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さっきからお嬢様と呼ばれるたびにムズムズする。今までの待遇と違うというのもあるけれど、根っからの平民根性がその呼び名に拒否感を覚えている様だ。

「あ、あの~、ちなみにメイドさんのお名前は?」

「シェリーです。シェリー=ワイズマン。ワイズマン男爵家の4女です。こちらのお邸に仕えて4年になる14歳です」

こんなにしっかりした人が14歳!というか10歳から働きに出てるなんて大変だなぁ…。貴族といっても楽なことばかりじゃないんだね。

「ご心配をおかけしたようですがこちらの待遇はよく、大変助かっておりますので…」

顔にまで出していたとは…。

「1つだけお願いがあります。私は貴族でも何でもないので、せめてライザと名前でのみ呼んでください。お嬢様といわれるとムズムズします」

「ですが…」

「いやだというなら私もあなたのことはワイズマン男爵令嬢とお呼びします。何とかお願いします」

大変そうなこの人なら私の気持ちも分かってくれないかと、ちょっと面倒くさそうなことを言う。そしてとどめの幼女アタックだ。私は上目遣いにお願いと彼女の瞳を見つめる。泣き落としと幼女のお願いというダブルコンボだ。泣いてないけどこれに勝てる人はあまりいないだろう。

「しかし、それは…でも…」

ぬぐぐ。やはり、長年の宮仕えで?鍛えた精神は強い。ここはもう一つ追加だ。

「シェリーおねえちゃん、だめ?」

どうだ!自己の精神をも犠牲にした三段構成だ、これではひとたまりも…。

「くっ、…分かりました。しかし、奥様が引き取られたことは事実ですので、今後はライザ様とお呼びいたします」

これ以上は譲れないという事だろう。こればっかりは仕方ない。

「わかった。これからよろしくお願いします。シェリーおねえちゃん」

私はうれしさのあまりこの優しい少女に飛びついたのであった。最初はびっくりした彼女だったが、きちんと受け止めてくれ、その後は頭を撫でてくれた。そうして、ちょっと経つと別の人が入ってきた。

「何してるのシェリー?」

私の頭を撫でているシェリーに不思議そうに尋ねる同僚。これはおねえちゃんの対応力が試されてるね。

「これは違うんです。他の人でもこうなりますから…」

「??」

こいつ何言ってんだという顔をしてとりあえず荷物を持ってくるメイドさん。この邸の人はどうやら本当に優秀なようだ。スルー能力まで鍛えてあるとは。

「ライザお嬢様お荷物をお持ちしましたが、これだけでよろしかったですか?」

「はい!これで全部です。ありがとうございました」

私には貴族の礼なんてできないので、できる限りの笑顔とお辞儀で表す。伝わるといいんだけれど…。

「…分かるわ!」

なになに?おねえちゃんを見ると頷いている。この邸の人ってみんな目で会話してるの?やっぱり王都怖い!

とりあえず整理がしたいという事で、1人にさせてもらった私は持ってきた荷物を出してみる。しかし、いすや机の中にはすでに必要なものはそろっており、服をかけるぐらいしかやることがない。早々に暇を持て余した私は邸を案内してもらえないかと部屋を出る。

「誰かいないかな?」

そうつぶやいて廊下を動こうとすると―――。

「なんでしょうかライザ様?」

おねえちゃんなんでいるの?さっき出ていったんだから他の仕事に行ったと思ってたのに…。

「あ、あの邸を案内してほしかったんだけど、シェリーおねえちゃんは何でいたの。他のお仕事は?」

「私は基本的にはライザ様付きですので、急な用がない限りは控えております」

なんてこと、前世平民、今世孤児の私は急にお付きメイドまでできてしまった。

「それでしたら、適任の方がおられますのでお連れしますので、お部屋でお待ちください」

「う、うん」

適任?誰だろう。少し待っているとドアがノックされ、準備ができたことを告げられたので廊下に出る。廊下にいたのはヴェイン様だった。

「お前、邸を案内してほしいんだって?ついてこいよ」

「あの、ヴェイン様お忙しいのでは、久しぶりに来られたわけですし…」

「…そんなことはない。それに久しぶりだから邸を全部回るのもいいだろう」

なぜかぶっきらぼうに返されてしまう。いつものことだけど何か言ったかな?

「わかりました。ではお願いします」

私はぺこりと頭を下げて、あとをついていく。当然のようにおねえちゃんはその3歩後ろをついてきていた。横に来てとか言ってもダメなんだろうなぁ。

「ここが庭だ。あっちにもいたけどちゃんとした庭師がいて、いつも手入れが行き届いているんだ。他の貴族を招くこともあるから重要なんだ」

「へぇ~。植物園みたいで綺麗~。あっ、外側のバラはとげ落としてあるんですね」

「ん、坊ちゃんかい?久しぶりだなぁ」

庭師の人のようだ。さっき、出迎えにはいなかったからお仕事中だったのかな?


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