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いよいよ今日はグラハム公爵邸でパーティーが行われる日だ。朝からメイドたちが用意に追われている。

「ドレスに合わせる靴は?」

「こっちです。それと本日は侯爵様の代理でユリウス様が行かれるので、文も忘れずに」

「馬車と警護は?」

「準備完了してます」

「分かりました。では、ユリウス様、アーシェ様。本日は侯爵家を代表して行ってらっしゃいませ」

「アーシェ、ユリウス兄さん。私の分もよろしく」

「ああ、行ってくる」

「ユリウス、きちんとアーシェをリードするのよ」

「はい。必ず」

「では、お母様、リディ兄さん行ってきます」

パーティー会場に着くと、まずは受付だ。流石に公爵家だけあってすでにかなりの人数が並んでいた。私たちの順番が来て会場に入ると、早速挨拶だ。

「まあ、挨拶といってもこっちは侯爵家だ。挨拶回りなどすぐに終わる」

「はい。ついて行けばいいのですね」

ユリウス様の言う通り、同格の侯爵家と公爵家の方々に挨拶をして終り。ただし、それからは下位貴族がどんどんこっちにやって来た。

「今回の出席者は多いですわね」

「まあ、公爵様の誕生日だからな国王陛下の甥であるし、ほぼすべての貴族に招待状が送られているだろう。爵位を継いで初めての誕生日ということで、挨拶を兼ねているからな」

「そうでしたか。…あら?」

「どうしたアーシェ?」

「いえ、何か良くない感じがしたんですが…」

私は会場の隅に目をやる。どうにも嫌な感じがしたのだ。その視線の先を見るとシュバッテン子爵がいた。

「どこからだ?」

「その…言いにくいのですが、シュバッテン子爵からです」

「子爵か、この前のことがあって欠席すると思っていたがな」

「どうしてですか?」

「彼は貴族派だ。公爵はもちろん王族派だからこの前の失態を含めて、今は必死に名誉挽回に励んでいるのだと思っていた。下位貴族ながら、薬事省の実務責任者という重要ポストにいたからな。殿下のことで名を上げる機会を失っただろう?」

「名を上げるだなんて、病にかかった方に失礼です」

「だが、タイミング的にはいい機会だったことも確かだ。そこにアーシェが割って入ったようなものだからな」

そんな話をしていると、奥から陛下と殿下がいらっしゃった。どうやら会場入りされたようだ。

「おお、久しぶりだな。先日は助かったぞ。今日は侯爵は来ておらんのか」

「これは陛下。ご挨拶が遅れ申し訳ございません。父は用事があり、領地へ行っております」

ユリウス様に合わせて私もカーテシーをする。

「そうか。あれからマーセルも体調が回復してな。何とか今日は出席することが出来た」

「マーセル殿下。大丈夫なのですか?」

陛下もユリウス様も声を抑えて話をする。ご病気の話は公開していないためだろう。

「ああ、ユリウスの妹は素晴らしいな。あれから見舞いにと栄養ドリンクなるものをもらって、それを飲んでから体調もすぐによくなったぞ」

「あのアーシェが作った飲み物か。癖が強かったな」

「はい。差し出がましいかと思いましたが、今日出席なさると聞き送らせていただきました」

「味はともかく効果はすごかったぞ。ユリウス、あれは侯爵家で売らないのか?」

「…どうなんだアーシェ?」

「材料費が高く、貴族の方以外にはとても手が出ませんわ。今はコストダウンと味の改良をしているところです」

「それは残念だな。もっと気軽に飲めるといいのだが…」

「時間を頂ければなんとかして見せます」

「それは良いことだが、本来は薬事省でやるようなことなんだがのう。それもグレタからか?」

「いえ、母の薬が体力をかなり消耗すると知って、何とかしようとして作ったものです」

「うう~む。親子2代で良き才だ。落ち着いたら薬事省に入らぬか?悪いようにはせんぞ」

「本当ですか?お父様に言っておきます」

「アーシェ、何も働かなくとも、侯爵令嬢として過ごせばよいだろう」

「ユリウス様。私はお父様やお母様によくしてもらいました。その恩を返せるのであれば本望です」

「しかし、それではずっと王都にいなければならんぞ?」

「そうなのですか?」

「まあ、別にそう王都にこだわることはないでしょう。父上もそう思いませんか?」

「そうだな。この度の薬の件にしても、王都にいたからこそ対処が難しいものであった。年に数か月滞在期間を置けば在籍を認めるように変えるかのう」

「まあ、それならば…」

ユリウス様も納得してくれたようだし、今度お父様に話してみよう。ポーション作りもそうですが、薬事省勤めともなれば、侯爵家に貢献できますもの。それにしてもとシュバッテン子爵の方を見る。先日のやり取りとは別になんだかあの方からは嫌な気配がしております。様子を見に行きましょう。

「どうしたんだアーシェ?」

「いえ、やはりシュバッテン子爵が気になりますので見に行ってまいります」

「それなら俺も付いて行こう」

「シュバッテン子爵がどうかしたのか?」

「今日も会場に来ているのですが、アーシェがどうも気になると」

「ふむ。あの小心者がわしが来ると知っていて出席するとはな。よい、見てまいれ」

「はっ!」

陛下たちと別れ、シュバッテン子爵の方に向かう。パーティーの開会はまだだが、わざわざ出席したにしては会場の隅でこそこそしているのが気になる。私たちが近づいていくと子爵は不意に会場から出る。といってもそちらは公爵家の庭だ。おかしくはないが気になる。角になっているところからそっと様子をうかがう。

「うっ、ぐっ、はっはぁ」

「シュ、シュバッテン子爵!大丈夫ですか?」

「き、貴様がぁ!見られたからには…」

子爵が黒い霧に包まれていく。そして、数秒後には一気に霧が膨れ上がりそこには…。

「う、うわぁ~、アンデッドのドラゴンだぁ~」

子爵がデスドラゴンに変化していた。近くにいた庭師の男が恐怖に駆られ会場に逃げる。会場の人たちもすぐに異変に気付き遠ざかろうとする。

「アーシェ、変異の腕輪だ!下がれ」

「はい、ユリウス様!」

会場の方に急いで戻ると、公爵家の護衛たちが陛下を含む一団の警護についていた。その他のものは直ぐにデスドラゴンの足止めをしようと向かっていった。

「これはどういうことか公爵!」

「原因は不明です。陛下はお下がりください」

「おお、ユリウス。無事か!」

「マーセル殿下。変異の腕輪です。シュバッテン子爵が…」

「なんだと!あ奴め」

そうしている間にもデスドラゴンはこちらに向かって来た。公爵家の方たちが必死に食い止めようとするも、対不死者用の装備が十分でないようで、吹き飛ばされたりしている。

「殿下たちは直ちにお下がりを。ここは私たちが食い止めます!」

「ユリウス!大丈夫なのか?」

「残念ですが有効な装備がありません。なんとしても時間を稼いでみます。アーシェも下がれ」

「私なら戦えます!」

「相手はアンデッドのドラゴンだぞ!ドレスでどうするのだ!」

「大丈夫です。ユリウス様こそお下がりください」

相手があれなら何とか出来る。まだデスドラゴンで良かった。リッチなら正直生きた心地はしなかったが。

「ユリウスも一緒に下がれ、近衛を前に出す」

「しかし近衛もその装備では…」

「お任せを!援軍が来るまで我らが食い止めて見せます」

そう言って前に出る彼らだが、デスドラゴンのブレスにより、3分の1が戦場から脱落した。

「何ということだ。このままでは…」

「ユリウス様、ここは私が前に出ます。皆様の避難をお願いします!」

「だが…」

こうなったら、これだけは言いたくなかったけど、誰かが知っていることを願うしかない。

「私は『ネピドーの墓荒らし』です!あんな不死の竜ごときには負けません!」

ああ~言ってしまった。これだけは隠し通したかったのに…。私はあっけにとられるユリウス様たちを尻目にデスドラゴンの正面に躍り出た。

「墓荒らし?何のことだ」

「彼女が『ネピドーの墓荒らし』なのか…」

「近衛、知っているのか?」

「は、はっ!友人の騎士から聞いたことがあります。ネピドーのアンデッドダンジョンの訓練を行うにあたり、一番の障害だと。月に一度、ダンジョンにやって来ては全ての魔物と宝を根こそぎ奪い去る凄腕の冒険者だと」

「それがアーシェだと?」

「噂では女性の冒険者ということしか…。しかし、事実ならあの方は毎月デスドラゴンを倒しております。あのダンジョンのボスは固定でデスドラゴンですから」

ユリウスたちは改めてアーシェに向き直る。確かに彼女にはおびえた様子はない。しかし、本当にそのようなことがあり得るのか。確か彼女はCランク冒険者だったはずだ。

「ご令嬢!ここは危険です!」

「ええ、あなたたちこそ下がってください。あれは私の獲物です」

「なっ!しまった。ブレスが!」

「光よ!シャイン」

私はデスドラゴンのブレスに合わせて光魔法で対抗する。そういえば、こんな攻撃だったわね。

「攻撃されるなんて滅多にないから忘れていたわ」


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