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2.lie
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秋が過ごしやすい季節というのは、もう昔の話なのかもしれない。
ついこの間まで「秋とは何か」という暑さだったのに、今日は一転して冷え込んだ。久々に袖を通したブレザーは、こんなにも心許なかったのかと驚く。
「今日さみぃー。自販機まだホットないのにさぁ」
「こういう時、園田の水筒羨ましくなるよな」
「こんな急に寒くなると思ってないから、今日も冷えた麦茶ですー。そろそろ烏龍茶に変えたいなぁ。体育の後はちょうどいいんだけど……あれ?」
昼休み。いつもの空き教室に移動しようとして、園田がごそごそと鞄を漁る。
「水筒がない」
「へ? 今日持ってたじゃん。さっき体育ん時とか」
「更衣室に忘れてきたかも」
男子の着替えなんて教室でいいだろと思うが、うちの学校はそれが許されない。なんでも昔窓から局部晒したアホがいるらしく、校則で禁止になってしまったのだ。
特進にいると実感できないが、うちの学校はそこまで治安の良い方ではない。特進以外の偏差値は高くないし、専門系学科なんて学費を出せば入れると言われるくらいだ。スポーツ推薦枠などもあり、強豪として有名な部活動もいくつかあるが、そういう所ほど悪い噂があったりする。
いじめ、飲酒喫煙、果ては薬物に手を出している生徒がいるとか。もちろん噂だが、意外とガセばかりでないことは、俺が一番よく知っている。
そんな話に比べたら、露出やら更衣室の校則なんて可愛いものだろう。
他の科の生徒はこんな校則守っていないらしいが、俺らはそうもいかない。こんな校則でも、守らなければ学費免除を失う可能性がある。俺と園田にとっては死活問題だ。
「ちょっと見てくる。先食べてて」
「あ、俺もついてく。自販機行きてぇ」
「おれもー」
空き教室に一人でいても暇なのだろう、工藤もぱたぱたとついてくる。すっかり仲良し三人組が板についていた。
なんて、この時は暢気にそんなことを考えていた。
自分たちが『理解できない存在』であることを、すっかり忘れて。
自販機でペットボトルの水を買い、更衣室に入る。
「あったか?」
「んー……」
中では工藤と園田が、着替えのために置かれている棚やカゴを順番に見ていた。
「ないかも。誰か持ってったか、そもそもここじゃないか……」
「忘れ物で届けられてるかもねぇ。今無いと困る?」
「ううん、自販機で済ませるよ。見つからなかったら、仕方ないけど買い替えかな」
「もったいねぇし、見つけたいな」
買った水を飲みながら、園田と工藤では身長的に見辛かっただろう一番上の棚を見ていく。残念ながら水筒らしきものはなさそうだ。
園田は体育の時、ほぼ必ず水筒を持っていく。普段ならペットボトル飲料を買うこともあるが、体育の後では見たことがない。
わりと目立つので、工藤が「いつも水筒、めんどくない?」と聞いたことがある。その時に「めんどくさいんだけど、色々ね」と誤魔化していたので、追及はしなかった。
今日は他に移動するような授業はなかった。工藤の言う通り、誰かが忘れ物として職員に届けた可能性が高いだろう。
「いったん職員室とか……おわっ!?」
「わぶっ」
すぐ後ろに園田が立っていたことに気づかず、思いっきりぶつかった。
開いたままのペットボトルが手から離れてしまい、中身がばしゃりと園田にかかる。
「うわっ!? わ、悪い!」
床に落ちたペットボトルを慌てて拾い、園田の方へ向き直る。
ぶつかった襲撃のせいか、園田は床に座り込んでいた。俯いていて、その顔色は見えない。
「園田、大丈夫か? 立て――」
髪からぽたぽたと水が滴り、ブレザーも肩のあたりが変色している。身体はかたかたと震えていた。
最初は今日が冷えるせいだと思った。
しかし、すぐにそれが勘違いだと気づかされる。
立ち上がらせようと差し伸べた手が、バシンと音を立てて叩かれた。
「…………え」
乾いた音。
遅れて、叩かれたと理解する。理解した後で、じんとした痛みを感じた。
何が起こったのか、わからない。
わからないまま、もう一度手を貸さないとと思った。
しかし、できなかった。園田の様子があまりにも異様だったから。
園田は目を見開いて、胸のあたりを掻きむしるようにシャツを握りしめる。開きっぱなしになった口からは、ひゅうひゅうと荒い呼吸音が響いていた。
苦しそう、なんて言葉では言い表せない。
園田の視線は俺をとらえていない。瞳孔が開き、ぐらぐらと揺れている。ここには居ない何かを探すように。何かに、怯えるように。
側に立っている工藤も、状況を理解できずに茫然としていた。
どうにかしないとと思うのに、どうすればいいのかわからない。
やがて園田の荒い息は、少しずつ音が混じり、悲痛なうめき声に変わる。
「うぁ、あぁぁっ! ふぅ、……ッ! はぁっ、あ、あ゛っ!」
「そ、のだ……」
「ヒッ――――!!」
小さな悲鳴。
ほんの少し近づこうとしただけで、園田は怯え切った様子で後ずさり、バッと口元を手でおさえた。
「う、ぶ……っ!? おぇ、えぇっ! か、はっ、うぇ、え゛っ! げほっ、ごほごほっ」
押さえている手の間から、ぼたぼたと液体がこぼれ落ちる。
園田は身体を痙攣させ、ひたすらに嘔吐と咳を繰り返す。食事前なので、出せるものは胃液しかない。
側に寄ってやりたいのに、身体を動かすだけで怯えられてしまう。
なんだ、これ。
なんでこんなことになってる。
俺が、何を……?
「立川、それ捨てろ! ペットボトル!」
「……っ!?」
工藤の声にはっとする。ほとんど反射で、持っていたペットボトルを見えない場所に放り捨てた。
いつの間にか工藤が園田に寄り添い、背中をさすっている。
「はぁっ、はぁ……っ! ぅ、ぇ……っ、はぁ……っ、かふっ」
しばらくすると、荒かった呼吸が少しだけ落ち着いてくる。しかし身体の震えが止まる様子はなかった。
怯えもあるだろうが、今日は気温も低い。水をかぶったままでは、体温は奪われる一方だろう。
自分のブレザーを脱ぎ、工藤に渡す。さっきのように園田が逃げることはなかった。
アレは俺に対してではなく、持っていたペットボトルが原因だったのか……?
「園田、上脱げる? 風邪ひいちゃうから」
「…………」
園田は弱々しく頷き、よろよろとブレザーのボタンに手をかける。
「工藤、一旦任せていいか? 保健室でタオルとか借りてくる」
工藤が頷くのを確認して、更衣室を後にした。
その後、園田は保健室へ連れて行かれることになった。
タオルを借りるために訪れた保健室で事情を説明したら、養護教諭が血相変えて駆けつけてしまったのだ。
養護教諭はすぐに数人の教師を集め、立ち上がることもままならない園田を抱えて運んでいった。
早すぎる対応に焦ったが、ちゃんと容体を見てくれるなら、任せた方がいいだろう。事を大きくすることを園田は望まなかっただろうが、あんな状態で放置することはできない。
今は工藤と二人、誰もいなくなった更衣室の掃除をしている。
「工藤、よく気づいたな」
「んぁ?」
「ペットボトル」
「あれか。勘だったけどねぇ。園田、いっつも水筒だったし」
「だよな。ちょっと考えれば気づけたのに……」
「立川は真正面にいたし、むずいっしょ。おれは横から見てたから、気づきやすかっただけじゃん?」
普段の園田からは想像できないほど取り乱した姿。それを目の当たりにして、冷静でいられるわけがなかった。
園田は自分の領域に立ち入られそうになると、強く拒絶する。怒りや憎しみのような感情を垣間見せて。真っ向から、立ち向かうような姿勢で。
それが……あんな、怯え切った悲痛な姿……。
抱える事情に深入りするのを避けてきた。それが園田のため、互いのために正しいと思っていた。
今はもう、よくわからない。
何があったら、ペットボトルの水をかぶっただけで吐くほど怯えてしまうのか。
きっとこれが、園田の『他人には理解できない領域』。
理解できないから、聞かない。それが正解なのだろうか。
何も知らないから、何もできなかったんじゃないのか。
「ね、掃除終わったらさ、五限さぼってお見舞い行かん?」
「はぁ? そりゃ行きたいけど……」
「おれら飯食えてねーし、さとちゃん先生に説明したら許してくれると思うんだよね。それに、ちょいと気になることもあるし」
「気になること?」
「保健のせんせ。園田連れてったとき、なんか変だった」
「え」
「原因が分からないから連れてって診察するって言ってたけど、ちょっと嘘っぽかった」
想像していなかったことを言われ、焦りから鼓動が早まる。
「いや、言ってることはホントなんだろーけど。なんだろう、微妙に嘘混じってる感じ? 実は原因に心当たりがあんのかなぁ?」
「それは……考えづらくないか?」
ペットボトルというハッキリとしたトリガーがあった。園田は普段からそれを避けて水筒を持ってきていたし、理由を聞いても誤魔化していた。十中八九、過去やトラウマに起因するだろう。
園田の事情は、おそらく担任の佐藤先生ですら知らない。養護教諭が何か知っているとは思えない。
工藤も同じ考えに至っているようで、うーんと腕を組んで唸っている。
さっきから、わからないことだらけだ。頭が重くなってくる。
こういう時は、ひとつずつ探っていくしかない。
「できるなら、園田と話そう。今からがダメって言われたら、放課後だな」
「そーこなくっちゃ!」
「園田が言わないことは聞かないとして……保健室で何話したかあたりは探りたいな」
「おれがいれば、誤魔化しも通用せんしね」
胡散臭いと思っていた工藤が、今は誰よりも頼りになる。
降り懸かる火の粉はなんとやら。
どうしたいかは、違和感や疑問の正体を突き止めた後で決めればいい。
ついこの間まで「秋とは何か」という暑さだったのに、今日は一転して冷え込んだ。久々に袖を通したブレザーは、こんなにも心許なかったのかと驚く。
「今日さみぃー。自販機まだホットないのにさぁ」
「こういう時、園田の水筒羨ましくなるよな」
「こんな急に寒くなると思ってないから、今日も冷えた麦茶ですー。そろそろ烏龍茶に変えたいなぁ。体育の後はちょうどいいんだけど……あれ?」
昼休み。いつもの空き教室に移動しようとして、園田がごそごそと鞄を漁る。
「水筒がない」
「へ? 今日持ってたじゃん。さっき体育ん時とか」
「更衣室に忘れてきたかも」
男子の着替えなんて教室でいいだろと思うが、うちの学校はそれが許されない。なんでも昔窓から局部晒したアホがいるらしく、校則で禁止になってしまったのだ。
特進にいると実感できないが、うちの学校はそこまで治安の良い方ではない。特進以外の偏差値は高くないし、専門系学科なんて学費を出せば入れると言われるくらいだ。スポーツ推薦枠などもあり、強豪として有名な部活動もいくつかあるが、そういう所ほど悪い噂があったりする。
いじめ、飲酒喫煙、果ては薬物に手を出している生徒がいるとか。もちろん噂だが、意外とガセばかりでないことは、俺が一番よく知っている。
そんな話に比べたら、露出やら更衣室の校則なんて可愛いものだろう。
他の科の生徒はこんな校則守っていないらしいが、俺らはそうもいかない。こんな校則でも、守らなければ学費免除を失う可能性がある。俺と園田にとっては死活問題だ。
「ちょっと見てくる。先食べてて」
「あ、俺もついてく。自販機行きてぇ」
「おれもー」
空き教室に一人でいても暇なのだろう、工藤もぱたぱたとついてくる。すっかり仲良し三人組が板についていた。
なんて、この時は暢気にそんなことを考えていた。
自分たちが『理解できない存在』であることを、すっかり忘れて。
自販機でペットボトルの水を買い、更衣室に入る。
「あったか?」
「んー……」
中では工藤と園田が、着替えのために置かれている棚やカゴを順番に見ていた。
「ないかも。誰か持ってったか、そもそもここじゃないか……」
「忘れ物で届けられてるかもねぇ。今無いと困る?」
「ううん、自販機で済ませるよ。見つからなかったら、仕方ないけど買い替えかな」
「もったいねぇし、見つけたいな」
買った水を飲みながら、園田と工藤では身長的に見辛かっただろう一番上の棚を見ていく。残念ながら水筒らしきものはなさそうだ。
園田は体育の時、ほぼ必ず水筒を持っていく。普段ならペットボトル飲料を買うこともあるが、体育の後では見たことがない。
わりと目立つので、工藤が「いつも水筒、めんどくない?」と聞いたことがある。その時に「めんどくさいんだけど、色々ね」と誤魔化していたので、追及はしなかった。
今日は他に移動するような授業はなかった。工藤の言う通り、誰かが忘れ物として職員に届けた可能性が高いだろう。
「いったん職員室とか……おわっ!?」
「わぶっ」
すぐ後ろに園田が立っていたことに気づかず、思いっきりぶつかった。
開いたままのペットボトルが手から離れてしまい、中身がばしゃりと園田にかかる。
「うわっ!? わ、悪い!」
床に落ちたペットボトルを慌てて拾い、園田の方へ向き直る。
ぶつかった襲撃のせいか、園田は床に座り込んでいた。俯いていて、その顔色は見えない。
「園田、大丈夫か? 立て――」
髪からぽたぽたと水が滴り、ブレザーも肩のあたりが変色している。身体はかたかたと震えていた。
最初は今日が冷えるせいだと思った。
しかし、すぐにそれが勘違いだと気づかされる。
立ち上がらせようと差し伸べた手が、バシンと音を立てて叩かれた。
「…………え」
乾いた音。
遅れて、叩かれたと理解する。理解した後で、じんとした痛みを感じた。
何が起こったのか、わからない。
わからないまま、もう一度手を貸さないとと思った。
しかし、できなかった。園田の様子があまりにも異様だったから。
園田は目を見開いて、胸のあたりを掻きむしるようにシャツを握りしめる。開きっぱなしになった口からは、ひゅうひゅうと荒い呼吸音が響いていた。
苦しそう、なんて言葉では言い表せない。
園田の視線は俺をとらえていない。瞳孔が開き、ぐらぐらと揺れている。ここには居ない何かを探すように。何かに、怯えるように。
側に立っている工藤も、状況を理解できずに茫然としていた。
どうにかしないとと思うのに、どうすればいいのかわからない。
やがて園田の荒い息は、少しずつ音が混じり、悲痛なうめき声に変わる。
「うぁ、あぁぁっ! ふぅ、……ッ! はぁっ、あ、あ゛っ!」
「そ、のだ……」
「ヒッ――――!!」
小さな悲鳴。
ほんの少し近づこうとしただけで、園田は怯え切った様子で後ずさり、バッと口元を手でおさえた。
「う、ぶ……っ!? おぇ、えぇっ! か、はっ、うぇ、え゛っ! げほっ、ごほごほっ」
押さえている手の間から、ぼたぼたと液体がこぼれ落ちる。
園田は身体を痙攣させ、ひたすらに嘔吐と咳を繰り返す。食事前なので、出せるものは胃液しかない。
側に寄ってやりたいのに、身体を動かすだけで怯えられてしまう。
なんだ、これ。
なんでこんなことになってる。
俺が、何を……?
「立川、それ捨てろ! ペットボトル!」
「……っ!?」
工藤の声にはっとする。ほとんど反射で、持っていたペットボトルを見えない場所に放り捨てた。
いつの間にか工藤が園田に寄り添い、背中をさすっている。
「はぁっ、はぁ……っ! ぅ、ぇ……っ、はぁ……っ、かふっ」
しばらくすると、荒かった呼吸が少しだけ落ち着いてくる。しかし身体の震えが止まる様子はなかった。
怯えもあるだろうが、今日は気温も低い。水をかぶったままでは、体温は奪われる一方だろう。
自分のブレザーを脱ぎ、工藤に渡す。さっきのように園田が逃げることはなかった。
アレは俺に対してではなく、持っていたペットボトルが原因だったのか……?
「園田、上脱げる? 風邪ひいちゃうから」
「…………」
園田は弱々しく頷き、よろよろとブレザーのボタンに手をかける。
「工藤、一旦任せていいか? 保健室でタオルとか借りてくる」
工藤が頷くのを確認して、更衣室を後にした。
その後、園田は保健室へ連れて行かれることになった。
タオルを借りるために訪れた保健室で事情を説明したら、養護教諭が血相変えて駆けつけてしまったのだ。
養護教諭はすぐに数人の教師を集め、立ち上がることもままならない園田を抱えて運んでいった。
早すぎる対応に焦ったが、ちゃんと容体を見てくれるなら、任せた方がいいだろう。事を大きくすることを園田は望まなかっただろうが、あんな状態で放置することはできない。
今は工藤と二人、誰もいなくなった更衣室の掃除をしている。
「工藤、よく気づいたな」
「んぁ?」
「ペットボトル」
「あれか。勘だったけどねぇ。園田、いっつも水筒だったし」
「だよな。ちょっと考えれば気づけたのに……」
「立川は真正面にいたし、むずいっしょ。おれは横から見てたから、気づきやすかっただけじゃん?」
普段の園田からは想像できないほど取り乱した姿。それを目の当たりにして、冷静でいられるわけがなかった。
園田は自分の領域に立ち入られそうになると、強く拒絶する。怒りや憎しみのような感情を垣間見せて。真っ向から、立ち向かうような姿勢で。
それが……あんな、怯え切った悲痛な姿……。
抱える事情に深入りするのを避けてきた。それが園田のため、互いのために正しいと思っていた。
今はもう、よくわからない。
何があったら、ペットボトルの水をかぶっただけで吐くほど怯えてしまうのか。
きっとこれが、園田の『他人には理解できない領域』。
理解できないから、聞かない。それが正解なのだろうか。
何も知らないから、何もできなかったんじゃないのか。
「ね、掃除終わったらさ、五限さぼってお見舞い行かん?」
「はぁ? そりゃ行きたいけど……」
「おれら飯食えてねーし、さとちゃん先生に説明したら許してくれると思うんだよね。それに、ちょいと気になることもあるし」
「気になること?」
「保健のせんせ。園田連れてったとき、なんか変だった」
「え」
「原因が分からないから連れてって診察するって言ってたけど、ちょっと嘘っぽかった」
想像していなかったことを言われ、焦りから鼓動が早まる。
「いや、言ってることはホントなんだろーけど。なんだろう、微妙に嘘混じってる感じ? 実は原因に心当たりがあんのかなぁ?」
「それは……考えづらくないか?」
ペットボトルというハッキリとしたトリガーがあった。園田は普段からそれを避けて水筒を持ってきていたし、理由を聞いても誤魔化していた。十中八九、過去やトラウマに起因するだろう。
園田の事情は、おそらく担任の佐藤先生ですら知らない。養護教諭が何か知っているとは思えない。
工藤も同じ考えに至っているようで、うーんと腕を組んで唸っている。
さっきから、わからないことだらけだ。頭が重くなってくる。
こういう時は、ひとつずつ探っていくしかない。
「できるなら、園田と話そう。今からがダメって言われたら、放課後だな」
「そーこなくっちゃ!」
「園田が言わないことは聞かないとして……保健室で何話したかあたりは探りたいな」
「おれがいれば、誤魔化しも通用せんしね」
胡散臭いと思っていた工藤が、今は誰よりも頼りになる。
降り懸かる火の粉はなんとやら。
どうしたいかは、違和感や疑問の正体を突き止めた後で決めればいい。
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