召喚者は一家を支える。

RayRim

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第1部

15話

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 負けました。それはもうボコボコに。
 全く手も足も出ない、というのはこの事かと久し振りに思わされた。
 その後、格闘戦でストレイドもカトリーナさんに挑んだがこちらも秒殺である。
 バニラやバンブーにだらしないとなじられたオレだが、この結果を見て謝られた。うん、まあ良いけどさ。

 訓練を終え、洗浄の魔法で汚れを落として買い物へ。
 三人娘だけでなく、ストレイドとカトリーナさんも嬉しそうに出発する。
 メインストリートは住み処からそれほど遠くなく、買い物に苦労することも少なそうだ。
 冒険生活が長くなりそうなオレは、地味で丈夫そうなものを選んでもらった。一応、採寸もしてもらい、後日受け取りという事になる。一般的な服は中古のお下がりとかかなと思っていたが、この国で服を買う時はどこもこんな感じだそうだ。
 質はともかく、サイズの合わない物を売るのは恥じ、というのが店側のプライドらしい。そんな店があればモグリだと店員に力説される。
 納得するバニラと、全力で頷くバンブー。二人とも作る側だから共感するところがあったようだ。
  『身の丈に合った商品を』というのは、何も衣服だけじゃないという事なのだろう。

 オレの買い物は20分程度で終わり、問題は4人であった。互いが互いの服を提案し合うという無限ループが繰り広げられ、終わりが見えない事態に陥る。オレは戦力外なので、離れた所に設けられた小さいフードコートのようなスペースから眺めていた。注文した果実水がなかなか美味い。
 時々、参考意見を求められて行くこともあったが、おまえさん方は何処でそれを着るというのか?という服ばかりだった。みんな似合ってたけどな。
 気付いたのは何処で着るのか?という服以外でスカートが無かった事だ。リンゴは出会った時から同じスカートのままだが、これも見納めかもしれない。

 将来の同業者と思われる一団が途中で加わり、待避仲間が増える。
 女性陣は更に賑やかさ、華やかさを増し、店員も大忙しのようだ。
 待避仲間に、ここではこういうものだと諭され、皆で悟ったような眼差しで女性陣のやり取りを見守る事しかなかった。
 感心するのは全員がそれぞれの提案を否定せず、一度受け入れた上で改善点を出していく所だ。稚拙だったリンゴの提案も、終わり頃には周囲を驚かすものになり、この短時間(?)で成長を見せる。
 後続の一団が先に買い物を終え、去り際にリンゴが将来良い女になると全員に言われていた。うちのリンゴに、あまり変なことを吹き込まないで下さいね。

 ビーストとエルフの混成パーティーとやり取り出来たのはリンゴ、ストレイドに取って良い刺激だっただろう。
 あちらはあちらで、ヒュマスの見た目なのに全く亜人を忌避しない事に驚いていたが。こちらも亜人であることを明かし、その内オレが冒険者として活動すると告げると、自分達が『深緑の刃』というパーティーだと自己紹介もしてくれた。
 ランクが違うとなかなか会う機会も無いそうだが、なにかあれば力になってくれると約束もしてくれた。思いがけない縁を築く事ができてありがたい。

 日も暮れた辺りでようやく買い物が終わる。
 一人2着の服+多めの下着となかなかの買い物である。カトリーナさんも我慢できず、何か一着買っていた。流石にこれは自腹だろう。
 更に一人三着、しっかりと採寸した物を後日受け取りに行くとの事。今日のは間に合わせで、後で調整してくれるそうだ。
 リンゴの分はオレが持ち、ようやく帰路に着く。何処かの夕飯の匂いがオレの腹の虫を起こしてしまった。
 なんだか色々とあったが、収穫が多い一日だったな…



 翌日、朝はいつも通りに目が覚め、二日目にしてふかふかオフトゥンに勝利したことをなんだか誇らしく思う。寝るのも早かったけどな。

 今日の訓練はバニラとストレイドがすぐに加わり、お互い魔法制御の訓練を重点的に行う。バニラは対抗心を、ストレイドは好奇心を燃やすといった様子だった。
 全く方向性が違う二人なのだが、良いライバル関係になりそうである。

 ダイニングへ行くと、まだぼんやりしてるリンゴと、うとうとしてるバンブーがいた。
 バニラに釣られて起きては来たが、まだ目が覚めきっていない感じだな。
 そういえば、全員が早速新しい服を着ており、ようやく心機一転というのを感じるようになってきた。着心地は良いらしく、元の世界のとも引けを取らないらしい。細かい粗はあるようだが、減点になるほどではないとか。
 季節柄、購入したのは秋物だが、真冬はかなりに冷えるそうなので、後日改めて購入するとの事。代金はエディさんに請求すると意気込んでいたが、なんだか悪い気がするな。

 朝食を終え、家の掃除などカトリーナさんの手伝いを皆で済ました辺りで午前中は終わる。
 やらなくても良いと言われたが、他にできる事も多くないからな。
 昼食後は気付いたら全員で昼寝をしており、久し振りにのんびりとした昼を過ごす。
 その後は眼鏡を掛けたカトリーナさんを先生に、この世界、この国の社会やルールを学ぶ時間とした。

 通貨は金、銀、銅の貨幣。10枚ごとにランクが上がる感じで、金貨、銀貨は小型、中型、大型の3種だ。銅には小銅貨もあるが、スラム暮らしでないと縁がない。
 どうやら、これ自体に相応の価値があるというわけでは無いようで、必要とあれば同額の各インゴットと交換も出来るそうだ。高度な錬金術があるし、金の価値は低いのでは?とストレイドが質問したが、カトリーナさんはそれを丁寧に否定する。

 ゲームでも金の錬成は錬金術師の到達点とされていたが、早期に『無理だわこれ』と諦められた一つでもある。金属を他の金属に変化するような技術ではないからである。
 元素の変化では無く、元素の活用というのが本質だろうか。故に金属を他の金属にというのは本質から逸れていると結論付けられた。
 ここまでがカトリーナさんの説明だ。オレの知ってる錬金術とも合っている。

 では何故、錬金術なのか。
 賢者の石を用いた金の錬成の逸話が残ってしまったからである。
 賢者の石自体がまず眉唾なのだが、それを用いた錬金術師の著書の信憑性が高過ぎたのだ。それ以外にも再現出来ないことは幾つかあったが、8割は再現できる正しい内容で、著者の願望説、実証できない推論説、後世の後付け等、色々な解釈もされ答えは出ないままだった。
 1000人の命が原料である以上、利益を重視するプレイヤーには再現など不可能である。検証後はアカウントが犠牲者数×リアル一週間の赤ネーム化で身動きが取れなくなり、各国だけでなく、プレイヤー間でお尋ね者扱いにされ、こんにちは死ね!され続ける事だろう。代償が大きすぎるのだ。
 サービス終了間際に検証したヤツは居そうだが、成否は伝わってこなかったな。

 話はこの国のルールに及んでいたが、内容はシンプル。無闇な殺し、盗み、詐欺など、日本でダメだったのはほぼダメとされていた。
 無闇なは獣にも及ぶが、指定区域以外での狩りは自由に行える。
 無闇な、とされているのは暴行、強盗、逆恨み等、正当防衛のラインが緩かったり、冒険者同士のいさかいに法は介入しないなどという理由だからだそうだ。暴力には暴力をは、この世界の共通と見て良いだろう。

 獣と魔獣の見分けがつかないとリンゴが質問すると、魔力感知で見分けがつくと説明された。
 獣は魔力の量が極めて少なく、魔獣は溢れるほどの魔力を保有している。
 故に魔獣の方が力はあるのだが、コントロールできず持て余しているという感じで、コントロール出来るようなのとはコミュニケーションを取れるようになり、テイムも可能になる。ただ、そのレベルの魔獣となると、群れの統率も行っており、共存の対象とされることも多いそうだ。
 ゲームではマップの色分けからグリーンエリアと呼ばれて居て、良い息抜きが出来る場所だった。
 いずれ二人にも見せてやりたいものである。

 そういえば、道中のヒュマス側にグリーンエリアは無かった。亜人だけでなく、魔獣とも折り合いがつけられないのは流石に詰んでいるのではないだろうか?
 共存魔獣が多ければそれだけ警戒する事が減り、一次産業と物流、生活圏拡張に恩恵がある事を考えると、無視できないはずだが…
 魔獣は発生を抑えられないものとされているため、プレイヤー側は面倒を減らすために共存魔獣を増やす方を選んでいる。
 『魔獣殺スベシ…』というプレイヤーもそれなりにいたが、共存魔獣からの恩恵を得られないのが分かると多くはすぐに転向してた。そうじゃないのは、『ゴブリン殺し』などの特殊称号狙いの変わり者くらいだろう。ただこの称号、種族特攻を得る代わりに、共存恩恵が受けられなくなるデメリットもある。このデメリットが非常に重く、あらゆる護衛クエストで容赦なく襲われるのでお荷物扱いされる事も多かった。

 ただ、ゴブリンは設定的にも全ての敵と見なされているせいか、『ゴブリン殺し』に関してはホントどうしようもないくらい取ってしまう。
 何処にでもポップする上に共存化しにくい特徴もあり、とにかく殺すしかない。村民総苗床化というイベントは、正気を失う人間や引退者が続出した程だ。これも、あの王女殿下が遠因だったのは記さねばなるまい。

 当然、このグリーンエリアについての説明もカトリーナさんはする。全てを賄える国では欠かせない要素だろうからな。
 共存区域と名を変えていたが、実態は変わらないだろう。
 数は少ないがテイマーもいるらしく、ここで頭数調整にテイミングも行われている。テイミングモンスターは重要な労働力で、テイマーと共に仕事に従事しているとの事。
 才能あるテイマーなら、優秀な魔獣をテイミング出来ると締めくくり授業は終わる。

「いかがでしたか?」

 他の皆がいなくなったタイミングでカトリーナさんが尋ねてくる。若干、ドヤ顔気味でかわいい所があるんだなと思わせる。

「その眼鏡は?」
「伊達です。」

 なかなかお茶目な事をする、遊び心の分かる人のようだ。

「内容も満点でした。」

 知っている事ばかりだが、わざわざ確認しなくて良いのはありがたい。
 特に錬金術の件は自分で調べようとなると、時間も素材も金も溶けるどころではないからな。

「あなたの知識の由来は詮索しませんが、常にすり合わせはして下さい。いざという時の致命傷になりかねませんからね。」
「心得ました。」

 地図を見ると思い浮かぶのはよく知る光景。
 すぐ近くに居るのに行けないのはもどかしいが、約束だからな。どの名所も逃げることは無い。

「一度、みんなで共存区画に行きましょう。これも授業の一貫です。」
『先生…!』

 遠足が決まり、ワクワクが抑えられないバニラとリンゴがキラキラの眼差しを向ける。
 本当、カトリーナ先生は良い先生になれそうだ。
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