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リバースストーリー

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「父上のおかげで助かりました。まさか、アルター侯爵のところにまで手を伸ばしていたとは」

「ははは、わしとて王よ。大事な書類は自分で持っておくからのぅ。それより今日はカノン子爵が来るのであろう?このようなところで時間をつぶしておってよいのか?」

「では、失礼させていただきます」

「王妃よ。息子は…クレヒルトは強くなったな」

「はい。これもあなたが彼女を婚約者にしたおかげですわ。さすがは陛下」

「エレステンの爺さんには世話になったからな。少しでも恩を返したというものだ」

「ところで陛下。その薬の事なのですが、魔導王国の大公閣下が患っておりまして…」

「ふむ。かねてより噂の名士だな。そなたの母国でもあるし、すぐにでも対応しよう。だが、こちらに来ての治療となるがな」

「そこは問題ありません。ありがとうございます陛下」

「礼ならカノンとクレヒルトに言うのだな。2人が少なくとも同盟各国には手に入れやすい条件・価格でという事で、泣く泣く秘薬にせぬのだからな」

「交渉事の切り札にもなるとレスターも言っていましたね」

「だが、製作者が納得せぬのなら仕方なかろう。作り方も他のものにはわからぬことだしな。それに、今の値段でも十分に元は取れる」

「そういえば、魔力回復薬の改良版も値下げしたのですよね」

「あちらはエレステン伯爵が権利を持っていたからな。息子が即、下げたいと申してきたわ。若いが商売のわかる立派な領主になるだろう」

「しかし、本当に良いのですか。少なくとも魔力病の治療薬は交渉にも金にもなりますが…」

「フォートラン侯爵か。考えてみよ、あの薬を独占したところで作れるという事は確実なのだ。もし他国が作れてしまえばそれまでのことだ。我が国はそこから衰退を始めるだろう。しかし、この国で製造して流通させれば我が国の特産品だ。そして、私はこれほどの難病薬を世界に向けて広めた名君として一生名が残るのだぞ!」

「まあ、あなたったら」

こうして、笑い合う国王夫妻とその場にいた貴族だったが。事実として数百年後、大陸が小国乱立の折にグレンデル王国が解体されたときにも、そのすべての国の歴史書に名君として名を刻む唯一の王となった。


「カノン。パーティー以来だな」

「クレヒルト殿下、そうですね」

「畏まらなくてもいい。カノンは私の婚約者なのだから」

「では…クレヒルト」

「うん。それで、今日は珍しくドレスを着ているんだな?」

「もう!私もたまにはドレスぐらい着ます」

「そうだったな。では、あちらに行こうか」

「どちらに行かれるのですか?」

「庭だよ。最初はカノンと一緒に行きたかったんだ。さあ」

私は手を取って2人で一緒に庭へと向かう。光がまぶしく、そして現れた庭園は素晴らしいものだった。

「素晴らしいお庭です。うちとは比べ物になりません」

「そうなのか?私はこれが初めてだからな」

「クレヒルトは病気でしたから…」

「なら、カノンが私に教えてくれないか?そうすればもっと早く、色々なことを学べると思う」

「まあ、クレヒルトったら。ですが、私も研究ばかりでほぼ知らないのです。期待に沿えず…」

「なら、今後は一緒に見て廻ろうか。きっと楽しいよ」

「はい!…ですが、そのようなことばかりではいけません。私も領主となったからには人々のために働きませんと!」

「カノン。その為に人々の生活を知らなくちゃいけない。そうは思わないかい?」

「確かにそうですね!殿下…クレヒルトはとても賢いです」

私はカノンのことが心配だよ。仕事漬けの毎日で、いまだに週に1日も休むかどうかで研究所でも揉めているようだし。領地と王都の差を知るためとか適当なことを言って頻繁に連れ出さなければな。何より、これまで自由に行けなかったのだから目一杯楽しまなくては。しかし、となるとデートか…デートともなればどのようなドレスで来るのだろうか?そういえば下町では薄手のものが流行っているらしいし、カノンも着てはくれないだろうか?だが、そのような姿を衆目にさらすのも…。

「殿下、おかしな妄想でお嬢様を汚すのをやめてもらえますか?」

「あ、アーニャか。お前はもう任を解かれたはずだが?」

「?何を言っておられるのです。お嬢様は私の主ですよ。それに弟を救って頂きました恩もありますので」

その時壁から小さな声が聞こえた。声から察するにラインだろう。

「アーニャは先日退職して、今はドヴェルグ子爵家のメイドです。今日も付き添いでついてきています」

「退職だと、できるものなのか?」

アーニャは王家に仕える影だったはずだが?

「お嬢様はこの国。いえ、世界に必要なのです。そのためであれば当然です」

ローデンブルグ男爵家のものは忠義に篤いと聞いたが、よもやこれほどとは。しばらくのところ一番の強敵かもしれんな。

「クレヒルトもアーニャを知っていたのですか?アーニャはすごいんですよ。刺しゅうとかも得意で…」

「ええ、縫い付けたりするのも得意分野ですね」

「それに料理もできるんですって」

「調理は得意ですね。ナイフ捌きにも自信があります」

気のせいかな。どうしても額面以外の意味が感じられるのだが。しかし、これだけ力強い味方がいるのも良いことだろう。私も数年後には王籍を抜けて、臣下へと下る。その時に対抗策はいくらでもあった方がいい。きっとその為の父上のご厚意なのだろう。

「カノンはアーニャのことが大事なのだな」

「はい!他にもリーナや…」

「そうか。では、これからもたくさんカノンのことを教えてくれ。まだまだ時間はあるだろう?」

「もちろんです!一応仕事もひと段落したので、研究所の許可さえ出ればですが…」

「なら、心配はいらないな。じゃあ、続きを話してくれ」

「分かりました。それで………」



「さて、罪人ごときをここに呼ぶのも嫌なのだが、お前たちの処分が決まったので伝えようと思ってな」

「へ、陛下、なにとぞ寛大な処分を…」

「黙りなさい!発言を許可されていません」

ドン

不用意にしゃべったアルター侯爵を騎士が鞘でたたく。

「ぐぅ…」

「静かになったな。では、処分を発表する。アルター侯爵家は取りつぶし、領地は宰相と新たに生まれたドヴェルグ子爵の領土とする。アルター家はすべての男子を処刑し、嫁いだ女子に関しては嫁ぎ先に処分を任せる」

「なっ!」

「一族郎党処刑にしないだけありがたく思えよ。それこそ宰相に感謝してな。私は最後まで反対だったのだ、族滅にすべきとな」

とはいうもののこの情勢下で処分を任せるという事は、よくて平民で悪ければ邸に一生幽閉かひそかに処分だろう。権勢を誇っていただけに、その対象の数は多い。

「次にギュシュテン伯爵だが、調査に比較的協力的だった。それを加味して伯爵と長子、次子を処刑し3男を後継ぎとする。また、婚約に関しては今後、3代に渡り王家より選抜する。爵位に関しては男爵とし、領地は北の豪雪地のみとする。その他の地域については王家直轄地とする。資産運用についても逐次、王宮より派遣した監査官の承認を得ることだ」

「はっ、ありがたき幸せ」

「な、何が幸せよ!あんた、処刑されちゃうのよ」

「ここにきて、家が残るだけでも寛大なご処置。それすらわからぬとは…何たる無能を選んだことか」

「なっ、何…」

ドガッ

「発言が許可されていないと言ったはずだ!」

「いたぁ、な、何すんのよ!私はここの男に騙されただけよ。ねぇそうでしょう!」

必死になって叫ぶトールマン元子爵令嬢。何とも哀れだ。あれほど強気な態度も今では滑稽でしかない。

「騙されたか…確かにそうだな。しかし、王侯貴族に置いては騙されるものが悪いのではないか?お前がやったようにな!」

「うっ!で、でも、私が死んだらきっとカノンは悲しむわよ。あいつはお人好しなんだから」

「確かにその方の言う通りだな」

「ほ、ほら、見なさい。だから…」

「だが、カノンには『トールマン元子爵令嬢は国外追放とし、遠い国に追いやった。しばらく生活できる金も渡したから、真面目に働けば生きていけるだろう』と言っておくので心配はないぞ」

「そ、そんなことで!」

「そんなことでも騙されるから、お前は計画が成功すると思ったのだろう?そう言って彼女が果たして疑うかな?」

「お、お願いです!なんでも…なんでも致します!どうか…」

「では、死ぬがよい。それがこの国にとって最も良いことだ」

「そ、んな」

もはやいかなる言葉をもってしても現状を変えられないと悟った彼女は、無気力に涙を流しながら退出した。

「さて、トールマン子爵。貴公はよい統治者であるという評価をしていただけに大変残念だ」

「お言葉ながら、娘一人御しきれずこのようなことになってしまい…」

「うむ。その責を問わぬわけにはいかぬ。しかし、そなたの領は狭いゆえに親族経営が続いてきた。一掃してしまっては領の統治が成り立たぬ。そこで特例ではあるが、今後10年間は準男爵として新たに領主となるものの補佐として精一杯努めよ!無論、給金の一つも出ぬから妻、兄妹、子を使い生活をしてな」

「はっ、ご寛大な処置に感謝いたします」

「その後は平民として生きよと言いたいところではあるが、何分貴族が平民になるという事は不名誉なことだ。よからぬいさかいが起きぬとも限らぬ」

「陛下…この期に及んで身勝手とは思いますがせめて次男だけでも…」

「長男はどうか?」

「あれは姉の背を見すぎました。きっと、陛下の予想通りの動きをするでしょう。しかし、次男はまだ5歳。これからであれば間に合います」

「ふむ…わしの最後の慈悲だ、よかろう。ただし、それなりの扱いは覚悟せよ」

「ははっ!」


こうして後にアルター・エディンの乱と称される出来事は終わりを告げた。侯爵家が家名であるのに対し、子爵家は令嬢の名であることなどがこの乱の異常さを伝えるところとなった。その後、3代に渡り王国は隆盛を極め、ついには魔導王国を属国へとするまでに権勢を誇った。勢いに乗り隣国への進出も検討されたが、隣接地の守りを崩す手立てがなく遂に実行に移されることはなかった。これよりこの王国を揺るがすことは350年もの月日を必要としたのである。


~Fin~
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