上 下
27 / 56
本編

27

しおりを挟む
早くいかないと、今日は確実にガーランド様が待っておられる…。よりにもよって、この方の授業が最後とは。熱心なのはいいことだけど、もう少し時間にきちっとしてほしい。終わるとすぐさまものを詰め込んで、教室を出る。

「サーラ、また明日!」

「ええ、頑張ってね!」

返事もそこそこに、階段を駆け下り、靴に履き替えて校門前へとダッシュ。ちょっと息が切れるが仕方ない、すぐさまガーランド様が見えたのでそちらへ一直線に向かった。

「す、すみません遅くなりまして…」

事情を説明しようとすると、すでに別の生徒から聞いているとのこと。誰だろうと思っているとよく気にかけてくれている上級生らしかった。結構、咎められたりすることの多かった入学時から気にかけて貰っていて、お世話になっている人たちだ。

「今度お礼しなくちゃですね。普段からお世話になってますし」

「そうだな。俺に話しかけてきたのもどんな男か気になったからかもな」

「じゃあ、きっと大丈夫ですよ。ガーランド様はお優しいですし、あの方たちも分かってくれます」

「だと、いいけどな…」

なんだか複雑な顔をされるガーランド様。なにか、話されたのだろうか?それはそうと、ちょっと聞きたいことがあったので話をそっちに持っていく。

「そういえば騎士団トーナメント戦というのがあると聞いたのですが…」

「ああ、騎士戦か。誰か身内が出る子でもいたのか?」

「いえ、友人にガーランド様が出ないのかといわれまして…」

「どうかな。今年は投票制だから出場者は誰も分らないからな。去年までは隊長選出のみだったが」

「では、出られるかもしれないんですか?」

私は期待を込めた目でガーランド様を見る。

「ま、まあ発表はそろそろのはずだから、入っている…かもな」

「そうですか…ちなみに選ばれると特訓とかでお帰りが遅くなったりしますか?」

出場されるか聞けなかったけれど、こっちは聞いておきたかった。今日のお願いのためにも…。

「いや、例年はそんなこともない。そもそも、王宮警備隊の優秀者や騎士学校の優秀者が王宮騎士団に入るから、基本的にあれは騎士団の宣伝みたいな場だからな」

「そうなんですか、警備隊の方はどのくらい勝ち進まれるのですか?」

「良くても2回戦止まりだな。騎士団は多くが各団の団長が出るから、そもそも相手にならないことの方が多い」

選りすぐりの選りすぐりと戦う訳か。確かに難しそうだ。でもそんな人たちに勝っているガーランド様の姿も見たいと思う。

その後は、取り決め通りにガーランド様の方からお話を頂き、家路につく。なんでも今年からは騎士学校時代の後輩が来て、ちょっと面倒なのだそうだ。後輩がかわいくないんですかといえば『騎士学校時代を知られているからやりにくい』とのことだった。

「でも、他の後輩の方も毎年入ってこられるのでは?」

「他の奴は別にいいんだ。そんなに交流を持っていなかったから。当時からカイラスに勝ったのはまぐれだとか、不意打ちを使ったとかの噂があったからな。あいつは練習風景も見ていて、偶然じゃないと知っている分面倒なんだ」

「かわいい後輩さんですね。家には来られたりしないんですか?」

「そういえばまだ来たことはないな」

「せっかくだからお会いしてみたいです。騎士学校時代のお話も聞きたいですし」

「つまらん話になると思うが…」

「それならそれでいいです。聞けたという事が大事なので」

最も、ガーランド様の話でつまらないと思うことはないので、色々聞かせてもらいたいだけなのです。

「ただいま~」

家に着いて、カレンさんに出迎えてもらう。おっといけないいけない、ここで今日の計画を実行しないと。

「ガーランド様、今日はこの後どうされますか?」

「いつもの帳簿とその前に少し鍛錬をするかな」

「わかりました、頑張ってくださいね」

ふむふむ。鍛錬が30分ぐらいとして帳簿や自室での休憩も入れて1時間余り。生地を作って匂いが漏れないようにしてからは30分だ。私はガーランド様が中庭に向かうのを確認して、スッと厨房に向かう。

「ロイさん、ただいま帰りました」

「おかえりなさいませ、ティアナ様。使われますか?」

「ええ、お願いします。半時間ほどしたら一旦、様子を見にリビングに戻ります」

「わかりました。その間は私が見ておきます」

「よろしくお願いします」

私はパパっと準備をする。この前と同じように作るのだが、少しもらった意見をもとにシナモンはそのまま、ビターは少しだけ砂糖を増やす。焼き加減もちょっとだけ最後を強くして、パリッと感を出す。

「やっぱり、いつもと違う人に食べてもらうと、いろいろ意見がもらえて参考になるわ」

これからも定期的に味見をお願いしようと思うティアナだった。奇しくも、ティアナのお菓子が欲しい彼女たちと利害が一致したのである。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

のんびり新妻は旦那様に好かれたいようです

nionea
恋愛
 のんびりした性格で家族からも疎まれているミスティは、やけに忙しいエットと結婚した。  お見合いからずっとすれ違っているような二人の新婚生活は、当然まともにはいかない。  心強い付き人のエリィネと共にやってきた新しい家。  優しく迎えてくれた侍女頭のドナや使用人女性達。  だけど、旦那様だけは、何だか様子がおかしいようで…  恋心は後からやってきた系夫婦の問題解決まで。  ※異世界ファンタジー、だけど、魔法はない

当て馬令息の婚約者になったので美味しいお菓子を食べながら聖女との恋を応援しようと思います!

朱音ゆうひ
恋愛
「わたくし、当て馬令息の婚約者では?」 伯爵令嬢コーデリアは家同士が決めた婚約者ジャスティンと出会った瞬間、前世の記憶を思い出した。 ここは小説に出てくる世界で、当て馬令息ジャスティンは聖女に片思いするキャラ。婚約者に遠慮してアプローチできないまま失恋する優しいお兄様系キャラで、前世での推しだったのだ。 「わたくし、ジャスティン様の恋を応援しますわ」 推しの幸せが自分の幸せ! あとお菓子が美味しい! 特に小説では出番がなく悪役令嬢でもなんでもない脇役以前のモブキャラ(?)コーデリアは、全力でジャスティンを応援することにした! ※ゆるゆるほんわかハートフルラブコメ。 サブキャラに軽く百合カップルが出てきたりします 他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5753hy/ )

わたしは夫のことを、愛していないのかもしれない

鈴宮(すずみや)
恋愛
 孤児院出身のアルマは、一年前、幼馴染のヴェルナーと夫婦になった。明るくて優しいヴェルナーは、日々アルマに愛を囁き、彼女のことをとても大事にしている。  しかしアルマは、ある日を境に、ヴェルナーから甘ったるい香りが漂うことに気づく。  その香りは、彼女が勤める診療所の、とある患者と同じもので――――?

国一番の大悪女は、今から屋敷の外に出て沢山の人達に愛されにいきます

海咲雪
恋愛
私、マリーナ・サータディアはユーキス国の第一王女でありながら、身体が弱く引き篭もりがちだった。 齢10代も半ばの頃には大分良くなり、そろそろ学園にも通えると思っていた矢先…… ユーキス国で、流行病が猛威を振い始めた。 そんな時、私の前に突然若い青年が現れた。 「マリーナ。いっぱい嫌われて」 「え……?」 「君が嫌われた人数分だけ命を救ってあげる。というか、嫌われた人数にだけ免疫をあげるよ。あー、でも、この流行り病からユーキス国全てを救うためには国民全てに嫌われるくらいじゃないと無理かな?」 その青年は不思議な力を秘めていた。 だから、はっきりと答えた。 「分かりました。その言葉が聞けただけで十分ですわ」 そして、私は国一番の悪女になった。 この物語はここから始まる。 私が国一番の悪女と呼ばれるようになった日、その青年はもう一度現れた。 「じゃあ、好かれてきて」 「君の人柄で、努力で、どれだけ変わるのか俺に見せて」 そして、学園に通い始めたマリーナは隣国の公爵子息であるクラヴィス・イージェルと出会う。 「君が誰かに嫌な言葉を吐かれた時は……その分、私が君を甘やかそう」 「マリーナ、大丈夫だから。どうか私に君を守らせて」 「ただそばにいたいだけなんだ」 世界が変わり始めた音がする。 【登場人物】 マリーナ・サータディア・・・ユーキス国の第一王女。17歳。 クラヴィス・イージェル・・・隣国マリス国の公爵子息。実際は・・・? クロル・サート・・・マリーナに仕えている護衛騎士。サート伯爵家の次男。 リーリル・カリナ・・・マリーナのメイド。共に信頼しあっている。 フリク・・・不思議な力を持ち、マリーナを振り回す青年。神秘的な力を持つ。 【事前に書き上げている作品ではありませんので、不定期更新です。申し訳ありません】 【この物語は架空の設定であり、フィクションです。言葉遣いや設定があまい所があるかもしれませんが、温かい目で見て下さると嬉しいです】

【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される

風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。 しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。 そんな時、隣国から王太子がやって来た。 王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。 すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。 アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。 そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。 アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。 そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。

【完結】転生したぐうたら令嬢は王太子妃になんかになりたくない

金峯蓮華
恋愛
子供の頃から休みなく忙しくしていた貴子は公認会計士として独立するために会社を辞めた日に事故に遭い、死の間際に生まれ変わったらぐうたらしたい!と願った。気がついたら中世ヨーロッパのような世界の子供、ヴィヴィアンヌになっていた。何もしないお姫様のようなぐうたらライフを満喫していたが、突然、王太子に求婚された。王太子妃になんかなったらぐうたらできないじゃない!!ヴィヴィアンヌピンチ! 小説家になろうにも書いてます。

琴姫の奏では紫雲を呼ぶ

山下真響
恋愛
仮想敵国の王子に恋する王女コトリは、望まぬ縁談を避けるために、身分を隠して楽師団へ入団。楽器演奏の力を武器に周囲を巻き込みながら、王の悪政でボロボロになった自国を一度潰してから立て直し、一途で両片思いな恋も実らせるお話です。 王家、社の神官、貴族、蜂起する村人、職人、楽師、隣国、様々な人物の思惑が絡み合う和風ファンタジー。 ★作中の楽器シェンシャンは架空のものです。 ★婚約破棄ものではありません。 ★日本の奈良時代的な文化です。 ★様々な立場や身分の人物達の思惑が交錯し、複雑な人間関係や、主人公カップル以外の恋愛もお楽しみいただけます。 ★二つの国の革命にまつわるお話で、娘から父親への復讐も含まれる予定です。

一途な皇帝は心を閉ざした令嬢を望む

浅海 景
恋愛
幼い頃からの婚約者であった王太子より婚約解消を告げられたシャーロット。傷心の最中に心無い言葉を聞き、信じていたものが全て偽りだったと思い込み、絶望のあまり心を閉ざしてしまう。そんな中、帝国から皇帝との縁談がもたらされ、侯爵令嬢としての責任を果たすべく承諾する。 「もう誰も信じない。私はただ責務を果たすだけ」 一方、皇帝はシャーロットを愛していると告げると、言葉通りに溺愛してきてシャーロットの心を揺らす。 傷つくことに怯えて心を閉ざす令嬢と一途に想い続ける青年皇帝の物語

処理中です...