白き時を越えて

蒼(あお)

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第2章:再会

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頭が……痛い。
今、何か見えたような……。

「あ、気がついた?」

星川さんの、声がする……。



目を開くと、知らない場所にいた。
知らない部屋の、
誰のかも分からないベッドの上で。
私は眠っていたらしい。


「意識ははっきりしてる?
 自分の名前は?」
一体なんだと言うのだ。

「……覚えて、ない?」
「時丘 華菜」
心配そうな顔で私を見ている星川さんに、
素っ気ない態度で、私は答えた。

「自分の生まれた国は?」
「日本」

「その首都は?」
「東京」

……それって記憶喪失の人にする
質問の星川さんオリジナル版?
いい加減にして。


「うん、よし。
 問題無さそう。よかった~」
星川さんは、ゆっくりと息を吐く。
安心したようだ。

「ここ、どこ?」
よく覚えていないが、
星川さんのイタズラ電話の最中に
何かに巻き込まれて……
気が付いたら、ここにいた、ということは分かる。

「医務室だけど」
「どこの?」
「自衛隊の」
「……は?」
「だから、海底自衛隊の東部基地の医務室。
 状況が飲み込めないのは分かるけど
 初対面の相手にその態度は
 良くないと思うなぁ。
 私が人さらいだったらどうするのよ」

……人さらい?
そういえば……。


――「逃げて! さらわれるよ!!」

星川さんとの通話で、最後に聞こえたのは
そんな言葉だった気がする。


「ま、いいや。
 話はあとあと。
 柊くんと姉さんが帰ってきたらね」
「……?」
「温かい飲み物を持ってくるから、
 ちょっとここで待ってて」

星川さんは、ふたつに括ったおさげを
ぴょこぴょこと跳ねさせながら
部屋から出て行った。
機嫌が良いのは、後ろ姿を見ればわかる。
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