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遂に溢れ出した瘴気の渦[ゆぐさんリクエストありがとうございます!『トオヤがヴァレリーに手料理を振る舞う』]

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 ーヴァレリーサイドー

 両国合同会議から丁度3日目ーーー

 「団長!遂に魔物が溢れ出しました!種類はゴブリン!その数およそ100以上!現在、結界魔導具にて抑えています!」

 明け方、トオヤ補給をしている最中に呼び出しを受けた俺。渋々、それはもう渋々、クレッシェルド国側の瘴気の渦対策本部へと足を運び、俺の顔を見た騎士団員が早速報告をしてくれたんだが……

 「……ヴァレリー、報告をした団員に威嚇するな!全く……」

 「ディグラン様。まだ良い方ですよ。一応来てくれるんですから」

 「スタッグ……お前の中での俺は、そんなに駄目な雄なのか……?」

 「ええ、遠征中に呑気に番を抱いている貴方には、俺達の我慢がわからないでしょうからね!」

 う“っ……それは確かに。

 「だが、部屋に戻れば可愛いトオヤに余計な匂いがついている上に、愛しい番が抱きついて迎えてくれるのだ……!これを我慢出来る獣人はいないだろう?」

 「ええ、その匂いはトオヤ様の護衛騎士達の匂いですし、トオヤ様に抱きついて迎えるように願ったのは団長だとお聞きしてますが?」

 「いやいや、お前ら……この緊急時に何を呑気に話をしとるんだ?行くぞ!」

 「「ハッ!」」

 ついスタッグに言い訳してしまったが、わかってはいる。今の俺は浮かれて居る……と。

 前を歩くディグラン様とスタッグがかなりの我慢を強いられている中、俺だけが愛しい番と一緒という好条件にいるんだ。

 とはいえ、今回の遠征は多くの騎士達にとっても快適なものになっている。それもこれもトオヤの凄まじいギフトのおかげだがな。

 全ての騎士達の宿舎や食事や衛生・食材管理も気にせずに、戦いだけに集中出来る環境は本来ならばあり得ないものだ。

 しかも今回の遠征は、ディグラン様の部隊だけという必要最低限の移動で、非戦闘員を連れ歩く負担も危険もない。トオヤのギフトの底知れぬ力強さよ……!我が番ながら、なんと頼もしく誇らしい……!

 だが、クレッシェルド国側の転移者、シンの力もまた規格外らしい。街一つを持ち歩ける力、しかもトオヤには出来ない非戦闘員を空間に入れたまま運べる力は、正直言って恐ろしい。

 使い方によっては戦力を温存させながら、不意打ちが出来ると言うもの……!

 勿論、カレッド殿下はそんな事卑怯な真似はしない性分だから心配は要らない。シン自体も穏やかな性格らしいから安心だが……

 今のところ各国で転移者争奪戦にはならずに済んでいるのは、転移者不可侵条約を結んでいる為だ。これがなかったら、トオヤは更に不自由な思いをさせたであろう。

 俺自身、こんなに番への執着が激しいものだとは思わなかったからな……

 「ヴァレリー!気を抜くにはまだ早いぞ!」
 
 「ハッ!」

 ディグラン様に見破られていたか。……ふむ、どうもトウヤの事となるといかんな。瘴気の渦の地点まで来たと言うのに、思いが散漫になってしまった。

 こんな些細な事にも気づくとは、流石はディグラン様だな。

 と、改めて気を引き締めた俺とスタッグがディグラン様と共に移動する先は、……どうやら待機所みたいだな。

 「こちらの結界は準備出来たか!」

 まあ、当然だな。獣人の俺達だって戦い続けられる訳がない。体力には限界があるからには、強固な休憩所が必要だ。

 その為、毎年瘴気の渦の周りに大規模な魔物専用結界に加え、外側に小規模な結界を施した待機・休憩所が設置される。

 それは最初に討伐に当たる国が設置するもので、今回はセレリオ国側が両国共通の陣営を設置を担当している。

 「ハッ!ディグラン様の指示通り、結界内には休憩所、待機所、医療所を設置しております!」

 「……………ご苦労」

 ディグラン様が多少間をおくとはどうしたのだ?

 ……ふむ、待機所のアレはウッドデッキというものではなかっただろうか?アレはトオヤのホームセンターで用意したな?

 今回、両国の共同陣営になる事で予算かなり貰った、と言っていたからな。奮発したもんだ。

 ……ん?アレは俺も目をつけていたラタン調ガーデンファニチャーセットではないか!アレを騎士用にしたか……!やりおる、今回の搬入班……!

 「こちらが首脳陣の休憩スペースとなっております!」

 何故か呆れているディグラン様を横目に、張り切って団員が案内した俺達の休憩天幕は……

 「コレは!某独国ハイクラスガーデンカウチソファー!手に入ったのか!」

 「ハッ!スタッグ副団長が初日にカタログで目をつけていたとお聞きして、搬入班で予約したところ昨日届いたばかりです!」

 スタッグ……お前、そんなの見てたのか?は?ビッカーカメラ側にあった?む!それは後で見に行かねばな!

 「お前ら……存分に楽しんでるな……」

 両国の調整に忙しいディグラン様が脱力するだけ、気合いの入った天幕内。観葉植物や、仮眠用の○ナジーポットまで用意しているとは……確かに贅沢だな。

 医療天幕に至ってもトオヤの召喚店舗の品が溢れかえり、快適そのものの内装になっていたのは、いうまでもないだろう。

 「ま、まあ……よくやった。コレならクレッシェルド国側も満足するであろう」

 「「「「ハッ!」」」」

 多少緊張感が抜けたディグラン様の言葉にも、嬉しそうに返事をする搬入班。うむ、俺も満足だな。……微かにトオヤの匂いがするのもいい。まあ、すぐに匂いはなくなるだろうが……

 仮陣営を確認したディグラン様と共に、今度は整列した部隊の前に移動し、ディグラン様が宣言をする。

 「良いか!この戦いで功績を上げた者には、トオヤのギフトの『宮殿』に家族もしくは伴侶、恋人と共に一週間招待する事を報奨とする!

 更に、トウヤの善意からの申し出もある!トオヤから全ての隊員に向けての伝言を伝えよう!

 『一人も欠かさずに帰ってくるなら、一日無料で『宮殿』を遠征部隊全員に解放する事を約束する。……必ず無事に帰って、俺に笑顔を見せて下さい』

 全員、トオヤのこの思いに応えられるか⁉︎」

 ディグラン様が叫びながら問いかけると、全団員から空気が振動する程の歓声が上がる。

 ……流石!我が番……!優しく、愛おしい。まあ、正直言ってそれが団員に向けられるのは、少しどころか面白くないが仕方ないだろう。

 「では、全員配置につけ!」

 ディグラン様の指示に、士気が爆上がりしたままザッと結界を取り囲む騎士達。

 「ガオオオオオオオオオオオオオオン!!!」

 そして、戦闘開始の合図であるディグラン様の王族の咆哮が響くと、怯む魔物の隙をついて叫び声を上げながら結界内に突入していく第一陣。

 「さあて、存分に鬱憤を晴らさせてもらおうか……!」

 俺もまた、愛用の剣を手に結界に突入して行く。
 
 ーーーーーこうして瘴気の渦との戦いが始まった……!


      ◇


 「相変わらず、凄えよなぁ団長」
 「一人で三分の一受け持つんだぜ?それも笑って!」
 「団長に更にディグラン様が揃った第一陣、楽でいいよなぁ」
 「バーカ、スタッグ副団長の入った第二陣だって凄えぞ。あの黒豹のサイルさんのチームが入っているんだ!第二陣だって負けねえよ!」
 「って事は……功労賞候補が出揃った訳じゃん。俺達にはやはり難しいか……!」
 「諦めんな!諦めたらそこで終わりだ!」
 
 「そうだな。まだ始まったばかりだからこそ、これからのお前らの頑張り次第だぞ」

 「「「「「団長!」」」」」

 何巡か交代をして食事に戻って来た俺の耳に、同じ第一陣の部下達の雑談が聞こえてきた。

 ふむ。コイツら、返り血は浴びているものの怪我はなさそうだ。部下の様子に安堵しつつ、飯を食べて少しでも休息するよう指示を出す。

 「ヴァレリー団長!トオヤ様に感謝をお伝えください!」

 口々にトオヤへの感謝を述べて、食事を取りに行く騎士団員を見送り、俺もまた休憩天幕へと急ぐ。

 アイツらの食事もスパ・リゾートのビュッフェが協力しているんだったか?……トオヤはこの場に居なくとも貴重な我が国の戦力だな。

 トオヤの可愛い顔を思い出しながら天幕を潜ると、食事中のディグラン様と目線が合う。

 「よお、ヴァレリー!流石の働きだったな」

 「光栄です」

 「お前……俺だけの時にも肩っ苦しい話し方するなって」

 「む?そうか、スタッグは今いないんだったな」

 「ヴァレリー、スタッグに弱み握られているからなぁ」

 「トオヤとの蜜月の為なら、苦にもならんがな」

 そう言いながら、ニヤニヤするディグラン様の向かいの席に着き、持っていたマジックバックをテーブルの上に乗せる。

 「あれ?お前もビュッフェから持ってきたんじゃないのか?」

 マジックバックを見たディグラン様が不思議そうにしているが、俺にとってはコレが今日のメインイベントだ。

 そう思いながら慎重にマジックバックから取り出したのは『おじゅう(お重)』という携帯食用容器。

 「なんだ?それは?」

 興味深々に俺の手元を見るディグラン様に、見せつけるようにお重を包んでいる布の結び目を解くと、出てきたのは三段重ねになっている黒い正方形の容器。

 その上にトオヤの字で『お疲れ様、ヴァル』と書かれたメモが乗っていた。

 ……最近セレリオ国文字を覚えているトオヤ。拙い文字だが、俺を思って書いてくれたと思うと、それだけで愛おしい。

 そっとメモを胸にしまうと、注目しているディグラン様に見せつけるように上段の蓋を開ける。

 「ん?コレは噂の『べんとー』というものか?」

 「トオヤが自ら時間のある時に作ってくれるんだ。……渡さんぞ?」

 「一つぐらいケチケチするな」

 「トオヤの愛情は全て俺の物だ」
 
 王族の食事のマナーを破り、フォークをこちらに向けるディグラン様から隠すようにすると、「ったく。お前は良いよな」と諦めてくれた為、改めて三段のお重を開く。

 「ふむ……!コレは彩りも良く配置されているし、何よりヴァレリー。お前の好物ばかりじゃないか」

 見るくらいならと許可をすると、覗き込んでくるディグラン様。そうだ、トオヤは料理も美味いのだ。それに俺の好みを良く知っている。

 ……上の段と中の段はオークカツやローストボア、唐揚げ等肉がメインだが、『ちくぜんに(筑前煮)』という煮物や『エビチリ』という甘辛い味のエビに、『甘いポテトサラダ』も入れてくれている。

 ……どれもこれも俺が好きだと言ったものばかりだ。

 「ヴァレリー?団員の話だとお前の嫌いな野菜もたまに入っているそうじゃないか」

 ニヤニヤとするディグラン様が言うように、「栄養あるんだから!」と言って一品は俺の苦手なトマトやブロッコリーを入れる時もあるトオヤ。

 「それもまたトオヤの愛情だ。……正直飲み込むしかできてないが……」

 「ブッハ!ウチの国1番の騎士様がまさかトマトやブロッコリーが苦手なんてなぁ!」
 
 「それにしても、俺は部下には嫌いだと言った事はないが……?」

 「おっ前、気づいてなかったのか?フォークにブッ刺してしばらく睨んでいるそうじゃないか」

 ブハハハと笑うディグラン様の姿を睨みつつ、「今日は入ってない」と言い切り唐揚げを口に入れる。

 カリッとしていて噛み砕くとジュワっと肉汁が溢れ出す唐揚げに、少々手こずりながらもしっかり味わう。

 「……なんでそっちの方が美味そうに見えるんだろうなぁ。同じ唐揚げはこっちにもあるんだが」

 不思議そうに見るディグラン様に、ニヤリとしながら黙々と食べ続ける俺。

 王族のディグラン様には、最愛の人からの手作り料理という経験がないから、そう思うだろうな。しかも、エドガーに作らせようものなら……⁉︎  イカン! 殺人現場を作る事になる……!

 「トオヤが器用で可愛いからな」

 「可愛いは料理に関係ないだろ?」

 「あるさ」

 少し誤魔化しながら食事を進めスープポッドを開くと、ふわっと香るコンソメスープの香り。コレは流石にビュッフェのスープだな、とちょっとにやけてしまう。

 『コンソメは……コンソメだけは駄目だあ!アレすっげえ時間かかるんだよ!』

 以前手作りを頼んでみたら、凄く焦った顔のトオヤがそんな事を言っていたな。そんな顔すら愛おしいとは、トオヤの可愛さは罪だな。

 フッと笑ってしまったのがディグラン様に気づかれてしまった。

 「あーあ!なんで食事してるの見てるだけなのに、胸焼けするんだぁ?癪に触るから、俺はあっちで曲聞いて休んでるわ!」

 いい加減にしろと言わんばかりの態度で、食事を終えたディグラン様が向かったのは、仮眠用エナジー○ッド。アレは曲も流しながら横になれるからな。良い休息になる。

 ディグラン様が向かいから居なくなった事で、ようやく食事に集中できるようになった俺は、作っているトオヤを思い浮かべながら食べ進める。

 このおにぎりも、俺が好きなシャケだけだ。

 『甘いポテトサラダは俺の地元じゃ邪道なんだけどな』なんて言って、俺好みに仕上げてくれるトオヤを思いだしたり……

 『エビチリって面倒くさいんだぞ?』困ったように俺を見上げるトオヤを思い出す。

 そしてーーー『ヴァル?無事に帰って来てな……?』不安そうに俺にマジックバックを渡す今朝のトオヤ。

 完食してマジックバックに弁当を仕舞い、またトオヤを思う。

 ……お前の笑顔を守る為に、全力を尽くすさ。


   ーーーーーーーー

 まずはリクエスト第一弾!ゆぐさんに捧げます!
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