白き時を越えて

蒼(あお)

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第2章:再会

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星川さんは話し始めた。
少し、目を逸らしながら。
「あ、そ、そうなの。
 えぇと……うん。
 綾ちゃんの言ってることは正しいよ。
 時の歪んだ存在は、
 ぶれない存在によって安定する。
 ぶれない存在がいなかったら、
 また時にさらわれてしまう」

「さらわれ……る?」
私は呟いた。
まだ、涙は止まらないけれども。

「うん、さらわれる。
 綾ちゃん達の暮らしてる世界では
 今、神隠し事件で大騒ぎになってるよね?
 それはね、時が人をさらっているから。
 私たちのチームは、
 時にさらわれた人が時に飲まれる前に
 その人の元の世界とか、
 時代に戻す仕事をしてるんだけど……。
 ま、詳しい話は後かなぁ」
星川さんの言うことは、
嘘のよう話で信じたくはなかった。
しかし、学校で聞いたときと違い……
真実を聞かされている気がした。

話を聞いていると身体の奥が熱い。
そう、相手の言葉から
現実味のようなものを感じるのだ。

私も、被害に遭ったからだろうか?

「私たちって運が良いんだよ。
 一斉にさらわれる人を助けるのは、難しいんだって。
 私はたまたま、ひとりの時だったから
 レーダーに反応して、空山さんに助けてもらったの」
綾が微笑む。

「ソラヤマさん?」
「うん、イケメン!!」
そういう事を聞いたつもりはないのだが、
即答するあたりが綾らしくて、懐かしい。

「華菜もひとりだったから、助かったんでしょう?」

……そういえば、あの時、
家には誰もいなかったなぁ。
うちは親が共働きで、
両親が帰ってくるのが遅い日もある。
あの時もそうだった。

「あ、華菜ちゃんは……ちょっと違うんだなー」
そこで、星川さんが話に入り込んできた。
「え、違うんですか?」
「違うんですよ~。
 その辺、ややこしいから
 柊くんと姉さんが帰ってきたら……と
 思ってるんだけど」

「要点だけ言うと、華菜ちゃんが助かったのは
 柊くんのおかげかな?
 時にさらわれそうな人がいる、っていう
 匿名の通報があったんだけどね、
 そんなことをあの時間軸からするのは
 柊くんしかいないんだなー。
 匿名の意味が無いっていうか。
 まぁきっと、本人も分かっててやってるんだろね。
 男って時々、変なことするよねえ」

やっぱり、よく分からない話だ。

「あの」
私は、一番気になることを聞いてみることにした。

「貴女は、星川 千春さんですよね?
 クラスメートの」
そう言うと、星川さんは少し困った顔をした後、笑った。

「ぶっぶー、違いまーす。
 星川 千春は私の姉で、自衛官です。
 私の名前は星川 千秋、
 千春より3つ下の妹ですぅ」
物の言い方が、似ている気もする。
しかし言い回しが違う。

「確かに、中井 綾さんと同じクラス、
 そして歳は17歳の星川 千春という人も
 どこかの世界には存在しているはずだけど
 今、どこにいるかは分からないんだなー。
 あの馬鹿姉が、時にさらわれたから~」
段々、星川さんの笑顔がひきつってきた。
……怒っているようだ。

「やっぱり柊くんが、匿名で姉さんの位置情報を
 教えてくれたんだけど
 その時、動ける人がいなかったんだなー。
 それを悟ってくれたのか、
 柊くんが回収してくれたみたい」

あ、それって……。

「柊! おっそい!! この馬鹿!」
「……誰だ、お前は」
「あんたの捜し人だっちゅーに!!
 わからない!? ほんっとーに分からない!?」

もしかして、あの会話と何か関係があるのかな。


「だから、きっと姉さんと柊くんは
 同時に帰ってくると思うのよ。
 姉さんはひとりじゃ飛べないし、
 華菜ちゃんもここにいることだし、ね」
「私……ですか」
私と柊先生って、
ほとんど何も話したことがないけれど
何か関係があるのかな。

「まぁ、その話は私がすることじゃないから。
 とにかく、私は千秋。
 親しく呼んでくれていいよ~」
星川さんがにっこりしている。

「え、でも……なんだか
 年上に見えてきた、ような……」
学校で会った星川(千春)さんは
子供っぽく見えたけど、
こっちの星川さんは落ち着きがあって、
お姉さんっぽいような気がする。

「老けてるー!?
 やっぱり私、老けてますかー!?
 綾ちゃんも、姉さんは千春さんって呼ぶのに
 私のことは星川さんって呼ぶんだよねー。
 やっぱり老けてるんだー。
 私なんかオバサンだわぁぁぁ」
星川さんが、泣きながら部屋の隅にしゃがみこんで
床にのの字を描いている。

「ああっ、そういうのじゃなくて
 単に区別の問題っていうか……!」

「って、そんなに気にしてたんですか!?
 だったら今から、千秋さんって呼びます私!」
綾が星川(千秋)さんに駆け寄った。
「ちあちゃんでもいいよ~」
「……いえ、千秋さんで」
綾が困っている。
……そう、綾のこういうところに惹かれたんだ。
綾はきっちりしていて、頼りになる。
一緒にいると、安心する。

……私も、千春さん、千秋さんと
呼び分けた方がいいかな。


状況は全く飲み込めないけれど
心はなんだか落ち着いてきた。
きっと、綾と千秋さんのお陰だ。
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