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第2章:ひとつの未来
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「この先の話は、はるちゃんのテンションで
やるのはどうかと思うけど」
空山さんが言う。
「えー? さすがに真面目に話すよ?
あれを楽しいと思える人間は
いないでしょ」
千春さんがそう言うと、
空山さんは千秋さんの方を見た。
しかし千秋さんは首を横に振り、
話を続けるのは
千春さんのままでいいという意思を示す。
「まぁ、それでいいのなら」
空山さんは不満そうだが、
自分が説明する自信もないらしい。
「華菜ちゃん、綾ちゃん」
千春さんが、私の目を見つめる。
……綾の顔も。
「多分、凄く嫌な気分になると思うけど
許してね?」
「…………?」
私には、その前置きの意味が分からなかった。
「よくわからないので、続けてください」
綾が続きを促す。
「…………」
千春さんは少し黙った後、語り始めた。
あるかもしれない、
実際、どこかではあった……
私たちの事件を。
「回復した柊は、普通に仕事に戻ってきた。
いくつか道具を無くしてたけど、
そんなの報告して申請すればまた貰えるし、
復帰するのには問題ないくらい
健康な姿で戻ってきてくれたのが嬉しかった」
「でも、その2ヶ月後……
この基地にある悪趣味な届け物が来た。
本当に、あれは酷いと思う」
「届いた大きな箱の中には
冷たくなった、
もう目を覚まさない
華菜ちゃんと一輪の菊の花。
それと一枚の紙が入ってた」
……え?
冷たい?
目を、覚まさない?
…………未来の、私が?
まだ22歳の私が?
死ぬにはちょっと、早くない?
「添えられていた紙には
こう書かれてた。
『柊、お前がこの女性を殺したんだ』って」
殺した……
つまり、私が殺された?
私が動揺していると、
綾がそっと、肩に手を掛けてくれた。
「勿論、柊はそんなことはしてないし
華菜ちゃんと何があったのかは
知らないけど、無茶は控えるようになってた」
「私たちは、会ったこともない、
そして永遠に会うことも無いであろう
華菜ちゃんのことも
仲間のように感じていた」
千春さんの声が遠くなっていく。
ああ、私は今……話を冷静に聞けていないな。
向き合わなきゃ。
現実と向き合わなきゃ。
「仕事の合間に、柊は勿論……
私らも、調べた。とにかく調べた。
華菜ちゃんに何があったのか……。
そして、突き止めた」
「…………」
そこで千春さんは、黙り込んでしまって。
「あの……」
しばらく待ってから、
私は続きが知りたいという意思を示した。
「その世界でも、綾ちゃんは失踪する。
失踪した綾ちゃんを捜している華菜ちゃんが
時にさらわれ、放り出され、落ちた先の世界は……」
「そこは……あの…、その……。
……この世界の地表。
人が生きることの出来ない汚染された地」
「それを何者かが回収し
柊への嫌がらせとして……送りつけてきた。
そんな……話」
千春さんの声は暗かった。
死ぬのは私のはずなのに、
千春さんの方が
悲しそうな顔をしているかもしれない。
その場はしばらく、重い沈黙に包まれた。
「あの、その世界の私と華菜って
やっぱり似たような関係で、
そこでも神隠し事件が起きてたんですか?」
綾が沈黙を破る。
他人事じゃないんだよ、綾。
貴女が失踪したって、
千春さんはさっき言っていたよ?
「過去を共有する世界だから、
同じように人は消えまくってるみたいだった」
「じゃあ、どのみち私は失踪するんですね」
「そう…だよ」
千春さんは視線を落とす。
「…………」
私は自分のことを考えるので精一杯で……
このやりとりを、千秋さんが
探るような目で見ていることに、
気づいていなかった。
やるのはどうかと思うけど」
空山さんが言う。
「えー? さすがに真面目に話すよ?
あれを楽しいと思える人間は
いないでしょ」
千春さんがそう言うと、
空山さんは千秋さんの方を見た。
しかし千秋さんは首を横に振り、
話を続けるのは
千春さんのままでいいという意思を示す。
「まぁ、それでいいのなら」
空山さんは不満そうだが、
自分が説明する自信もないらしい。
「華菜ちゃん、綾ちゃん」
千春さんが、私の目を見つめる。
……綾の顔も。
「多分、凄く嫌な気分になると思うけど
許してね?」
「…………?」
私には、その前置きの意味が分からなかった。
「よくわからないので、続けてください」
綾が続きを促す。
「…………」
千春さんは少し黙った後、語り始めた。
あるかもしれない、
実際、どこかではあった……
私たちの事件を。
「回復した柊は、普通に仕事に戻ってきた。
いくつか道具を無くしてたけど、
そんなの報告して申請すればまた貰えるし、
復帰するのには問題ないくらい
健康な姿で戻ってきてくれたのが嬉しかった」
「でも、その2ヶ月後……
この基地にある悪趣味な届け物が来た。
本当に、あれは酷いと思う」
「届いた大きな箱の中には
冷たくなった、
もう目を覚まさない
華菜ちゃんと一輪の菊の花。
それと一枚の紙が入ってた」
……え?
冷たい?
目を、覚まさない?
…………未来の、私が?
まだ22歳の私が?
死ぬにはちょっと、早くない?
「添えられていた紙には
こう書かれてた。
『柊、お前がこの女性を殺したんだ』って」
殺した……
つまり、私が殺された?
私が動揺していると、
綾がそっと、肩に手を掛けてくれた。
「勿論、柊はそんなことはしてないし
華菜ちゃんと何があったのかは
知らないけど、無茶は控えるようになってた」
「私たちは、会ったこともない、
そして永遠に会うことも無いであろう
華菜ちゃんのことも
仲間のように感じていた」
千春さんの声が遠くなっていく。
ああ、私は今……話を冷静に聞けていないな。
向き合わなきゃ。
現実と向き合わなきゃ。
「仕事の合間に、柊は勿論……
私らも、調べた。とにかく調べた。
華菜ちゃんに何があったのか……。
そして、突き止めた」
「…………」
そこで千春さんは、黙り込んでしまって。
「あの……」
しばらく待ってから、
私は続きが知りたいという意思を示した。
「その世界でも、綾ちゃんは失踪する。
失踪した綾ちゃんを捜している華菜ちゃんが
時にさらわれ、放り出され、落ちた先の世界は……」
「そこは……あの…、その……。
……この世界の地表。
人が生きることの出来ない汚染された地」
「それを何者かが回収し
柊への嫌がらせとして……送りつけてきた。
そんな……話」
千春さんの声は暗かった。
死ぬのは私のはずなのに、
千春さんの方が
悲しそうな顔をしているかもしれない。
その場はしばらく、重い沈黙に包まれた。
「あの、その世界の私と華菜って
やっぱり似たような関係で、
そこでも神隠し事件が起きてたんですか?」
綾が沈黙を破る。
他人事じゃないんだよ、綾。
貴女が失踪したって、
千春さんはさっき言っていたよ?
「過去を共有する世界だから、
同じように人は消えまくってるみたいだった」
「じゃあ、どのみち私は失踪するんですね」
「そう…だよ」
千春さんは視線を落とす。
「…………」
私は自分のことを考えるので精一杯で……
このやりとりを、千秋さんが
探るような目で見ていることに、
気づいていなかった。
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