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第4章 青い竜の村

92話 ルクレツィアの計画

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「まったく、なんて事をしてくれたんだ」
 ルクレツィアが部屋の中を行ったり来たりしながらん、頭を掻く。
「あそこは上手く抱き込めてきたと思ったのに、これで駄目になりかねないだろうが」
「人の事売り物みたいに扱っといて、自分が大変みたいな顔してんだ」
 この部屋に運ばれるときからずっと草師で縛られてるんだが、クソっ! この鎖全然解けそうにねえ。
 レーテは部屋の椅子に座って、何を考えているのかずっと自分の足元を見ている。
「レーテ君には一定の自由を与えるという条件で、了承の上でやって貰っていたんだ。
 教授連中の考え一つで、彼女は永久に牢獄の中のようなものなんだぞ!」
「だったらその時はオレがコイツ連れて、この街の連中全員殴り飛ばしてやる」
 ルクレツィアが特大のため息を吐く。
「そんなこと出来るわけ無いだろう。
 いくら攻撃の魔術が下火で衰退傾向にあるからって、街中の魔術師全員を相手にするなんて無理だ。
 何より、彼女を貸し渡すことでユリウスに関する調査もやってたのに、それを無下にしやがって」
 ルクレツィアがオレの頭を叩く。
 昼間だからなのか、元々力が弱えのか、全然痛くなかった。
「何でユリウスの名前がここで出てくるんだ?」
「それは私も初耳だね。
 いつの間にそんなことを調べていたのだね」
 ルクレツィアの小さな鼻から荒い息が出る。
「この街の指名手配、お尋ね者になってるユリウスがまだ街にいられるってことは、力のある奴が後ろ盾になってるってことだろう。
 そんな奴、議会に名前を連ねてる教授共の誰かか、金を持ってる商人かだ。
 それについて」
 ルクレツィアの話の途中で扉が叩かれる音がする。
「誰だ?
 いま取り込み中なんだが」
「ダネルです。
 頼まれていたものをお餅しました」
 紙の束を抱えたダネルが部屋に入ってくる。
「今わかっている範囲をまとめ……お前何をやっているんだ?」
「お、久しぶりだな」
「ひょっとして今言ってた調査をしていたのは、ダネルのことかね?」
「そうだよ。
 私があれこれ聞ける状況を作って、ダネルに魔術も合わせて情報を引き出させてたんだ」
「身に潔白があるのなら訳を話して頭を下げればいいです。そうでなければ教授がまあ色々と」
 ダネルが肩を軽くすくめる。
「吸血鬼は便利だと思いましたね」
 レーテが何かを察した顔をしている。
 何だ? 何をしたってんだ?
「目を見て言いなりにしたか、噛み付いて、と言ったところかね」
 げ、あれか。
「そうです。
 いや、あの効果の高さは驚きました。レーテさんを前に失礼しますが間違っても噛まれたくないと思いましたね」
「レーテ君から酷いとは聞いていたが、言いなりの人間が欲しいならこれ以上はないくらいいいな」
 コイツ、趣味悪いな。
「で、何がわかったんだ?」
「ユリウスを匿っていた奴と、ユリウスの研究に援助してた奴だな」
「いるだろうとは予想してたが人数が意外と多かった。これでまだ途中なんだから頭が痛くなる」
「いやぁ、自分の派閥の人間に教授職と議席を持たせたい奴らには朗報だろうな。
 次の議会は荒れるぞ」
 頭を抱えるダネルとは反対に、ルクレツィアはやけに楽しそうだった。
「ユリウスを匿ってたヤツがわかったってことは、ユリウスも見つかったってことか」
「残念ながらそれはまだだな。
 でもあれだ、今までよりはユリウスも見つからないように気を使うだろうから、アズ君に会うってことも難しくなるだろうな」
 おお、アズがユリウスに合わないで済むってことか!
 いつまたユリウスのヤツがアズのところに来るか心配だったから、そりゃいい知らせだ。
「ただ冷たいことをいうとな、ユリウスにはもうしばらく間アズ君を狙って欲しかったんだ。
 上手く行けば、ユリウスを釣り上げるのに使えたからな」
 あぁ?
 ルクレツィアの言葉に思わず牙を剥く。
 子供を釣りの餌みたいに使おうってのか、コイツは?
「まあ、身内を釣り餌に使われてるってわかったら、そう言う顔するよな。
 けどユリウスに関わってないヤツらの中にも、その知識と技術だけは欲しがってるヤツが少なくなくてな。
 ユリウスを上手く捕まえられれば、色々と都合が良かったんだ」
「そりゃテメェの都合だろうが。
 それにレーテや、まだ子供のアズを巻き込むなって言ってんだ!」
 うっわ、ルクレツィアのヤツ、オレの方がおかしなこと言ってるみたいな顔で見てっきやがる。
 本当に何とも思っちゃいねえな、コイツ。
「私のことは気にしなくてもいいからね。
 こうして会うことが出来るだけでも、十分すぎるくらいなんだからね」
 そうじゃねえだろ。
 レーテが日の下に出られねえってのはわかってる。
 だけど壊していい物みたいに扱われていい、てわけじゃねえだろ。
「言いたいことはわかる。お前の考え方はとても人間らしいよ。
 けどこの街にいる人間はそうじゃない考えが多いんだ。腹立たしく思うことがあるくらいにな」
「何だか私が悪者みたいに扱われてる気がするんだが?」
「いや、実際そうだろ」
 今更そんな眉間にしわ寄せたって何だっつうんだ。
「まあいい、今はそんな話をするときじゃないからな。
 今回の調査でユリウスの潜伏先がある程度絞れそうなんだ」
 なんだって!?
「後は向こうとこちら、どちらが先に攻めるかってくらいまで潜伏場所は特定できると思う」
「なら、こっちが先に攻めちまえば」
「ユリウスの不意を突けるということだ」
 おお! いいじゃねえか、それ!
 今までは先にやられてばっかりだったからな、次はこっちからやってやる!
「その際にはレーテ君、君にも手伝って欲しい。
 自動人形でも用意されてたら、君に任せるのが一番早く壊してくれるからな」
「それは構わないけれどね。
 私が行くということは、夜に行くのかね」
「ああ、戦力は多いほうがいいからな。
 場所を特定してそこに奇襲をかけて欲しい、君と……」
 ルクレツィアがワンドを振ると、体に巻き付いていた鎖が一瞬で消えた。
「そこの大馬鹿者と、後はダネルの三人でな」
「僕も含まれてるんですね」
「いいぜ、やってやらあ!」
 拳を手に打ちこんで、気合を入れる……が、指が折れてたのを思い出して、直後に一人で変な声を出してた。
「ダネル、潜伏先の特定ができるまで付き合ってもらうぞ」
「ここまで来たら覚悟は出来てます」
「レーテ君は私の家でしばらく過ごしてくれ。
 夜でないと難しいだろうが、何かあった場合はカルロとアズ君を頼む」
「そのくらい任せておきね」
「ゴーヴァン、お前は」
 おう! 剣の鍛錬だろうが魔砲の練習だろうが何だってやれるぞ!
「治療院に戻って傷を治すことに専念しろ。
 どうせまだ、完治してないんだろうからな。
 少なくとも決行は、お前の傷が治ってからだ」
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