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あれからはや三年近くが経ちました。何とか歩けるにもなり、メアリーさんたちには少し前から本を読んでもらっています。言葉に関してはそんなに難しくなかったので、もう大人向けの本も辞書片手に読めるようになりました。

「お~いライザ早く来いよ」

「まってー」

私の名前はライザ。なんと私は女の子だったようです。全く意識していませんでしたが、あれからちょっとして気づいたので今ではちゃんとふるまっています。

「遅いぞ、さっさと来いよ」

「あるきはじめたとこなんでしゅ」

「おい、泣かせるなよ」

「だっておせーんだよ」

「うっ…」

ちなみに精神年齢は完全に体に引っ張られました。ちょっと、頭が良くて魔法も使えるがきんちょです。この孤児院では13歳から3歳までの12人が現在暮らしています。私はその中でも最年少です。

「ほら泣くなよ」

頭を撫でてくれるのが、2番目に年長のロイド君10歳。面倒見がよくご本をよく取ってきてくれます。早く来いと言っているのが年長のルーク君、13歳。来年には孤児院を出て冒険者になるらしい。危なっかしくて本当に大丈夫かな?

「んにー」

変な声とか思わないでほしい、うれしくなるとつい出ちゃうのだ。

「でも、本当にルーク兄さんは冒険者になるの?」

「ああ、元手があまりかからないし、手っ取り早いだろ?」

「あぶないでしゅ」

「なんだ、心配してんのか、このこの」

ほっぺをつんつんしてくる。このー、ルーク兄さんはこれが大好きだ。少しぐらいならいいけどずっとやるから好きじゃない。

「ぶー」

「でも気を付けてね、3年前の飢饉から野盗も増えてるみたいだし」

「まあ、当分はそこらへんで稼ぐから心配ねぇよ」

話はそこで終わりあとは恒例の運動タイムだ。ほかにも何人かいるけれど、年上の子は、ちょっと離れて小さい子を見ている。この時間はメアリーさんたちは食事の用意だ。

「そういえば知ってるか?今日この先の森の方に大きい馬車が通って行ったって」

「ああ、町の人が言ってたね。この地方の領主様の馬車みたいだ」

「ちょっと行ってみようぜ!」

「駄目だよ。森の中は危ないっていつも…」

「いいから来いよ」

ルーク兄さんが森に入っていくので仕方なく、ロイド兄さんも付いていく。なんだか嫌な予感がするので私も一緒についていく。

「おい、ライザまで来たのか。ついて来れんのか?」

「だいじょうぶ」

やや遅れながらも森を進む。この街には城塞はないから、この森は外とつながっている。だけど領主様の軍が常に見張ってくれているから町まで来ないらしい。

「ルーク、もう帰ろうよ」

「来年は冒険者になるんだ。これぐらいヘーキだって」

私は危険がないか魔法を使って調べてみることにする。

「イーグル・アイ」

視力を極端に上げ木々の間の隅々まで確認できる魔法だ。問題はっと…。何か奥にいる。それも3体ほど。

「な、なにかいましゅ」

「は?なんかいるのか」

「見えないけど、ライザが言うんだし帰ろう」

魔法の才能もさることながら前世の知識を生かして、ちょっとした知恵者みたいな扱いのライザの意見は重要だとロイド兄さんが言ってくれる。

「だけどここまで来て…」

ガサガサ

そこまで行ったところで音が近づいてくる。姿は見えた。

「オオカミでしゅ」

「オオカミ?」

「!ワイルドウルフだ、逃げるぞ!」

ルーク兄さんがそういうとロイド兄さんと一緒に回れ右して逃げ出す。ちょっと待って、そんなに速く走れないよ。

「は、早くしろ。うわっ」

その時物陰から何かが出てくる。

「ワイルドウルフはこちらに、しかし危険です」

「僕は次期領主だ。これぐらい!」

ロイド兄さんより小さいぐらいの男の子と騎士さんが2人出てきました。これで助かる―――。

「むっ!お前たちは?」

「その先の孤児院のものです」

「なぜここにいる?さっさと戻れ!」

「「はい!」」

そういうと、兄さんたちは孤児院の方へと駆けていく。私も続こうと思った瞬間、オオカミの1体が兄さんたちの方へ向かっていくのが見えた。まずい…。

「ウインドカッター」

無意識のうちに危ないと思った私は魔法を唱えていた。風の刃を受けて、オオカミは動かなくなった。

「お前は…」

残りの2体はこちらに照準を合わせた様だ。小さい子めがけて一気に距離をつめてくる。護衛の人が振り払おうとするが、素早い動きにもう1体まで手が回らない。

「あぶない!、ウインド」

風を後ろに飛ばして勢いをつけて、少年に体当たりする。オオカミの爪が少年のいたところを切り裂く。つまり私の左腕を…。

「いたい…」

めっちゃいたい、いたいいたい、なにこれ。でも、そんなことは構わずまたオオカミが狙ってくる。今度はとびかかってきた。それにもう一体も来るのが視界に入った。こうなったら―――。

「トルネード!」

少年と私を中心に竜巻が起こる。それに飛び込む形になった狼たちはたちまちにズタボロになり息絶えた。

「だいじょうぶれしゅ?」

わたしの意識はそこで途切れた。




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