断罪王女の華麗なる転身

柚子

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美味しかった朝食の後には、食後のティータイムが待っている。
お母様は一足先に部屋へと戻ってしまったので、私は一人、紅茶を飲んで一息ついていた。


「ごちそうさま」


カップをソーサーへ置き、椅子から立ち上がると、すかさずアネッサが扉を開けてくれる。
私が扉の前へ近づくと、アネッサは礼の姿勢で下げていた頭を、一度上げた。


「殿下、この後はどちらへ?」

「そうね、このまま散歩に行くわ。食後の運動も兼ねて」


そう答えると、アネッサはもう一度綺麗な礼をとって、促すように扉の向こうを指し示した。
私はそれに従うようにして、何の躊躇いもなく歩みを進めていく。


「かしこまりました。それでは、私は仕事がありますので────」


アネッサがいないなら一人で散歩かな、なんて暢気なことを考えながら、扉をくぐった、その先に。




「────後は、ルーク様にお任せします」


「おはようございます、クリスティア様」


「え」




私の好きな人であり、私を死に追いやった張本人、ルークがいるとも知らずに。








「────ま、クリスティア様?」


「な、なななにかしら!?」



ルークが急に呼びかけるから、ものすごく動揺してしまった。いや、私がぼうっとしていたのも悪いのだろうけど。


突然目の前にルークが現れたからといって、逃げ出すわけにもいかない。
なので、とりあえずルークを連れて、当初の予定通り邸の中を散歩して回っていたのだけれども。


「大丈夫ですか? なんだか、心ここにあらず、といったご様子でしたので」

「ご、ごめんなさい。私ってばまだ寝ぼけているみたいで……」


私を破滅へと追い込んだ張本人を前にして、平静を保てるほど、私は達観していない。


「昨日も大きなパーティーがありましたからね……。クリスティア様は育ち盛りの7歳なんですから、きちんと休息を取らないとダメですよ」

「ええ、そうね…………」


────7歳どころか精神的には17歳ですごめんなさい……。あと私7歳なのね、教えてくれてありがとう……。


ルークがそばに居ることの緊張で、とても情報収集どころじゃなかったけど、なんとか自分の年齢を知ることができた。
まあ、結果良ければ全てよし、だ。
さあ、次に知りたいのは、私が前に生きた世界とこの世界は同じなのかどうか、だ。よく似た別の世界、という可能性もある。
それを知るためには────。


「そろそろ散歩は終わりにしようかしら。ルーク、付き合ってくれてありがとうね。それじゃ、私は図書室に行ってくるわ」


当初の予定にもあったように、図書室で調べ物をするのが良いだろう。
それに、ルークと一緒の空間から一秒でも早く逃げ出したい。ルークだって子供の相手をするより、仕事ができた方が嬉しいはずだ。


「もういいんですか? 珍しいですね」

「え?」

「いえ、いつもは三時間くらい散歩なさっていたので。クリスティア様、散歩お好きでしょう?」

「……っ!」


────ああああ、そうだった!! 私、毎日毎日ずっと散歩してたわ!! ルークと一緒にいたいがためにね!!! 私どれだけ必死だったのよ……。恥ずかしすぎる……。


たしかに、こんなに幼いときからでも、ルークはかっこいい。好意をアピールしたい気持ちもわかる。
だけど、過去の私よ、できれば少し自重してほしかった。


「あ、もしや体調が優れないのですか?」

「…………ええ……ちょっと、ダメージを受けてるかもしれないわ……」



心の方に。
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