17 / 84
1.Cape jasmine
17
しおりを挟む
思いもよらない―――と言うのがぴったりだったのだと思う。
ケイマ君は、一瞬、呆気に取られたような顔をして、次の瞬間、
「はぁっっ?!」
と、大きな声を上げた。
「何それっっ?! いじめっ?! する訳ないじゃんっ、あいつがっっ!! 何言ってんの?! バカじゃねぇの?!」
ものすごい勢いで捲し立てられ、息を呑む。
「あんた、進藤の事、そんなヤツだと思ってんのか?!」
「っ、まさか…」
「じゃあ、なんで?!」
ケイマ君は怒っていた。ありえねぇ、ないわ―――と。
「誰の為にやったと思ってんだよ?」
吐き捨てるように言われて、直ぐには何を言われたのかわからなかった。
「え…?」と間の抜けた声に、ケイマ君が拳を握りしめる。
「あんたの為にぶっ壊したんだよ、あいつは!」
言われて、体が固まった。
わたし―――?
「そいつ、あんたの事隠し撮りしてたんだよ。」
ケイマ君は、苦々しげに言って、視線を逸らした。
「すっげーいっぱい入ってた、体操服とか。あいつそれ全部消せっ言って。そしたら…」
消したやつをぶん投げて、めちゃくちゃ踏んづけて、ぶっ壊した、そう言って、ため息をつく。
「その場にいたら、ぶっ殺してたんじゃねぇの?わざわざ自分で職員室持ってったのだって、持ち主見つける気満々だったんだし。」
ケイマ君はもう一度、気持ちを落ち着かせるように、大きく息をつく。
正直なところ、頭がうまく動いてなかった。
自分の為に―――と言われて動揺していたから。
「ホントに何も聞いてねえの?」
と言われても、曖昧に頷く事しか出来ない。
ケイマ君がまたため息をついた。
「何なんだかな、もう。あいつもずっと、あんなだし。」
「…あんなって?」
つい聞いたら、上目遣いに睨まれた。
「隣に住んでんのに、俺に聞くんだ?」
言われて居たたまれなくなる。
ナオにはあれからずっと会ってない、とは言い辛かった。
「暗えよ、暗い。殆ど話さないし。目の下隈出来てるし。野球も調子悪いって、ジンデも言ってた。―――このまんまじゃ、スタメンも外すって顧問に脅されてるらしいよ。」
驚いて顔を上げると、ケイマ君はまた大きく息をついて、額を押さえながら言った。
「とにかく、何とかしてくんないかな?何があったのか知んないけど、見てるこっちがしんどいわ。」
「…ゴメン…」
「俺に謝られても知らんし。」
「ごめんなさい…」
そう言うしかなかった。
ケイマ君は、最後にもう一度ため息をついた。
「とにかく、いじめとかは無いから。そう言っといて。」
後ろ頭をわしわしとしながら帰って行く背中を見送って、大きく息を吐き出す。
何とかして欲しい、と言われて。
でも、どうしたらいいのかわからなかった。
昇降口から校門までの道を歩いていると、きゃあっ―――という歓声が聞こえた。
首を廻らせて見ると、グラウンドでノック練習をやっている。
セカンド、ショートと、センターの間に、テニスラケットを使って、高いフライのボールを打ち込んで獲らせていた。
遠目に見ても分かる、背の高いセンターの選手が、捕球しようと前に突っ込んできて、―――落とした。
ボールを打っていた男性から、何か怒号らしきものがあがり、センターの選手が帽子を取ってお辞儀する。
またボールが上がって、今度は捕球した。
続けてもう1球。―――センターばかり、と気付いて。
さっきの声が頭に蘇った。
―――このまんまじゃ、スタメン外すって脅されてるらしいよ。
ごくっと息を呑むのと、
「進藤君、頑張って~!!」
という歓声が上がるのが同時だった。
センターが捕球するのを見て、男性が指示を出し、今度はもっと手前のショートにフライが上がった。
ゆっくりと、向きを変えて、校門へ向かう。
女の子達の歓声を背中に聞きながら。
まだ小さかった頃は、かなちゃについて、よく小学校に練習を見に行っていた。
あんな風に声を上げて、後からナオに集中出来ないと怒られたけど、まんざらでもない顔をしていた―――と思う。
まだ父が生きていた頃だ。
もし、あのまま、父が生きていたら。
今もあんな風に声を上げて、応援していたのかな?
ナオも、あの頃みたいに、素直に笑っていてくれたのかな?
もし、父が生きていたら。
ナオは隣に住んでるだけのヤツなんか気にせず、可愛い彼女を作って、野球を楽しんでたかもしれない。
少なくとも、友達に心配されるほど、自分を追い詰めて、傷つけたりはしなかっただろう。
もし、私がいなかったら。
きっと、ナオはナオらしくいられたに違いない。
唇を噛み締めて、
ゴメンね、ナオ
と、心の中で呟いた。
謝ることしか出来なくて、ゴメンね。
ケイマ君は、一瞬、呆気に取られたような顔をして、次の瞬間、
「はぁっっ?!」
と、大きな声を上げた。
「何それっっ?! いじめっ?! する訳ないじゃんっ、あいつがっっ!! 何言ってんの?! バカじゃねぇの?!」
ものすごい勢いで捲し立てられ、息を呑む。
「あんた、進藤の事、そんなヤツだと思ってんのか?!」
「っ、まさか…」
「じゃあ、なんで?!」
ケイマ君は怒っていた。ありえねぇ、ないわ―――と。
「誰の為にやったと思ってんだよ?」
吐き捨てるように言われて、直ぐには何を言われたのかわからなかった。
「え…?」と間の抜けた声に、ケイマ君が拳を握りしめる。
「あんたの為にぶっ壊したんだよ、あいつは!」
言われて、体が固まった。
わたし―――?
「そいつ、あんたの事隠し撮りしてたんだよ。」
ケイマ君は、苦々しげに言って、視線を逸らした。
「すっげーいっぱい入ってた、体操服とか。あいつそれ全部消せっ言って。そしたら…」
消したやつをぶん投げて、めちゃくちゃ踏んづけて、ぶっ壊した、そう言って、ため息をつく。
「その場にいたら、ぶっ殺してたんじゃねぇの?わざわざ自分で職員室持ってったのだって、持ち主見つける気満々だったんだし。」
ケイマ君はもう一度、気持ちを落ち着かせるように、大きく息をつく。
正直なところ、頭がうまく動いてなかった。
自分の為に―――と言われて動揺していたから。
「ホントに何も聞いてねえの?」
と言われても、曖昧に頷く事しか出来ない。
ケイマ君がまたため息をついた。
「何なんだかな、もう。あいつもずっと、あんなだし。」
「…あんなって?」
つい聞いたら、上目遣いに睨まれた。
「隣に住んでんのに、俺に聞くんだ?」
言われて居たたまれなくなる。
ナオにはあれからずっと会ってない、とは言い辛かった。
「暗えよ、暗い。殆ど話さないし。目の下隈出来てるし。野球も調子悪いって、ジンデも言ってた。―――このまんまじゃ、スタメンも外すって顧問に脅されてるらしいよ。」
驚いて顔を上げると、ケイマ君はまた大きく息をついて、額を押さえながら言った。
「とにかく、何とかしてくんないかな?何があったのか知んないけど、見てるこっちがしんどいわ。」
「…ゴメン…」
「俺に謝られても知らんし。」
「ごめんなさい…」
そう言うしかなかった。
ケイマ君は、最後にもう一度ため息をついた。
「とにかく、いじめとかは無いから。そう言っといて。」
後ろ頭をわしわしとしながら帰って行く背中を見送って、大きく息を吐き出す。
何とかして欲しい、と言われて。
でも、どうしたらいいのかわからなかった。
昇降口から校門までの道を歩いていると、きゃあっ―――という歓声が聞こえた。
首を廻らせて見ると、グラウンドでノック練習をやっている。
セカンド、ショートと、センターの間に、テニスラケットを使って、高いフライのボールを打ち込んで獲らせていた。
遠目に見ても分かる、背の高いセンターの選手が、捕球しようと前に突っ込んできて、―――落とした。
ボールを打っていた男性から、何か怒号らしきものがあがり、センターの選手が帽子を取ってお辞儀する。
またボールが上がって、今度は捕球した。
続けてもう1球。―――センターばかり、と気付いて。
さっきの声が頭に蘇った。
―――このまんまじゃ、スタメン外すって脅されてるらしいよ。
ごくっと息を呑むのと、
「進藤君、頑張って~!!」
という歓声が上がるのが同時だった。
センターが捕球するのを見て、男性が指示を出し、今度はもっと手前のショートにフライが上がった。
ゆっくりと、向きを変えて、校門へ向かう。
女の子達の歓声を背中に聞きながら。
まだ小さかった頃は、かなちゃについて、よく小学校に練習を見に行っていた。
あんな風に声を上げて、後からナオに集中出来ないと怒られたけど、まんざらでもない顔をしていた―――と思う。
まだ父が生きていた頃だ。
もし、あのまま、父が生きていたら。
今もあんな風に声を上げて、応援していたのかな?
ナオも、あの頃みたいに、素直に笑っていてくれたのかな?
もし、父が生きていたら。
ナオは隣に住んでるだけのヤツなんか気にせず、可愛い彼女を作って、野球を楽しんでたかもしれない。
少なくとも、友達に心配されるほど、自分を追い詰めて、傷つけたりはしなかっただろう。
もし、私がいなかったら。
きっと、ナオはナオらしくいられたに違いない。
唇を噛み締めて、
ゴメンね、ナオ
と、心の中で呟いた。
謝ることしか出来なくて、ゴメンね。
0
お気に入りに追加
55
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました
宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。
ーーそれではお幸せに。
以前書いていたお話です。
投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと…
十話完結で既に書き終えてます。
【R18】寡黙で大人しいと思っていた夫の本性は獣
おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
侯爵令嬢セイラの家が借金でいよいよ没落しかけた時、支援してくれたのは学生時代に好きだった寡黙で理知的な青年エドガーだった。いまや国の経済界をゆるがすほどの大富豪になっていたエドガーの見返りは、セイラとの結婚。
だけど、周囲からは爵位目当てだと言われ、それを裏付けるかのように夜の営みも淡白なものだった。しかも、彼の秘書のサラからは、エドガーと身体の関係があると告げられる。
二度目の結婚記念日、ついに業を煮やしたセイラはエドガーに離縁したいと言い放ち――?
※ムーンライト様で、日間総合1位、週間総合1位、月間短編1位をいただいた作品になります。
【完結】やさしい嘘のその先に
鷹槻れん
恋愛
妊娠初期でつわり真っ只中の永田美千花(ながたみちか・24歳)は、街で偶然夫の律顕(りつあき・28歳)が、会社の元先輩で律顕の同期の女性・西園稀更(にしぞのきさら・28歳)と仲睦まじくデートしている姿を見かけてしまい。
妊娠してから律顕に冷たくあたっていた自覚があった美千花は、自分に優しく接してくれる律顕に真相を問う事ができなくて、一人悶々と悩みを抱えてしまう。
※30,000字程度で完結します。
(執筆期間:2022/05/03〜05/24)
✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
2022/05/30、エタニティブックスにて一位、本当に有難うございます!
✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
---------------------
○表紙絵は市瀬雪さまに依頼しました。
(作品シェア以外での無断転載など固くお断りします)
○雪さま
(Twitter)https://twitter.com/yukiyukisnow7?s=21
(pixiv)https://www.pixiv.net/users/2362274
---------------------
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる