上 下
51 / 56
本編

51

しおりを挟む
「準決勝第2回戦…始め!」

いよいよカイラスとギルバート殿の戦いが始まった。しかし、現時点では俺にはギルバート殿の実力が分からない。これまでの対戦相手には難なく勝ってしまったため、剣筋を読むところまでいかないのだ。

「頑張れよカイラス」

勝てとは言えない。相手はこの国一番の剣士。それも普段から目にすることもある両者だ。消耗具合からいってもカイラスは不利だろう。だが、そんなことであきらめるようなやつではない。きっと、何かするはずだ。


「カイラスよ。こうして戦うのは初めてだな」

「そうですね。しかし、こちらも負けられませんので遠慮はいりませんよ」

「そうだな。特に決勝に上がることも優勝することも未練はないが、ガーランドと戦えぬことはつまらんからな」

「俺が気合が入っていた理由も分かったでしょう?」

「急にやる気が出たと思っていたが、あれを見せられればな。では、行くぞ!」

団長が剣を振りかぶってくる。まずはこの一撃を受けてみないことには対応できない。

「はっ!」

ギィン

金属音がして互いの剣がぶつかり合う。重い…。カール副団長と技術で並びながら、なお重たいとは。

「しかし!」

キィン、キン

たがいに剣をぶつけ合いながら間合いを取っていく。だが、間合い自体は俺の方がやや外にあるようだ。これを生かすしかないが…。

「ほう?そこがお前の間合いか。珍しい位置だがそれならば!」

突進するような勢いで一気に距離を詰められる。再度間を開こうと下がるがそこに薙ぎ払いが入る。

「ちっ」

両手で受けながら衝撃を生かしてさらに距離を開ける。こちらとしても間合いの外だがあれだけ一足で詰められてはこれぐらいの方がいいかもしれない。

「中々の判断だが、現状でそれは大丈夫か?体力も完全ではないというのに」

――痛いところを突かれる。確かに俺はカール副団長との戦いの疲れがまだとれていない。このままでは体力差が出てしまうだろう。しかし、うかつに飛び込んでしまっては相手の間合いに入ってしまう。……。

チャキ

剣を縦に構えて呼吸を整える。突きの構えに切り替え僅かずつだが間合いを詰めていく。戦いを長引かせてはいけない。ガーランドとガイザル殿の戦いも見事ではあったが、長期戦になっていない。このまま時間を使って突破口を切り開き運よく勝ったとしても、決勝では満足に戦えないだろう。

「覚悟を決めたか。では…」

団長の構えも切り替わる。いつも手合わせの時に見せない構えだ。これが剣豪ギルバートの本気か…。

「せぇぇぇぇい!」

「はあっ!」

ガーランドが先ほど放った華麗な突きではなく荒々しく鋭い突きを繰り出す。二の次などない最速最大の威力で。

キィィィィン

カイラスの突きに合わせるように繰り出されたギルバートの攻撃は振り上げ…つまり居合だった。2つの剣が交差した結果は…。

「折れたか…」

「どうする?」

「ふっ、これでもまだといいたいところですが、不意打ちでもなければ体術では一撃も入れられないでしょう」

「…カイラス、武器破損及び戦闘継続意思なしとして勝者ギルバート!」

ワアァァァァァッー

審判の宣言とともに会場が盛り上がる。会場の一部ではカイラスを応援していた令嬢などが肩を落としている。彼女たちには悪いがもともと条件の悪かった勝負だ。しかし、カイラスもびっくりしていたがまさか剣を折られるとは。
このトーナメントはただ武を競うだけでではない。王国の剣士の質の高さを示すためでもあり基本武器は持ち込まれる。カイラスだって愛用している剣だったはずだ。それがここまでの戦いで折れるというのは何とも激しくもあり予想外だっただろう。

「お前はよく頑張ってくれたな」

ポンポンと愛用の剣をたたいて褒めてやる。先ほどの一撃以上に衝撃でいえば俺の剣の方が大きかっただろう。その衝撃に耐えてくれた剣にも感謝しないとな。

「残念だったなカイラス」

「そう思うならすんなりいかせていただきたかったですな」

「お前はまだ何年先も戦えるだろう。ここは先人に譲っておくということだ」

「御武運を」

「ああ」

会場にいる二人のうちカイラスだけが控室へと向かう。決勝までは休憩がない。間にこれまでのダイジェストの説明が入るものの、ここで会場にて椅子が用意されそれを待つ形だ。俺も呼ばれたので会場へと向かう。自分が会場に出るだけで歓声が上がる。それがどうにもしっくりこないと感じつつも会場に出て座った。

「いよいよだな」

「ええ、よろしくお願いします」

「こちらこそだ」

剣士ならば一度は夢見た舞台に俺は上がったのだった。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

拝啓~私に婚約破棄を宣告した公爵様へ~

岡暁舟
恋愛
公爵様に宣言された婚約破棄……。あなたは正気ですか?そうですか。ならば、私も全力で行きましょう。全力で!!!

当て馬令息の婚約者になったので美味しいお菓子を食べながら聖女との恋を応援しようと思います!

朱音ゆうひ
恋愛
「わたくし、当て馬令息の婚約者では?」 伯爵令嬢コーデリアは家同士が決めた婚約者ジャスティンと出会った瞬間、前世の記憶を思い出した。 ここは小説に出てくる世界で、当て馬令息ジャスティンは聖女に片思いするキャラ。婚約者に遠慮してアプローチできないまま失恋する優しいお兄様系キャラで、前世での推しだったのだ。 「わたくし、ジャスティン様の恋を応援しますわ」 推しの幸せが自分の幸せ! あとお菓子が美味しい! 特に小説では出番がなく悪役令嬢でもなんでもない脇役以前のモブキャラ(?)コーデリアは、全力でジャスティンを応援することにした! ※ゆるゆるほんわかハートフルラブコメ。 サブキャラに軽く百合カップルが出てきたりします 他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5753hy/ )

わたしは夫のことを、愛していないのかもしれない

鈴宮(すずみや)
恋愛
 孤児院出身のアルマは、一年前、幼馴染のヴェルナーと夫婦になった。明るくて優しいヴェルナーは、日々アルマに愛を囁き、彼女のことをとても大事にしている。  しかしアルマは、ある日を境に、ヴェルナーから甘ったるい香りが漂うことに気づく。  その香りは、彼女が勤める診療所の、とある患者と同じもので――――?

【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される

風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。 しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。 そんな時、隣国から王太子がやって来た。 王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。 すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。 アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。 そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。 アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。 そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。

【完結】転生したぐうたら令嬢は王太子妃になんかになりたくない

金峯蓮華
恋愛
子供の頃から休みなく忙しくしていた貴子は公認会計士として独立するために会社を辞めた日に事故に遭い、死の間際に生まれ変わったらぐうたらしたい!と願った。気がついたら中世ヨーロッパのような世界の子供、ヴィヴィアンヌになっていた。何もしないお姫様のようなぐうたらライフを満喫していたが、突然、王太子に求婚された。王太子妃になんかなったらぐうたらできないじゃない!!ヴィヴィアンヌピンチ! 小説家になろうにも書いてます。

琴姫の奏では紫雲を呼ぶ

山下真響
恋愛
仮想敵国の王子に恋する王女コトリは、望まぬ縁談を避けるために、身分を隠して楽師団へ入団。楽器演奏の力を武器に周囲を巻き込みながら、王の悪政でボロボロになった自国を一度潰してから立て直し、一途で両片思いな恋も実らせるお話です。 王家、社の神官、貴族、蜂起する村人、職人、楽師、隣国、様々な人物の思惑が絡み合う和風ファンタジー。 ★作中の楽器シェンシャンは架空のものです。 ★婚約破棄ものではありません。 ★日本の奈良時代的な文化です。 ★様々な立場や身分の人物達の思惑が交錯し、複雑な人間関係や、主人公カップル以外の恋愛もお楽しみいただけます。 ★二つの国の革命にまつわるお話で、娘から父親への復讐も含まれる予定です。

一途な皇帝は心を閉ざした令嬢を望む

浅海 景
恋愛
幼い頃からの婚約者であった王太子より婚約解消を告げられたシャーロット。傷心の最中に心無い言葉を聞き、信じていたものが全て偽りだったと思い込み、絶望のあまり心を閉ざしてしまう。そんな中、帝国から皇帝との縁談がもたらされ、侯爵令嬢としての責任を果たすべく承諾する。 「もう誰も信じない。私はただ責務を果たすだけ」 一方、皇帝はシャーロットを愛していると告げると、言葉通りに溺愛してきてシャーロットの心を揺らす。 傷つくことに怯えて心を閉ざす令嬢と一途に想い続ける青年皇帝の物語

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

処理中です...