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第十九話
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【第十九話】
恒例のリスキル祭り+リスキル中の火事場泥棒によるストレージボックス内の金品強奪、のダブルパンチを受けて、俺は人間性と全財産を失った(この一連の顛末は『ダンジョンジェム事件』と名づけられた)。
時を同じくして、第一回公式イベント『悪魔の降臨とスキルジェム』が終了した。
この三週間、他のプレイヤーたちと協力して毎日『悪魔』を狩って『スキルジェム』を手に入れて、俺たちはよく頑張ったと思う。
本当に頑張ったよ。本当に。
だから、もう頑張らなくていいんじゃないか?
「ダメだ」
はい。
俺は今、自宅に軟禁されている。
それで何をしている、いや、やらされているのかというと、『スキルジェム』にスキルを付与する作業だ。
以前、【魂の理解者】は使いようによってダンジョンボスをも容易に倒せるということを、俺自身が証明してしまった。
これにより、俺のスキルへの需要が急増。
ちなみに、皆が俺のスキル内容を知っているのは、アカネがジャーナに漏らしたからだ。
ジャーナめ、俺がこうなることを予期していたな。頭の良い報道者は、本当に食えないものだ。
そういうわけで、地獄のスキル付与祭りが開催される運びとなった。
この苦役から逃げ出そうにも、アカネが常に俺を監視している。
そして、アカネの都合の悪いときはガイアがやってくる。
それでも無理に逃げると、居合で斬られるか岩で潰されるかして死ぬ。というか、既に何回か死んでる。
あと、わざと過労死してもリスポーンに一分のラグがあるため、その間に広場で待ち構えられていて逃げるのは不可能だった。
俺はなんで『南東門』なんか作ったんだ?
ただ、和室の穴はこの間マドリさんがやってきて直してくれた。
そのせいで、出入り口が玄関しかなくなった。いや、それが普通の家か。普通の家に戻してくれてありがとうございます、マドリさん。
要するに、逃げられない。大罪人は黙ってスキル込めろ、という状況だ。
「飽きた」
「いいからやれ」
「いやだ」
「斬り殺すぞ」
これである。
言うなと言われた『ダンジョンジェム』の存在を簡単に言いふらされたことに対する怒りが未だ収まっていないのか、二言目には「殺すぞ」だ。
「やるならやれ。もう疲れた」
「そうか」
なんでもないような会話の流れで、何の迷いもなく斬り殺された。
※※※
リスポーン後。
俺は激怒状態のアカネによって自宅に連行されると、インターフォンが鳴った。
この家には、外の様子が見えるモニターみたいなものはない。
敵襲なら【魂の理解者】で葬り去ればいいからいらないだろうと思って、マドリさんに設置してもらわなかった。
よって、来客が来た場合は、ドアを開けて誰が来たかを確かめる必要がある。
「ここに居ろ」
冷たく言い放ち、玄関に向かうアカネ。
今だな。
俺は立ち上がり、ふすまをそっと閉めて和室から洋室に移動する。
「……」
音を立てないよう、ストレージボックスからつるはしを取り出す。
今から賭けをしよう。
成功するか、しないかだ。
「……」
次に廊下に出て、反対側の壁に向かう。
一発で壁に穴を空けられたら俺の勝ち。空けられなかったら俺の負け。
俺は大きくつるはしを振りかぶる。
「っはあああっっ!!」
ガアアアアアンッッ!!
つるはしを思いっきり壁に叩きつけると、見事、小さいが向こう側に貫通している穴が空いた。
俺の勝ち!
すまない俺の家。すまないマドリさん。
だがこれなら、俺でもギリギリ通れそうだ。
「トーマあああああああっっ!!!」
やばい!鬼が来た!
アカネが来る前に、俺は穴に飛び込んで脱出。
無事、自由を手に入れた。
※※※
脱獄に成功した俺は、すぐさま家の外周をぐるりと回り、裏の勝手口から【暗殺稼業】のクランハウスに入る。
お隣には、いっちょまえに勝手口があるのだ。
「トーマっ!?お勤めしているはずじゃ!?」
リビングに押し入ると、くつろいでいたニヒルとクランメンバーたちが目を真ん丸にして驚く。
「ノーフェイスはいるか?……いるな。頼みがある」
「なんだ」
俺はプライベート用の顔をしているノーフェイスに近づき、話を持ちかける。
「報酬は後で必ず払う!俺に化けて勝手口から逃げてくれ!」
この男はノーフェイス。【暗殺稼業】のメンバーであり、変装のプロ。
彼のスキルは【百面相】で、一度見たことのある人物に変装できるスキルだ。
精巧なマスクをかぶるとかではなく、対象の顔と容姿、体つきそのものになる。
変装といっているが、肉体をコピーするみたいなスキルだ。
「それは俺に、死ねといってるのか?」
「そうだ。だが報酬は弾む」
断言する。
俺の契約を飲んで行動すれば、ノーフェイスは100%死ぬ。
「いいだろう」
「じゃあ、頼む」
交渉成立。
彼に変装してもらうのは初めてだが、俺は何かする必要があるのだろうか?
「金を用意しておけ」
瞬きする間に、俺の生き写しが目の前に現れる。
一瞬で発動できるのか。
「あ、ああ」
理解が追いつけず俺が生返事を返すと、彼は颯爽と走って勝手口に向かった。
「それで、どうするのこの後?」
一区切りついたところで、ニヒルが訊いてくる。
「本当に申し訳ないんだが、お金を貸してくれないか?」
「え?」
俺のありえない発言に、この場の全員が引いた。
「聞き間違いかな。なんて?」
「お金を貸してくれ」
「…だよね。うん」
俺はみっともなく頭を下げる。土下座も辞さないつもりだ。
自由のためには思い切った行動が必要で、そして思い切った行動のためには、お金が要る。
俺はリスキルで所持金を落としてしまったから、このような行為に走らざるを得ないわけだ。
「分かったよ。トーマにはいろいろ世話になってるからね」
「ありがとう」
俺はもう一度頭を下げ、ニヒルから金貨一枚をもらった。
「借りは絶対に返す。本当にありがとう」
「いいっていいって。私とトーマの仲じゃん」
重ねてお礼を言い、ニヒルと別れた。
【暗殺稼業】のクランハウスの玄関から外に出る。
「フェイスレス、時間を稼いでくれよ…」
急ぎで、なおかつ目立ちすぎないように小走りで進む。
『南東門』は使わずに、外壁沿いをぐるっと回って東門を通る。
門の近くに着いたら、馬宿の御者に金貨を握らせて一頭借りる。
話の分かる御者だった。俺の切羽詰まった様子を見て、何かのっぴきならない事情があることを察してくれた。
「いけ、馬!」
ヒヒ―ンと鳴き、徐々にスピードを上げて駆けていく馬。名前はまだない。
目指すは南東の街、エリクシル。
俺の自由を求める旅が、今始まった。
恒例のリスキル祭り+リスキル中の火事場泥棒によるストレージボックス内の金品強奪、のダブルパンチを受けて、俺は人間性と全財産を失った(この一連の顛末は『ダンジョンジェム事件』と名づけられた)。
時を同じくして、第一回公式イベント『悪魔の降臨とスキルジェム』が終了した。
この三週間、他のプレイヤーたちと協力して毎日『悪魔』を狩って『スキルジェム』を手に入れて、俺たちはよく頑張ったと思う。
本当に頑張ったよ。本当に。
だから、もう頑張らなくていいんじゃないか?
「ダメだ」
はい。
俺は今、自宅に軟禁されている。
それで何をしている、いや、やらされているのかというと、『スキルジェム』にスキルを付与する作業だ。
以前、【魂の理解者】は使いようによってダンジョンボスをも容易に倒せるということを、俺自身が証明してしまった。
これにより、俺のスキルへの需要が急増。
ちなみに、皆が俺のスキル内容を知っているのは、アカネがジャーナに漏らしたからだ。
ジャーナめ、俺がこうなることを予期していたな。頭の良い報道者は、本当に食えないものだ。
そういうわけで、地獄のスキル付与祭りが開催される運びとなった。
この苦役から逃げ出そうにも、アカネが常に俺を監視している。
そして、アカネの都合の悪いときはガイアがやってくる。
それでも無理に逃げると、居合で斬られるか岩で潰されるかして死ぬ。というか、既に何回か死んでる。
あと、わざと過労死してもリスポーンに一分のラグがあるため、その間に広場で待ち構えられていて逃げるのは不可能だった。
俺はなんで『南東門』なんか作ったんだ?
ただ、和室の穴はこの間マドリさんがやってきて直してくれた。
そのせいで、出入り口が玄関しかなくなった。いや、それが普通の家か。普通の家に戻してくれてありがとうございます、マドリさん。
要するに、逃げられない。大罪人は黙ってスキル込めろ、という状況だ。
「飽きた」
「いいからやれ」
「いやだ」
「斬り殺すぞ」
これである。
言うなと言われた『ダンジョンジェム』の存在を簡単に言いふらされたことに対する怒りが未だ収まっていないのか、二言目には「殺すぞ」だ。
「やるならやれ。もう疲れた」
「そうか」
なんでもないような会話の流れで、何の迷いもなく斬り殺された。
※※※
リスポーン後。
俺は激怒状態のアカネによって自宅に連行されると、インターフォンが鳴った。
この家には、外の様子が見えるモニターみたいなものはない。
敵襲なら【魂の理解者】で葬り去ればいいからいらないだろうと思って、マドリさんに設置してもらわなかった。
よって、来客が来た場合は、ドアを開けて誰が来たかを確かめる必要がある。
「ここに居ろ」
冷たく言い放ち、玄関に向かうアカネ。
今だな。
俺は立ち上がり、ふすまをそっと閉めて和室から洋室に移動する。
「……」
音を立てないよう、ストレージボックスからつるはしを取り出す。
今から賭けをしよう。
成功するか、しないかだ。
「……」
次に廊下に出て、反対側の壁に向かう。
一発で壁に穴を空けられたら俺の勝ち。空けられなかったら俺の負け。
俺は大きくつるはしを振りかぶる。
「っはあああっっ!!」
ガアアアアアンッッ!!
つるはしを思いっきり壁に叩きつけると、見事、小さいが向こう側に貫通している穴が空いた。
俺の勝ち!
すまない俺の家。すまないマドリさん。
だがこれなら、俺でもギリギリ通れそうだ。
「トーマあああああああっっ!!!」
やばい!鬼が来た!
アカネが来る前に、俺は穴に飛び込んで脱出。
無事、自由を手に入れた。
※※※
脱獄に成功した俺は、すぐさま家の外周をぐるりと回り、裏の勝手口から【暗殺稼業】のクランハウスに入る。
お隣には、いっちょまえに勝手口があるのだ。
「トーマっ!?お勤めしているはずじゃ!?」
リビングに押し入ると、くつろいでいたニヒルとクランメンバーたちが目を真ん丸にして驚く。
「ノーフェイスはいるか?……いるな。頼みがある」
「なんだ」
俺はプライベート用の顔をしているノーフェイスに近づき、話を持ちかける。
「報酬は後で必ず払う!俺に化けて勝手口から逃げてくれ!」
この男はノーフェイス。【暗殺稼業】のメンバーであり、変装のプロ。
彼のスキルは【百面相】で、一度見たことのある人物に変装できるスキルだ。
精巧なマスクをかぶるとかではなく、対象の顔と容姿、体つきそのものになる。
変装といっているが、肉体をコピーするみたいなスキルだ。
「それは俺に、死ねといってるのか?」
「そうだ。だが報酬は弾む」
断言する。
俺の契約を飲んで行動すれば、ノーフェイスは100%死ぬ。
「いいだろう」
「じゃあ、頼む」
交渉成立。
彼に変装してもらうのは初めてだが、俺は何かする必要があるのだろうか?
「金を用意しておけ」
瞬きする間に、俺の生き写しが目の前に現れる。
一瞬で発動できるのか。
「あ、ああ」
理解が追いつけず俺が生返事を返すと、彼は颯爽と走って勝手口に向かった。
「それで、どうするのこの後?」
一区切りついたところで、ニヒルが訊いてくる。
「本当に申し訳ないんだが、お金を貸してくれないか?」
「え?」
俺のありえない発言に、この場の全員が引いた。
「聞き間違いかな。なんて?」
「お金を貸してくれ」
「…だよね。うん」
俺はみっともなく頭を下げる。土下座も辞さないつもりだ。
自由のためには思い切った行動が必要で、そして思い切った行動のためには、お金が要る。
俺はリスキルで所持金を落としてしまったから、このような行為に走らざるを得ないわけだ。
「分かったよ。トーマにはいろいろ世話になってるからね」
「ありがとう」
俺はもう一度頭を下げ、ニヒルから金貨一枚をもらった。
「借りは絶対に返す。本当にありがとう」
「いいっていいって。私とトーマの仲じゃん」
重ねてお礼を言い、ニヒルと別れた。
【暗殺稼業】のクランハウスの玄関から外に出る。
「フェイスレス、時間を稼いでくれよ…」
急ぎで、なおかつ目立ちすぎないように小走りで進む。
『南東門』は使わずに、外壁沿いをぐるっと回って東門を通る。
門の近くに着いたら、馬宿の御者に金貨を握らせて一頭借りる。
話の分かる御者だった。俺の切羽詰まった様子を見て、何かのっぴきならない事情があることを察してくれた。
「いけ、馬!」
ヒヒ―ンと鳴き、徐々にスピードを上げて駆けていく馬。名前はまだない。
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