最弱悪役令嬢に捧ぐ

クロタ

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第48話 ノーティオの遺物

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 ………………………………………………。
 …………………………………え、る。
 …………………聞こ、える。

 無音だった世界に音が戻った。
 次いで、光………。

 視界に映るのは魔界の風景。
 地獄でもない代わりに、事態が好転したわけでもないらしい。

 それにしても、俺は生きてるのか?
 音や光は感じるけれど、手足が動かない。
 指先の感触がない。
 やっぱり死んじゃったのか? 俺…………。

「———素晴らしい。異世界の者の魂は何と頑丈なことか! 人としての体をなすためだけの魂が、あれだけ破壊されてもまだ存在するとは」

 この声は魔王——フィデス・パルマだ。
 視界に彼の姿が映る。何か興奮しているようだ。

 俺は多分、コイツに捕まっている。
 だけど触られている感触はあるのに、身体のどの部分を掴まれてるのか分からない。
 どういうことだ。
 動こうとしても動けない。
 俺は、俺の身体は一体どうなってるんだ!?

「ああ、自らの姿は見えぬか。コスタ、鏡を」
「はっ、ここに」
 俺の思考が魔王に筒抜けになってる!?
 声を出そうとして、声帯どころか口がないのに気がついた。

「さあ、名も知らぬ異世界の者よ。己の——フィリアの真の姿を見るが良い」


 ———これが、フィリア? 嘘だろ?

 鏡に映された俺———フィリアの姿は、針のような剣だった。

 剣というには鍔はなく、魔王は針穴のような持ち手に手をかけて、俺を支えていた。
 これが、最弱悪役令嬢の正体……?
 現実を目の当たりにしても、俺は驚愕するより困惑していた。

「どうだ、美しいだろう。フィリア」

 陶然と囁き、俺の身体——刀身に魔王は指を這わせる。
 鋭い刃が魔王の指を切り裂くが、己の血すら美酒のように彼は舐めた。

「魔具を人間のように繁殖させるなど、あの男も酷なことを考える。せめて感情のない生物なら良かったのに……ああ、だから魔具に変化する時、心を壊すのか。せめてもの慈悲として」

 俺は腹が立った。
 フィリアの心が壊れた理由が魔王の憶測どおりなら、どんなに偉大な魔法使いと言われようと、ノーティオはクソ野郎だ。

「勇ましいものだな。だがその強気がいつまで続くか……いっそ壊してくれと懇願するようになるだろう」

 おい、俺に何をするつもりだ。
 いや———何をさせるつもりだ。

 そういえばフィリアの父——ウィルガが話していた『世界すら裁ち切る魔剣』って、まさか———!?

「察しが良くて助かる。さあ行くぞ。世界の境界を壊しに!」

 ぶわりと、魔王の漆黒の翼が広がった。
 羽ばたき一つでグンと地上が遠去かる。反対に、どんよりと澱んだ色をした空が間近に迫る。

 グングン上昇した先には、空いっぱいに暗闇が広がっていた。
 今の俺に皮膚はないが、ここがとても寒い空間だということは感じられた。

 ニヤリと魔王フィデスは笑うと、俺——剣を振り上げ、思いっ切り空に叩きつけた。

 ドゥゥゥンッッッッッッッ!!!

 痛みはないが凄まじい衝撃が俺を襲う。
 その俺を握る魔王の手にも衝撃は伝わっているだろうに、構わず再度叩きつける。
 衝撃と共に、今度は何かが壊れる感触があった。
 まさか、これって———

「『結界』だ」

 魔王は二度目の攻撃で出来た空のひび割れに、俺を捻り込み、力任せに切り裂いた。

 キィィィィイィイッッ!!

 暗闇に大きな裂け目が出来、光が差し込んだ。
 青空だ。
 本当に魔王が——いや、俺が結界を壊してしまったのか!?

 魔王フィデスは一瞬だけ目をすがめた後、
「さあ、お望みの地上に出たぞ、フィリア。お前たちも、ついてくるが良い!」
 後半は足元に向かって叫んだ。

 足元——魔界の地面に意識を向けて、俺はギョッとした。
 今までどこに隠れていたのか、物凄い数の翼を持つ魔物たちが上がってきている。さらに翼を持たないものまで、同じ魔物を踏み台にして上へ上へと登ってくる。さながら魔物で作られた塔のようだ。

 この数の魔物が全部、上の世界に放たれたら———

「だから宴と言っただろう。フィリア、お前に一番近くで世界の終わりを見せてやろう」

 そう、うっそりと魔王が笑った。


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