7 / 8
7
しおりを挟む美味しかった朝食の後には、食後のティータイムが待っている。
お母様は一足先に部屋へと戻ってしまったので、私は一人、紅茶を飲んで一息ついていた。
「ごちそうさま」
カップをソーサーへ置き、椅子から立ち上がると、すかさずアネッサが扉を開けてくれる。
私が扉の前へ近づくと、アネッサは礼の姿勢で下げていた頭を、一度上げた。
「殿下、この後はどちらへ?」
「そうね、このまま散歩に行くわ。食後の運動も兼ねて」
そう答えると、アネッサはもう一度綺麗な礼をとって、促すように扉の向こうを指し示した。
私はそれに従うようにして、何の躊躇いもなく歩みを進めていく。
「かしこまりました。それでは、私は仕事がありますので────」
アネッサがいないなら一人で散歩かな、なんて暢気なことを考えながら、扉をくぐった、その先に。
「────後は、ルーク様にお任せします」
「おはようございます、クリスティア様」
「え」
私の好きな人であり、私を死に追いやった張本人、ルークがいるとも知らずに。
「────ま、クリスティア様?」
「な、なななにかしら!?」
ルークが急に呼びかけるから、ものすごく動揺してしまった。いや、私がぼうっとしていたのも悪いのだろうけど。
突然目の前にルークが現れたからといって、逃げ出すわけにもいかない。
なので、とりあえずルークを連れて、当初の予定通り邸の中を散歩して回っていたのだけれども。
「大丈夫ですか? なんだか、心ここにあらず、といったご様子でしたので」
「ご、ごめんなさい。私ってばまだ寝ぼけているみたいで……」
私を破滅へと追い込んだ張本人を前にして、平静を保てるほど、私は達観していない。
「昨日も大きなパーティーがありましたからね……。クリスティア様は育ち盛りの7歳なんですから、きちんと休息を取らないとダメですよ」
「ええ、そうね…………」
────7歳どころか精神的には17歳ですごめんなさい……。あと私7歳なのね、教えてくれてありがとう……。
ルークがそばに居ることの緊張で、とても情報収集どころじゃなかったけど、なんとか自分の年齢を知ることができた。
まあ、結果良ければ全てよし、だ。
さあ、次に知りたいのは、私が前に生きた世界とこの世界は同じなのかどうか、だ。よく似た別の世界、という可能性もある。
それを知るためには────。
「そろそろ散歩は終わりにしようかしら。ルーク、付き合ってくれてありがとうね。それじゃ、私は図書室に行ってくるわ」
当初の予定にもあったように、図書室で調べ物をするのが良いだろう。
それに、ルークと一緒の空間から一秒でも早く逃げ出したい。ルークだって子供の相手をするより、仕事ができた方が嬉しいはずだ。
「もういいんですか? 珍しいですね」
「え?」
「いえ、いつもは三時間くらい散歩なさっていたので。クリスティア様、散歩お好きでしょう?」
「……っ!」
────ああああ、そうだった!! 私、毎日毎日ずっと散歩してたわ!! ルークと一緒にいたいがためにね!!! 私どれだけ必死だったのよ……。恥ずかしすぎる……。
たしかに、こんなに幼いときからでも、ルークはかっこいい。好意をアピールしたい気持ちもわかる。
だけど、過去の私よ、できれば少し自重してほしかった。
「あ、もしや体調が優れないのですか?」
「…………ええ……ちょっと、ダメージを受けてるかもしれないわ……」
心の方に。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…
ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。
しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。
気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…
軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら
夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。
それは極度の面食いということ。
そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。
「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ!
だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」
朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい?
「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」
あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?
それをわたしにつける??
じょ、冗談ですよね──!?!?
王女キャスリーンの初恋
弥生紗和
恋愛
【王女と下級騎士の身分違いの恋】
王女キャスリーンは十二歳の頃、下級騎士ルディガーの命を救う。ルディガーはキャスリーンに忠誠を誓い、それから十年後。ルディガーは魅力的で女性にモテる男になり、キャスリーンはルディガーの女性に関する噂を聞くたびに心が乱れる毎日。ルディガーはそんなキャスリーンの気持ちを知ってか知らずか、彼女の気持ちを揺さぶっていた。彼を密かに想い、結婚をしようとしないキャスリーンをクラウスという男が狙う。クラウスは女に暴力を振るうという噂があり、キャスリーンは彼を危険視し、ルディガーにクラウスを調べさせる。クラウスはキャスリーンを手に入れる為、占い師を利用し国王に近づく──。
中編になりますのでさくっと読んでいただけると思います。暴力、性的表現が一部ありますのでご注意ください。完結済みです。小説家になろうにも投稿しています。
亡くなった王太子妃
沙耶
恋愛
王妃の茶会で毒を盛られてしまった王太子妃。
侍女の証言、王太子妃の親友、溺愛していた妹。
王太子妃を愛していた王太子が、全てを気付いた時にはもう遅かった。
なぜなら彼女は死んでしまったのだから。
王太子の子を孕まされてました
杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。
※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。
あなたが残した世界で
天海月
恋愛
「ロザリア様、あなたは俺が生涯をかけてお守りすると誓いましょう」王女であるロザリアに、そう約束した初恋の騎士アーロンは、ある事件の後、彼女との誓いを破り突然その姿を消してしまう。
八年後、生贄に選ばれてしまったロザリアは、最期に彼に一目会いたいとアーロンを探し、彼と再会を果たすが・・・。
【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。
侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています
猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。
しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。
本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。
盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる