この人以外ありえない

鳳雛

文字の大きさ
上 下
1 / 25

1. 放してあげない

しおりを挟む
Side.依(より)

「ホント、いつ見てもいい眺め…」
「・・・」
うっとりしちゃう。
大好きな彼女の手足を縄で椅子に固定して目隠しをつけてあげると、アタシはいつも幸せな気持ちになれる。

口も塞いでやろうと思ったけど、だめ。
大好きな人の声が聞こえなくなっちゃうでしょ?
顔もさぁ…糸(いと)ちゃん綺麗な顔してるんだよねぇ。
だからホントは目隠しも邪魔なんだけど、
チョキ チョキ チョキ・・・
「っ」
「っふふ」
右耳にハサミの音を聞かせてあげると、びくって体を震わせて、
「フーっ」
「ぅあっ」
左耳に息を吹きかけてあげると、普段出さない可愛い声を聞かせてくれる。
ほら、こうやって遊べるでしょう?

寝てる時みたいに、糸ちゃんがずーっと目を閉じてくれていればアイマスクもいらないんだけど、
糸ちゃんがそんなことしてくれるはずもないし。
第一、睡眠薬でも使わなきゃこうやって縛ってあげられないし。
力ではこの子に敵わないんだから。

「ん~・・・」
そろそろ糸ちゃんの顔が見たい。
でも もうちょっと遊びたい。
視界を自由にさせちゃうと、可愛い反応が見られなくなる。
それじゃーあー・・・
「・・・目、くり抜いちゃう?」
このハサミで、ぐりぐり~って。
そうすれば 糸ちゃんの顔を見ながら遊べるでしょう?
暗闇で怯えるこの子の表情を存分に味わえる。
最高じゃない!!
き~めたっ。

チョキン

アタシはハサミでアイマスクを切った。

**********************************

Side.糸(いと)

チョキン

うあ、眩しっ。
あ、どうも。
糸(いと)って言います。
さて、今日の私はいつも通り、
「ふふっ」
「・・・」
・・・殺されかけてますね。
目の前でハサミを片手にニコニコしているのは恋人の依(より)。
でもまぁ、この状況からは誰がどう見てもラブラブなそれには見えないだろう。

朝に水を飲んで気を失って、それで気づいたら視界は真っ暗で腕は椅子にぐるぐる、手は後ろで両手首ぐるぐる、足は椅子の脚にぐるぐる。
しかも結構キツめに縛られてて、ちょっと動くだけで痛い。

依の後ろを見ると、テーブルの上にカッター2つハサミ3つナイフ2つに包丁一本。
わー、刃物祭りじゃん。
私今からアレ全部を体中に刺されんのかなぁ。

まぁこんなかんじなんだけど、あれだね。



なるべく明るくいきたいと思います。

「い~とちゃん。お・は・よっ」
「怖いよ」
そんなおはよう聞きたくないわ。
「それで、私の目ぇ取るの?」
「ううん。やっぱりやめたっ」
「なんで?」
「痛がる悲鳴も聞きたかったけど」
「悪趣味」
「アタシ、糸ちゃんの顔も目も大好きだから」
「そう」
「それにさぁ…」
キチキチキチ・・・
「いっ!…った」
依は素早くカッターに持ち替えて、私の左腕を切りつけてきた。
「悲鳴なら いくらでも聞けるからさぁ」
「っ・・・」
結構深くいった。
血、止まんない。
「ねぇ痛い?ぼーっとしてきた?」
「・・・」
そんなニコニコ笑顔で聞かれても…

「もっと楽しいことしようよ」
「楽しいことって?」
「映画観に行ったり、遊園地行ったり、買い物行ったり。
依ちゃんの行きたいとこ連れてってあげるから」
「っ!嬉しい…!」
あ、ほんとに嬉しそう。
「そうでしょ?だから―――」
「でも全然楽しそうじゃない」
「っ」
依がカッターを私の首に当ててきた。
刃をしまいなさい。
「いま動いたら切れるよ?」
言われなくてもわかるわ。
「映画館にも遊園地にもショッピングに行っても、どこに行っても人はいるでしょ?」
当たり前だろ。
「そんなとこ行ったら、いろんな人に糸ちゃん見られちゃうじゃん」
だから当たり前だろって。
「そしたら絶対話しかけられちゃうじゃん。
糸ちゃん、素敵なんだもん」
嫌味か。
自分は誰もが振り向くような美人だろうに。
「そして話しかけられたら、その人たちに笑顔振りまいて手ぇ振ってあげるでしょう?
糸ちゃん、優しいから」
そりゃそうするわ。
「いいんだよ?それで」
いいのかよ。
「アタシは糸ちゃんのそうゆうところが好きなんだから」
ありがとう。
「けどね、その優しさを受け取った奴らが勘違いして糸ちゃんを好きになっちゃったら、
すっごく嫌なんだよねぇ…」
「っ」
薄~く切られてますね、私の首。
「なんなの?ああゆう人たちって。
隣にアタシってゆう恋人がいるのにさぁ」
あー、鼻かゆい。
「それとも、糸ちゃん浮気したいの?」
なんでだよ。
「そんなわけないよねぇ…ねぇ、そうだよねぇ…?」
カッターがYシャツの襟まで降りてきた。
「何とか言ってよぉ…」
いや、今喋ったら首元にあるカッターで首切れちゃうから。
さっきお前もそう言ってただろ。
「っ、返事してってば!!」

バシッ

左の頬を平手で殴られた。
椅子に縛られてるから当然避けることができず、クリーンヒット。
理不尽だなぁ。
でもカッターは首から遠ざかったからそろそろ喋れる―――

チョキ チョキ・・・

「ってなに切ってんの」
依は裁断用のハサミに持ち替えて私のYシャツ切ってきた。
おい、この服新品なんだぞ。
もう血に染まっちゃったけど。
「服、邪魔でしょう?」
「邪魔なわけなくない?」
なんのために服を着てると思ってるんだ。

チョキ チョキ・・・

…あーあ。見えてきたよ。
依につけられてきた傷のコレクション。

チョキ チョキ・・・

ついに私は上だけ裸になった。
待って、いつの間にブラ剥ぎ取ったお前。
新品だった服は血に染まった上に、ジョッキジョキに切り刻まれてもうその原型はない。
「肌綺麗だよね、糸ちゃん。
アタシぃ、綺麗なものほど壊したくなっちゃうんだよねぇ」
「それ褒めてます?」
「もちろん。糸ちゃんの体、傷をつければつけるほどますます綺麗になってく…」
「???」
相変わらず言動が意味不明だ。
しばらく私の上半身を眺める依。

「はぁ、はぁ…素敵だよ、糸ちゃん…
糸ちゃんの目も鼻も耳も口も、歯も舌も息も声も、皮膚も内臓も血管も体液も性器も、それから―――」
「あ、もういいです」
「でもね?全部ぐっちゃぐちゃにしちゃったら、2度と元には戻らないものもあるでしょう?
このYシャツみたいに」
「うまいこと言わなくていい」
「それに、やっぱりその痛がる顔と声が、すごくいいんだよねぇ…」
「ぇ」

包丁 持ってんじゃん。

**********************************

「ぐっあぁ!!あっ!」
「っふふ、はは…!」
包丁で胸の真ん中を何度も切りつけられる。
心臓に一番近い場所。
ちなみに自慢じゃないが私の胸など男性のようなもの。つまり薄い。
そのせいか、痛みを鮮明に感じる。
しかも、切ってくるその一回一回が深い。
縛られている手足の痛みも忘れるほど。

「あぁあ!!がっあ!」

今度は傷つけた場所を一ヶ所ずつ抉って回ってる。

「っははは!」

依は楽しそうに笑ってる。


…可愛い。


それにしても、今日はやけに本気じゃん。
本気で私のこと殺そうとしてきてるじゃん。
「なんな…んがっ」
「余計なこと喋んないで」
口に包丁を突っ込まれた。
口の中が切れないように歯で包丁を押さえてるけど、同時に自分の血が口の中に流れ込む。
うえぇ~…

「あ、いいなぁ、アタシも舐めよっ」
「ぅぐ」
依が私の口から包丁を取って、その包丁…じゃなくて、私の胸を舐めてきた。

痛い痛い。
めちゃめちゃ痛い。

けど、なんかいいよね。
私にすがりついて胸に手を当ててる姿もいいし、舌を出して胸を舐めてるその顔も色っぽい。
「んんっ…」
「っ…」
…血と右手の包丁がなければ本当に最高。
「っはぁ…ごちそうさまっ。
糸ちゃんの血、濃くておいしかったよ」
「あっそ」
血の濃い薄いを舐めて判断できるのはお前だけだよ。

「…依ちゃん、そろそろ腕の縄ほどいて?」
「っ、嫌」
「ほら、はやく」
「嫌だ!放してあげない…」
「依、お願いっ」
「・・・」
優しい口調でお願いすると、依は大人しく包丁で腕の縄を切った。
いやハサミで切ってよ。
てかその包丁切れ味良すぎ…
「手も」
「嫌、糸ちゃん絶対逃げる」
「この足でどうやって逃げんだよ」
足に椅子つけたまま歩けないわ。
「・・・」
依はまた包丁で、私の後ろに立って縄を切った。
痛。
腕にも手首にもようやく血が巡ってきて、感覚が戻ってきた。
痕も酷いし、とにかく痛い。
この調子だと、足はもっと酷いだろうな。歩けるかな。

でも、これでいいね。
「依ちゃん」
「・・・」
「こっちおいで?」
私の背後で包丁を握ったまま黙り込む依ちゃん。
「…ほらっ」
「っ」
その包丁を持っている右手を引いて、私の正面に立たせる。
…できればそれ置いてほしいんだけど。

まぁいっか。

ギュッ

「っ!?」

これで依のこと抱きしめられるから。

「膝の上乗って」
「・・・」
耳元で囁くと素直に従う。
「・・・」
包丁で肩をなぞるのやめなさい。
しょうがないなぁ、この子は。

チュッ

「んっ//」

依の頬を包んで唇にキスした。
血の味する、私の血だけど。

「・・・//」
…なんだよ、顔赤くして下向いて。
さっきまでのオラオラはどこ行ったの。
「ほんと、可愛いね~依ちゃんは」
「っ//」
依は攻められると弱い。
もっ回キスしてあげよう。
「っ…」
「んっ、んぁ//」
ほらね。
舌を入れただけで―――

ゴトッ

っと、いきなり包丁落とすな。
危ないなぁ。
「っはぁ、はぁ…//」
「依、好きだよ」
「っ!//」

どんなに縛られても

どんなに傷つけられても

それでも私は キミが好き。

「いと、ちゃん…//
っもういいでしょ!降りるから放して!」
「嫌ですっ」ギューッ
「なっ…もう//」
絶対 放してあげないよ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

スリーヤミーゴス~不仲な美男美女トリオは犯罪がお好き?~

キャラ文芸
表向きはミステリー愛好会と掲げられた扉の向こうに彼らは存在する。 犯罪研究同好会(通称:犯研)、あるいは《スリーヤミーゴス》と呼ばれる三人組。 犯罪マニアの美少女御来屋クロエ、イケメンバンドマンで安楽椅子探偵の龍崎大翔、イケメンモデルで探偵の宝生捺樹。 時に事件解決に協力し、報奨で活動を続ける彼らの実態は仲良しトリオでもなく……

勇者パーティーを追放された転生テイマーの私が、なぜかこの国の王子様をテイムしてるんですけど!

柚子猫
ファンタジー
「君はもういらないんだ。勇者パーティーから抜けてもらうよ」   勇者パーティーを追い出された私は、故郷の村で静かに生きて行くことに決めた。 大好きだった勇者様の言葉は胸に刺さったままだけど。強く生きていかなくちゃ。 私には、前世の記憶と神様からもらった『調教師(テイマー)』の能力があるし、平気よね。 でも。 偶然テイムした、まるいドラゴンが、実はこの国の王子さまだったみたい!? せっかく動物にかこまれてスローライフを過ごそうと思っていたのに、いきなり計画がつぶれたんですけど! おまけに、何故か抜けたはずの勇者パーティーメンバーも、次々に遊びにくるし。 私のおだやかな異世界生活、どうなっちゃうの?! ◆転生した主人公と王子様の溺愛ストーリーです。 ◆小説家になろう様、カクヨム様でも公開中です。

ショートショート「家族って良いもんだ」

あかりんりん
エッセイ・ノンフィクション
ショートショートを集めました

首無し王と生首王后 くびなしおうとなまくびおうごう

nionea
恋愛
 かつて精霊王が創ったアイデル国。  魔法は遠い昔の伝説になったその国で、精霊王の先祖返りと言われる王が生まれた。  このお話は、   《首無し王》 レンフロ と《生首王后》と呼ばれたかった アンネリザ  の、結婚までの物語。  奇々怪々不思議大好きな辺境育ちの田舎伯爵令嬢、アンネリザが主人公になります。  シリアスな人生を歩んでいる登場人物はいますが、全体的にはコメディタッチです。  ※グロいつもりはないですが、   首無し王、とか、生首、という響きに嫌な予感がする方は、お逃げください。

【完結】夢見る戦闘令嬢は婚約者には夢見ていない[スピラリニ王国4]

宇水涼麻
恋愛
貴族学園の1年生になるルジェリアとモナローズは個人的に王都の警邏をしている戦闘少女だ。 ルジェリアは学園で噂になっている1学年上の生徒たちの恋愛話に憧れていて、モナローズによく話している。憧れる理由には、自分の婚約者の平凡さもあると思っている。 そんな二人は、時々警邏の最中に変な男たちに襲われることがある。彼らの目的は不明だ。 『虐げたられた男爵令嬢はお隣さんと幸せを掴む』 『婚約破棄の公爵令嬢は醜聞に負けじと奮闘して迷子になる』 『小麦姫は熊隊長に毎日プロポーズする』 これらのお話に関する内容が出てまいりますが、なるべくそちらを読まなくとも楽しんでいただけるように書いていきたいと思っています。 ご意見ご感想などをいただけますと嬉しいです。 毎日、午前中に更新予定です!

私が、スパイに間違われた理由をさぐる 

鏡子 (きょうこ)
エッセイ・ノンフィクション
何故、スパイに間違えられたんでしょう?

抱かれたい男の闇の深さは二人だけの秘密です!

たまりん
恋愛
らすじ ごく普通の地味なOLである相場茜には人に隠しているヒミツが一つだけあった。 それは、実弟の圭吾と弟同様の泰叶が超人気ユニットであることだった。 姉として陰から彼らの活動を応援するだけだった茜だが、ある日突然、物理的距離を置いていたはずの抱かれたい男である泰叶が恨めしそうに玄関扉の前に蹲っていた。その瞳には恨めしさと嫉妬の炎がほとばしっていて… ■二話完結予定です! ヒーローの闇が深い為、回想シーンの行動が危ない(変態)です!! ⭐︎ムーンライトノベルズさまでも別作者の名前で投稿してますが、同一作者です。

【伝説の強戦士 異次元 抗魔執行官編:ゴスロリ死神娘の淡い恋】

藤原サクラ
ファンタジー
ある夜、凛太朗は夢を見た。何時も見る夢は取るに足らない。だから殆どは朝起きると忘れてしまうのだが、その夢は違った。宇宙戦士になり何処かの惑星を奪還するために宇宙揚陸艦に乗船していた。そこで新しく部下になった降下兵と短い会話をした。 「ねえ、小隊長、私は生きて帰る事が出来るかしら・・・」「ああ、大丈夫だ。この作戦から帰ったら飯でも奢るから俺に付いてこい」と俺自身が不安だったが、心にもない事彼女に言って励ました。 その時の小刻みに震えている降下兵の少女の顔が、どうしても頭から離れなかった。 少女は俺に続いて降下したが、運悪く頭上で降下している彼女に敵のサイコビームにあたり燃えるのが見えた。その夢は、これから起こる出来事を暗示しているかの様だった。 人間の欲望や憎悪・怒り嫉みなど負の感情は再び魔族を生み出した。 結城凛太朗は成長する最強の幻想銃と強運を武器に人類存亡を賭けて人知れず異次元抗魔執行官として魔族と戦う。だが、宇宙のダークエネルギーの増大は暗黒神の力を強め異形の者達が棲む異次元と交わるXデーが近づいていた。それは人類滅亡の危機を孕んでいたが、その事を知る者は誰もいない。 前世から一途に思い続ける創造主になった円城寺五月、ちっぱいにコンプレックスがある最強の死神娘の抱く淡い恋がある。やがて、亜神の力を得た凛太朗と前世からの魔族に対する恨みの深さから五月達と溝が出来る事になる。五月の思い人、凛太朗との時空を越えた愛は成就するのか? それを知りながら彼を思う死神娘、恋に行方は如何になるのか? 前作品では竜馬は銀河艦隊と共に魔界に攻め込み、自らの命と引き換えに宿敵、創造主や魔王を倒したところで終わりました。 本篇は、「伝説の強戦士、異世界を駆ける」の続編になります。 時は過ぎ、現世に再び凛太朗として生まれ変わった竜馬は警視庁の刑事になり平凡な日々を送っていた。 前世の記憶も宇宙最強の戦士と言われた能力は無い。 ある日、刑事として、猟奇殺人事件を捜査中、迷い込んだ異空間で、魔族と戦うことになった。そこで、ゴスロリファッションを着た死神娘と虎の獣人に助けられ九死に一生を得るが、この事件を、きっかけに思いもよらない運命が彼に待ち受けていた。

処理中です...