疑問だが、どんな強い魔力でも無限の距離を飛ばせるということは無い。
 雑な指示を出すにしても、遠くなれば時間差が発生してしまうはずだ。

「うーん…反応が弱い…」
「けっこうな人数を動かしていましたのに、魔力が弱すぎるなんて…」
「…なんとなくタネが分かってきやしたね。」

 男の持ち物を漁るユキちゃん。
 いくつか取り出し、地面に広げた。
 革製品のしっかりした財布を持っている。こちらではあまり見掛けないものだ。

「革の財布…この独特の造りは伯爵様に潰された男爵領のヤツですぜ。後は…」

 私たちは続けて魔力の痕跡を探る。再び、こちらに向けられた弱い魔力を感知した。
 元は何処?弱い。弱すぎて…

「っ!」
【シールドスフィア】

 ソニアちゃんが慌てて男を棒に引っ掛け、防御魔法を展開しながら上へ投げ飛ばす。すると、男の体が爆発し、肉片が四方に散らばった。
 結界を展開したお陰で私たちは無事に済む。

「ああ…全部繋がっちまった…繋がっちまいやしたね…」

 ユキちゃんが頭を押さえ、二度三度横に振る。どういう事だろうか?

「黒幕がいるならぶちのめして、ぶちのめして、ぶちのめしてやらなきゃいけやせん。旦那のパーティーメンバーとして。」

 震える声で、口元だけ笑みを浮かべるユキちゃん。色々な表情を見せてくれたけど、こんな顔をするのは初めて見た。

「場所はなんとなく分かったよ。」
「行きやしょう。ソニア様は離れてついて来てくだせい。場所が分かったら伯爵様に。」
「分かりましたわ。」

 ふう、と一息吐くユキちゃん。
 気持ちが昂り過ぎていたのを自覚したのだろうか。

「アリスの妹に花を持たせてやりたかったのですが、そうもいかなくなりやした。許してくだせい。」
「…構いませんわ。」

 刃物をしまい、再び棒を持つユキちゃん。私も棒の感触を再び確かめる。

「お嬢様、案内お願いしやす。」
「分かった。ついて来て!」

 荷箱、窓枠、屋根と足場として使える物は全て使い、私たちは再び王都の屋根へと躍り出た。
 犯人の魔力は完全に捉えている。決着はもう少しだ。
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