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両国合同会議。

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 「トオヤ様、そろそろお時間でございます」

 ……ん……あれ?四姉妹の声じゃない……?って誰だっけ?

 「クレッシェルド国との会合の時間には是非間に合うように、とディグラン様から伝言がございます。いかがなさいますか?」

 あ!そうだ!遠征に来てたんだ!

 「ああ、悪い!今、起きるって、イッテェ……!」

 ガバッとベッドから起きるつもりが腰が痛い……!ヴァレリーの奴、昨日も遠慮なかったからなぁ……イテテテ。

 「ご用意致しております。こちらをお飲み下さい」

 気がきく俺のギフトの獣人執事スタッフ。ちゃんと、ポーションを用意しているんだよ。この世界に来て1番これにお世話になってるわ、俺。

 「助かる!」

 ごくごくとポーションを飲んでいると、その間に執事スタッフが今日の予定を話してくれるんだ。

 「本日は会合の後に、晋様を迎えまして右翼棟をご紹介。その後ヴァレリー様ご帰宅の時間にはお部屋にて待機していて下さいませ。食事は左翼棟のビュッフェでお取りになるそうです。ヴァレリー様より、先に一人で行かないよう厳命されておりますので、ご了承下さいませ」

 ……ヴァレリーは心配症だよなぁ。別に一人でも良いってのに。

 「ん、わかった」

 「湯浴みの準備もできております」

 「ありがとうな」

 ポーションを飲んで復活した俺は、急ぎ風呂に入り、部屋に準備されている朝食を食べる。

 俺、一人暮らしもうできねえな……なんて思いながらパンを食べてるけどさ。

 やっぱり自分って庶民だよなぁ、って痛感する。

 だってさ、この天蓋付きキングサイズベッドは寝心地最高だし、ソファーは座り心地も最高だけど、寝室は一部屋30畳はあるだろって間取りだし、寝室の隣の部屋付きリビングはバロック調の格調高い部屋だし、そんでもって一部屋につき執事スタッフ二人付き……

 はっきり言おう。中央棟贅沢すぎる……!

 まあ、王宮で専属メイド四人居る人が何を言うかって感じだろうけど、なんかあっちはもう家並みに落ち着いた感じにして貰ってたからなぁ。あ、メイドさん達元気かな?

 今回は俺のギフトに執事がつく事がわかっているから、四人メイドさんにはお休みを与えているんだ。いつも俺に付きっきりだから、羽根を伸ばしていると良いけど。

 「トオヤ様、ヴァレリー様がお迎えに参りました」

 「え?ヴァレリーが来たの?」

 「はい。現在こちらに向かっております」

 ……凄いだろ?各スタッフどうやって感知しているのかわからないけど、宮殿の扉を潜った全員の居場所をこうやって感知出来るから、ディグラン様もかなり助かっているらしい。

 と言うか、団長が仕事抜け出して来て良いもんなのか?

 なんて思っていた俺がモグモグしていると、扉を開けて入って来たヴァレリー。

 「トオヤ、迎えに来たぞ」

 モグモグしている俺をそのまま抱き上げて座り直すヴァレリーに、そっとお茶を出す執事スタッフ。

 いや、ゴロゴロ鳴いてスリスリは可愛いけど、食ってるんだって。

 「ヴァレリー、まだ食事中だって。と言うか、俺が遅かったの?」

 「いや、クレッシェルド国側に行くんだ。トオヤ程の優れた人物には俺がついていないと駄目だろう?」

 「そっか。うん、ヴァレリーがいると安心だな」

 俺がニカッと笑うと、ヴァレリーは無言で立ちあがり移動しようとする所に、すかさず執事スタッフが声をかける。

 「ヴァレリー様、今は我慢の時かと。夜にはしっかり準備を整えておきますので、そのままトオヤ様をお連れ下さいませ」

 遠征からずっとお世話になっている執事スタッフだけに、ヴァレリーの好みもしっかり把握済み。そうなると、ヴァレリーもピタっと止まって向きを変えて歩き出す。

 おいおい……これから会議だっつうのに抱く気でいたんかい!

 「ヴァル?仕事に影響が出るなら、禁止令出すぞ?」

 仕事に関してはやっぱり真面目にしてほしいって思う辺りは、日本人なんだよなぁ、俺。

 「ウ“ッ!済まない、わかっている……!だが、そんなトオヤも愛おしいのだ。それも理解してくれ」

 なんてヴァルにシュンとされて甘えられると、弱いのは俺の方だけどな。

 まあ、その後は執事スタッフに見送られて中央棟を出た俺達。騎士さん達5人もヴァレリーと一緒に来てくれていたのか、ザッと敬礼して俺達の後ろを警護してくれたんだ。

 一応言っとくぞ?この『宮殿』の扉は俺が認識した人じゃなきゃ入れないけど、遠征中出しっぱなしにする為に中と外に見張りの騎士さん達が立っていてくれるんだ。

 何故かって?

 「あら、また騎士さん達が戻って来たわ」
 「じゃあ、彼の方が転移者様ね」
 「凄い力だよなぁ」
 「中はもっと凄いらしい。シンさんが絶賛していたからなぁ」
 「おい、気軽にシンさんって言うなよ!カレッド様が怒るぞ」
 「ああ、気を付けるさ。でも見てみたいよなぁ」
 「「「確かに」」」

 そう。遠巻きにクレッシェルド国の非戦闘員さんや、協力体制にある一般市民の皆さんがずっと見に来ているんだよ。扉が開いた時の中の様子を見る為に。

 まあ、中庭は一見の価値はあるし、遠征中の娯楽も少ないだろうしで、俺の事はほぼクレッシェルド国側に知られたらしい。

 実際、会合に俺が呼ばれるのだって、本来ならあり得ない筈なんだけどさ。でも理由の予想はつくんだよ……

  ◇

 「早速だが、今日の議題は瘴気の渦の経過報告と発生時の対応の確認………それと、セレリオ国側への嘆願書が上がって来ている事だ」

 会議の為の一際豪華な大型テントの中、並べられた机と椅子に両国の要人達が座り、議長としてカレッド様が声を上げる。

 要人って言っても、クレッシェルド国はカレッド様とラクーン団長さんと初お目見えの副団長の黒狼獣人のイゲルさん、何故か晋さんまでいる。こちらはディグラン様、ヴァレリー、俺、スタッグさんのいつものメンバー。

 カレッド様の最後の言葉に、はあ、とため息を吐きながら声を上げたのはディグラン様。

 「まあ、嘆願については予想はつくが……まずは瘴気の渦の経過報告についてそちらの報告を頼む」

 ディグラン様の言葉に、カレッド様が魔導鈴を持ち、一度鳴らすと入って来たのは茶色い狼騎士獣人さん。

 「御前を失礼致します!瘴気の渦の経過報告の担当を致します、クレドと申します!現在、ブレンキオ山中腹に現れた瘴気の渦の大きさは、およそ直径5デルツ(5m)!氾濫規模の直径8デルツ(8m)オーバーまで、本日を含めおよそ3日と予想しております!

 しかし、その間も少量ながらも魔物が現れ始めております!討伐しつつ大規模討伐の足場作りとして周辺の整地も行い、昨日から協力要請に応えてくれたセレリオ国軍によって現場も整って参りました!現状、今すぐにでも大規模討伐可能な状況でございます!」

 「うむ、ご苦労。引き続き警戒と観察を怠るな」

 「ハッ!」

 カレッド様の言葉にバッと敬礼をし、素早くテントから出て行く狼獣人さん。

 いやあ、カッコいい!なんて見惚れている俺を横目に、すぐカレッド様が魔導鈴を2回鳴らすと、今度はシェパードの騎士獣人さんが入って来た。

 「失礼致します!全体管理を担当しております、スレッドと申します!警備体制ですが、瘴気の渦発生より昨日までクレッシェルド国軍が担当しておりました!本日はセレリオ国軍が瘴気の渦周辺の厳戒態勢を引き継いで下さっています!

 今後1日交代で両国が引き継ぎ、瘴気の渦の氾濫時にはセレリオ国軍が初動討伐に入る見込みです!その後、連絡を取り合いつつも1日交代で瘴気の渦が消えるまで、両国の協力体制で討伐に取り組む次第です!」

 「うむ、ご苦労。何か問題があればすぐに告げるように」

 「ハッ!」

 キビキビとした動きと報告に流石!と惚れ惚れしていると、「次は……」と言ったカレッド様が困ったように頭を抱え出す。

 ラクーン団長さんはそれこそ待ってました!と言う表情になり、イゲル副団長さんは苦笑をし、晋さんは俺を見て困った顔をしている。

 うん、やっぱり俺が関係してるんだろうなぁ……

 なんて思っていると、カレッド様が頭を抱えたまま魔導鈴を三回鳴らし、入って来たのは……

 焦茶の狼騎士獣人さんを先頭に、調理服を着た狐獣人さん、商人服の狸獣人さん、屋台の店主?さんらしきセントバーナード獣人さんの四人。

 しかもその四人は俺をジッと見ているんだよ。うん、確定。『宮殿』の事だろうなぁ……

 「はぁ……済まない。これは王太子の俺が先に謝ろう。つい、トオヤ君のギフトについて身内だけに自慢してしまった事が、どうやら騎士達や協力者の一般住民にまで伝わったらしい。それで、興味を持った皆が公開を希望していてな……」

 頭を抱えるカレッド様によると、もはや見過ごせ無い量の嘆願書が上がってきているらしいんだ。まあ、それも突然現れた大きな『宮殿』の扉に興味を持つなって方がおかしいけどさ。

 それに、口伝えに伝わるって事は大袈裟に伝わるって事で……

 「見たこともない料理があると聞きました!」
 「膨大な種類の商品が数多く揃っているそうですな」
 「安く食材が手に入るんですよね」
 「そちらの騎士の方から聞いたのですが……」

 料理人さんは勢いよく、商人さんは抜け目なく、屋台の店主さんは遠慮がちに、騎士さんは羨ましいと率直に訴えて来た。四人はそれぞれの代表らしく俺に伝えて来たのだけど、うーん、俺に伝えても違うんだよなぁ……

 俺がチラッとディグラン様を見ると、腕を組んで黙っていたディグラン様が口を開く。

 「ああ、そちらの言い分はわかった。だが、宣言しよう。トオヤの能力はセレリオ国の至宝の一つ。故に解放は出来ない」

 ディグラン様のキッパリとした言葉に、頷くヴァレリーとスタッグさん。俺はやっぱりなぁ、と納得。

 そもそも、他国の拠点を解放させて欲しいと言う願い自体がおかしい。転移者の能力は国の保護の下にある。それを見せろと言うのは、国に対して喧嘩を売るようなものだ。

 なのに、両国の協力体制が必要な中、最初からこれでは正直頭が痛いカレッド様の気持ちもわかる。だからこそディグラン様は妥協点を出した。

 「……だが、それでは納得いかないだけの数が上がっているんだろう。では、騎士達には討伐功労者のみ終息後一日招待、あとはそちらの転移者のみ入場を許可し、物資の供給に協力する。これでどうだ、トオヤ?」

 確かに落とし所が必要だもんな。まあ俺は、シンさんさえ良ければオッケーだし。

 「晋さん、アイテムボックス持ち?」

 「うん、持ってるけど……トオヤ君、大丈夫か?」

 「晋さんがそっち側で売ってくれるなら勿論。協力出来るところはするよ?」

 俺と晋さんの会話に、やる気を見せるラクーンさんや騎士さん。カレッド様は感謝を伝えてくるけど、一般市民の方達はちょっと残念そうだった。

 実際に中に入りたかったんだろうなぁって思うけど。それは正直無理だし……

 でもさ、あちら側に晋さんがいてくれて助かった。同じ立場だからこそ俺の気持ちもわかってくれるし、クレッシェルド側で盾にもなってくれそうだし。

 とりあえず、最後は全員納得の表情になり会合は終了したんだ。

 あちらでも晋さんの立場は王族保護下にあり、今回晋さんのギフトを使うのは特例らしいのは浸透しているそうだからな。無理を言っているのは理解していたらしいし。

 まあ、だからと言って、言うだけ言ってみる精神は凄えなぁ、と元日本人としては思う。但し、うちのヴァレリーさんの機嫌は悪いままだったけどな。

 「俺のトオヤを利用しようなど、思い出すだけで腹が立つ!」

 その日、ヴァレリーが仕事から解放されてから、俺をずっと離さないのには苦笑したよ。

 静かに怒ってくれていたディグラン様とスタッグさんも同じ思いだったのか、俺を気遣ってくれたしなぁ。

 強力なギフトを持つ事は、人からこう要求されるって事があるんだって経験したけど、それより守ってくれる人がいるのが嬉しいもんだ。

 俺、大事にされてるよなぁって実感できたし。

 あ、その前に晋さんのギフトにも招待されて行ってきたんだった!うん、その話は次回だな。

  ーーーーーーーーーー
 
  大勢集まればこんな事もあるよね、回でした。
 さあて、微妙な雰囲気を、次回払拭しますよー!

 さて、お気に入りに登録ありがとうございます!
 気がつけば1490越え……!
 感謝は勿論作品で!
 見たい場面あります?10/19まで受付してすよー」
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