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留守番のトオヤ達[美香月さん!リクエストありがとうございます!『アミューズメントパーク』『犬獣人視点』]その弐
しおりを挟む ー牙狼部隊 シベリア狼獣人 ワイル視点ー
この先の予想がつかない線路。自分が動くよりも速度が速く、身動きの出来ない不安。
バリバリバリバリ!という風の音と、レールを走るゴオォオオオという恐怖を煽る音がピタッと止まった瞬間ーーー
「「ッッッッギャアアアアアアアアア!!!!」」
「おおーー!すっげぇ!」
ゲイツとキリヤの絶叫も相まって、高揚感が高まる俺。
急降下に二回転、そしてこの遊具の最高潮!きりもみに入った時の目の前にいる二人の反応ったら……!俺は一人高笑いをし、速度を楽しみ、景色を楽しみ、同僚の反応に終始笑っていた。
ーーーガコンッ!シュゥゥゥゥゥ………
「お疲れー!」
「お、良い感じに仕上がってるな!」
「なんだよ……!ワイルの奴余裕かよ」
「おお!流石ワイル!次行けるな!」
セレリオ国側の虎獣人マークと豹獣人ホグに迎えられ、ガタンゴトンと乗降口へと戻って来た俺達。ピューマ獣人のサッドには悪いが、これくらいじゃ俺は絶叫なんぞする筈がない。
だが、ジャガー獣人のフォルよ。お前、前の席に座っている奴らの顔色も見てやってくれ。俺はまあ、行けるだろうが……
「やっぱり1番はこの『アミューズメントパーク・クガ』の顔から味わうのが礼儀だよなぁ!」
カンカンカン……と階段を降りて地上に向かう俺達に、マークが自慢気に語りかけてくる。ゲイツとキリヤに至っては無言のままだった為、仕方なく俺が返事をする。
「まあ、面白かった。で、お前らも一緒に乗らなくて良かったのか?」
ちょっと仲間の面子回復の為、ニヤリとして言い返してみたら……案の定フォルを抜かした3人が「「「ウ“ッ!」」」と言葉を詰まらせやがった。
「なんだ、お前らも俺らと同じじゃねえか!」
「くっそ!黙ってて損したわ」
急に強気になるゲイツとキリヤの様子に、フォル以外がスカした顔して誤魔化していた。まあ、ジャガー獣人のフォルだけは俺に「次アレ行こうぜ!」と別のジェットコースターとやらを指差してたがな。
「悪い、悪い。アレ乗るとフォルとワイル以外は、みんな同じ状態になるんだよ」
「まあ、時間もある事だしゆっくり回ろうぜ」
虎獣人のマークと豹獣人ホグは、ゲイツとキリヤに気を使って歩き出す。ピューマ獣人のサッドは、一人で乗りに行きそうだったジャガー獣人のフォルを捕まえてたな。……自由人だな、フォル。
「で、アレ乗った後飲みたくなるのが、コレだ!」
どうやら俺達に飲ませたかった飲み物があるらしい。屋台に行って、マークが買って来てくれたのが……
「ああ、コーラか!」
「うん!今の気分に丁度良いわな」
俺達もよく飲む炭酸飲料だ。礼を言って俺も受け取ると、シュワシュワ感がスッキリとした気分にさせてくれる。
「あれ?お前ら知ってたのか?」
豹獣人のホグが意外そうに聞いてくるが、俺達の国にもシン様と言う転移者がいるからな。
「当然!シン様はトオヤ様と同郷だし、コレを知ったのはお前ら最近だろう?」
「俺達は10年前から知ってるっての」
今度はゲイツとキリヤが自慢気に話すが、そうか……もうそんなになるのか……と、当時のシン様を思い出す。
「そうか……!そういやそうだったな!くっそ!自慢して損したぜ」
「トウヤ様はまだ一年も経ってねえもんなぁ」
「そうだよ……!」
ん?マークとホグの反応は理解出来るが、サッドの反応が気になるな……?
「……なあ。いきなりで悪いが、もしかしてサッドってさ、トオヤ様が好きだったりしねえか?」
「あ!俺も思った!」
なんだ?いつもカンの悪いゲイツとキリヤのくせに、俺と同じ事思ったのか?珍しい……
「うおっ?お前ら、アレだけでよく気付いたなぁ」
「全くだぜ!まあ、俺らだってトオヤ様が好きだけどよ。コイツの好きはもっと根深えんだ」
マークは大袈裟に驚き、ホグは茶化すようにサッドの首に腕を回しているが、サッド本人は嫌がってんな。まあ、本来は知られたくねえだろうし、当然の反応だろう。
なんて思ってたら、ゲイツとキリヤの二人が俺を見てニヤリとしやがった。……ったく、コイツら……!
「やっぱりなあ!居ると思ったんだよ、ワイル2号が!」
「そうそう!コイツの近くに居るから気づいただけで、普通は気づかねえって!」
バシバシと俺の背中を叩くゲイツとキリヤに睨みをきかせ、黙って俺を見つめるサッドに目を合わせる。
「俺のシン様への思いは12年分だ。まだお前はたったの一年にもなってねえんだろ?」
ハッと堂々と上から目線で煽ってやったら、真っ赤になったサッドが俺に掴みかかって来やがった。
「クッソ!俺だって……俺だってなあ!」
案の定、周りの注目を集めてしまったコイツにヘッドロックして、ゲイツとキリヤを振り返る。
「悪い、ちょっと抜けるわ。お前らで回っててくれ」
「了解!いつも大変だなぁ、お前も」
「とりあえず、シン様の匂いがする辺りにいるから行って来い!」
ウチの二人は慣れているからこそ、俺の行動の意味をすぐ掴んでくれる。が、あっちからすると突然の俺の行動に驚いたんだろう。手を伸ばして俺を止めようとする。
「え!おい!ちょっと待て!」
「サッドになにをする気だ⁉︎」
「何もしねえし、終わったら合流すっから、コイツ借りるぞ」
暴れるサッドを力づくで抑え、引きずって連れて行く俺の後ろで、ゲイツとキリヤが二人を抑えてくれる。まあ、ウチの部隊では珍しくねえ光景だ。
……いや?フォルだけは違ったな。……なんで一人でジェットコースターに乗りに行ってんだ?アイツ、マジで自由過ぎるだろ……?
何処にでも問題児はいるもんだと思いつつ、とりあえず大人しくなったサッドをその辺の長椅子に座らせ、俺も一人分の空間を開けてドカッと座り込む。
「オラ、聞いてやっから抱えているもん吐き出しやがれ」
「クッソ!偉そうに……!てめえも同じ悔しい思いしてんだろうが!」
「悪いな、レベルが違うわ。俺はシン様がカレッド様の匂いつけているのを嗅ぐ度に、毎回腑煮えくりかえってるわ」
「……お前、仮にも王族に敵対するような事、よく言えるな……?」
「はん!こちとらカレッド殿下公認だ。敵対上等じゃねえか」
堂々と言ってやると、奴の尻尾が不愉快そうに揺れやがる。
「……そんなんでよく国軍なんてやってられるな!」
「はあ⁉︎ 逆に聞くが、お前のトオヤ様への思いは国に負けるのか⁉︎ ……冗談じゃねえ、お前と一緒にすんな」
「馬鹿じゃねえの!お前一人の力で国に向かって敵対なんて出来るわけないだろうが!」
「ハッ!雄と雄との勝負だ!国は二の次だろうが!……いいか?耳の穴開いて、よおく聞け……!立場だ国だと言うくらいなら、今すぐ軍を辞めろ。どーせ、そんなもんなんだろ、お前の気持ちなんぞ」
「ふざけんな!この思いはそんなもんで片付けられるわけねえだろうが!トオヤ様だぞ……!綺麗で、可愛くて、優しくて、料理が上手くて、ちょっと抜けていて、それでも相手の弱さを包み込める人なんざ、そうそう諦められるわけがねえじゃねえか!
俺だって、俺だって……勝負したかった!だけど番って言われたんだ……!しかもヴァレリー団長のだぞ!それでいて、その隣で幸せそうに笑われてみろ!……黙るしかねえじゃねえか……!!」
ふん。やっぱりその程度か、コイツも。どれ、もう少し煽ってやるかな?
「へえ、それで?」
「それでって何だよ?」
「お前はそれで良いのか?」
「……!!!腹立つなあ!お前の言う通りにしたら、トオヤ様を苦しめるだけじゃねえか!シン様だって苦しんでいるんじゃねえのか⁉︎」
「バーカ。俺がそんなヘマするかよ」
「は?お前こそ何言ってんだ⁉︎」
「まあまあ。お前、一回コーラでも飲んで落ち着け?ほれ」
つい、揶揄いすぎてしまったな。……久しぶりの同胞だから、俺もちょっと嬉しかったんだろうなぁ。
俺に無理矢理コーラを渡されたサッドは、仕方なくグイっとコーラを飲み干した。
俺を睨みながら、盛大にゲップをするコイツもコイツで面白え。ハハッ!どれ、俺の話でもしてやっかな。
「……俺が初めてあったシン様は、成人したての獣人の様な17歳の時だ。それはもう可愛いってもんじゃなかったんだぜ?言うなればクレッシェルド国1番美人と言われていた王女が、霞む様な可愛さだった。もはや災害級だな。
しかもだ!お人よしで、世間知らず、誰に対しても公平に優しく接して、思いっきりこっちに好意を向けるんだぜ?更に煽るようにあの舐めまわしたい肩と足を思いっきり出して!」
(注:シンは真夏日に転移したので、ランニングTシャツと短パンと厚底スポーツサンダル姿で現れました)
「お、おい……!俺が言うのも何だが、声を落とせって……!」
サッドに言われて気がつくと、いつの間にか熱弁してたらしい。俺、周囲から注目されてたわ……いかん、いかん。
「あー……散った散った。見せもんじゃねえし、ほれあっちでなんか始まったぞ?」
俺が指差す先で、良いタイミングで踊って歌う集団が通路に現れてくれた。
ドカっと座り直してため息を吐く俺の様子に、ブハッと笑い出すサッド。よっぽど可笑しかったのか、なかなか笑いが止まらないサッドを横目に、俺は続きを話し出す事にした。
「で、だ。カレッド様は匂いを嗅いだ途端に、シン様を番と言い出して囲いやがった。当時の俺はお前と同じ立場だったさ。しがない一隊員、しかも平民出だし、シン様もカレッド様に絆されていた状況だ」
「……お前は何をしたんだ?」
「カレッド様にだけ宣戦布告状を出した」
「は⁉︎ よく首が飛ばなかったな⁉︎」
「まあ、それはカレッド殿下の懐の大きさに救われたってとこだな。……だが、その当時の俺は、殺されても良いってくらいの覚悟があった」
「!!……お前……凄えな……!」
「で、実際に訓練場で、それも全隊員の前で、カレッド殿下自身にコテンパンのボッロボロにされた。だけどな、その時のカレッド殿下がこう言ったんだ。
『全隊員に告ぐ!俺のシンに対する扱い方に不服がある奴は、コイツの様に、俺にだけ宣戦布告をしてかかって来い!シンの笑顔が消えた時も同様だ!
但し……!俺以上にシンに愛を示し、俺以上にシンを大事にし、俺以上にシンを笑顔に出来る実績と自信を持ってかかって来い!さすれば絶対に罪に問わない、と王家の名に誓って宣言しよう!
……俺にとっても、シンと言う唯一無二の存在の意味を考え直し、シンが隣にいる事が当たり前だという愚かな奢りを取り去るためのものともなる……!
いいか!遠慮はするな!……だが、俺は負けるつもりも譲るつもりもない!だからこそ、せいぜい俺を倒す為に無駄な足掻きをするがいい!』
そう言われてみろ……!お前ならどう思う?」
「…………凄えな、カレッド殿下……!自ら発散の場を作ってくれているのか……⁉︎」
サッドの奴、思いっきり目を輝かせてやがる……!うわ、コイツも殿下の術中にハマったな……
「やっぱりなぁ……お前もそう思うか……」
「ああ……!カレッド殿下のシン様への愛情と部下に対する懐の大きさに惚れ惚れするぜ!」
「で、お前は諦めるってか?」
「……むしろお前は違うのか?」
……まあ、コイツが正常な獣人なんだろうよ。普通であれば番至上の獣人は、手を出そうとするよりは諦めっからなぁ。
「俺は毎年宣戦布告を出してるぞ?」
「はあああ?阿保か、お前……?」
「阿保はお前だ、サッド。トオヤ様を慕う気持ちはそんな簡単なもんか?」
「だがよぉ……わざわざ波風立てるのはどうなんだ?」
思わず俺は「はああ~」とため息を声に出してしまったさ。コイツも殿下の言葉の表面しかとってないのか。
「いいか?サッド、よおく聞け。愛する気持ちを示す方法は一つじゃねえ。じゃ、聞くが……殿下の立場になって考えてみろ。毎年宣戦布告するだけの奴が近くにいたらどう思う?」
「油断は出来ねえよな……つか、待てよ?むしろ、殿下がシン様をより大事に思うっていうか、その気にさせるっていうか……!」
「はい、正解。愛しているから陰にもなれるんだ。シン様を守る為に、俺は敢えて殿下に気合いかけてるって訳。勿論、殿下がシン様を悲しませてみろ。すぐに奪う準備はできてるぜ?」
ニヤッとしてサッドを見ると、サッドの奴間抜けな顔してやがる。きっと今気付いたんだろうなぁ。実のところ、俺だってここまで来るのに結構かかったし。
……今だってシン様の事を思えば、手に入れたいし、抱きしめて抱き潰したい思いはある。
……だが、それ以上にあの人が愛おしい……!
ずっとあの人が笑って入れる環境を作り出せるなら、俺は喜んで陰にもなろう。あの人を害する全てのものを排除しよう。
ーーーーー俺もあの人の「番」の匂いを嗅ぎ取った一人なのだから……
ーーーーーーーーーーーー
はい、何と今日もリクエストが終わりませんでした……(T ^ T)
シンの過去をリクエストのサブ枠で入れたらこんな感じになってしまった……!
ーーーでも後悔は無い!
さて、その後が気になる方は、明日もまた「アミューズメントパーク編」をお待ち下さいませ(宣伝)
美香月さん、後もう一日お付き合い下さいねー!
この先の予想がつかない線路。自分が動くよりも速度が速く、身動きの出来ない不安。
バリバリバリバリ!という風の音と、レールを走るゴオォオオオという恐怖を煽る音がピタッと止まった瞬間ーーー
「「ッッッッギャアアアアアアアアア!!!!」」
「おおーー!すっげぇ!」
ゲイツとキリヤの絶叫も相まって、高揚感が高まる俺。
急降下に二回転、そしてこの遊具の最高潮!きりもみに入った時の目の前にいる二人の反応ったら……!俺は一人高笑いをし、速度を楽しみ、景色を楽しみ、同僚の反応に終始笑っていた。
ーーーガコンッ!シュゥゥゥゥゥ………
「お疲れー!」
「お、良い感じに仕上がってるな!」
「なんだよ……!ワイルの奴余裕かよ」
「おお!流石ワイル!次行けるな!」
セレリオ国側の虎獣人マークと豹獣人ホグに迎えられ、ガタンゴトンと乗降口へと戻って来た俺達。ピューマ獣人のサッドには悪いが、これくらいじゃ俺は絶叫なんぞする筈がない。
だが、ジャガー獣人のフォルよ。お前、前の席に座っている奴らの顔色も見てやってくれ。俺はまあ、行けるだろうが……
「やっぱり1番はこの『アミューズメントパーク・クガ』の顔から味わうのが礼儀だよなぁ!」
カンカンカン……と階段を降りて地上に向かう俺達に、マークが自慢気に語りかけてくる。ゲイツとキリヤに至っては無言のままだった為、仕方なく俺が返事をする。
「まあ、面白かった。で、お前らも一緒に乗らなくて良かったのか?」
ちょっと仲間の面子回復の為、ニヤリとして言い返してみたら……案の定フォルを抜かした3人が「「「ウ“ッ!」」」と言葉を詰まらせやがった。
「なんだ、お前らも俺らと同じじゃねえか!」
「くっそ!黙ってて損したわ」
急に強気になるゲイツとキリヤの様子に、フォル以外がスカした顔して誤魔化していた。まあ、ジャガー獣人のフォルだけは俺に「次アレ行こうぜ!」と別のジェットコースターとやらを指差してたがな。
「悪い、悪い。アレ乗るとフォルとワイル以外は、みんな同じ状態になるんだよ」
「まあ、時間もある事だしゆっくり回ろうぜ」
虎獣人のマークと豹獣人ホグは、ゲイツとキリヤに気を使って歩き出す。ピューマ獣人のサッドは、一人で乗りに行きそうだったジャガー獣人のフォルを捕まえてたな。……自由人だな、フォル。
「で、アレ乗った後飲みたくなるのが、コレだ!」
どうやら俺達に飲ませたかった飲み物があるらしい。屋台に行って、マークが買って来てくれたのが……
「ああ、コーラか!」
「うん!今の気分に丁度良いわな」
俺達もよく飲む炭酸飲料だ。礼を言って俺も受け取ると、シュワシュワ感がスッキリとした気分にさせてくれる。
「あれ?お前ら知ってたのか?」
豹獣人のホグが意外そうに聞いてくるが、俺達の国にもシン様と言う転移者がいるからな。
「当然!シン様はトオヤ様と同郷だし、コレを知ったのはお前ら最近だろう?」
「俺達は10年前から知ってるっての」
今度はゲイツとキリヤが自慢気に話すが、そうか……もうそんなになるのか……と、当時のシン様を思い出す。
「そうか……!そういやそうだったな!くっそ!自慢して損したぜ」
「トウヤ様はまだ一年も経ってねえもんなぁ」
「そうだよ……!」
ん?マークとホグの反応は理解出来るが、サッドの反応が気になるな……?
「……なあ。いきなりで悪いが、もしかしてサッドってさ、トオヤ様が好きだったりしねえか?」
「あ!俺も思った!」
なんだ?いつもカンの悪いゲイツとキリヤのくせに、俺と同じ事思ったのか?珍しい……
「うおっ?お前ら、アレだけでよく気付いたなぁ」
「全くだぜ!まあ、俺らだってトオヤ様が好きだけどよ。コイツの好きはもっと根深えんだ」
マークは大袈裟に驚き、ホグは茶化すようにサッドの首に腕を回しているが、サッド本人は嫌がってんな。まあ、本来は知られたくねえだろうし、当然の反応だろう。
なんて思ってたら、ゲイツとキリヤの二人が俺を見てニヤリとしやがった。……ったく、コイツら……!
「やっぱりなあ!居ると思ったんだよ、ワイル2号が!」
「そうそう!コイツの近くに居るから気づいただけで、普通は気づかねえって!」
バシバシと俺の背中を叩くゲイツとキリヤに睨みをきかせ、黙って俺を見つめるサッドに目を合わせる。
「俺のシン様への思いは12年分だ。まだお前はたったの一年にもなってねえんだろ?」
ハッと堂々と上から目線で煽ってやったら、真っ赤になったサッドが俺に掴みかかって来やがった。
「クッソ!俺だって……俺だってなあ!」
案の定、周りの注目を集めてしまったコイツにヘッドロックして、ゲイツとキリヤを振り返る。
「悪い、ちょっと抜けるわ。お前らで回っててくれ」
「了解!いつも大変だなぁ、お前も」
「とりあえず、シン様の匂いがする辺りにいるから行って来い!」
ウチの二人は慣れているからこそ、俺の行動の意味をすぐ掴んでくれる。が、あっちからすると突然の俺の行動に驚いたんだろう。手を伸ばして俺を止めようとする。
「え!おい!ちょっと待て!」
「サッドになにをする気だ⁉︎」
「何もしねえし、終わったら合流すっから、コイツ借りるぞ」
暴れるサッドを力づくで抑え、引きずって連れて行く俺の後ろで、ゲイツとキリヤが二人を抑えてくれる。まあ、ウチの部隊では珍しくねえ光景だ。
……いや?フォルだけは違ったな。……なんで一人でジェットコースターに乗りに行ってんだ?アイツ、マジで自由過ぎるだろ……?
何処にでも問題児はいるもんだと思いつつ、とりあえず大人しくなったサッドをその辺の長椅子に座らせ、俺も一人分の空間を開けてドカッと座り込む。
「オラ、聞いてやっから抱えているもん吐き出しやがれ」
「クッソ!偉そうに……!てめえも同じ悔しい思いしてんだろうが!」
「悪いな、レベルが違うわ。俺はシン様がカレッド様の匂いつけているのを嗅ぐ度に、毎回腑煮えくりかえってるわ」
「……お前、仮にも王族に敵対するような事、よく言えるな……?」
「はん!こちとらカレッド殿下公認だ。敵対上等じゃねえか」
堂々と言ってやると、奴の尻尾が不愉快そうに揺れやがる。
「……そんなんでよく国軍なんてやってられるな!」
「はあ⁉︎ 逆に聞くが、お前のトオヤ様への思いは国に負けるのか⁉︎ ……冗談じゃねえ、お前と一緒にすんな」
「馬鹿じゃねえの!お前一人の力で国に向かって敵対なんて出来るわけないだろうが!」
「ハッ!雄と雄との勝負だ!国は二の次だろうが!……いいか?耳の穴開いて、よおく聞け……!立場だ国だと言うくらいなら、今すぐ軍を辞めろ。どーせ、そんなもんなんだろ、お前の気持ちなんぞ」
「ふざけんな!この思いはそんなもんで片付けられるわけねえだろうが!トオヤ様だぞ……!綺麗で、可愛くて、優しくて、料理が上手くて、ちょっと抜けていて、それでも相手の弱さを包み込める人なんざ、そうそう諦められるわけがねえじゃねえか!
俺だって、俺だって……勝負したかった!だけど番って言われたんだ……!しかもヴァレリー団長のだぞ!それでいて、その隣で幸せそうに笑われてみろ!……黙るしかねえじゃねえか……!!」
ふん。やっぱりその程度か、コイツも。どれ、もう少し煽ってやるかな?
「へえ、それで?」
「それでって何だよ?」
「お前はそれで良いのか?」
「……!!!腹立つなあ!お前の言う通りにしたら、トオヤ様を苦しめるだけじゃねえか!シン様だって苦しんでいるんじゃねえのか⁉︎」
「バーカ。俺がそんなヘマするかよ」
「は?お前こそ何言ってんだ⁉︎」
「まあまあ。お前、一回コーラでも飲んで落ち着け?ほれ」
つい、揶揄いすぎてしまったな。……久しぶりの同胞だから、俺もちょっと嬉しかったんだろうなぁ。
俺に無理矢理コーラを渡されたサッドは、仕方なくグイっとコーラを飲み干した。
俺を睨みながら、盛大にゲップをするコイツもコイツで面白え。ハハッ!どれ、俺の話でもしてやっかな。
「……俺が初めてあったシン様は、成人したての獣人の様な17歳の時だ。それはもう可愛いってもんじゃなかったんだぜ?言うなればクレッシェルド国1番美人と言われていた王女が、霞む様な可愛さだった。もはや災害級だな。
しかもだ!お人よしで、世間知らず、誰に対しても公平に優しく接して、思いっきりこっちに好意を向けるんだぜ?更に煽るようにあの舐めまわしたい肩と足を思いっきり出して!」
(注:シンは真夏日に転移したので、ランニングTシャツと短パンと厚底スポーツサンダル姿で現れました)
「お、おい……!俺が言うのも何だが、声を落とせって……!」
サッドに言われて気がつくと、いつの間にか熱弁してたらしい。俺、周囲から注目されてたわ……いかん、いかん。
「あー……散った散った。見せもんじゃねえし、ほれあっちでなんか始まったぞ?」
俺が指差す先で、良いタイミングで踊って歌う集団が通路に現れてくれた。
ドカっと座り直してため息を吐く俺の様子に、ブハッと笑い出すサッド。よっぽど可笑しかったのか、なかなか笑いが止まらないサッドを横目に、俺は続きを話し出す事にした。
「で、だ。カレッド様は匂いを嗅いだ途端に、シン様を番と言い出して囲いやがった。当時の俺はお前と同じ立場だったさ。しがない一隊員、しかも平民出だし、シン様もカレッド様に絆されていた状況だ」
「……お前は何をしたんだ?」
「カレッド様にだけ宣戦布告状を出した」
「は⁉︎ よく首が飛ばなかったな⁉︎」
「まあ、それはカレッド殿下の懐の大きさに救われたってとこだな。……だが、その当時の俺は、殺されても良いってくらいの覚悟があった」
「!!……お前……凄えな……!」
「で、実際に訓練場で、それも全隊員の前で、カレッド殿下自身にコテンパンのボッロボロにされた。だけどな、その時のカレッド殿下がこう言ったんだ。
『全隊員に告ぐ!俺のシンに対する扱い方に不服がある奴は、コイツの様に、俺にだけ宣戦布告をしてかかって来い!シンの笑顔が消えた時も同様だ!
但し……!俺以上にシンに愛を示し、俺以上にシンを大事にし、俺以上にシンを笑顔に出来る実績と自信を持ってかかって来い!さすれば絶対に罪に問わない、と王家の名に誓って宣言しよう!
……俺にとっても、シンと言う唯一無二の存在の意味を考え直し、シンが隣にいる事が当たり前だという愚かな奢りを取り去るためのものともなる……!
いいか!遠慮はするな!……だが、俺は負けるつもりも譲るつもりもない!だからこそ、せいぜい俺を倒す為に無駄な足掻きをするがいい!』
そう言われてみろ……!お前ならどう思う?」
「…………凄えな、カレッド殿下……!自ら発散の場を作ってくれているのか……⁉︎」
サッドの奴、思いっきり目を輝かせてやがる……!うわ、コイツも殿下の術中にハマったな……
「やっぱりなぁ……お前もそう思うか……」
「ああ……!カレッド殿下のシン様への愛情と部下に対する懐の大きさに惚れ惚れするぜ!」
「で、お前は諦めるってか?」
「……むしろお前は違うのか?」
……まあ、コイツが正常な獣人なんだろうよ。普通であれば番至上の獣人は、手を出そうとするよりは諦めっからなぁ。
「俺は毎年宣戦布告を出してるぞ?」
「はあああ?阿保か、お前……?」
「阿保はお前だ、サッド。トオヤ様を慕う気持ちはそんな簡単なもんか?」
「だがよぉ……わざわざ波風立てるのはどうなんだ?」
思わず俺は「はああ~」とため息を声に出してしまったさ。コイツも殿下の言葉の表面しかとってないのか。
「いいか?サッド、よおく聞け。愛する気持ちを示す方法は一つじゃねえ。じゃ、聞くが……殿下の立場になって考えてみろ。毎年宣戦布告するだけの奴が近くにいたらどう思う?」
「油断は出来ねえよな……つか、待てよ?むしろ、殿下がシン様をより大事に思うっていうか、その気にさせるっていうか……!」
「はい、正解。愛しているから陰にもなれるんだ。シン様を守る為に、俺は敢えて殿下に気合いかけてるって訳。勿論、殿下がシン様を悲しませてみろ。すぐに奪う準備はできてるぜ?」
ニヤッとしてサッドを見ると、サッドの奴間抜けな顔してやがる。きっと今気付いたんだろうなぁ。実のところ、俺だってここまで来るのに結構かかったし。
……今だってシン様の事を思えば、手に入れたいし、抱きしめて抱き潰したい思いはある。
……だが、それ以上にあの人が愛おしい……!
ずっとあの人が笑って入れる環境を作り出せるなら、俺は喜んで陰にもなろう。あの人を害する全てのものを排除しよう。
ーーーーー俺もあの人の「番」の匂いを嗅ぎ取った一人なのだから……
ーーーーーーーーーーーー
はい、何と今日もリクエストが終わりませんでした……(T ^ T)
シンの過去をリクエストのサブ枠で入れたらこんな感じになってしまった……!
ーーーでも後悔は無い!
さて、その後が気になる方は、明日もまた「アミューズメントパーク編」をお待ち下さいませ(宣伝)
美香月さん、後もう一日お付き合い下さいねー!
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おまけをちょこちょこ更新しています。
第12回BL大賞、奨励賞をいただきました、読んでくださった方、応援してくださった方、投票してくださった方のおかげです、ほんとうにありがとうございました!
普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。
異世界に転移したら運命の人の膝の上でした!
鳴海
BL
ある日、異世界に転移した天音(あまね)は、そこでハインツという名のカイネルシア帝国の皇帝に出会った。
この世界では異世界転移者は”界渡り人”と呼ばれる神からの預かり子で、界渡り人の幸せがこの国の繁栄に大きく関与すると言われている。
界渡り人に幸せになってもらいたいハインツのおかげで離宮に住むことになった天音は、日本にいた頃の何倍も贅沢な暮らしをさせてもらえることになった。
そんな天音がやっと異世界での生活に慣れた頃、なぜか危険な目に遭い始めて……。
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