召喚者は一家を支える。

RayRim

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第1部

24話

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「昨晩は本当にごめんなさい…」

 顔を真っ赤にしたジュリアが俯きながら謝罪する。

「これ以上無いくらいの抱き心地で、気付いたら朝に…」

 スキルなかったら死んでましたからね?  

「何卒、何卒、昨晩の事はカトリーナ様には内密に…」

 頭を下げて、懇願される。
 いやまあ、命の危機だったけど、失念してたオレも悪いからな…

「そこまで謝られると何も言えない。」
「耐えられる抱き枕なんてここ数十年無かったから、気持ち良くてつい…」

 今度、あなたの部屋に補強した丸太でも送っておきますね。と、思ったが、【防御貫通】持ちじゃ一晩で粉砕されて木屑になりそうだ…
 累積ダメージをサポートに問うと、数万程度のダメージをもらっていたらしい。スキル込みなら回復と相殺されて大した事はないが、普通なら秒で死ぬ。
 PTでハブられてた原因はこれじゃないか?
 オレ基準だが、フィオナに似ているから間違いなく美人だろう。それなのに見向きもされていなかったという事は、これを知っていたからの可能性が非常に高い。
 幼馴染みと朝チュンしたら屍でした、はアンデッドコースまっしぐらだろう…

「それより、寒くなかったか?いくら簡易小屋の中と言っても、冬なのに石の上で何も掛けてなかっただろ?」

 一応、体調は確認しておきたい。着いてから風邪を申告されても困るからな。

「はい…私、寒いのを寒いと感じたことなくて…流石に雨や雪で濡れれば寒いけど…」

 変わった体質の持ち主だ。それは体の脂肪…うん。やめておこう。

「まあ、大丈夫なら良いが、体調を崩したようならちゃんと申告するように。」
「はい…」

 隊商とは逆位置に設置した木窓を開け、朝の空気を入れると空気は冷たく、一層清々しく感じる。雲は残っているが、流れを見るとこのまま晴れてくれそうだ。
 これなら火を使っても大丈夫だろう。
 寝袋を片付け、洗浄で洗顔等を済ませ、床を交換して焚き火をおこせるようにする。

「おぉ…便利だね…」
「まあ、やってるのは建てるのと変わらんけどな。」

 あらかじめパーツを用意してあるからこその芸当だ。そうでなければ、いちいち合うものを探したりで苦労する。
 食事は昨晩と変わらないが、今朝は肉とパンの量を増やす。

「ちょっと多い…?」
「予定より遅れてるし、足場も悪そうだからな。今日は覚悟しろよ。」
「むぅん…」

  食べ終えて、座りながら軽いストレッチを始めると、ドアを力なくノックする音が聞こえる。
 二人で顔を合わせ、念のために得物を手に、ゆっくりとドアを開けた。

「後生です…おめぐみを…」

 そう言って、旅人は力尽きる。
 今日も旅は順調とはいかないようだ。




 泥々の状態と酷い臭いを洗浄と浄化で解決し、焚き火の近くで寝せておく。
 背負ってた鞄は手を着けて良いのかわからないので外に置いておいた。これも臭いが酷い。
 被ってたフードを取って寝かせているが、見た目はどうやらエルフ。だが、髪の色が白に近く、フィオナやジュリアとは明らかに違う。
 これは森の北部のエルフだけの特徴だとジュリアに教えてもらった。西部はエルフにしては耳が短く、南部は髪色に統一感がなく肌が褐色らしい。ゲームでもそれらの特徴を強調するプレイヤーは多く、種族の間違いは即決闘なんて事が言われるくらい重要だったりした。

 隊商のリーダーらしき人がさっきのエルフについて聞いて来たが、寝かせてあると伝えるとさっさと追い出した方が良いと言われる。理由を問うと、忌々しそうな顔で追放者だからだよ、と言われた。奇遇だなオレもだよ。
 腕に覚えはあるのでヤバいヤツなら放り出すとだけ伝えておいた。
 それを聞き、ジュリアが慌ててさっきのエルフの様子を見に行き、手を見ると刻印が施されている。それはとても見覚えのある印だった。

 ゲームでは、一定以上の罪状を重ねると増えていく物であり、軽微なのは手の甲だけ、次に両腕、足、胴体、顔と増えていく。それはこちらでも変わらないようだ。
 見覚えがあるというのは、長いことやっていると何かしら様々な理由で罪を重ねてしまうからである。
 時にシナリオで、時にめんどくさがったせいで、時に他にやりようがない為に。
 プレイヤーは自由度の高い立場だったが、常に罪と背中合わせの立場でもあったのだ。

 エルフは首にマフラーを巻いており、少しずらすとそこにまで刻印が及んでいる。こいつ、いったい何をやらかした。
 流石にジュリアも出発を促して来て、どうしたものかと考えていると、

「すいやせん…気を失ってやした…」

 汚れが落ちた顔はエルフらしく綺麗であったがかなり痩せこけており、声色から察するに女のようだ。横のふくよかエルフとは大違いである。
 そのせいもあり、外套がないと背の低い体は更に小さく見えていた。

「臭いがキツいから綺麗にしておいた。荷物も大丈夫ならするが?」

 オレの言葉を聞き、驚いた様子で全身を見る。ボロボロの複雑な組み合わせの服も身体も、汚れがキレイに落ちていることに驚きを隠せない様子。

「魔法で、だからな。その服はどうこうできそうにない。」
「左様で…では、荷物の方もお願いしやす…」

 見られていると揉めそうなので、荷物を中に入れ、急いで洗浄と浄化を施した。

「こいつは…!」

 驚いた様子でオレの魔法を見ていた。まあ、作ったのオレじゃないけど。

「ヒガンの魔法は何度見ても意味がわからないね…」

 よく言われる。
 
「旦那。どうか。どうかあたしを拾って下さいやせんか…」

 独特の訛りで、土下座をしながら言う。
 その様子をドン引きしながらジュリアは見ていた。

「この通り、あたしは首まで彫られた悪党ですが、殺しも不義理もいたしておりやせん。必ず旅の役にも立って見せやす。何卒…何卒…」

 頭を勢い良く床板に叩き付け、かなり良い音がする。待て待て。

「ヒガン、ダメ…この人が本当の事を言っているとは限らない…」
「本当です!信じてくだせい!」

 二人共、必死の様子でこっちを見る。
 究極の選択を迫られている気分だ。
 だが、選ぶのは、

「飯も置いていく。オレに出来るのはそこまでだ。」

 家族も居るからな、と心の中で付け足しておく。
 まだジュリアと信頼関係も構築しきれていないのに、罪人をパーティーに増やすのは愚の骨頂だろう。そこまでお人好しではない。

「ありがとうごぜいやす…」

 良い旅をという言葉を聞き届け、オレとジュリアは小屋から立ち去った。



「あっ!小屋の回収を忘れてたな…」
「また作ろう…お手伝いするから…」

 オレたちは、休憩地点を離れてから小屋の事を思い出す。
 ジュリアには歩きながら改善点を出してもらい、後でそれを反映した第二号を完成させる事にした。


 
 今日はとりとめのない話をしながら歩く。
 説明が上手いこともあり、ジュリアが旅先で見たものはいつか見たいと思わせてくれるものばかりだった。
 こちらからはヒュマス領の事しか出せないので、一方的に話してもらうだけの形となる。
 あちらは本当に見るところが無くてなぁ…

 時々使う感知には引っ掛かる反応がいくつかある。
 向かってくる隊商、冒険者と思われる一団、後方にも冒険者のパーティーと離れてもう一人。どうやら諦める気はないらしい。困ったものだ。
 雨の影響でぬかるみや水溜まりはあるが、徒歩だし、洗浄の魔法もあるので気にせずどんどん進める。
 すぐに泊まる予定だった宿場に到着するが、立ち寄らずに進む事にした。ジュリアは名残惜しそうにしていたが、気にせず行く。きっと変わった食べ物はないからな!

 ここから目的地まで半日ほどだろうか。
 さて、連携を確認したいがどうしたものか。能力を合わせるか、行動を合わせるか相談するとなに言ってんだこいつという顔をされる。

「いや、スキル見せただろう。」
「あんな嘘っぱち信用しない…」

 ステータスの誤魔化しは出来るが、名前を隠すくらいのもの。数字の改編まではできない。

「宗教によっては神の啓示とも言われてるんだよ…あんな風に壊したら異端認定どころじゃないからね…」
「いや、壊したわけでも…」
「凄い魔法のひとつでも見せてくれたら信用する…」
「わかった。ちょっと離れてろ。」

 こういう時は分かりやすいのは火球だろうか。
 掌に火の玉を作り、魔力をどんどん練り込んでいく。その程度、と言わんばかりの表情だが本番はこれからだ。

「魔法関連全て有効化。」
〈告知。【MPUP】【MPブースト】【MP回復量UP】【MP回復ブースト】【MAGUP】【MAGブースト】【魔法制御】【属性強化】【属性ブースト】【MNDUP】【MNDブースト】【魔法耐性】を有効化しました。〉

 言い始める前に力が漲るのを感じ、一気に大量の魔力を練り込む。
 重要なのは錬成の一手間を入れることだ。強力にする為には、単純に魔力を魔法にするのではなく、錬成して密度の高い魔力にする必要がある。これを戦闘中に息をするように出来てようやく一人前だ。
 更に出力を上げ、自分の限界の速さで魔法に変えていく。家では全力を出せなかったので、機会が得られて気持ちが昂る。

「あつっ…!あっつい…!」

 まだまだ魔力に余裕はある。どんどん魔力を練り込み、小さな火球の温度を上げていく。

「も、もういいから…!」
「そうか?」

 制御を切ると、一瞬で霧散する。上がった周囲の温度はなかなか下がらないが、冬だしそう時間は掛からないだろう。

「信じるよ…なんであんな小さな火球をこんな熱くできるの…」

 手で汗を拭きながらぐったりした様子で言われる。

「大きさと温度は関係ないからなぁ。被害を広げるなら大きくするが、その必要もないし。」
「えぇ…」

 ゲームでも駆け出しがよく勘違いしていたが、小さい高温の火球を量産した方がダメージ効率が高い。
 ただ、破壊だけを目的とするなら、高温で大きなものを炸裂させた方が効果は高くなる。
 制御難度も後者の方が低く、狩りや乱戦でも混乱させる為の初擊によく使われていた。大きいのは目立つし、狙われやすくなるのも理由の一つである。

「夏のお日様みたいだった…直視も出来なかったよ…」
「ははっ。光栄だ。」

 オレたちは再び歩き出し、戦闘についてあれこれ話し合った。
 この感じ、なんだか懐かしい気がして悪くない。
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