この人以外ありえない

鳳雛

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20. 妄想が止まらない ― 新婚旅行2日目 ―

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「依(より)ちゃん」
「ん-…」
朝。
ホテルのベットで眠る姫の頬をつつく。
こんなにぐっすり眠っちゃって…まぁ無理もないか。
初めての飛行機。初めての景色。初めての露天風呂。初めての外泊。
昨日は一度にたくさんのことを経験したから、疲れたよね。
でも、今日だって初めてのことをたくさん経験させてあげるよ。

「あ」
いけない。
依の寝顔を1時間以上堪能してしまった。
「ほら、依ちゃん」
「・・・」
「よーりちゃーん」
「・・・」
「起きないとくすぐっちゃうよ~?」
「っ!もう!
そこは『起きないとチューしちゃうよ?』でしょ~!」
依がうつ伏せになって足をばたつかせる。
いや、そしたら永遠に起きないじゃんお前…
「起きて」
依の手を引いてベランダに出る。
「まぶし…わぁ~!!」
外は快晴で、海はキラキラ光ってる。
「海に行こう、依ちゃん」

**************************

バサッ

浜辺でビーチパラソルを開く。
依はまだ更衣室で着替え中。
一緒に来る予定だったんだけど、依から先に行っててって言われたので、適当に買ったラッシュガードに着替えて浜辺で待機している。
「早く来ないかな…」
スクール水着以外の、初めて身にまとう水着。
私が選んであげたかったけど、自分で選ぶって張り切ってたからなぁ。
そう考えると、確かに更衣室で初披露したくはないよな。
私も、この綺麗な海で依の水着姿を見られると思うと期待が高まる。
「・・・」
依はどんな水着を着てくるかな。
定番の三角ビキニで決めてくるか。
ワンピース系も絶対可愛い。
まあ私としては大胆にマイクロビキニで・・・

「あの~」
パラソルの下で日焼け止めを塗りながら妄想していると、2人の女性に話しかけられた。
「これ、落としませんでしたか?」
1人の女性がサングラスを見せてきた。
しかし私はすでにサングラスを頭に乗せてる。
「違います」
「そっか~、違ったか~」
「てか今日ひとりですか?」
なんだ?この2人。
落とし物の持ち主じゃなかったんだから、早くどこかへ行ってくれ。
妄想の続き…じゃない、依を待たなきゃ。
「連れがいます」
「え~、でも今いないじゃん!」
「一緒に遊びましょ?」
1人が腕を引っ張ってくる。
意外と力が強い。
「彼女空手やってるから、腕折られちゃいますよ?」
私の腕がな。
「やだー!この子おもしろ~!!」
冗談を言ったわけじゃない。

2人組は一歩も引かないで私を連れ去ろうとしてくる。
引っ張られた腕は女性の胸に押し付けられて、もう1人の女性が私の背中に胸を押し付けてくる。
なぜそんなに胸を主張するのか。

この2人の目的はわからないけど、この現場を依に見られても、もう腕を折られる心配はない。
でも依以外の胸に興味ないし、依を待っているこの時間を邪魔されたくない。
どうしたものか…

「糸(いと)ちゃーん!」
「っ!」

拉致被害に困っていたとき、
ネイビーのホルタービキニに、麦わら帽子を頭に乗せた天使がやって来た。
「かわい…」
もうそれ以外の言葉が出てこない。

「あーあ、来ちゃったか~」
「行こ行こ」
依に見とれていると、2人組は誘拐をあきらめて去っていった。
それを無視して、依のことを見つめ続ける。
もう依意外なんて見れない。
「・・・」
もしかして、依が私のことしか見えてないときって、こんな感覚なのかな。
私以外の人間を認識できない依のこと、正直あまり理解できてなかったけど、
そうか、これか…

「変、かな?」
初めて水着を選んだからか、自信がなさそう。
そんな仕草も愛おしい。
「すごく可愛いよ、依」
「ひゃっ」
依を抱きしめる。
私にとっても依が特別な存在であることを、全身を使って表現する。
「糸ちゃん…ありがと//」
体を離して、依の水着姿をもう一度堪能する。
「ん?」
よく見ると、水着の右胸にシャチがいる。
初めて2人で出かけた水族館にいたシャチのこと、本当に気に入ったんだ。
「これ、かわいいね」
「うん!シャチ好き~」
「・・・」
純粋な笑顔がまぶしい。
「この海にシャチいる?」
「いないよ」

**************************

ザザー…

白い砂浜と透明な海。
その境目は波が教えてくれてる。
パシャパシャ
「冷たい!けど気持ち~!」
依は初めての海にはしゃいでる。
足で海を蹴ったり、肩まで海に沈んだり、
「うえー、しょっぱいよ~」
海水を飲んだり。

飛行機といい、海といい、依は怖いもの知らずだ。
「・・・」
晴れた空の下で、肌を露出させて、体を大きく動かして。
昨日の風呂ではあんなに恥ずかしがってたのに。
「・・・」
首の後ろで結ばれたビキニの紐を、外してやりたくなる。
背中の紐も外してビキニが流されたら、どんな反応をするだろう。
両手で胸を隠して、顔を真っ赤にして、でも水着はどんどん流されていって。
そうやってうろたえてる間に、下のビキニも…

「糸ちゃん!シャチいた!!」
「え」
波打ち際で妄想していると、依がシャチ型の浮き輪を抱えて走ってきた。
「どーん!」
「わっ」

ザブーン…

シャチの頭に体を押されて、私は海に沈んだ。
「・・・」
透明な海に、私の妄想が流されていくのを感じる。

バシャ
「・・・」
海から出て、依の方へ歩み寄る。
「ぼーっとして、なに考えてたの?」
「依でエロいこと考えてました」
「っ…!/// 糸ちゃん!!//」

ザブーン…

また沈められてしまった。
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