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第二章

スミスの調査1

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 僕とラビヤーはゴブニュさんに案内されながら鍛冶部門へやってきた

「今日は案内してくださってありがとうございます、広報部門で良い記事になるよう努力致します」

 表向きは広報部門の取材として・・・
 鍛冶部門はギルドの建物の外、裏手にあるのだ
 初めはギルド外のゴブニュさんの経営する鍛冶屋に依頼していたらしいが、ギルド長直々に勧誘されてギルド傘下に入ったらしい

『自分達で使う武器は自分たちで作ったほうがトラブルも少ないし、なにより費用も安く済むだろう』

 との考えのもと、鍛冶部門設立だったようだ

 僕はほとんど鍛冶部門に行ったことが無いし鍛冶部門の人たちも僕の顔は知らないだろう
 だから堂々と正面から行く
 身分は伏せてるけどね
 あとで広報部門に名前借りた報告と一応鍛冶部門見学のメモを渡そう
 彼らが本当に記事にするかもしれないし・・・

 偶然現れた知り合いに会うことさえなければバレることは無いだろう
 さぁ、鍛冶部門に入ろうじゃないか!
 ちょっと楽しみにしてたんだ
 僕、鍛冶屋って入ったこと無いし!


「よう!マークじゃないか!!!」
「ギースさん?!」

 最悪だ
 一番口の軽そうな知り合いに出くわした
 彼は僕が追放部門に任命された時に一人だけ茶化してきたという前科がある
 ずっと根に持ってるよ?僕は・・・
 表に出さないだけです

「ゴラァ!ギースてめぇ!ここにいるってことは・・・また儂の作った武器ぶっ壊しやがったな?!」

 突然大声を上げてギースさんに怒鳴りつけるゴブニュさん

「わりぃゴブ爺、またやっちまったわ」
「やめんかそう呼ぶのは!儂がゴブリンみたいじゃろが!」
「子供の頃からそう呼んでるんだからそろそろ慣れるか流してくれよな~」
「いつも儂に叱られるんだったら普通、呼び方を変えるじゃろうが!いつまでも儂に甘えんでくれ!」

 呆気に取られるとはこのことか
 あの筋肉ゴリラでチンピラにしか見えない戦闘部門最強の男が甘える姿
 そして甘えられる側は孫を叱りつつも可愛がっているお爺ちゃんだ
 ゴブニュさんは怒っている様子だけど口元は笑っている
 っていうか口調もお爺ちゃんになってるよ・・・
 僕もラビヤーもどうしたらいいか、何を言えばいいか全くわからない
 ぼんやりと二人のじゃれ合う姿を見ているとゴブニュさんがこちらをちらりと見る
 僕たちの存在を今、思い出したようだ

 みるみる顔と耳が赤くなっていく

「な、なんじゃ!何みとるんじゃ!」
「なんだゴブ爺!照れてんのか?」
「うるさいわ!年寄りをからかうんでないわ!」
「あの・・・そろそろ仕事の続きをしたいんですが・・・」

 まだ続くかと思われたが、ラビヤーが突っ込んでくれた
 ゴブニュさんが額に手を当て上を向き、ギースさんは腹を抱えて笑っている
 ひとしきり笑った後でギースさんが話す

「ゴブ爺は俺を拾って育ててくれた爺さんみたいなもんなんだ
 だから俺がからかうと口調も昔に戻って面白い」
「お前なんか拾うんじゃなかったわい!
 まったく・・・いつまでも爺をからかいおってからに・・・」

 ガハハと笑って流すギースさん
 いや、なかなかヘビーな昔話なんだけど!
 さらっと流さないでくれないかな!
 次は僕に話を振ってくる

「おう、仕事は順調か?」
「ちょっ!その話はここじゃ・・・」
「ああそうか、そういやそうだったな忘れてたわ」

 あっぶねぇ
 正直この人ならやりかねんと思ってたけど
 本当に口を滑らせそうになるとは・・・

「ところでここに何しに来たんだ?」
「アホかあんた!」

 ダメだこりゃ・・・

 結局ギースさんはゴブニュさんに追い出され、子犬のような瞳をしながらも去っていった・・・
 あの人の相手をいつまでもしてると、ちっとも仕事が進まないだろうな・・・

「すまんな、あやつには後でちゃんと言っておく」
「口調が元に戻った・・・あっ」

 ラビヤーまでもがさっきの空気に流されてしまったようだ

「ぐぅ・・・すまんな、ギースと会うといつもこうなっちまう
 儂にも威厳っちゅうもんがあるんだがなぁ
 あの小僧だけはダメなんじゃ・・・おっと」

 お爺ちゃんは孫に甘い
 うちの爺ちゃんも僕に甘かったなぁ
 爺ちゃん今頃畑で大きな声出して婆ちゃん呼んでるのかなぁ・・・

 おっといけない、あまりに微笑ましくて感傷に浸ってしまった
 僕たちはここに調査のために来たんだった
 仕事をせねば・・・


 ちょっと気持ちがふわふわしながらも、僕たちは素材保管庫までやってきた

「おーい、ルフタ!いるのか?」
「なんだ兄貴、こんなとこに来るなんて珍しいな」

 ゴブニュさんとそっくりなドワーフが現れる

「お、こいつはルフタってんだ
 儂とそっくりだろう?儂の弟だ」
「ルフタだ、今は倉庫番をしているが俺も昔は鍛冶をしてたんだぜ」

 ルフタさん・・・
 確かギルド内の友人の槍を作った人がそんな名前だったような
 鍛冶師を引退するらしいから最後の一本が争奪戦になったとかなんとか・・・
 友人は勝ち取れなかったけど

 やはり引退したからここにいるんだろうか

「こんにちは、マークと言います
 今日はお話を伺えるということで・・・」
「ああ、『あの話』だな、兄貴から聞いてるよ」

 先に話が通されている
 説明しなくていいのは助かるなぁ

「では、聞かせてください
 スミスはどうやって素材を盗んだんですか?」
「それがなぁ・・・
 いつ取ってたのか分からないんだ
 気付いたら消えてた」
「それじゃあ、何故スミスが犯人だと?」
「奴が作ったものがあるからだ、それで消えた素材を使ったとわかったんだ」
「なるほど・・・」

『気付いたら消えてた』

 協力者がいるのか、それとも姿を消すアイテムを使ったのか
 僕が考えている間にラビヤーが姿を消している
 倉庫内を調べに行ったんだろう

「素材が消えてからスミスが武器を完成させるまでどのくらいですか?」
「うーむ、二日か三日だな
 素材の点検を週一でやってるんだが鉄や精錬された鋼などは消えても気付きにくい
 しかし貴重な素材は別にしてあるから一目見ればわかる
 だが、ギルドの鍛冶師は多いし出入り多いから何人も来ると見に行く暇が無いんだな、これが
 だから最低でも二日、消えてることは分からん」

 なるほどなぁ
 素材の持ち出しの際にどさくさに紛れてってのもありそうだ
 今のところ素材を盗む方法は多いなぁ
 何か絞れる情報は無いだろうか・・・

「隊長!こっちに来てください!」

 ラビヤーが呼ぶ声が聞こえた
 いいタイミングで何か見つけたようだ
 僕とドワーフの兄弟でラビヤーの声がした方へ向かう


 そこにあったのは度肝を抜かれる光景だった
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