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第1章 売身都市

10話 平気な女

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 殺気立った顔で男が剣を構えて、こちらに向かってくる。
 「奴隷の分際でっ!」
 クソっ、最初に蹴り飛ばしてやった奴か。意識飛ばしたかと思ったが、思ったより早く目ぇ覚ましやがった。
 あの剣の長さとこの距離、かわせるか? 最悪腹に一撃か、急所さえ外せばなんとか。
 オレがどう動くかよりも先に、オレと物盗りの間に影が割って入った。
 「んなっ?!」
 あの女、何考えてやがる! 間に割って入った次の瞬間、女の体の中を剣が刺し貫いていた。
 しかし女は倒れるでなく、相手の顔を掴む。
 物取りの顔が急に呆けた面構えになりその場で膝をつき倒れる。
「オイ、大丈夫……か?」
 こちらは倒れるどころか真っすぐ立っている。
「ああ、大丈夫さね」
 そう言って振り返った女の鳩尾には剣が、その刀身の半分以上が突き刺さっていた。
「大丈夫な訳、ねえだろ」
「このくらいなら、引き抜くだけさね……くっ、く」
 剣の柄に手をかけると、力を込め抜き始める。
 オイオイオイオイ、マジでやってんのかコイツは?!
 イヤ、おかしい。なんで刺された剣を抜いてんのに、剣に血がついてない? どうして血が流れない?
「困ったね、服に穴が空いてしまったよ。これは代りを買ったほうがいいかね」
 腹には、穴が空いていた。剣の断面と同じ形で、だ。
 自分で腹の傷を確認すると、マントの前を閉じ、傷を隠してしまう。
「さあ、まだ買い物があるのだろう。早く済ませて、一度家に戻ろうじゃないかね」
 何なんだよ、コイツ。刺されたってのに平気な顔してるどころか、血の一滴すら流れねえだと? 何をしたらそんなこと出来んだ?
 女が早く来いと急かしてくる。
 気味が悪いっちゃ悪いが、この街を早く出るためだ。今は、あの女といる方がいいか。
 まだ倒れたままの二人と、呆けた顔の一人を見て大丈夫だろうと判断する。
「じゃあ武器を買ってくれ。物はオレが選ぶ」
 路地に転がった剣やナイフを見、拾っていこうかと思ったが止めておく。横にいる女が何をしたのかわからない以上、そんな武器を使う気はわかないからだ。
 俺たちは再び、市場の雑踏の中へと入っていく。
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