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15. ブラインド
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休日の昼。
外は街灯が点くほどのひどい雨だ。
こんな天気なのに、依(より)は私を置いて買い物に行ってしまった。
いったい何が必要だっていうんだ。
「・・・」
嫌な予感がする。
依を迎えに行こうか迷いながら、カーテンを閉めた。
**************************
「糸(いと)ちゃん、気分はどう?」
「はっ、はっ」
片手に新品のトンカチを持って微笑む可愛い悪魔。
依は帰ってきてすぐに、私を壁に貼り付けた。
両手の平は釘で貫かれて、壁まで貫通している。
引き抜こうにも 釘の頭部が広く、限界まで深く打ち付けられてるから、片手ではどうにもならない。
手の骨も数本折れてるし。
その他、肩、腿に深く一本ずつ、胴体には無数の釘が浅く刺さっている。
「息をするのもやっとって感じ?? っあはは!」
依はかなり嬉しそう。
愛らしい顔で心から笑っている。
依の言う通り、今は呼吸を整えるのに必死だ。
そして依の好物である表情を隠せずにいる。
なんでまた、こんな頭のおかしいことを…
「あーあ、もう釘なくなっちゃった~」
「っはぁ…はぁ…」
「もっとたくさん買ってくればよかったぁ…んー、まあいっか」
ドゴッ
「がっ!ごほっ!」
トンカチで腹を殴られて血を吐く。
すでに体に刺さっていた釘が不規則に向きを変えてさらに体内へ侵入する。
背中には壁があるから、トンカチの衝撃がストレートに私の体に与えられる。
しかも両手が張り付けられているから、腹を押さえることも体勢を変えることもできない。
おまけに腿に刺さってる釘のせいで、足に力が入らない。
「やめ、ろ…」
「糸ちゃん、すっごい…今までに見たどの糸ちゃんより苦しそう…」
依は私の顎をつかんで、顔をじっと見つめてくる。
「そっか。これが正解だったんだ。糸ちゃんの一番 綺麗な顔が見れる方法」
違うと思います。
今の興奮しきった依に何を言っても無駄だから黙っておこう。
それに、もう話す気力もない。
頭が冷たくなってきた。
このままでは気を失ってしまう。
「・・・」
顔だけは自由なのに、体力がなくなったせいで反撃できない。
けど、このまま黙ってたら殺される。
「糸ちゃんが悪いんだよ…」
「・・・」
またこれだ。
依はいっつも私のせいにする。
それも、意味不明な理由で。
…でも、本当に意味不明な理由なのか?
「なん、で」
「ん?」
「なんで、依は…私のこんな顔が、ぐ…好き、なの?」
ギリギリの状態で依に問いかける。
「なんでって…」
「私と、っ一緒ならそれ、で…はっ、あ…」
ダメだ、もう限界。
「…アタシね、糸ちゃんが好きなの」
知ってるよ。
「糸ちゃんに支配されるのだって、本当は好きなの」
ここで唐突なカミングアウト・・・知ってたけど。
「糸ちゃんの何もかもが好き」
わかったから。
はやく本当のことを教えてほしい。
何か隠してんだろ?
「でも、糸ちゃんは私のこと好きじゃない」
「ぇ…」
なに言ってんだ、こいつ。
「糸ちゃんに愛されてる自覚はある。でも、ひとつだけ決定的に足りないものがあるの」
足りないもの?
そんなものあるわけ―――
「糸ちゃん、いつも無表情」
・・・。
「アタシは糸ちゃんと居れて幸せ。だから毎日笑ってるの。
でも、糸ちゃんは違う。アタシが何をしても表情を変えてくれないの。
いたずらしても、サプライズしても、デートしても、えっちしても。
クスリで眠らせて起きた後だって、アタシが傷つけるまで絶対に顔色変えない」
依の目に涙が浮かぶ。
「たまに見せる笑顔も、本当かどうかわからないの。
だからね、アタシが糸ちゃんの表情を…心を動かす方法は、これしかないの」
これしかない、だと?
そんな馬鹿な。私はいつも依に夢中で、好きで、満たされているんだぞ。
それを伝えたいのに、体は力が抜け切って、だらりと壁に張り付いているだけ。
首もついに使い物にならなくなって、依の方を向くことができなくなった。
「糸ちゃんがアタシにくれる愛情は本物。でも、自信がないの・・・
糸ちゃんにとって、アタシは本当に特別?」
「よ、り…」
伝わらない。
依を心から愛していることが。
「・・・」
でもそれは、すべて私が悪い。
気づかないうちに依を不安にさせてしまった。
私がもっと、気持ちを顔に出せていれば…いや、違うか。
他の方法でも、依に気持ちを伝える方法があったはずだ。
ちゃんと伝えたい。
いま 伝えなきゃ。
『あ、お…あ?』
やばい。
耳が聞こえない。
きちんと言葉を発音できてるかわからない。
『う、す、すまお、ほ、スマホ…!』
これだ。多分この発音だ。
私は何度も『スマホ』と叫ぶ。
もう頭は上がらないし、耳まで聞こえなくなったから、愚かにもそう叫ぶことしかできない。
私のスマホだ。依のじゃない。
気づいてくれ。
「―――」
音は聞こえないけど、依が私のズボンのポケットからスマホを取り出すのが見えた。
よかった。
これで少しは伝わってくれ。
気が抜けて、だんだん意識が薄れていく。
ここからは依の様子を確認できないけど、
それより先に、今まで何も見えていなかった自分を反省しなければいけない。
ごめんね、依。
外は街灯が点くほどのひどい雨だ。
こんな天気なのに、依(より)は私を置いて買い物に行ってしまった。
いったい何が必要だっていうんだ。
「・・・」
嫌な予感がする。
依を迎えに行こうか迷いながら、カーテンを閉めた。
**************************
「糸(いと)ちゃん、気分はどう?」
「はっ、はっ」
片手に新品のトンカチを持って微笑む可愛い悪魔。
依は帰ってきてすぐに、私を壁に貼り付けた。
両手の平は釘で貫かれて、壁まで貫通している。
引き抜こうにも 釘の頭部が広く、限界まで深く打ち付けられてるから、片手ではどうにもならない。
手の骨も数本折れてるし。
その他、肩、腿に深く一本ずつ、胴体には無数の釘が浅く刺さっている。
「息をするのもやっとって感じ?? っあはは!」
依はかなり嬉しそう。
愛らしい顔で心から笑っている。
依の言う通り、今は呼吸を整えるのに必死だ。
そして依の好物である表情を隠せずにいる。
なんでまた、こんな頭のおかしいことを…
「あーあ、もう釘なくなっちゃった~」
「っはぁ…はぁ…」
「もっとたくさん買ってくればよかったぁ…んー、まあいっか」
ドゴッ
「がっ!ごほっ!」
トンカチで腹を殴られて血を吐く。
すでに体に刺さっていた釘が不規則に向きを変えてさらに体内へ侵入する。
背中には壁があるから、トンカチの衝撃がストレートに私の体に与えられる。
しかも両手が張り付けられているから、腹を押さえることも体勢を変えることもできない。
おまけに腿に刺さってる釘のせいで、足に力が入らない。
「やめ、ろ…」
「糸ちゃん、すっごい…今までに見たどの糸ちゃんより苦しそう…」
依は私の顎をつかんで、顔をじっと見つめてくる。
「そっか。これが正解だったんだ。糸ちゃんの一番 綺麗な顔が見れる方法」
違うと思います。
今の興奮しきった依に何を言っても無駄だから黙っておこう。
それに、もう話す気力もない。
頭が冷たくなってきた。
このままでは気を失ってしまう。
「・・・」
顔だけは自由なのに、体力がなくなったせいで反撃できない。
けど、このまま黙ってたら殺される。
「糸ちゃんが悪いんだよ…」
「・・・」
またこれだ。
依はいっつも私のせいにする。
それも、意味不明な理由で。
…でも、本当に意味不明な理由なのか?
「なん、で」
「ん?」
「なんで、依は…私のこんな顔が、ぐ…好き、なの?」
ギリギリの状態で依に問いかける。
「なんでって…」
「私と、っ一緒ならそれ、で…はっ、あ…」
ダメだ、もう限界。
「…アタシね、糸ちゃんが好きなの」
知ってるよ。
「糸ちゃんに支配されるのだって、本当は好きなの」
ここで唐突なカミングアウト・・・知ってたけど。
「糸ちゃんの何もかもが好き」
わかったから。
はやく本当のことを教えてほしい。
何か隠してんだろ?
「でも、糸ちゃんは私のこと好きじゃない」
「ぇ…」
なに言ってんだ、こいつ。
「糸ちゃんに愛されてる自覚はある。でも、ひとつだけ決定的に足りないものがあるの」
足りないもの?
そんなものあるわけ―――
「糸ちゃん、いつも無表情」
・・・。
「アタシは糸ちゃんと居れて幸せ。だから毎日笑ってるの。
でも、糸ちゃんは違う。アタシが何をしても表情を変えてくれないの。
いたずらしても、サプライズしても、デートしても、えっちしても。
クスリで眠らせて起きた後だって、アタシが傷つけるまで絶対に顔色変えない」
依の目に涙が浮かぶ。
「たまに見せる笑顔も、本当かどうかわからないの。
だからね、アタシが糸ちゃんの表情を…心を動かす方法は、これしかないの」
これしかない、だと?
そんな馬鹿な。私はいつも依に夢中で、好きで、満たされているんだぞ。
それを伝えたいのに、体は力が抜け切って、だらりと壁に張り付いているだけ。
首もついに使い物にならなくなって、依の方を向くことができなくなった。
「糸ちゃんがアタシにくれる愛情は本物。でも、自信がないの・・・
糸ちゃんにとって、アタシは本当に特別?」
「よ、り…」
伝わらない。
依を心から愛していることが。
「・・・」
でもそれは、すべて私が悪い。
気づかないうちに依を不安にさせてしまった。
私がもっと、気持ちを顔に出せていれば…いや、違うか。
他の方法でも、依に気持ちを伝える方法があったはずだ。
ちゃんと伝えたい。
いま 伝えなきゃ。
『あ、お…あ?』
やばい。
耳が聞こえない。
きちんと言葉を発音できてるかわからない。
『う、す、すまお、ほ、スマホ…!』
これだ。多分この発音だ。
私は何度も『スマホ』と叫ぶ。
もう頭は上がらないし、耳まで聞こえなくなったから、愚かにもそう叫ぶことしかできない。
私のスマホだ。依のじゃない。
気づいてくれ。
「―――」
音は聞こえないけど、依が私のズボンのポケットからスマホを取り出すのが見えた。
よかった。
これで少しは伝わってくれ。
気が抜けて、だんだん意識が薄れていく。
ここからは依の様子を確認できないけど、
それより先に、今まで何も見えていなかった自分を反省しなければいけない。
ごめんね、依。
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