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本編

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「おい、聞こえたかガーランド」

「ああ、これで負けられなくなったな」

ガーランドは剣を引き、改めて構え直した。こいつのこんなやる気のある姿を見るのは1年ぶりぐらいだろうか?本当に今日はタイミングが良かったな。そう思いカイラスも構え直す。

「わかってるな?」

「勝負は一度きり、だろ?」

フッとお互い笑い合うと、俺はやや上段にカイラスは剣を引いて構える。お互いぴたりと止まると、一息つく。勝負は一瞬―――。

「はあぁぁぁぁぁ!」

「せやぁぁぁぁ!」

カイラスの突きが俺をとらえようとする瞬間、剣を斜めに薙ぐようにして外に押し出そうとする。このまま、押し切れる…わけはないか。すぐにカイラスは体制を変え切りかかる。その刹那、俺も剣の向きを変え一閃する。

ギィン

2つの大きな音が中庭に響き渡った。

「そこまでっ!」

カレンの合図で勝負はここまでとなった。

「決めたと思ったんだけどなぁ」

「こっちのセリフだ。まさか勝ちきれないとはな」

「さすがに士官学校時代の轍は踏まないさ。あれで懲りて突きは控えるようになったからな」

「それでも、何かあっても対応しきれると思っていた」

「婚約者の前でかっこつけられなくて残念だったな」

「確かに。恥ずかしいところを見せるわけにもいかないし、鍛錬を怠らないようにしないとな」

「お前、偽者じゃないだろうな」

「なんだそれは?」

「まあいいや。どうだったか感想を聞こうじゃないか」

そういって俺たちはティアナのもとへと向かった。



「ど、どっちが勝ったの?」

思わず口にしてしまったがあまりのやり取りについていけなかった。悔しいけれど私では全く入れないレベルの高さだ。
 
「私にもわかりかねます。ただ、これ以上やらせるとお互いに譲らなくなってしまうので…」

「そうなんだ…」

きっとその時はどうなったのかは聞いてはいけないのだろう。むしろ今の私は聞きたくないとも思ってしまった。最後の瞬間は鬼気迫るものがあったと思ったが、それでもカレンさんから見ればまだ、止められる範囲だというのだ。この感動を誰かに伝えたい。わかってくれそうなのは一人ぐらいしか思い浮かばないけど。

「おや、お話も終わってこちらに来られるようですね」

さっきまでガーランド様はカイラス様とお話をされていたけど満足した様子でこっちに来ていた。

「か、かっこいい…」

「ん、そうか?」

「えっ、聞こえてました?」

「バッチリね。で、どっちが?」

私の体はガーランド様の方を向いていたのにわかり切った顔でカイラス様が話しかけてくる。この人はちょっと性格が悪いのかもしれない。

「し、知りません!…ところでさっきはどっちが勝ったのですか?」

「残念ながら引き分けだな。相討ちといったところか」

そういってガーランド様は自分の脇とカイラス様の肩口を指さす。そこには確かに剣で付いた傷があった。

「大丈夫ですか!ケガはっ!」

「心配ない。二人ともケガには気を付けているから」

「よかった~」

一気に肩の力が抜けた。

「何せ、手合わせをして、僕が傷を負えば闇討ちでもしたんだろう。ガーランドだったら返り討ちにあったんだろうとつまらない噂になるからね」

「そうなんですね。あまりにすごい打ち合いだったので心配で…」

「ティアナ様、騙されてはいけません。実際にそう噂されたことが何度もあるから言われてるんです」

「いやだってあれは…」

「年甲斐もなく他家の庭でケガをした、させたの噂が立つこと自体褒められたことではありません」

ピシャリというカレンにガーランド様もカイラス様もばつの悪そうな顔をしている。本当に何度もあったことなのだろう。

「でも、すごいです。お二人の実力は私が今まで見た中でも1番です」

「まあね。だからこそ、こいつにも騎士団に来てほしいんだけどな」

「王家のために剣を振るい、ひいてはそれが国民のためにもなる。騎士団も警備隊も関係ない」

「さすがはガーランド様っ!」

私がガーランド様の言葉に感銘を受けているとカレンさんとカイラス様はこめかみを押さえていた。何かあったのだろうか?

「カレン、このお嬢様は外に出してはいけない気がするよ」

「そうでしょうとも、わたくしの方で立派に囲います」

「おい…」

なんだか3人で盛り上がられているようです。しかし、そんなことより興奮冷めやらぬ私は、この後汗をかいたため入れ替わりでお風呂に入ったガーランド様たちが上がってくると、士官学校時代のことや剣術のことなどを尋ねていた。2人ともずっと答えてくれるのでそのまま話し続けていると…。

「おっと、そろそろいい時間だな。今日は休日を邪魔して悪かったな」

「あっ、すみません私ばかり話して」

「ティアナが謝ることはない。こいつ以外とも久しぶりに話したし、いろんな話題が聞けたからな」

「そうそう、でも、今度来る時はちゃんと手紙か連絡するよ」

「別に構わないが…」

「かわいい婚約者殿といちゃついているところに出くわしたくはないからね」

「さっさと帰れっ!」

悪態をつきながらもわざわざ見送りに行くガーランド様を見て、仲良しだなあと思った。
カイラス様が帰ってからは直ぐに夕食となった。食べて帰る日もあるらしいけど、今日はそこまで食材がないということでちょっと残念だったかも。

「せっかく来た初日なんだから、家族水入らずがいい」

そういわれて私はまたもや顔を赤らめてしまった。そうそう、この邸では使用人も少ないので、特に来客がいないときなどはロイさんやカレンさんと一緒に食べるそうだ。いいかと聞かれたが、ちょっと広めのお邸で4人しかいないのに、わざわざ控えてもらっているよりよっぽど落ち着くので喜んで受け入れた。

「実は実家にいる時もお母様がいない日なんかは隠れて一緒に食べてました。使用人の休憩室で食べたこともあるんですよ」

「それで料理などもなされるのですか?」

「いいえ、単純に冒険譚を読んでいる時に冒険者にあこがれて、野営の準備をと思って習い始めたの」

「それはまた…」

残念ながら、火をつけるのがうまくいかなくて断念したのだけれど。その縁で料理長と仲良くなり、以降暇を見つけては練習に励んでいた。

「じゃあ、ティアナ様の手料理を食べられたりするのですか?」

「もちろんです。使用人の方も少ないので私もガンガン働きます」

「そこは気にしなくても大丈夫ですよ。我々は仕事でもありますので」

「そうだ。ティアナはまだ学生なんだからまずは勉強だな。あの学園は費用も掛かるのだろう?」

「そうですね。王立学園は男爵家の次女、三女はあきらめろというほどにはかかりますものね…。ですが、お食事ぐらいは作りますので期待しててください。何よりこういうことは剣と同じでなまってしまいますから!」

そういうと力こぶを作るように腕を上げて見せる。そんな形で1日目は終わりを迎えた。部屋の片づけ?ちゃんと戻ったらやるわ。ええきっと、必ずよ…。

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