38 / 66
3.disguise
3.disguise_18
しおりを挟む
「…………っ、すみ、ません。思っていた以上に、取り乱しました」
「気にすることないよ。俺達の方がよっぽど恥晒してきてるって。ね、工藤」
「園田はたまーに意地悪だよなぁ」
「吐き出してスッキリしたら、またケーキ食べてみる? 何か変わるかもしれないし」
「変わらなくても頂きます。不快感もないですし、食べたいです」
「無理はしないでね」
「はい。そういえば、一人で先に頂いてしまいましたね。全員で食べましょう。その方がきっといい」
その言葉には、少しでも状況を変えて挑戦しようという気概が感じられた。
真壁が色々なものを認識できなくなっているのは、自己の半分を否定してしまったことに起因する。
元々の自分を、自分として受け入れること。真壁はそれに対し、少しずつ前向きになっている。けれど記憶が曖昧すぎて、どうしたらいいのか手探り状態なんだろう。
仮面を外した姿は、俺達も数回しか見ていない。けれど印象は強く残っている。あの衝撃をそう簡単には忘れられない。
記憶を手繰る。仮面のない真壁の、真壁らしい行動はなんだったか。
口や態度の悪さのような、表面的な部分ではない。もっと内側。たとえば、数少ない娯楽である映画を、最大限に楽しもうとする姿勢。ビュッフェスタイルで、普段できないような食べ方を考案する遊び心。
楽しまないと損だと、得意気に語っていた。
多くの制限の中で、わずかな娯楽を最大限享受する。それが仮面を外した時の役割。
では、甘味を最大限楽しむなら、どうしていたのか。
ビュッフェの時は、しょっぱいものと交互に食べていた。
パフェの時は、ほかに何かあっただろうか。
「あ……」
それを思い出し、思わず声を漏らした。
隣に座る園田が、俺の分のケーキを皿に乗せながら「どうかしたの?」と疑問を投げる。
「真壁、カフェオレ飲んでたろ」
「はい?」
「パフェの時」
「そうでしたか……? すみません、よく覚えてなくて」
「俺、人間観察は癖の一部だから見てた。好きなのか?」
「えぇと……ブラックは飲めませんから、カフェで頼むならカフェオレだと……あっ!」
真壁も思い出せたようで、ガタッと椅子を退けて立ち上がる。
「そう、でした。頼んでいました。甘いものを食べる時は極力」
飲み物の話になり、工藤もあっと声を上げる。
「そーだ、忘れてた。理科室だから、ビーカーでお湯沸かして淹れようと思ってさぁ。コーヒーとか紅茶とか、ウチにいっぱいあっから持ってきた。好きなの選んでいーよ」
工藤は鞄から個包装されたティーバッグやドリップバッグを取り出し、机に並べていく。ビーカーはすでに隣の机に準備されていた。
真壁はコーヒーをひとつ手に取る。
「さすがに牛乳はないですよね」
「あるよ?」
さらりと園田が言う。ケーキの箱と一緒に持っていた袋から、パックの牛乳を取り出した。
「工藤に頼まれて、ケーキ受け取るついでにコンビニで買ってきた」
「おれ、紅茶シフォンにしたから。ミルクティーとあわせよーと思ってさぁ」
工藤は慣れた手つきでガスバーナーに点火し、お湯を準備し始める。ちゃっかりとミトンまで用意していた。
湯を沸かしているのとは違う空のビーカーを真壁に手渡す。
「これ、ドリップ用のビーカーね」
「大丈夫ですか? 薬品が残っていたり……」
「自前で買ったヤツだから安心安全」
何故そんな買い物をしたのかと問うと「ビーカーカップ麺やりたくてさぁ」という、いかにも工藤らしい回答が返ってきた。思わず笑いが漏れてしまう。
真壁がドリップバッグをビーカーにセットする。その姿もなかなかにシュールだ。真面目な真壁に、実に似合わない。
横から園田が紙コップを人数分配っていく。
「なんだか少し楽しいですね」
「だね。工藤がいなきゃ絶対やんなかったけど」
「えーなんで。夢じゃんビーカーで色々すんの」
「さすが、理科室の鍵盗んでたヤツは言うことが違うな」
「人の情報誌とかノート盗む人に言われたくないですー」
そんな雑談をしていれば、あっというまにカフェオレが完成する。
自分たちの飲み物も用意していく。俺はコーヒーを、園田は紅茶を貰った。
真壁はカフェオレのコップを、確かめるように両手で持つ。すこしだけ啜り、減った分を補うように牛乳を注ぎ足した。少し揺らして混ぜ、再び口を付ける。
そのカフェオレに砂糖は入っていない。甘味と合わせるために、あえて。
「どうだ? しっくりきたか?」
「はい。最大限味わうためには、これが大事なんですよね。覚えています。僕のこと、ですから」
その言葉は、他の誰かに向けられたものではない。
自分自身に話すように、確かめるように言う。
「この小さな積み重ねで自分を……『僕』を保っていたんです。誰も裏切らない、理想を。それが欠けてしまっては、上手くやれなくなるのも当然でしたね。忘れていいはずがなかった」
それに対し、内側から何か返答があったのかは、真壁にしかわからない。
再びフォークをケーキに刺し、ゆっくりと口に運ぶ。
先ほどのように、恐れや緊張は見られなかった。
表情を変えないまま口を動かし、嚥下する。カフェオレを少し啜って、今度は二口目に手を付けた。
一度目より少しだけ大きめに切り分け、食べる。
飲み込むまで、思わず見入ってしまう。
真壁の目尻には、先ほどにはなかった涙が浮かんでいた。
「あ、ま………っ」
言葉と同時に、雫がこぼれ落ちる。
「ばかじゃ、ねーの……っ。こんな高けぇの、用意してくれてさぁ。美味くないわけ、ねーんだよ。ほんと、も……」
思わず立ち上がる。その横を工藤が素早く通り抜け、真壁と距離を詰めた。至近距離でその顔を覗き込む。
「ホント!? ホントのホントに、わかんの!?」
「ちょっ……やめろ、ばか! 顔、見んなってぇ」
泣き顔を見られたくない真壁は一瞬抵抗したが、自分より工藤の方が泣いていることに気づき、驚いた後で少し笑った。
「ひっでぇ顔」
「だって……だってさぁ……!」
「オレ、嘘ついてっか?」
「ついてないから泣いとんの!」
「そっか。じゃ、この甘いの……嘘じゃねぇんだ。ちゃんと、わか……っ、分かって、良かった……」
笑いながら、目尻に溜まっていた涙がまた、ぼろりと零れた。
数ヶ月機能していなかった味覚が、どれだけ正確かは分からない。
だが、どうであろうと、甘いと感じている。
その現実を、ただただ、良かったと思う。
「立川、お手柄だね!」
「こんな癖、役に立つと思ってなか……っ」
「あ、泣きそう? いいよ、泣いちゃお。俺ももう、無理……っ。真壁、ほんと良かったぁ!」
「ちょっ、何だいきなり! ……んがっ!?」
園田は真壁の背後に回り込み、がしっと頭を掴む。そのまま髪をぐしゃぐしゃとかき回した。見ようによっては、乱暴に撫でているようにも見える。
そこに工藤も参戦し、もみくちゃになっていく。
「いや、まっ、マジで何してんだおい!」
「これが何もせずにいられる!?」
「そーだっつーの!」
「だーもー! 買ってきた当人たちが味わう邪魔すんじゃねぇ!!」
ごもっともな反抗に、興奮していた二人はぴたりと動きを止めた。それがまた滑稽で、思わず声を出して笑ってしまう。
二人が固まっている隙に、真壁は再びカフェオレとケーキを交互に口にした。
瞬間、反射的に表情は綻ぶ。
「ふはっ、ふへへへっ、だめだ、キモイ笑い出る。はぁ、もう、マジで美味い」
園田と工藤は再び、良かったと感涙する。真壁はだらしない笑みのまま、二人に挟まれて擽ったそうにしていた。
「さすがに締まりがなさすぎて恥ずいな。切替、切替……」
乱暴にされた時の勢いで少しズレていた眼鏡を直し、こほんと、わざとらしく咳払いをした。
「あまり人が食べるところをジロジロ見ないで頂きたいですね。距離が近いのもご勘弁願いたい」
「おお、久々だなこの感じ」
その切り替わりは、先ほどよりは自然だったが、まだほんの少し演技っぽさが残っていた。
けれど、元々どちらの口調も演技のようなものだ。自分の意思で切り替えて演じ分けるのは、正しい姿とも言える。
「ほら、食べますよ。自分の席に戻って下さい」
真壁に叱られた二人が、つまらなそうに自分のケーキの前に戻っていく。
「そんな顔をされても困ります。これで全員気兼ねなく食べられるでしょう」
「そうだけど……その口調で食べていいの?」
「理想と自分を切り離しすぎるのも良くないと、学びましたから。何事も挑戦です。今は僕を縛るルールもありませんし」
「どっちも真壁だから、いーんじゃね? なーなー、一口ずつ交換せん?」
「やだよ、四人で一口ずつ分けたら半分くらいなくなんだろ。行儀わりぃし」
「真壁おまえ忙しいな」
「げふん……お行儀が悪いですよ。他のものが食べたいなら、また今度買いに行きましょう」
その通りだが、真壁からその案が出てきたことに、三人顔を合わせて笑ってしまった。
気がかりなこともなくなり、ようやく自分のケーキに手を付ける。高いケーキが美味くないはずもなく、普段あまり甘味を食べない俺でも思わず舌鼓を打った。
男子高校生四人、理科室でビーカーを使って飲み物を淹れ、ケーキを貪る。
最初に食べ始めた真壁は、俺達より後に食べ終えた。ようやく感じることのできた味を、時間をかけて噛みしめていた。
「本当に、美味しいです」
仮面をつけた状態なので、姿勢正しく上品に、感情も抑え気味に食べていた。
緩んだ口元だけは、変わっていなかった。
「気にすることないよ。俺達の方がよっぽど恥晒してきてるって。ね、工藤」
「園田はたまーに意地悪だよなぁ」
「吐き出してスッキリしたら、またケーキ食べてみる? 何か変わるかもしれないし」
「変わらなくても頂きます。不快感もないですし、食べたいです」
「無理はしないでね」
「はい。そういえば、一人で先に頂いてしまいましたね。全員で食べましょう。その方がきっといい」
その言葉には、少しでも状況を変えて挑戦しようという気概が感じられた。
真壁が色々なものを認識できなくなっているのは、自己の半分を否定してしまったことに起因する。
元々の自分を、自分として受け入れること。真壁はそれに対し、少しずつ前向きになっている。けれど記憶が曖昧すぎて、どうしたらいいのか手探り状態なんだろう。
仮面を外した姿は、俺達も数回しか見ていない。けれど印象は強く残っている。あの衝撃をそう簡単には忘れられない。
記憶を手繰る。仮面のない真壁の、真壁らしい行動はなんだったか。
口や態度の悪さのような、表面的な部分ではない。もっと内側。たとえば、数少ない娯楽である映画を、最大限に楽しもうとする姿勢。ビュッフェスタイルで、普段できないような食べ方を考案する遊び心。
楽しまないと損だと、得意気に語っていた。
多くの制限の中で、わずかな娯楽を最大限享受する。それが仮面を外した時の役割。
では、甘味を最大限楽しむなら、どうしていたのか。
ビュッフェの時は、しょっぱいものと交互に食べていた。
パフェの時は、ほかに何かあっただろうか。
「あ……」
それを思い出し、思わず声を漏らした。
隣に座る園田が、俺の分のケーキを皿に乗せながら「どうかしたの?」と疑問を投げる。
「真壁、カフェオレ飲んでたろ」
「はい?」
「パフェの時」
「そうでしたか……? すみません、よく覚えてなくて」
「俺、人間観察は癖の一部だから見てた。好きなのか?」
「えぇと……ブラックは飲めませんから、カフェで頼むならカフェオレだと……あっ!」
真壁も思い出せたようで、ガタッと椅子を退けて立ち上がる。
「そう、でした。頼んでいました。甘いものを食べる時は極力」
飲み物の話になり、工藤もあっと声を上げる。
「そーだ、忘れてた。理科室だから、ビーカーでお湯沸かして淹れようと思ってさぁ。コーヒーとか紅茶とか、ウチにいっぱいあっから持ってきた。好きなの選んでいーよ」
工藤は鞄から個包装されたティーバッグやドリップバッグを取り出し、机に並べていく。ビーカーはすでに隣の机に準備されていた。
真壁はコーヒーをひとつ手に取る。
「さすがに牛乳はないですよね」
「あるよ?」
さらりと園田が言う。ケーキの箱と一緒に持っていた袋から、パックの牛乳を取り出した。
「工藤に頼まれて、ケーキ受け取るついでにコンビニで買ってきた」
「おれ、紅茶シフォンにしたから。ミルクティーとあわせよーと思ってさぁ」
工藤は慣れた手つきでガスバーナーに点火し、お湯を準備し始める。ちゃっかりとミトンまで用意していた。
湯を沸かしているのとは違う空のビーカーを真壁に手渡す。
「これ、ドリップ用のビーカーね」
「大丈夫ですか? 薬品が残っていたり……」
「自前で買ったヤツだから安心安全」
何故そんな買い物をしたのかと問うと「ビーカーカップ麺やりたくてさぁ」という、いかにも工藤らしい回答が返ってきた。思わず笑いが漏れてしまう。
真壁がドリップバッグをビーカーにセットする。その姿もなかなかにシュールだ。真面目な真壁に、実に似合わない。
横から園田が紙コップを人数分配っていく。
「なんだか少し楽しいですね」
「だね。工藤がいなきゃ絶対やんなかったけど」
「えーなんで。夢じゃんビーカーで色々すんの」
「さすが、理科室の鍵盗んでたヤツは言うことが違うな」
「人の情報誌とかノート盗む人に言われたくないですー」
そんな雑談をしていれば、あっというまにカフェオレが完成する。
自分たちの飲み物も用意していく。俺はコーヒーを、園田は紅茶を貰った。
真壁はカフェオレのコップを、確かめるように両手で持つ。すこしだけ啜り、減った分を補うように牛乳を注ぎ足した。少し揺らして混ぜ、再び口を付ける。
そのカフェオレに砂糖は入っていない。甘味と合わせるために、あえて。
「どうだ? しっくりきたか?」
「はい。最大限味わうためには、これが大事なんですよね。覚えています。僕のこと、ですから」
その言葉は、他の誰かに向けられたものではない。
自分自身に話すように、確かめるように言う。
「この小さな積み重ねで自分を……『僕』を保っていたんです。誰も裏切らない、理想を。それが欠けてしまっては、上手くやれなくなるのも当然でしたね。忘れていいはずがなかった」
それに対し、内側から何か返答があったのかは、真壁にしかわからない。
再びフォークをケーキに刺し、ゆっくりと口に運ぶ。
先ほどのように、恐れや緊張は見られなかった。
表情を変えないまま口を動かし、嚥下する。カフェオレを少し啜って、今度は二口目に手を付けた。
一度目より少しだけ大きめに切り分け、食べる。
飲み込むまで、思わず見入ってしまう。
真壁の目尻には、先ほどにはなかった涙が浮かんでいた。
「あ、ま………っ」
言葉と同時に、雫がこぼれ落ちる。
「ばかじゃ、ねーの……っ。こんな高けぇの、用意してくれてさぁ。美味くないわけ、ねーんだよ。ほんと、も……」
思わず立ち上がる。その横を工藤が素早く通り抜け、真壁と距離を詰めた。至近距離でその顔を覗き込む。
「ホント!? ホントのホントに、わかんの!?」
「ちょっ……やめろ、ばか! 顔、見んなってぇ」
泣き顔を見られたくない真壁は一瞬抵抗したが、自分より工藤の方が泣いていることに気づき、驚いた後で少し笑った。
「ひっでぇ顔」
「だって……だってさぁ……!」
「オレ、嘘ついてっか?」
「ついてないから泣いとんの!」
「そっか。じゃ、この甘いの……嘘じゃねぇんだ。ちゃんと、わか……っ、分かって、良かった……」
笑いながら、目尻に溜まっていた涙がまた、ぼろりと零れた。
数ヶ月機能していなかった味覚が、どれだけ正確かは分からない。
だが、どうであろうと、甘いと感じている。
その現実を、ただただ、良かったと思う。
「立川、お手柄だね!」
「こんな癖、役に立つと思ってなか……っ」
「あ、泣きそう? いいよ、泣いちゃお。俺ももう、無理……っ。真壁、ほんと良かったぁ!」
「ちょっ、何だいきなり! ……んがっ!?」
園田は真壁の背後に回り込み、がしっと頭を掴む。そのまま髪をぐしゃぐしゃとかき回した。見ようによっては、乱暴に撫でているようにも見える。
そこに工藤も参戦し、もみくちゃになっていく。
「いや、まっ、マジで何してんだおい!」
「これが何もせずにいられる!?」
「そーだっつーの!」
「だーもー! 買ってきた当人たちが味わう邪魔すんじゃねぇ!!」
ごもっともな反抗に、興奮していた二人はぴたりと動きを止めた。それがまた滑稽で、思わず声を出して笑ってしまう。
二人が固まっている隙に、真壁は再びカフェオレとケーキを交互に口にした。
瞬間、反射的に表情は綻ぶ。
「ふはっ、ふへへへっ、だめだ、キモイ笑い出る。はぁ、もう、マジで美味い」
園田と工藤は再び、良かったと感涙する。真壁はだらしない笑みのまま、二人に挟まれて擽ったそうにしていた。
「さすがに締まりがなさすぎて恥ずいな。切替、切替……」
乱暴にされた時の勢いで少しズレていた眼鏡を直し、こほんと、わざとらしく咳払いをした。
「あまり人が食べるところをジロジロ見ないで頂きたいですね。距離が近いのもご勘弁願いたい」
「おお、久々だなこの感じ」
その切り替わりは、先ほどよりは自然だったが、まだほんの少し演技っぽさが残っていた。
けれど、元々どちらの口調も演技のようなものだ。自分の意思で切り替えて演じ分けるのは、正しい姿とも言える。
「ほら、食べますよ。自分の席に戻って下さい」
真壁に叱られた二人が、つまらなそうに自分のケーキの前に戻っていく。
「そんな顔をされても困ります。これで全員気兼ねなく食べられるでしょう」
「そうだけど……その口調で食べていいの?」
「理想と自分を切り離しすぎるのも良くないと、学びましたから。何事も挑戦です。今は僕を縛るルールもありませんし」
「どっちも真壁だから、いーんじゃね? なーなー、一口ずつ交換せん?」
「やだよ、四人で一口ずつ分けたら半分くらいなくなんだろ。行儀わりぃし」
「真壁おまえ忙しいな」
「げふん……お行儀が悪いですよ。他のものが食べたいなら、また今度買いに行きましょう」
その通りだが、真壁からその案が出てきたことに、三人顔を合わせて笑ってしまった。
気がかりなこともなくなり、ようやく自分のケーキに手を付ける。高いケーキが美味くないはずもなく、普段あまり甘味を食べない俺でも思わず舌鼓を打った。
男子高校生四人、理科室でビーカーを使って飲み物を淹れ、ケーキを貪る。
最初に食べ始めた真壁は、俺達より後に食べ終えた。ようやく感じることのできた味を、時間をかけて噛みしめていた。
「本当に、美味しいです」
仮面をつけた状態なので、姿勢正しく上品に、感情も抑え気味に食べていた。
緩んだ口元だけは、変わっていなかった。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
立派な王太子妃~妃の幸せは誰が考えるのか~
矢野りと
恋愛
ある日王太子妃は夫である王太子の不貞の現場を目撃してしまう。愛している夫の裏切りに傷つきながらも、やり直したいと周りに助言を求めるが‥‥。
隠れて不貞を続ける夫を見続けていくうちに壊れていく妻。
周りが気づいた時は何もかも手遅れだった…。
※設定はゆるいです。
伝える前に振られてしまった私の恋
メカ喜楽直人
恋愛
母に連れられて行った王妃様とのお茶会の席を、ひとり抜け出したアーリーンは、幼馴染みと友人たちが歓談する場に出くわす。
そこで、ひとりの令息が婚約をしたのだと話し出した。
【完結】貴方の望み通りに・・・
kana
恋愛
どんなに貴方を望んでも
どんなに貴方を見つめても
どんなに貴方を思っても
だから、
もう貴方を望まない
もう貴方を見つめない
もう貴方のことは忘れる
さようなら
断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
〖完結〗では、婚約解消いたしましょう。
藍川みいな
恋愛
三年婚約しているオリバー殿下は、最近別の女性とばかり一緒にいる。
学園で行われる年に一度のダンスパーティーにも、私ではなくセシリー様を誘っていた。まるで二人が婚約者同士のように思える。
そのダンスパーティーで、オリバー殿下は私を責め、婚約を考え直すと言い出した。
それなら、婚約を解消いたしましょう。
そしてすぐに、婚約者に立候補したいという人が現れて……!?
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話しです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる