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第1部
38話
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一回戦が終わると、二回戦はすぐだ。
これに勝つと準々決勝なので三十分の休憩である。
休憩は決勝の前にも入り、その間に客席もいっぱいになるそうだ。身内にとって、年の瀬の大イベントなのかもしれない。
気になるチームはいくつかあるが、やはりストレイドたち以上はいない。次からはシード扱いの常連組が出てくるはずなのだが…バニラとストレイドを襲撃して返り討ちにされたのだろう。軒並み出場取り消ししている。
そういえば、サラも出ていたな。順当に勝ち上がっていて、準決勝で当たりそうだ。
「うちに来る子たちは全員残ってますね。ただ、何組かぶつかるのでここでいなくなる子たちもいますが…」
「勝負事だからな。しかたない。」
みんな仲良く一番とはいかない。そんなのは出てる連中が認めたくないだろう。
「気になるのは中等部で勝ち上がった子たちでしょうか。男子1、女子2の所ですね。」
「……?」
思い出せないな?
「あとで言いますので…」
「それは私にもわかった!」
そんなこんなで色々と話をしている間にストレイドたちの番になった。
相手はさっきと打って変わって重装備。
フルプレート装備なんて初めて見たな。
「装備を変えてきましたね。素手と長剣はこれで封じられると思ったのでしょう。」
「エンチャント容量も多いんだよなぁ…」
基本的に装備サイズと容量はイコールだ。軽装はそれだけハンデを得るが、動きやすさというアドバンテージは大きい。最終的には重装に寄るが、育成段階では軽装の方が融通が利いて良い。
「バニラ様のレベルだと脅威ですが、そんな事はないでしょう。」
「それもそうか。」
どういうエンチャントなのか気になるが、重装備という選択は良くない。めちゃくちゃ良いエンチャントならその限りではないが、それはないだろう。
さて、一番手だが…
「ストレイド様ですね。」
「待ってたぞー!」
エディさんが歓声を上げる。
ブーイングも聞こえてくるが、エルフたちからはそれを圧倒する歓声が上がる。心強い味方だ。
「さあ、どう打ち崩す?」
試合開始の合図と共に、動いたのは相手。
【エンチャント・ウィンド】
風を得物の長剣に付与し、遠距離攻撃しながらがっちり守る構え。
「判定勝ちを狙うようですね。でも、」
「うちの娘はそんな甘くないよなぁ。」
長剣を一振りし風の刃が飛ぶ。だが、それを悠長に受ける甘さはない。
読んでいたストレイドは盾の方に回り込み、攻撃の死角になる。
視界から完全に消えていたのだろう。盾を下げ、体をそちらに向ける。
【フォースインパクト】
ストレイドは正拳突きを相手の溝尾に叩き込む。
強烈な魔力の衝撃が鎧を凹まし、身体を打ち貫く。相手はそのまま仰向けに倒れ、動かなくなってしまった。
様子がわからないが、異常事態と察した救護班が駆け付け、兜を外すと泡を吹いて倒れている。
「お粗末です。重装備ならダメージは通らないと思ったようですね。」
【フォースインパクト】はハードインパクトの魔法ダメージ版。
単純に衝撃を魔力による波動に変えるだけなので、生き物に対してはハードインパクトほどのダメージはない。だが、魔法ダメージ対策をしていなければ、その一撃は強烈だ。
ストレイドの一撃が鎧をスクラップにしている事から、尋常じゃない一撃を喰らってしまったと思われる。
それを見た相手は、素直に棄権を宣言した。
礼をして試合を終えると、三人とも微妙な顔でこちらに向かって手を振って来る。
うん、気持ちはわかるぞ…
「完全に物理防御しか想定してなかったのでしょう。フィオナ戦を落としても、他二人に勝てば良いですからね。誤った事前対策が、完全に裏目に出てしまった戦いとなりました。」
「あれは痛そうだ…」
「二戦目もやっていれば、拾う神もあったのでしょうが…」
まあ、あの様じゃ来年まで評価は上がりそうにないだろう…
「ちなみに相手は気になった中等部のチームでした…」
「良い経験にしてもらおうな…」
若者よ、頑張るんだぞ…
休憩時間より先にエディさん、カトリーナさんはトイレへ向かう。オレはそのまま残って場所取りである。スパイシーパンの耳美味しい。
再び演武が始まり、休憩の合間を埋める。
さっきは男子だったが、今回は女子である。
なかなかきれいな魔法を撃ったり、力強さと速さを兼ね備えた動きに見所はある。人が多くなってきた影響もあるが、拍手も先程より大きくなっていた。
演武が終わるタイミングで二人も戻って来る。
「おかえり。」
「演武が終わってしまったか。」
がっかりした様子でエディさんが言う。
どうやら要人に捕まってたらしく、なかなか離して貰えなかったようだ。
「見事なもんでした。魔法もきれいで見所があった。」
「お前がそう言うなら素晴らしい演武だったのだろう。余計に残念だ。」
むくれ気味に買ってきた飲み物を飲む。
「武に関しては過大評価ですよ。」
照れ隠しにパンの耳を齧った。
いよいよ準々決勝の始まりである。
ここまで来ると、未熟でもまぐれ勝ちとは言えないだろう。見応えにも期待できるはずだ。
ストレイドの前に一試合、サラが出る試合に注目する。他の観客からも期待が高いようで、歓声が上がった。
内容はやはり一方的と言って良いだろう。
サラ以外のメンバーも能力が高く、これならストレイドたちともまともに戦えるだろう。次が楽しみだ。
サラたちが終わると、続いてストレイドたちだ。
案の定、ブーイングが起きるが、それを打ち消すくらいの歓声が上がる。圧倒的な強さで勝ち上がっているのだ。これで沸かなければ節穴だらけだろう。
それに、ブーイング程度でどうこうなる三人でもない。
今回の相手の装備はまともだ。いや、一回戦もまともだったな。さっきのが印象に残ってしまっている…
長剣に盾だが軽装の剣士、槍使い、格闘家と鏡写しのような構成だ。
「相手は同じ学年か。どこまで食い下がれる?」
「最初はフィオナですね。今回はどう対処し合うかみせてもらいましょう。」
一試合目はフィオナと剣士のトカゲ系ビースト。
さて、魔法の差をどう埋めるか。
試合開始の合図が鳴る。
【アイスストライク】
【ファイアバースト】
フィオナのばら撒きアイスストライクに対し、強力な炎を纏うファイアバーストで対抗する。範囲も広めで、アイスストライクは妨害として成立しない。水蒸気で視認性が落ちるが、互いに折り込み済みだろう。
トカゲビーストは更に畳み掛ける。
【ファイアストライク】
ファイアバーストを維持したまま、逆に火球を二個、三個と叩き付ける。
ファイアバーストの方は、雑に魔力を流し続けるだけで良い魔法のようで、1回戦にフィオナがやった同時発動に比べると難度は格段に落ちるようだ。
【シールドウォール】
盾を中心に展開した大きな魔力の防壁でそれを凌ぐ。ここに来て本人の魔法ではない、初めてのエンチャント効果だ。恐らく、バニラのエンチャントだろう。展開される魔法の緻密さが他とは段違いだ。
バフを積みまくるオレの物とは違い、盾に防御用の魔法を仕込むという構成にしてあるようである。
【ファイアストライク】
相手は魔力の流れが読めておらず、緻密で強固な防壁から防御で手一杯と見たようで、更に追撃のファイアストライク。ファイアバーストを解除して、更に数を叩き込んだ。
だが、多くの者にとって想定外の事態が起きる。
トカゲ獣人に氷の矢が突き刺さった。
二本、三本と数を増やし、首辺りが凍結したところで試合終了の合図が鳴る。
フィオナが変形式の小型魔導弓で相手を狙っていた。
水蒸気が晴れ、姿が舞台上が完全に見えると、大きな歓声が上がった。
煙の中から、魔石から魔力が供給され続ける氷で固定された盾が現れる。派手なエンチャントのエフェクトを囮に、自分は煙に紛れ、離れて弓矢で攻撃という理想的な展開に感心する。無傷ではないようだが、かすり傷だろう。
勝ちの為ならその程度は安い、という思い切りの良さも素晴らしい。
「言うことはありません。あの判断はなかなか出来ない事です。いくつか氷の柱を作って反応も見ていたようですね。」
「なるほど。見え方を確認していたか。」
「相手が感知を駆使していたら、気持ちが逸らなければ違う展開になっていたでしょう。」
「なるほど。なるほど。」
わかっているのかわからないが、エディさんが頷く。戦闘はポンコツっぽいので真に受けてはいけない。
「ところで、旦那様。相手はどういうビーストかわかりますか?」
「トカゲ?」
「非常に希少ですがドラゴンです。角があります。国際問題になりかねないので気を付けてください。」
「はい…」
あまり人の事は言えないな、と思いながらハイタッチする三人を眺めていた。
二人目はストレイドがすぐに出てきた。
相手も合わせるように格闘装備の柴犬ビーストが出てくる。
二言ほど言葉を交わしてから互いに構えた。
開始の合図と共に互いに距離を詰める。
【アクセラレーション】
スピード強化バフの魔法を柴犬ビーストが使い、ストレイドに拳を放つ。
ストレイドは立ち止まり、相手をその勢いを利用して一本背負いを叩き込んだ。相手の下半身が綺麗に宙で弧を描き、情け容赦ない一本背負いで背中が地面に叩き付けられる。そのまま上体…首を押さえ込む。
ビーストは息が詰まったのか、ピクリとも動かなくなってしまった。
医療班がやってきて、処置を施し始めた所でストレイドの勝利が告げられる。
格闘相手はこれがあるから怖い…
「あれ、私も一度やられました。」
「殴り合いかと思って突っ込むとやられる。知らないと本当に初見殺しだよ。」
「気が付いたら狐が叩き付けられていた…」
狐だった。ありがとうエディさん。
狐はそのまま医務室送りとなったようだ。
ストレイドは一礼し、戻って二人とハイタッチを交わす。
チームの勝利が告げられ、場内が沸き上がった。
恐らく、見たことのない光景だっただろう。見たことないは、やはり大きな熱狂を生み出してくれるな。
こちらを向いて手を振る三人。少し納得いかない様子のストレイドだが、オレたちは立って拍手を送った。
これ以上の盛り上がりは無いまま準決勝を迎え、いよいよサラのチームと当たる。
「学園二強のチーム、これからを引っ張っていく者同士の戦いですね。」
「今回、一番の見所か。」
実質の決勝と言っても良いだろう。
どっちが勝っても、決勝は消化試合間違いない。
ここからはサポートメンバーも表に出てくる。
バンブー、バニラのお披露目だ。
やはりブーイングも起きているが、もう歓声にかき消されている。
フィオナの戦い方が、エンチャントの質と装備の状態の好さを知らしめたからな。見る目の肥えた観客は騙せない。
相手はサポートを中等部で揃えており、よく見る顔が装備の担当をしているようだ。
全員並んで少し会話を交わす。サラの側が全員深々と礼をして、ストレイド達はそれを受ける側という構図。今日までの付き合いで力量の差は分かっているという事なのだろう。
一試合目のパウラとサラのみが舞台に残った。
パウラは棒を持ち、サラは格闘。リーチの差は厳しいが、さて?
試合開始の合図が鳴る。
【フォースストライク】
魔法を使ったのはサラの方。自在性の高い魔法でリーチを埋めるようだ。
両手に纏った魔力を自分の動きに合わせて動かす事から、ゲームでは気功型なんて言われてたな。
パウラは強化を使わずに受けるようだ。
素直な二人の対決。これは面白い試合になるに違いない。
逆にリーチで不利になったパウラが距離を詰めに行く。だが、サラは寄せ付けまいとフォースストライクを巧みに扱う。
魔力だけは付与してある棒で魔力の球を弾き、止まらない。
だが、二つ目が足元を狙い、走りを蛇行させる。それでも距離は十分。跳躍し、棒を叩き付ける。
サラは歯を食い縛り、腕を交差させて強烈な一撃を受け止める。咆哮し、パウラを吹っ飛ばす。この咆哮は吹っ飛ばしスキルの【咆哮】だ。衝撃をもろに受け、軽い目眩を覚えているだろう。
その隙を狙ってサラが踏み込み、弾き飛ばされるが踏み止まった。
【闘気】
パウラがオーラを纏う。切り札と言って良いスキルをここで出す。虎の尾を踏んだと言っても良いだろう。
だが、サラも引かない。
【フィジカルブースト】
【闘気】のような強スキルに対抗できる短時間身体強化魔法で対抗する。
フォースストライクと噛み合わないが、身体能力で大きく劣る方が不味いと踏んだのだろう。
魔法が発動するより若干早く、パウラが踏み込む。凄まじい勢いで棒が振り下ろされるが、紙一重でかわした。いや、腕にかすったか?
回避から繋げた蹴りがパウラに当たるが、気にせずに棒を振るう。サラは避けきれず、受け止めてから力一杯引き寄せ、頭突きをぶちかます。
棒は手離し、拳も顔面にお見舞いする。頭突きにパンチと頭に2発ももらい、パウラはたたらを踏む。
そこからはもう優美さなど欠片もない泥仕合。
殴り、蹴り、投げ、殴り、殴り、そして、互いの体に拳が同時に当たり、縺れ合うように場外へ落ちた。
同時場外という事で、引き分け。
場外でなければ、起き上がれたサラの勝ちだっただろうか。パウラは【闘気】の反動で起き上がれない様子。
リーチ、スキルの差を魔法で埋め切ったのは個人的に高く評価したい。
「ビーストらしい胸の熱くなる戦いでした。互いに引くこと無く闘う姿は、ビーストの誇りを体現したと言っても過言ではありませんね。」
「すごい殴り合いだった…一撃一撃、叩き込む方も受ける方も恐ろしい程の気迫を見せていた…」
終盤はお互いにボロボロだったのでエディさんにも分かったようである。
互いの三番手と思われる選手と、医療班が駆け寄り、応急手当を施して待機場所へと運ばれた。
二人に対し、場内は拍手で称えていた。
賛否は分かれるだろうが、これが今大会屈指の一戦になったのは間違いない。
これに勝つと準々決勝なので三十分の休憩である。
休憩は決勝の前にも入り、その間に客席もいっぱいになるそうだ。身内にとって、年の瀬の大イベントなのかもしれない。
気になるチームはいくつかあるが、やはりストレイドたち以上はいない。次からはシード扱いの常連組が出てくるはずなのだが…バニラとストレイドを襲撃して返り討ちにされたのだろう。軒並み出場取り消ししている。
そういえば、サラも出ていたな。順当に勝ち上がっていて、準決勝で当たりそうだ。
「うちに来る子たちは全員残ってますね。ただ、何組かぶつかるのでここでいなくなる子たちもいますが…」
「勝負事だからな。しかたない。」
みんな仲良く一番とはいかない。そんなのは出てる連中が認めたくないだろう。
「気になるのは中等部で勝ち上がった子たちでしょうか。男子1、女子2の所ですね。」
「……?」
思い出せないな?
「あとで言いますので…」
「それは私にもわかった!」
そんなこんなで色々と話をしている間にストレイドたちの番になった。
相手はさっきと打って変わって重装備。
フルプレート装備なんて初めて見たな。
「装備を変えてきましたね。素手と長剣はこれで封じられると思ったのでしょう。」
「エンチャント容量も多いんだよなぁ…」
基本的に装備サイズと容量はイコールだ。軽装はそれだけハンデを得るが、動きやすさというアドバンテージは大きい。最終的には重装に寄るが、育成段階では軽装の方が融通が利いて良い。
「バニラ様のレベルだと脅威ですが、そんな事はないでしょう。」
「それもそうか。」
どういうエンチャントなのか気になるが、重装備という選択は良くない。めちゃくちゃ良いエンチャントならその限りではないが、それはないだろう。
さて、一番手だが…
「ストレイド様ですね。」
「待ってたぞー!」
エディさんが歓声を上げる。
ブーイングも聞こえてくるが、エルフたちからはそれを圧倒する歓声が上がる。心強い味方だ。
「さあ、どう打ち崩す?」
試合開始の合図と共に、動いたのは相手。
【エンチャント・ウィンド】
風を得物の長剣に付与し、遠距離攻撃しながらがっちり守る構え。
「判定勝ちを狙うようですね。でも、」
「うちの娘はそんな甘くないよなぁ。」
長剣を一振りし風の刃が飛ぶ。だが、それを悠長に受ける甘さはない。
読んでいたストレイドは盾の方に回り込み、攻撃の死角になる。
視界から完全に消えていたのだろう。盾を下げ、体をそちらに向ける。
【フォースインパクト】
ストレイドは正拳突きを相手の溝尾に叩き込む。
強烈な魔力の衝撃が鎧を凹まし、身体を打ち貫く。相手はそのまま仰向けに倒れ、動かなくなってしまった。
様子がわからないが、異常事態と察した救護班が駆け付け、兜を外すと泡を吹いて倒れている。
「お粗末です。重装備ならダメージは通らないと思ったようですね。」
【フォースインパクト】はハードインパクトの魔法ダメージ版。
単純に衝撃を魔力による波動に変えるだけなので、生き物に対してはハードインパクトほどのダメージはない。だが、魔法ダメージ対策をしていなければ、その一撃は強烈だ。
ストレイドの一撃が鎧をスクラップにしている事から、尋常じゃない一撃を喰らってしまったと思われる。
それを見た相手は、素直に棄権を宣言した。
礼をして試合を終えると、三人とも微妙な顔でこちらに向かって手を振って来る。
うん、気持ちはわかるぞ…
「完全に物理防御しか想定してなかったのでしょう。フィオナ戦を落としても、他二人に勝てば良いですからね。誤った事前対策が、完全に裏目に出てしまった戦いとなりました。」
「あれは痛そうだ…」
「二戦目もやっていれば、拾う神もあったのでしょうが…」
まあ、あの様じゃ来年まで評価は上がりそうにないだろう…
「ちなみに相手は気になった中等部のチームでした…」
「良い経験にしてもらおうな…」
若者よ、頑張るんだぞ…
休憩時間より先にエディさん、カトリーナさんはトイレへ向かう。オレはそのまま残って場所取りである。スパイシーパンの耳美味しい。
再び演武が始まり、休憩の合間を埋める。
さっきは男子だったが、今回は女子である。
なかなかきれいな魔法を撃ったり、力強さと速さを兼ね備えた動きに見所はある。人が多くなってきた影響もあるが、拍手も先程より大きくなっていた。
演武が終わるタイミングで二人も戻って来る。
「おかえり。」
「演武が終わってしまったか。」
がっかりした様子でエディさんが言う。
どうやら要人に捕まってたらしく、なかなか離して貰えなかったようだ。
「見事なもんでした。魔法もきれいで見所があった。」
「お前がそう言うなら素晴らしい演武だったのだろう。余計に残念だ。」
むくれ気味に買ってきた飲み物を飲む。
「武に関しては過大評価ですよ。」
照れ隠しにパンの耳を齧った。
いよいよ準々決勝の始まりである。
ここまで来ると、未熟でもまぐれ勝ちとは言えないだろう。見応えにも期待できるはずだ。
ストレイドの前に一試合、サラが出る試合に注目する。他の観客からも期待が高いようで、歓声が上がった。
内容はやはり一方的と言って良いだろう。
サラ以外のメンバーも能力が高く、これならストレイドたちともまともに戦えるだろう。次が楽しみだ。
サラたちが終わると、続いてストレイドたちだ。
案の定、ブーイングが起きるが、それを打ち消すくらいの歓声が上がる。圧倒的な強さで勝ち上がっているのだ。これで沸かなければ節穴だらけだろう。
それに、ブーイング程度でどうこうなる三人でもない。
今回の相手の装備はまともだ。いや、一回戦もまともだったな。さっきのが印象に残ってしまっている…
長剣に盾だが軽装の剣士、槍使い、格闘家と鏡写しのような構成だ。
「相手は同じ学年か。どこまで食い下がれる?」
「最初はフィオナですね。今回はどう対処し合うかみせてもらいましょう。」
一試合目はフィオナと剣士のトカゲ系ビースト。
さて、魔法の差をどう埋めるか。
試合開始の合図が鳴る。
【アイスストライク】
【ファイアバースト】
フィオナのばら撒きアイスストライクに対し、強力な炎を纏うファイアバーストで対抗する。範囲も広めで、アイスストライクは妨害として成立しない。水蒸気で視認性が落ちるが、互いに折り込み済みだろう。
トカゲビーストは更に畳み掛ける。
【ファイアストライク】
ファイアバーストを維持したまま、逆に火球を二個、三個と叩き付ける。
ファイアバーストの方は、雑に魔力を流し続けるだけで良い魔法のようで、1回戦にフィオナがやった同時発動に比べると難度は格段に落ちるようだ。
【シールドウォール】
盾を中心に展開した大きな魔力の防壁でそれを凌ぐ。ここに来て本人の魔法ではない、初めてのエンチャント効果だ。恐らく、バニラのエンチャントだろう。展開される魔法の緻密さが他とは段違いだ。
バフを積みまくるオレの物とは違い、盾に防御用の魔法を仕込むという構成にしてあるようである。
【ファイアストライク】
相手は魔力の流れが読めておらず、緻密で強固な防壁から防御で手一杯と見たようで、更に追撃のファイアストライク。ファイアバーストを解除して、更に数を叩き込んだ。
だが、多くの者にとって想定外の事態が起きる。
トカゲ獣人に氷の矢が突き刺さった。
二本、三本と数を増やし、首辺りが凍結したところで試合終了の合図が鳴る。
フィオナが変形式の小型魔導弓で相手を狙っていた。
水蒸気が晴れ、姿が舞台上が完全に見えると、大きな歓声が上がった。
煙の中から、魔石から魔力が供給され続ける氷で固定された盾が現れる。派手なエンチャントのエフェクトを囮に、自分は煙に紛れ、離れて弓矢で攻撃という理想的な展開に感心する。無傷ではないようだが、かすり傷だろう。
勝ちの為ならその程度は安い、という思い切りの良さも素晴らしい。
「言うことはありません。あの判断はなかなか出来ない事です。いくつか氷の柱を作って反応も見ていたようですね。」
「なるほど。見え方を確認していたか。」
「相手が感知を駆使していたら、気持ちが逸らなければ違う展開になっていたでしょう。」
「なるほど。なるほど。」
わかっているのかわからないが、エディさんが頷く。戦闘はポンコツっぽいので真に受けてはいけない。
「ところで、旦那様。相手はどういうビーストかわかりますか?」
「トカゲ?」
「非常に希少ですがドラゴンです。角があります。国際問題になりかねないので気を付けてください。」
「はい…」
あまり人の事は言えないな、と思いながらハイタッチする三人を眺めていた。
二人目はストレイドがすぐに出てきた。
相手も合わせるように格闘装備の柴犬ビーストが出てくる。
二言ほど言葉を交わしてから互いに構えた。
開始の合図と共に互いに距離を詰める。
【アクセラレーション】
スピード強化バフの魔法を柴犬ビーストが使い、ストレイドに拳を放つ。
ストレイドは立ち止まり、相手をその勢いを利用して一本背負いを叩き込んだ。相手の下半身が綺麗に宙で弧を描き、情け容赦ない一本背負いで背中が地面に叩き付けられる。そのまま上体…首を押さえ込む。
ビーストは息が詰まったのか、ピクリとも動かなくなってしまった。
医療班がやってきて、処置を施し始めた所でストレイドの勝利が告げられる。
格闘相手はこれがあるから怖い…
「あれ、私も一度やられました。」
「殴り合いかと思って突っ込むとやられる。知らないと本当に初見殺しだよ。」
「気が付いたら狐が叩き付けられていた…」
狐だった。ありがとうエディさん。
狐はそのまま医務室送りとなったようだ。
ストレイドは一礼し、戻って二人とハイタッチを交わす。
チームの勝利が告げられ、場内が沸き上がった。
恐らく、見たことのない光景だっただろう。見たことないは、やはり大きな熱狂を生み出してくれるな。
こちらを向いて手を振る三人。少し納得いかない様子のストレイドだが、オレたちは立って拍手を送った。
これ以上の盛り上がりは無いまま準決勝を迎え、いよいよサラのチームと当たる。
「学園二強のチーム、これからを引っ張っていく者同士の戦いですね。」
「今回、一番の見所か。」
実質の決勝と言っても良いだろう。
どっちが勝っても、決勝は消化試合間違いない。
ここからはサポートメンバーも表に出てくる。
バンブー、バニラのお披露目だ。
やはりブーイングも起きているが、もう歓声にかき消されている。
フィオナの戦い方が、エンチャントの質と装備の状態の好さを知らしめたからな。見る目の肥えた観客は騙せない。
相手はサポートを中等部で揃えており、よく見る顔が装備の担当をしているようだ。
全員並んで少し会話を交わす。サラの側が全員深々と礼をして、ストレイド達はそれを受ける側という構図。今日までの付き合いで力量の差は分かっているという事なのだろう。
一試合目のパウラとサラのみが舞台に残った。
パウラは棒を持ち、サラは格闘。リーチの差は厳しいが、さて?
試合開始の合図が鳴る。
【フォースストライク】
魔法を使ったのはサラの方。自在性の高い魔法でリーチを埋めるようだ。
両手に纏った魔力を自分の動きに合わせて動かす事から、ゲームでは気功型なんて言われてたな。
パウラは強化を使わずに受けるようだ。
素直な二人の対決。これは面白い試合になるに違いない。
逆にリーチで不利になったパウラが距離を詰めに行く。だが、サラは寄せ付けまいとフォースストライクを巧みに扱う。
魔力だけは付与してある棒で魔力の球を弾き、止まらない。
だが、二つ目が足元を狙い、走りを蛇行させる。それでも距離は十分。跳躍し、棒を叩き付ける。
サラは歯を食い縛り、腕を交差させて強烈な一撃を受け止める。咆哮し、パウラを吹っ飛ばす。この咆哮は吹っ飛ばしスキルの【咆哮】だ。衝撃をもろに受け、軽い目眩を覚えているだろう。
その隙を狙ってサラが踏み込み、弾き飛ばされるが踏み止まった。
【闘気】
パウラがオーラを纏う。切り札と言って良いスキルをここで出す。虎の尾を踏んだと言っても良いだろう。
だが、サラも引かない。
【フィジカルブースト】
【闘気】のような強スキルに対抗できる短時間身体強化魔法で対抗する。
フォースストライクと噛み合わないが、身体能力で大きく劣る方が不味いと踏んだのだろう。
魔法が発動するより若干早く、パウラが踏み込む。凄まじい勢いで棒が振り下ろされるが、紙一重でかわした。いや、腕にかすったか?
回避から繋げた蹴りがパウラに当たるが、気にせずに棒を振るう。サラは避けきれず、受け止めてから力一杯引き寄せ、頭突きをぶちかます。
棒は手離し、拳も顔面にお見舞いする。頭突きにパンチと頭に2発ももらい、パウラはたたらを踏む。
そこからはもう優美さなど欠片もない泥仕合。
殴り、蹴り、投げ、殴り、殴り、そして、互いの体に拳が同時に当たり、縺れ合うように場外へ落ちた。
同時場外という事で、引き分け。
場外でなければ、起き上がれたサラの勝ちだっただろうか。パウラは【闘気】の反動で起き上がれない様子。
リーチ、スキルの差を魔法で埋め切ったのは個人的に高く評価したい。
「ビーストらしい胸の熱くなる戦いでした。互いに引くこと無く闘う姿は、ビーストの誇りを体現したと言っても過言ではありませんね。」
「すごい殴り合いだった…一撃一撃、叩き込む方も受ける方も恐ろしい程の気迫を見せていた…」
終盤はお互いにボロボロだったのでエディさんにも分かったようである。
互いの三番手と思われる選手と、医療班が駆け寄り、応急手当を施して待機場所へと運ばれた。
二人に対し、場内は拍手で称えていた。
賛否は分かれるだろうが、これが今大会屈指の一戦になったのは間違いない。
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追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件
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俺、空田広志(そらたひろし)23歳。
何故だか気が付けば、見も知らぬ世界に立っていた。
何故、そんなことが分かるかと言えば、自分の目の前には木の棒……棍棒だろうか、それを握りしめた緑色の醜悪な小人っぽい何か三体に囲まれていたからだ。
それに俺は少し前までコンビニに立ち寄っていたのだから、こんな何もない平原であるハズがない。
そして振り返ってもさっきまでいたはずのコンビニも見えないし、建物どころかアスファルトの道路も街灯も何も見えない。
見えるのは俺を取り囲む醜悪な小人三体と、遠くに森の様な木々が見えるだけだ。
「えっと、とりあえずどうにかしないと多分……死んじゃうよね。でも、どうすれば?」
にじり寄ってくる三体の何かを警戒しながら、どうにかこの場を切り抜けたいと考えるが、手元には武器になりそうな物はなく、持っているコンビニの袋の中は発泡酒三本とツナマヨと梅干しのおにぎり、後はポテサラだけだ。
「こりゃ、詰みだな」と思っていると「待てよ、ここが異世界なら……」とある期待が沸き上がる。
「何もしないよりは……」と考え「ステータス!」と呟けば、目の前に半透明のボードが現れ、そこには自分の名前と性別、年齢、HPなどが表記され、最後には『空間魔法Lv1』『次元の隙間からこぼれ落ちた者』と記載されていた。
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