この人以外ありえない

鳳雛

文字の大きさ
上 下
16 / 25

16. 許してあげない

しおりを挟む
Side.依(より)

糸(いと)ちゃんが悪いの。
何もかも。
全部ぜんぶ、糸ちゃんのせいなんだから。
絶対に、許してあげないんだから。

**************************

ホームセンターとお薬屋さんで用を済ませて帰宅して、
料理をしていた糸ちゃんに弛緩剤を打って、釘で壁に張り付けた。

アタシの中で、糸ちゃんが笑ってる記憶なんてどれくらいあったかな。

気持ちを顔に出すのが苦手な人だって知ってた。
けど、本当にアタシのことが好きなのか、それが見えなくて、ずっと不安だった。
その不安はどんどん積み重なって、いつの間にか、糸ちゃんが与えてくれる愛の量を超えてた。
「そんな簡単に崩れる恋愛じゃないって、思ってたのにな…」
糸ちゃんはアタシを好きじゃない。アタシには糸ちゃんの心を動かせない。
それを確信してしまったら、もう止まらなかった。

**************************

糸ちゃん、死んじゃったかな?
だいぶ血も出てるし。
それに、何本も体に釘を刺されて、普通なら痛みで正気を保てないよね。
さっき糸ちゃんが『う』『あ』『お』って何回も言ってた。
ただのうめき声じゃなくて、何かを伝えようとしてるんじゃないかと思った。
そして発音から『スマホ』を指しているんだって推測して、糸ちゃんのポケットからスマホを取り出した。
血がべっとり付いてる。
「・・・」
その血を舐め取ろうという思考を振り払って、スマホの画面に触れる。

「パスワード…」
糸ちゃんの誕生日かな。
4桁の数字を入力してみた。
『パスワードが正しくありません』
これじゃなかった。
じゃあアタシたちが付き合った日?
もう一度スマホに数字を入力した。
『パスワードが正しくありません』
これも違った。
『あと1回 間違えると1時間ロックします』
えぇ?! 厳しすぎ!
糸ちゃん起きないから聞けないし、1時間も待てないよぉ。

もしかして、アタシの誕生日かな…?
「あ」
4桁の数字を打ち込むと、ロックが解除された。
ホーム画面の背景は真っ黒。
カレンダーアプリには仕事のスケジュールが細かく書かれてるけど、アタシにはよくわかんない。
連絡帳には『○○会社 ○○さん』って、『所属+名字』の表記ばっかり。
お義母さんの連絡先まで『片間(かたま)病院 医師兼研究員』って書いてある。
唯一の例外は『依』。

**************************

糸ちゃんゲームしないから、アプリ全然入ってないなぁ。
メールやSNSをさかのぼってみたけど、アタシかお義母さんか仕事関係の人とのやりとりだけ。
糸ちゃんは友だち多いはずだし、モテると思う。
けど、友達らしい人は見当たらないし、いくら履歴を見ても、親しい人とのやり取りはアタシ意外一切ない。

検索アプリの履歴には仕事関係のカタカナ言葉ばかり。
エッチなサイトとか怪しいものはない。
「1個くらいあってもいいんだよー」
気絶してる糸ちゃんに向かって言ってみた。
履歴をさかのぼってみる。
『デートスポット』
『カップル向けレジャー』
「っ!」
そしたら、観光地とか2人で楽しめる遊びとか、いろいろ出てきた。
『公園』
『海』
『キャンプ場』

いっぱい検索してる。
アタシのため…?
その他には、『サプライズ』『結婚』なんてワードも…
「糸ちゃ・・・ん?」

『アナル開発 安全』
『イキ地獄 方法』
『生理中 セックス』
『巨乳 緊縛』
『コスプレ 羞恥』
『浣腸 清潔』
『首輪 サイズ』
『媚薬 学術論文』
『入れっぱなし 反応』
『24時間耐久セックス』
『尿意 性的興奮』
『足ピン かわいい』
『オープンショーツ』
『寸止め 精神崩壊』
『セックス マインドコントロール』
『乳首だけで絶頂』
『声我慢』
『エロい罰ゲーム』
『バック 服従』
『スパンキング 鳴き声』
『青姦 条例』
『犬プレイ 散歩』
『野外放尿』
『おもちゃ 放置プレイ』
『公衆トイレ 全裸』
『M 心理』
『セックス 睡眠』
『クンニ奴隷』
『一本鞭 相場』
『首絞めセックス 効果』

「糸ちゃん…!」
エッチな検索、いっぱいしてた!

さらに、メモ帳アプリには、これらの検索から得た知識で糸ちゃんが考えたであろうプレイの計画が綿密に練られていた。
「・・・//」
リアルに想像しちゃって、お腹の下がうずいた。

**************************

画像アプリは、アタシの隠し撮りで溢れかえっていた。
「こんなの いつ撮ったんだろ…」
ご飯を食べてるとき、シャワーを浴びてるとき、エッチしてるとき、寝てるとき、…
もしかして、隠しカメラ…?
アタシ、糸ちゃんに監視されてたんだ…
気づけば顔は赤くなってて、下着は濡れてた。

最後は日記アプリ。
依ちゃんは毎日欠かさず日記をつけてたみたい。
なに書いてたんだろ?

『 月 日:今日も殺されかけたけど、依が勝手に堕ちてセックスに発展した。
なんでいつも殺そうとしてくるんだろう。
でも、どんな依も好きだよ』

『 月 日:依からいい匂いがする。
それに柔らかい。性別は同じなのに、私とは正反対だ。
依は私に抱きしめられて嫌じゃないだろうか。痛くないか心配だ』

『 月 日:依はどんな時もかわいい。
ずっと抱きしめていたい。もっと依に好かれたい。
依が私を傷つける理由はわからないけど、何をされても好き』

『 月 日:今日は依が7回イって気絶した。
やり過ぎた気もするけど、5回目の「もうイきたくない!」、6回目の「助けて!もう無理!」
7回目の、もう人の言葉を話せていない依を見れたから、後悔してない。
今日も大好き』

『 月 日:依依依依依依依依依依依依依依依依依依依依依依依依依依依依依依依依依依依依依依依依依依依依依依依依依依依依依依依依依依依依依依依依依――――』

「…!」
この日記に『依』という文字はいくつあるんだろう。
いつの日記を見てもアタシのことばかり。
エッチな内容が多いけど…//
糸ちゃん、ほんとにアタシのことしか考えてないんだ。
ほんとに、アタシは特別な存在なんだ。

**************************

Side.糸(いと)

「ん…ってぇ」
目が覚めると同時に 全身に激痛が走る。
そういえば壁に貼り付けられてたっけ。
体に釘が刺さったままだけど、少し回復してる。
首も上がるようになったので、周りを見渡す。

依が見える。
私のスマホをガン見してる。
「あ、糸ちゃん」
耳も聞こえるようになっていた。
依は私が起きたことに気づいて近寄ってくる。

「依」
私のスマホから、少しでも愛情が伝わっただろうか…?
「糸ちゃん、アタシのこと好き?」
依が問いかけてくる。
「好き」
そのままの気持ちを依に伝える。
「ごめんね、糸ちゃん。
糸ちゃん、本当にアタシのこと好きだったのに、『好きじゃない』なんて言って…」
「私の方こそ、気持ちを伝えるのが下手でごめん。
スマホで記録するだけじゃなくて、直接伝えなきゃね」
「本当だよ、もぅ。許さないんだからねっ」
依が微笑みながら怒る。
「…かわいいよ、依」
「っ///」

「結婚しよう」

「え!?」
もっとロマンチックにプロポーズしたかったけど、
サプライズには なったかな。
「・・・はいっ」
笑顔で返事をする依に、私は心からの笑顔を返した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

スリーヤミーゴス~不仲な美男美女トリオは犯罪がお好き?~

キャラ文芸
表向きはミステリー愛好会と掲げられた扉の向こうに彼らは存在する。 犯罪研究同好会(通称:犯研)、あるいは《スリーヤミーゴス》と呼ばれる三人組。 犯罪マニアの美少女御来屋クロエ、イケメンバンドマンで安楽椅子探偵の龍崎大翔、イケメンモデルで探偵の宝生捺樹。 時に事件解決に協力し、報奨で活動を続ける彼らの実態は仲良しトリオでもなく……

勇者パーティーを追放された転生テイマーの私が、なぜかこの国の王子様をテイムしてるんですけど!

柚子猫
ファンタジー
「君はもういらないんだ。勇者パーティーから抜けてもらうよ」   勇者パーティーを追い出された私は、故郷の村で静かに生きて行くことに決めた。 大好きだった勇者様の言葉は胸に刺さったままだけど。強く生きていかなくちゃ。 私には、前世の記憶と神様からもらった『調教師(テイマー)』の能力があるし、平気よね。 でも。 偶然テイムした、まるいドラゴンが、実はこの国の王子さまだったみたい!? せっかく動物にかこまれてスローライフを過ごそうと思っていたのに、いきなり計画がつぶれたんですけど! おまけに、何故か抜けたはずの勇者パーティーメンバーも、次々に遊びにくるし。 私のおだやかな異世界生活、どうなっちゃうの?! ◆転生した主人公と王子様の溺愛ストーリーです。 ◆小説家になろう様、カクヨム様でも公開中です。

ショートショート「家族って良いもんだ」

あかりんりん
エッセイ・ノンフィクション
ショートショートを集めました

首無し王と生首王后 くびなしおうとなまくびおうごう

nionea
恋愛
 かつて精霊王が創ったアイデル国。  魔法は遠い昔の伝説になったその国で、精霊王の先祖返りと言われる王が生まれた。  このお話は、   《首無し王》 レンフロ と《生首王后》と呼ばれたかった アンネリザ  の、結婚までの物語。  奇々怪々不思議大好きな辺境育ちの田舎伯爵令嬢、アンネリザが主人公になります。  シリアスな人生を歩んでいる登場人物はいますが、全体的にはコメディタッチです。  ※グロいつもりはないですが、   首無し王、とか、生首、という響きに嫌な予感がする方は、お逃げください。

【完結】夢見る戦闘令嬢は婚約者には夢見ていない[スピラリニ王国4]

宇水涼麻
恋愛
貴族学園の1年生になるルジェリアとモナローズは個人的に王都の警邏をしている戦闘少女だ。 ルジェリアは学園で噂になっている1学年上の生徒たちの恋愛話に憧れていて、モナローズによく話している。憧れる理由には、自分の婚約者の平凡さもあると思っている。 そんな二人は、時々警邏の最中に変な男たちに襲われることがある。彼らの目的は不明だ。 『虐げたられた男爵令嬢はお隣さんと幸せを掴む』 『婚約破棄の公爵令嬢は醜聞に負けじと奮闘して迷子になる』 『小麦姫は熊隊長に毎日プロポーズする』 これらのお話に関する内容が出てまいりますが、なるべくそちらを読まなくとも楽しんでいただけるように書いていきたいと思っています。 ご意見ご感想などをいただけますと嬉しいです。 毎日、午前中に更新予定です!

私が、スパイに間違われた理由をさぐる 

鏡子 (きょうこ)
エッセイ・ノンフィクション
何故、スパイに間違えられたんでしょう?

抱かれたい男の闇の深さは二人だけの秘密です!

たまりん
恋愛
らすじ ごく普通の地味なOLである相場茜には人に隠しているヒミツが一つだけあった。 それは、実弟の圭吾と弟同様の泰叶が超人気ユニットであることだった。 姉として陰から彼らの活動を応援するだけだった茜だが、ある日突然、物理的距離を置いていたはずの抱かれたい男である泰叶が恨めしそうに玄関扉の前に蹲っていた。その瞳には恨めしさと嫉妬の炎がほとばしっていて… ■二話完結予定です! ヒーローの闇が深い為、回想シーンの行動が危ない(変態)です!! ⭐︎ムーンライトノベルズさまでも別作者の名前で投稿してますが、同一作者です。

【伝説の強戦士 異次元 抗魔執行官編:ゴスロリ死神娘の淡い恋】

藤原サクラ
ファンタジー
ある夜、凛太朗は夢を見た。何時も見る夢は取るに足らない。だから殆どは朝起きると忘れてしまうのだが、その夢は違った。宇宙戦士になり何処かの惑星を奪還するために宇宙揚陸艦に乗船していた。そこで新しく部下になった降下兵と短い会話をした。 「ねえ、小隊長、私は生きて帰る事が出来るかしら・・・」「ああ、大丈夫だ。この作戦から帰ったら飯でも奢るから俺に付いてこい」と俺自身が不安だったが、心にもない事彼女に言って励ました。 その時の小刻みに震えている降下兵の少女の顔が、どうしても頭から離れなかった。 少女は俺に続いて降下したが、運悪く頭上で降下している彼女に敵のサイコビームにあたり燃えるのが見えた。その夢は、これから起こる出来事を暗示しているかの様だった。 人間の欲望や憎悪・怒り嫉みなど負の感情は再び魔族を生み出した。 結城凛太朗は成長する最強の幻想銃と強運を武器に人類存亡を賭けて人知れず異次元抗魔執行官として魔族と戦う。だが、宇宙のダークエネルギーの増大は暗黒神の力を強め異形の者達が棲む異次元と交わるXデーが近づいていた。それは人類滅亡の危機を孕んでいたが、その事を知る者は誰もいない。 前世から一途に思い続ける創造主になった円城寺五月、ちっぱいにコンプレックスがある最強の死神娘の抱く淡い恋がある。やがて、亜神の力を得た凛太朗と前世からの魔族に対する恨みの深さから五月達と溝が出来る事になる。五月の思い人、凛太朗との時空を越えた愛は成就するのか? それを知りながら彼を思う死神娘、恋に行方は如何になるのか? 前作品では竜馬は銀河艦隊と共に魔界に攻め込み、自らの命と引き換えに宿敵、創造主や魔王を倒したところで終わりました。 本篇は、「伝説の強戦士、異世界を駆ける」の続編になります。 時は過ぎ、現世に再び凛太朗として生まれ変わった竜馬は警視庁の刑事になり平凡な日々を送っていた。 前世の記憶も宇宙最強の戦士と言われた能力は無い。 ある日、刑事として、猟奇殺人事件を捜査中、迷い込んだ異空間で、魔族と戦うことになった。そこで、ゴスロリファッションを着た死神娘と虎の獣人に助けられ九死に一生を得るが、この事件を、きっかけに思いもよらない運命が彼に待ち受けていた。

処理中です...