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瘴気の渦の終盤の戦いーヴァレリー視点ー

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 トウヤ達が漫画喫茶で楽しんだ次の日ーーー

 俺の予想通り瘴気の渦が薄くなり、魔物が出現する数も減り出してはきた。

 「そろそろだな」

 「ああ、瘴気の渦が最後の足掻きをしてくるか」

 ディグラン様とカレッド殿下が腕を組みながら、ジッとその時を見極めている。

 最終日ともなり、両国から精鋭が集められる今日。何故なら最終日こそ、最も危険な魔物が瘴気の渦から生み出されるからだ。

 そして現在パラパラと生み出される魔物を蹴散らしているのは、牙狼部隊の白狼ワイルという奴だな。

 何故か今、奴が一人で戦い牙狼部隊が周りを固めるという妙な編成で討伐が行われている。

 「スタッグ。何故、あの白狼一人で戦っているんだ?」

 「ああ、どうやら昨日護衛中に、あの白狼がシン様に手を出したらしいですよ?って言っても抱き上げただけですけどね。それでカレッド殿下の為に、牙狼部隊の面々があの白狼に制裁を与えているんだとか。まあ、ただ単に面白がってやらせているようなモノですけど」

 「そうだな。大事にならないように後援はしているようだからな。……だが、あの白狼なかなかやるな……!」

 「そりゃそうでしょう。なんせ、副隊長のイゲルの次に腕の立つ団員らしいですよ?なんでも、長年シン様を思い続けて、カレッド殿下に宣戦布告を出している強者ですから」

 「カレッド殿下のあの話か……!確かに転移者が自分の隣にいる事が当たり前にならない為とはいえ、カレッド殿下は懐がデカい……」

 「あー、団長には出来なそうですもんね。なんか真似をする団員をことごとくズタボロにするくらいですし」

 「当然だ。俺は施政者じゃなくて、一般人だからな。そんな事する必要はあるまい」

 「ハイハイ。お、最後の魔物を倒したみたいですね。うわあ、アイツ息も切らしてない……!」

 あの白狼……素早く綺麗な動きで危なげもなく倒す手腕は、確かに凄い人材だ。だが、まだまだ鍛え甲斐がありそうだがな。

 「ディグラン!」
 「ああ!」

 っ!……カレッド殿下とディグラン様が動き出したか……!

 「全員一旦離れろ!」

 カレッド殿下の号令で一斉に引く牙狼部隊の横で、途端に瘴気の渦がギュルルルル……!と不気味な音を出して小さくなっていく。そして、ドオオオオン!という地を震わせる爆発音と共に瘴気の渦が消え去った時ーーーーー

 「「「ギャオオオオオオオオン!!!」」」

 ドシンッと大きな振動と共に現れた三匹の大型ドラゴン。瘴気の渦が生み出しただけあって、真っ黒な姿で獰猛な叫び声をあげて襲いかかって来た!

 「カレッド!一匹は任せるぞ!ヴァレリー、スタッグ、俺と共に来い!もう一匹はフェザーラプラス部隊に任せる!いいか!一人も欠けるな!全員トオヤの言葉を思い出せ!」

 すぐ様、指示を出すディグラン様。その声に両国から力強い雄叫びが上がり、俺もディグラン様の後を追う。

 「ヴァレリー!一旦三匹を分断させる!まず一匹引きつけろ!」

 「御意!」

 俺も本気の戦闘モードに切り替えて、左サイドの一匹に向かって走り出す。

 本気を出せば、俺の速さになかなか付いて来れる奴はいない。その速さでドラゴンの身体も駆け上がり、左目を一閃する。

 「グギャアアアアアアアアア!」

 そのまま俺が怒り出したドラゴンの標的になり、その場から離れた場所へと誘き寄せる。

 「スタッグ!足を狙え!」

 「ハッ!」

 先に誘導地へと到着していたスタッグが、自慢の大剣を担ぎこちらに向かって走り出す。その様子に、俺とスタッグを一度に攻撃しようとしたドラゴンが、走りながら口の中で炎を作り出そうとした瞬間……!

 ディグラン様が跳躍し、魔弾をドラゴンの口の中にへ投げ入れる。即座にドオオオン!とドラゴンの口の中で爆発が起こり、奴が痛みの「ギャオオオオ!」と叫び声を上げる。

 「よそ見は禁物ですよ!」

 その隙に足元まで近づくスタッグ。力においては我が軍で1番のスタッグの攻撃は重い。そのスタッグの一閃は硬いドラゴンの鱗も切断し、大剣を足の中心部までくい込ませそのまま振り切る。

 スタッグの攻撃に叫び声をあげ、バランスを崩しながらもドラゴンの尻尾が着地したばかりのディグラン様に狙いをつけた。

 「グオオオオオオオオ!」

 そこは、すかさず王家の咆哮の能力を出し、障壁を作り出すディグラン様。力はドラゴンの方が優ったのか障壁が割れたが、すぐに後ろへ跳躍をし攻撃を振り切ったディグラン様が、再び咆哮を上げる。

 「ガオオオオオオオオオオオオオオン!」

 かなりの魔力を込めたのだろう。ドラゴンの動きを静止させるほど王家の咆哮を放ったディグラン様。

 「流石!王太子!」

 その隙を逃さず俺はドラゴンの喉元まで駆け上がり、ドラゴンの弱点である逆鱗に自慢の愛剣を突き立てる。

 「ギャオオオオ!!」

 弱点をつかれてもすぐには倒れないドラゴンは、ディグラン様の力をも振り払い、最後の足掻きをしだした。

 俺は振り落とされないように剣に力と魔力を込め、しばらく突き立てることで、ようやくドオオオオン!っと地に横たわるドラゴン。

 ……よし!まずは一匹!

 仕留めたと確信したと同時に、ドオオオオン!っと右側でもドラゴンが倒れた音と振動が響く。

 見ると、最後はラクーンが止めを刺したらしい。カレッド殿下側も、損傷最小限でドラゴンを討伐できたらしい。

 「流石、ヴァレリー!」
 「ディグラン様こそ素晴らしい動きでした」
 
 周囲の動向に気を張りつつ、ドラゴンの息の根を確認する俺の側にディグラン様が近づく。どうやらスタッグはそのまま未だ戦い続ける両軍のドラゴンの下へ走って行ったらしい。

 俺は周囲に気を張りつつ、ディグラン様とその戦いを観戦する事にした。

 「どうやらウチは黒豹のサイルチームが目立つな」

 「アイツらは確実に実力をつけているからな」

 二人になった事で口調を普段使いに戻し、ディグラン様に同意する。それに見たところ、牙狼部隊での連携もまた目を張るモノがあった。

 そして遂に、もう一匹のドラゴンも最後の雄叫びをあげて、ドオオオオンと地に横絶えた。

 最後はウチのサイルと狼獣人のゲイツという奴で止めを刺したらしいな。だが、何やらおかしげな言葉を叫びながら向かっていく様子が見えたが……?

 「……なあ、ヴァレリー。牙狼部隊側が言っていた『獣人戦隊ファイブレンジャー』とはなんだ?」

 ディグラン様も不思議に思ったのだろう。何やら息絶えたドラゴンの前で、ポーズを作る団員達が一定数いたからなぁ。

 「ああ、クレッシェルド国側の転移者が、護衛の時に奴らに見せているモノらしい。どうやらあちらでは流行っているようだ」

 ……昨日トオヤが言っていたアレの事だろう。

 『すっげー笑ったんだ!今度ヴァレリーにも見せてみたい!』

 昨日帰ったら、上機嫌で抱きついてきたトオヤ。その顔は本当に楽しかったからか上気したままで正直言ってグッときたが、同時に俺がその場にいなかったのが残念でならなかった。

 ……アイツらもその場に居たな……!

 よく見ると、牙狼部隊の面々とウチの部隊の三人程が一緒になって馬鹿をやっているのが見える。

 マークにフォルにサッドか……!アイツらに、トウヤの詳しい話を聞き出さなければな。

 大声をあげて喜ぶ団員達の元へディグラン様と歩きながら、今日帰った後の合同祝勝会の時に問いただす事を思いに止める俺。
 
 「よお、ディグラン。お互い無事で何よりだ」

 そうして勝利の余韻に浸っていると、カレッド殿下がラクーン団長を連れてディグラン様の側に歩いてきた。

 「ふざけるな、俺がこの面子で怪我をするかよ。……だが、まずは乗り切れた事を祝おう。そして、そちらの方は、死傷者は出たか?」

 「それこそ馬鹿にするな。……まあ、今回の褒賞が聞いたんだろう。皆の士気が高かったのには礼をいうぞ」

 「素直に最初からそれを言ったらどうだ?」

 「ふん!お前に借りなんぞ作りたくなかったがな。……いや、今回はトオヤに借りを作るのであって、お前の国ではなかったな」

 「全く……!どこまでもカレッドはカレッドか」

 言葉では諍いあっていても国と王太子としての責任は、両殿下共に同じくらい重くのしかかっていたのだろう。今は晴れ晴れとした表情で同時に手を出して、力強く握手を交わす。

 そんな殿下達をみて頷いていたラクーンが、今度は両国の団員達に向けて声を上げる。

 「さーあ!お楽しみの時間だぜーー!!帰ったら祝勝会だああ!お前らしっかり腹すかせておけよー!なんせトオヤ様とシン様が合同で用意してくれているんだ!その為に、最後まで気を抜くなよーーー!」

 ラクーンの言葉に、団員達から更に大きな雄叫びと歓声が上がる。

 トオヤ達主催の祝勝会か……!

 楽しそうに後始末に動き出す団員達。俺もまた楽しみにしていたらしい。尻尾が思わず上がってしまった。

 まあ、俺はトオヤが入ればどこだって楽しいがな。

   ーーーーーーーー
 いつもアクセスありがとうございます!
今回の瘴気の渦編はヴァレリー視点で締めたいと思い、ちょっと主人公どこいった感がありますがご了承ください。さあて、次回からは両国合同祝勝会です!ここでリクエストをまた含ませて頂きます。
という事でまた明日、夕方更新です!
 
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