この人以外ありえない

鳳雛

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12. 暗闇の幸福

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ガチャ

「糸(いと)ちゃん、おかえり~!」
「ただいま、依(より)ちゃん」
仕事から家に帰ると、先に帰っていた依が出迎えてくれた。
「ふふっ、いとちゃーんっ」
なんだかいつもより浮かれてるな。
「何かあったの?」
「ん~?ウフフっ」
「・・・」
いや答えろよ。
依はリビングに、私は洗面所に向かった。

ガチャ
「・・・」
手を洗ってリビングに行くと、
「糸ちゃん見て見て!届いたよ、VR!」
依がゴツい機械を目元に装着していた。

**************************

「すごいリアル~!!」
依はVRを堪能している。
でも、いったい何を見てるんだろう?
私にはでかいゴーグルをつけて空をつかんでるようにしか見えない。
「依ちゃん、なにが見えるの?」
ヘッドホンをしてないから私の声は聞こえるはず。
「んぇ、糸ちゃんどこ~?」
VR外せ。
依の手を握って存在を示す。
「ここにいるよ」
「糸ちゃんだ~」
依は嬉しそうに私の手を握り返す。
「そうだね。で、何が見えるの?」
「ちょー」
「ん?」
「ちょー、ちょー!」
なんだ?蝶々?
それとも、何かすごいものでもあるのか?
「いー!」
…一語文しか話せない乳幼児だな。
依の片手は相変わらず、空を握ったり摘まんだりしている。
幼児退行でもしたのか?
「はーい!」
それはそれで…

…いや本当に何を見てるんだ?
実は何も見えてないんじゃないか?
こいつなら真っ暗な画面でもこんなリアクションしてそうだからな。
「めー!」
はいはい、わかっ―――
「かんぞー!」
ん?
「おうかくまく!ひぞう!」
・・・。
「すごいよ糸ちゃん!
普通 絶対見れないよ、血がついてない人間の臓器や筋肉!」
「・・・」
がっつり見えてんじゃん。

**************************

おかしいな。
依は別に人体やグロテスクなものが好きなわけじゃないはず。
なのになんで今、VRで人間のリアルな臓器を見て感動してるんだ?
「依ちゃん、楽しい?」
「うん!楽しいよ!」
本当に楽しそうな返事だ。
「どうしてそんなもの見たいの?」
「えー?だってぇ、これなら糸ちゃんの臓器をちゃんとイメージできるじゃん!」
「はい?」
「アタシ、糸ちゃんの臓器 少しなら見たことあるよ?」
さらっと非常識なことを言うな。
私の体に深く包丁を入れたときにでも見えたのか?
…いや私の思考こそ非常識だな。
「でも、いつも血まみれで、ほんの一部しか見れなくて、正確な色とか形がわかんなくて…」
「当たり前だろ」
「だからこれを見て想像するの!糸ちゃんの臓器、1つ1つを!」
これはマニアックなんてもんじゃない。
「そしてぇ・・・」
空をつかんでいた依の手が、自身の脚の間に移動する。
「糸ちゃんの臓器を想像しながら…んっ…」
「・・・」
特殊性癖だな。
「依ちゃん。依ちゃんは何が好きな――」
「糸ちゃん!」
食い気味に答えられた。
「正確には、糸ちゃんの苦痛にゆがむ表情…」
これで私までおかしかったら、『私のことが好きなら私の臓器をちゃんと見て!』とでも言い出すんだろうな。
しかし私は普通の人間なので、絶対にそんなことは言わない。
もちろん、苦痛にゆがむ表情も見せたりしない。
「ねえ、糸ちゃんもVRつけてみなよ!」
依がVRを外して私に押し付けてくる。
「私は臓器に興味ない」
「これゲームもあるから~」
「ゲームも興味ないって」
「興味なくても糸ちゃんゲーム上手じゃん!ねえ、やってみようよ~」
「・・・」
そんなに可愛く誘ってこないでほしい。

**************************

「あはっ!糸ちゃん空泳いでるみたーい!」
「・・・」
こうなってしまうから。
私は今、VRでゾンビと戦っている。
素手で。
「わあ!糸ちゃんアグレッシブ~!」
依からは滑稽に見えているだろう。
せめて銃の1つでも欲しい。
素手で戦うだけのゾンビゲームなんて見たことないぞ。
「あ」
ゾンビに片手を噛まれた。
あー、これは終わったな。
本当はまだ戦えそうだし解毒アイテムもあるけど、もう飽きた。
やめよう。

・・・あれ?
さっきまで私を見てはしゃいでいた依の声が聞こえない。
私の動きが止まったなら、何か反応があってもいいはず。
というか、こういう格闘ゲームって依がやれば簡単に―――

ビリビリ ガブッ ビチャ

音声機能がないはずのVRから、画面とリンクした音が聞こえてくる。
ゾンビが私の服を食いちぎる音、肌に歯を立てる音、血が地面に落ちる音。
私の目には黒い背景に『GAME OVER』という立体的な赤い文字が浮かんで見える。
それなのに、まだゾンビに体を食われている。
自分がゾンビになるまでの過程が見れるのか?
いやそんなわけないだろ。
スチャ
「あ、糸ちゃんおかえり~」
「・・・」
VRを外すと、依が私の体を食い散らかしていた。
右手の付け根、左太もも、左すね。
さっき私がゲームで負傷した場所と全く同じところを、
リフティングトングやニッパーや、とにかく挟む工具で無理やり私の皮膚を噛ませていた。
「いっ…」
その傷を見て、ようやく痛みを自覚する。
「くっふふ、糸ちゃん苦しそう…
さっきまであんなにゲームに夢中だったのに…」
依の手にはプライヤーレンチ。
もう片方の手には、『GAME OVER』と書いてあるスマホ。
なるほど。
VRの様子をスマホで見れるようにしていたんだ。
それで私がどこを怪我したかすぐに分かったのか。
依は最初からこれがしたかったんだ。
おかしいと思ったよ。急にVRなんて買って。

グググ…
「った、痛いよ」
レンチを私の右わき腹に噛ませる。
それは本来 切断のために使う道具じゃない。
それなのに依は私の皮膚を引き千切ろうと、レンチに力を込めてくる。
「ぐ、う…」
鈍い痛みがじわじわと強みを増す。
「糸ちゃん…はぁ、はぁ」
勝手に興奮しやがって。
依は私の顔を見ながら息を荒くして、もっと力を入れてくる。
このままじゃ本当に皮膚ごと持っていかれる。

「…依」
「ん~?」
「いっ、私もVR、持ってるんだけど」
「え~?」

**************************

「糸ちゃん…」
依を後ろから抱きしめる。
「うん、似合ってるね」
「これ、VRじゃ…」
ボロボロの体で寝室からアイマスクを取ってきて依に着けた。
「これからいい体験ができるよ、依」
「ひゃ!な、なにっ?」
依の首筋を舐める。
「い、とちゃ…やっ…」
ブラを上にずらして胸をゆっくり揉む。
あったかくて柔らかい。
これはVRじゃ体感できない触り心地だ。
「ん、ふぁ…//」
依から気持ちよさそうな声が聞こえてくる。
スカートをめくって綺麗な足を撫で上げる。
可愛い下着まで見れて、やっぱりリアルは最高だな。
「ねぇ、いとちゃ、あっ//」
何も答えてやらないよ。
これは "VR" なんだから。
「なん、ふぇっ?!」
うるさいので口の中に指を入れる。
「ん、レロ、んちゅ…//」
依は何を勘違いしているのか、私の指を舐め始めた。
「そのまま永遠に舐めてろ」
あ、つい声が。
「は、はいぃ…//」
いいのかよ。
本当に何もしないぞ。
「いろ、ひゃ…んぷ…」
なんだよ、さっきからうるさいな。
「は、やく…」
依は口に入れていた私の手を両手で引き抜く。
そして、その手を下腹部に導く。
「ほしい…ください…//」
「・・・」
いま、依の目には何が映ってるんだろうね。
「ひっ、やああぁあ!///」
依の耳たぶを噛みながら、湿った下着をずらして指を沈めた。
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