白き時を越えて

蒼(あお)

文字の大きさ
上 下
133 / 179
第5章雑談:空山

あなたはずるい

しおりを挟む
「もしかしてそれは、褒め言葉なのかな?」
「どうしてそうなるんですか!」

「……そうだね、
 ごまかすところじゃないか」

「自覚はしてるよ」
「どうして、そんな性格に
 なったんですか?」

「……人と付き合う上での、
 バランスの取り方……とでも
 言えばいいのかな。

 俺は、秘密のない関係ってのは
 築けないたちなんだよ」

「はぁ……」

なんか、響きだけなら危険な雰囲気だけど
肝心の本人からは
危険なオーラを全く感じないなぁ。

これが、千春さんの言ってた
“救いようのない器用貧乏”ってことなのかな。

「はるちゃんは俺の逆でさ。
 秘密のないタイプなんだ。
 表裏がないのに、誰とでも仲良くなれる」

「……でも、最初は苦手意識がありました」

「それは、俺にもあっただろ?」
「え、ええと……それは」

「遠慮しなくていいぜ。
 本人が気づいてるんだし」
「あの……すみません」

「君が最初に苦手意識を抱くのは、
 やかましい人間って事だよ」
「あ、言われてみれば……。
 綾もそうでした」

綾も、聞いてもいないことを
よく話す……私とは
全く違う性格の人間だ。
だけど、気が付いたら友達に……
そして親友になっていた。

「……それは知らなかった」
「知ってたら怖いです。
 知ってる可能性もありますけど」

「そこまでは見てないよ」

「……それで、俺がずるい、って話だったね」
「あ、話を逸らさないんですね」

「まぁ、ね。
 俺は……誰かと
 自分たちだけの秘密を共有することで
 誰かと特別な関係になるのさ。
 例えば、友達とか」

「なんか、やっぱりずるいです」

「そうだろうな。
 言い方を変えれば、弱味を握るってことだし」
「あ、やっぱりずるい」

「でも、俺も君に弱味を握られてたりするんだぜ」
「……え?」

な、何のことだろう……
見当も付かない…。

「君は俺の親友の柊の思い人だし……
 俺の恋人の親友だし……」
「それのどこが弱味なんですか」

「これ以上ない弱味だよ。
 君に嫌われたら、俺は一度に
 恋人と親友を失うんだぜ?

 友達になるとき、友達の友達が
 どんな奴か確認する人がいるだろ?
 俺は、君にとって“いい人”じゃないと
 いけないのさ」

「そんなこと、
 考えたこともありませんでした」

「うん、そうだろうね。
 それが君のいいところだ」

「疲れませんか? そんな生き方」

「さてねぇ。
 ずっとこうしてるから、
 この生き方が疲れるのかどうかさえ
 忘れてしまったな。
 でも、“楽しい”と感じる気持ちの方が上だ。
 それは、間違いない」

「……はぁ」

「いいかい、華菜ちゃん。
 確かに、疲れるのは良くないことだ。
 だが、疲れないのも良くないことなんだよ」

「空山さんって、
 意外と哲学的ですよね」

「意外ってどういう意味だよ!!」
「そのままの意味です」

「…………。
 まぁ、いいや」

「言いたいことは、分かりましたよ?
 ようするに、“適度”が大切ってことで……
 “疲れたけど楽しかった”という気持ちを
 忘れちゃいけない、ってことでしょう?」

「ああ、そうだ。
 俺が面白いと感じるときは、
 大抵、疲れも伴ってる。
 だから、他の時はサボることにしてる」

「なんか、いい話が今ので台無しになりました」

「適度に休むって意味だよ!!」

「……意味は分かるんですけど、
 言い回しで台無しです。
 センスが無いですね、空山さん」

「……やれやれ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。

文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。 父王に一番愛される姫。 ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。 優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。 しかし、彼は居なくなった。 聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。 そして、二年後。 レティシアナは、大国の王の妻となっていた。 ※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。 小説家になろうにも投稿しています。 エールありがとうございます!

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

ロリっ子がおじさんに種付けされる話

オニオン太郎
大衆娯楽
なろうにも投稿した奴です

愛されていないのですね、ではさようなら。

杉本凪咲
恋愛
夫から告げられた冷徹な言葉。 「お前へ愛は存在しない。さっさと消えろ」 私はその言葉を受け入れると夫の元を去り……

【完結】浮気現場を目撃してしまい、婚約者の態度が冷たかった理由を理解しました

紫崎 藍華
恋愛
ネヴィルから幸せにすると誓われタバサは婚約を了承した。 だがそれは過去の話。 今は当時の情熱的な態度が嘘のように冷めた関係になっていた。 ある日、タバサはネヴィルの自宅を訪ね、浮気現場を目撃してしまう。 タバサは冷たい態度を取られている理由を理解した。

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

結婚三年、私たちは既に離婚していますよ?

杉本凪咲
恋愛
離婚しろとパーティー会場で叫ぶ彼。 しかし私は、既に離婚をしていると言葉を返して……

夫が大人しめの男爵令嬢と不倫していました

hana
恋愛
「ノア。お前とは離婚させてもらう」 パーティー会場で叫んだ夫アレンに、私は冷徹に言葉を返す。 「それはこちらのセリフです。あなたを只今から断罪致します」

処理中です...