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これぞ至福……!

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 俺は今感動している……!異世界の神様……!貴方がくれたギフトは獣人の希望です!

 胸の位置で手を組んでうち震える俺の目の前には、フッサフサ且つ艶があり、その姿の貴重性を遺憾無く発揮するお三方がいるわけで……!

 ああああああ……!その最上のもふもふに飛び込んでいけないという、この世界のマナーが憎い!

   ◇

 ハッ、また突っ走ってしまった。失礼、失礼。
 
 冒頭は、お風呂上がりのヴァレリー、ディグラン様、スタッグさんの見事な雪豹、ライオン、黒虎っぷりに感激した俺が、説明すっ飛ばしてしまった結果だな。

 ん?風呂がどこにあったかだって?勿論、ログハウス(3LDK)を召喚したんだ!(1話参照)ヴァレリー達に相談しながらな。

 いやあ、凄かったぜ!みんなの驚きようったら!へへっ、ちょっと俺も驚いたけど。

 だって、ログハウスの大きさが獣人仕様だったんだ。俺にとっては、天井高いわ広いわでいい事尽くめ!それも、家具が一通り揃っているモデルハウスだぜ!!これは正直言って嬉しい誤算だった。

 寝袋とベッドならベッドの方がいいし、魔物がいるって聞いてしまったからには、テントだと俺は怖かったんだよ……キャンプは安全なところでやりたいからなぁ。

 そして予想は出来たけど、早速ログハウスの中に入った途端に始まった、俺への質問の嵐。

 「靴を脱いで入るのか?」
 「コレは何を流す装置です?」
 「この箱はなんだ?ヒヤッとするな?」
 「あ、馬鹿!フレイが水被りやがった!」
 「すげえな。このソファー、座り心地最高じゃん」

 早速ヴァレリーから、日本様式の玄関について質問が入ったり。トイレの扉を開けて、水洗トイレがわからないスタッグさんから質問がきたり(こちらの世界は、定番のスライムトイレだそうで)。

 スタスタとリビングダイニングに入ったディグラン様が、冷蔵庫に興味を持ったり、団員さん達まで自由に動き回ったり……

 だー!勝手に見てもいいけど、俺に集中して聞きに来んな!俺は同時に聞き取れたりしないんだって!

 と、まあそんな感じで俺がキレた為、ヴァレリーがみんなをリビングに集めてくれたのには助かったけどな。

 でも、一箇所に体格の良い団員全員が集まったら、リビングでも狭くて狭くて。個人的にはもふもふに囲まれてちょっと嬉しかったケド。

 あ、失礼。俺の感想はどうでもいいよな。

 で、だ。とりあえず間取りと使用方法を簡単に説明して、なんとか全員に理解してもらったんだけど、今召喚したログハウスは団員さん達だけで使って貰う事なったんだ。

 因みに、コレはディグラン様の提案だ。

 「トオヤの魅力に耐性のない独身の団員達が多いからなぁ。万一の事もあるし。一旦外に出て、トオヤにこの家の召喚中に更に家を召喚できるか試して貰いたい」

 俺の魅力については理解はできんが、そう言われると召喚の検証はしておいた方がいいもんな。

 って事で外に出て試してみたら、結果的にはもう一軒ログハウス召喚出来た。どうやら、MPがある限り家召喚が出来るみたいだな。

 という事で、俺とヴァレリー、ディグラン様、スタッグさんの四人でもう一軒を使う事になった。因みに、ディグラン様もスタッグさんも番持ちだから安心していいらしい。

 つい異世界特有のハーレムヒャッハー!の展開があるんか?って思ってたけど、ライオンの獣人でさえ違うらしい。

 へえ、と思ったけど、それはいいとして。

 俺、もう一つ検証したかった事があるんだよ。
 それは、店舗召喚!

 目的は当然、騎士団みんなの毛艶改善。となると、何を開くかってペットショップが併設されているホームセンターだよなぁ。

 ともかくヴァレリーやディグラン様に説明して、それも試す事になり、早速ホームセンターを召喚してみると……

 突然、空間に両開きの自動ドアが出現したんだ!

 獣人達は何事か⁉︎と驚いていたけれど、俺にとっては馴染みのものだった為、俺は早速ホームセンターにスタスタ入って行ったんだ。

 すると、光と音に迎えられた俺。

 中は大型のホームセンターの店内そのまま。大量の種類の商品を明るい照明が照らし、優しい雰囲気の店内ミュージックや案内アナウンスまで流れてるんだぜ!

 試しに商品一つ一つ手に取ってみると、商品の説明が音声で流れて便利だし、レジはセルフでも、会計はなんと保有魔力と現地通貨両方が使える仕組みだったんだ。

 「ヒャッホウ!凄え!これ、気兼ねなく使えるじゃん!」

 ……って一人叫び声を上げて初めて、俺一人で店内で騒いでいる事に気がついた。

 慌てて外に出ると、ヴァレリーからの心配のハグやディグラン様の「迂闊に行動するな」というお小言が……!

 流石にそうかと反省し、今度はディグラン様主導で検証に入ったんだけど。

 「待て……!なんだこの品数は……!」
 「コレは魔導具ではないのですか?」
 「食品まで扱っているのか……?」

 検証の結果、召喚店舗に入れたのはヴァレリー、ディグラン様、スタッグさんの3人。どうやら俺が信頼している人だけが入れるらしい。

 これにはガッカリした団員さん達。獣耳がペタンとなり尻尾が動かない様子には、本気でごめんなぁって思った。でもすぐに復活して「信頼に値するよう努力します!」って団員さん達に頭下げられたな。うん、頑張れ。

 そしてその頃、中に入れた3人は素に戻ったらしく、自分の興味あるコーナーのチェックに夢中になっていたんだ。

 ヴァレリーは「遠征に使えそうだ」とアウトドアコーナーでじっくりキャンプ用品を見ていたし、ディグラン様は「王宮で使えないものか……」と家電コーナーを一通りチェック。

 意外だったのはスタッグさん。農業資材・肥料をじっくり厳選していたんだ。「実家の領地が農業が盛んな場所なんです」だってさ。

 まあそんな感じで、俺が一人一人案内せずに自由に動けたから、当然ペットショップコーナーに直行!以前厳選した猫用シャンプーとリンス、ブラッシングスプレーを購入し、団員さん達にお届けしといた。

 勿論きっちり使い方を説明して、ログハウスで順番にお風呂に入っているようにお願いしたんだ。一応、シャンプーやリンスを贈るのも意味あるんじゃないかと思って、殿下からの支給って事にさせてもらったけど。

 後からスタッグさんに聞いたら……

 「ああ、良い判断でしたね。大概身繕い関係のものを家族以外に贈る事は、閨へのお誘いというのが含まれていますから

 その後コッソリ「ですからヴァレリー団長に騙されないで下さいね」という忠告つきで教えて貰った。

 スタッグさんの忠告に感謝しつつ、ヴァレリーやディグラン様やスタッグさんの分は、ディグラン様に事情を話して王族からの支給として買って貰ったんだ。

 ついでに俺用の必要な物や雑貨を自分で購入して、アイテムボックスに詰め込んで、やっと一息ついたんだけど……

 店内に入った3人が、なかなか帰ろうとしないしない!

 俺が一人一人に「また機会作るから!」と約束と説得して3人を連れ出せた時には、既にとっぷり日が暮れてましたとさ。

 当然その頃には団員さん達は全員入浴済みで、狙い通りサラサラのツヤツヤに変わっていたのには、俺的に満足満足!

 そして、夜の見回りは団員さん達に任せて、ようやくログハウスに戻ってきて、全員お風呂に入り終わったのはついさっきの事。

 で、ようやく冒頭に戻るんだけどさ。

 うわあ、撫でたい……!触りたい……!

 3人の見事な毛並みに翻弄される俺に、助け船を出してくれたのは俺のヴァレリー(笑)!

 「トオヤ、こんなにさっぱりしたのは初めてだ。ありがとう」

 ヴァレリーは感謝を伝えつつ、俺をぎゅっとハグしてくれたんだ!

 ヴァレリーから抱きしめてくれる分には堪能して良いよな?しかもバスローブ姿だから、胸の開いている部分が多いのはより素晴らしい!

 そんな事を考えながら、ヴァレリーのもふもふした胸元に、パフっと顔を押しつけて俺もきゅっと抱きつく。

 「後はブラッシングしっかりやってくれよ?」

 本当は俺がやりたい……!ブラッシングスプレーだって、ブラシだって各種用意してるんだ!(アイテムボックス内に)

 「……してくれないのか?」

 うおおお、そんな悲しげな目で見ないでくれぇ!俺だってやってやりたいさ……!でも……

 「ヴァレリー、トオヤを困らせるな。せめて婚約しないと立場的に不味いだろうが、お前」

 そう、ディグラン様が言う通り、家令や家族以外でブラッシングするのは、「貴方の全てを受け入れます」という意味があるそうで。

 これはスタッグさんに感謝だった。ヴァレリーが風呂に入っている間になし崩しに丸め込まれそうな俺に、心配して教えてくれたんだ。

 うん、危ないところだった……!俺、ホイホイと釣られるからなぁ。無知は怖い。

 チッと舌打ちする柄の悪いヴァレリーの肩をバシッと叩きながら、ディグラン様がいかにシャンプーが素晴らしいか感想を教えてくれた。

 「トオヤ、凄いな。このシャンプーとリンス。洗い上がりの毛艶の良さといい、毛の通りの良さといい是非とも王宮に卸して欲しい」

 「殿下、私の番にたかるのはお辞め下さい」

 「……お前、トオヤの事になると心が狭いな。まだ怒ってるのか?」

 「当然です。トオヤの魔力で召喚した家に私以外の輩を入れるなんて、腹ただしい……!」

 「ヴァレリー団長、トオヤさんの善意もありますよ?それに執着の強い男は嫌われますよ?」

 サラッと本音を言い合えるこの3人の気持ちいい関係に、俺も笑いながらヴァレリーをフォローする。

 「ヴァレリーはかっこいいよ?……ところで、部屋割はどうする?俺はこのリビングのソファーでいいけど」

 このログハウス寝室3部屋しかないし。俺はこの3人の中で1番小さいからな。

 なんて思っていたら、3人から「「「え?」」」と驚かれたんだけど?

 なんで?という俺の表情に「トオヤはヴァレリーと一緒だろう?」と、さも当然のようにいうディグラン様と頷くスタッグさん。ヴァレリーに至っては……
 
 「トオヤ?私と一緒だと嫌か?」

 なんて「キュゥ」と寂しそうな声を出して聞くんだぞ。もふもふ好きの俺が、この状態で嫌と言える訳ないだろう?

 結局俺が折れて、ヴァレリーと一緒に寝る事になったけど……翌朝の俺はぐっすり寝れたと言っておこう。

 もふもふは気持ちいいしあったかいしで呑気な俺は、ベッドに横になった途端スコンと眠ったそうだ。

 それに今朝、ヴァレリーの寝ている隙に、思いっきり胸元にスリスリ出来たからな!

 「おはようございます!」

 そんな感じでご機嫌な声で挨拶をした俺と、後ろからゆっくりリビングに入ってきたヴァレリー。

 でも、俺達の様子を見て既にリビングにいたディグラン様とスタッグさんが、ヴァレリーに憐れみの目をしていたのはなんでだろうな?
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