妹を想いながら転生したら

弓立歩

文字の大きさ
上 下
43 / 73
本編

42

しおりを挟む
パチリ

目が覚めた。今は何時だろうと時計を見るとまだ6時だ。今日の出発は8時ごろのはずだからまだ2時間もある。

「もう少し眠りましょう」

さすがに何もやることもなく1時間以上過ごせないので、寝なおすことにした。

「…て、起きてティア!」

「う、ん」

エミリーの声がする。どうしたんだろうか、あれからまだ時間は立っていないと思うけど。

「もう8時だよ!今日はカリンちゃんのとこ行くんでしょ?」

「8時!?」

慌てて飛び起きて時計を見る。確かにそこには8時のところを針がさしていた。慌てて私は着替えだす。服着て、髪適当に後は…そうだバッグだ。

「んと、準備完了ね」

バタバタと階段を下りて食堂へ向かう。そこにはすでにみんながそろっていた。

「うれしくて朝早くに起きるかと思ったら、まさかの寝坊とはな」

「カークス、そんなこと言っちゃだめだよ。昨日はきっと眠れなかったんだよ」

「まあ、日も少し空いたししょうがないな」

口々に勝手なことを言っているが、残念ながら昨日は早めに寝たのだ。それも今日は早くに起きたにもかかわらず2度寝したという手前、何か言い返したい衝動にかられたが、すでにみんなは朝食も終えていて、私だけ今からリサの持ってくる食事待ちだから黙って待つ。程なくして朝食が来て、すぐに食べ始める。

「おい、そんなに一気に食べると体に悪いぞ」

「そうそう、落ち着いて食べなよ。何も待ち合わせしてるわけでもないんだしさ」

「うるはいわね」

「ティア、食べながらしゃべっちゃだめだよ」

エミリーが入れてくれた水を飲んでもう一度言う。

「うるさいわね。私は朝弱いの、いいでしょ!」

全く、確かに2度寝して寝坊したのは悪いけど、そんなに言わなくてもいいじゃない。

「はいはい。食べ終わったら行くから、どうぞ自分のペースで」

「そうそう今日はこれもってこうね」

エミリーが何やら包みを渡してくる。これは宿に近い店で売ってるチーズだ。昔はあまり好きではなかったが、携行食としてもそこそこだし食べ慣れた今では好きなものだ。

「途中の休憩中にでも、んっ。食べるの?」

食べ物を飲み込みながら聞く。

「ううん、向こうでみんなと一緒に食べようと思って。食べて作り方言ったらもしかして向こうでも作ったりできるかもしれないし」

「流石はエミリーね。料理できるだけあって、私じゃ思いつかないわ」

「へへ~」

食べながら空いた手でエミリーの頭を撫でる。にしてもみんなの視線がこっちに集中してちょっと食べずらい。私しか食べてないし当然なんだけど。

「どうしたもういいのか?」

「あのねぇ。女性が食べてるところをみんなでじろじろ見ないでくれる。緊張するでしょ」

「そんなこと今までは言わなかっただろう」

「普通は気づくでしょうよ。冒険者のうちはいいかもしれないけど、後々大変な目に合うわよ?」

「そんな先のことを考えてはいないからな。それより手、止まってるぞ」

「む~」

最近はカークスとも以前より打ち解けたと思ったが、まだ嫌がらせをしてくるとは。早く食べて鼻を明かしてやろう。

「ティア、また一気に食べて。のどに詰まるよ」

「大丈夫よ、げほっ!」

普段から一気にものを食べないせいか、急に食べてせき込んでしまう。慌ててエミリーが水を差しだしてくれピンチを脱した。

「カークス、お前が要らないことを言うからだぞ」

「…悪かったな。急がなくてもいい」

「ゴホッ。別にいいわ。今更でしょう?」

さっと、口元を拭いて改めて残った朝食を食べ始める。とはいっても残りは少しだったのですぐに食べ終えた。

「じゃあ行きましょうか」

食事を終え、いざカリンたちの住む渓谷へ。飛竜の目の件もあるからちょっと荷物は多めだが、いた仕方ないだろう。みんなもそれぞれの荷物を持って宿を後にした。準備は万端だったので、どこにも寄らず門をでて一路、森へと向かう。

「どう、フォルト。鎧は?」

「ああ、心配いらない。前のものより格段に動きやすいし軽い。不思議なものだな。実際には面積も増え重量も大して変わらないのに」

「まあ、それが付与魔法のいいところよね」

「後は金額だけだねぇ~。僕が作るにしても相当高くなっちゃうよ」

「へぇ~、キルドも付与の武器とか欲しいの?」

「武器っていうかブーツだね。この前の冒険の時に結構空飛ぶのが楽しかったからさ、少ない時間でも空が飛べるような魔法のブーツでも欲しいかなって」

「空を飛ぶブーツね。できるかはわからないけれど、それを付与する材料が大変そうね。空を飛ぶなら軽い方がいいだろうから、普通の金属は全部だめだろうし、それこそ飛竜のうろこじゃなくて上位のドラゴンのうろこでもないと、難しそうね」

「やっぱりだめかぁ」

「あら、だめじゃないわよ?さっきも言った通り、ドラゴンのうろこで質のいいものがあれば可能だと思うわよ」

「こら、ティア。そんなこと言って焚きつけるな。飛竜が限界なのにドラゴンなんてまだ無理だろう」

「じゃあさ、とりあえずこのパーティーの目標にしようよ。キルドに空飛ぶブーツをいつか作ってあげるって」

「大きい目標だな。まあ、実現するかは会えるかどうかにもよるが、目標は大きい方がいいか」

そう言ってカークスはギルドカードに目標として書き込む。書き込まれたカードは光って、次に私たち個人のカードへと情報が更新される。

「あっ、ほんとに書いちゃったのカークス?」

「まあ、これまで目標はいつも空白だったからな。Cランクにもなったし、一つぐらいは何か立てておかないとな」

私もカードを出して確認する。そこにはこれまで空欄だった、パーティー目標のところに確かにドラゴンを狩って空飛ぶブーツを作ると記載されている。

「って、入手じゃなくて狩るってなってるわよこれ?」

「冒険者なんだから当然だろう。入手じゃ商人だって目標達成できるからな」

「そうそう、売ってたの渡してはいこれじゃキルドも浮かばれないよ~」

「勝手に僕を殺さないでくれるかい」

パーティーに壮大だけど目標もついたところで、森の入り口に到着した。今日は道も込み合っていないし、いいペースだ。

「それじゃあこれから森に入るから僕が先行するね」

「ああ頼む、荷物は私が持とう」

「ありがとうフォルト」

キルドが主だった荷物をフォルトに渡す。こういう時はフォルト達がうらやましい。鍛えているのもあるけれど、私やエミリーの体格では、あそこまで持てない。もう少し、素振りの時間を増やして鍛えてみよう。そんなことを思っていると、みんな先に進んでいく。ここら辺はまだ弱い魔物しかいないので警戒はするものの、すいすい進めるのだ。

「ちょ、ちょっと待って!」

慌ててみんなに追いつく。どうかしたのとエミリーに言われたけれど、ちょっとと言葉を濁しておいた。エミリーは私が必要以上に素振りをするとやめさせてくるのだ。理由は分からないが、学校にいるときから言われ続けていたので、このことは秘密にしなければ。

森をどんどん進んでいく。数十分歩いたところで、リライアと出会ったところに着いた。まだ、少しだけ切り開かれているが、もう数週間で元に戻るだろう。ちらりと目をやりながらそこを通り過ぎまた進んでいく。それからさらに数十分進むと流石に他の人間を見なくなった。ここの途中まではやや中堅のパーティーや、初心者っぽいパーティーともすれ違ったりしたが、もうそんな気配はない。

「みんな、ここから先は前と同様、魔物もいると思ってついてきて」

先行しているキルドが立ち止まって、改めて私たちに注意を促す。魔物自体はそこまで強くはないけれど、集団で襲ってこられたり、後背をつかれれば致命的だ。そのことをキルドもみんなも良く分かっている。周囲の変化とともに、私たちからも浮ついた気分が消える。ここから先は常に戦場だ。

「カークスそっちだ」

「ああ」

「キルド下がって!風よ、槍となりて敵を貫け」

「水よ!盾となりて我を守れ」

突然のゴブリンの急襲だ。直前に察知したものの、向こうには狙いをつけるところまで来ていたので、即座に散開し対応する。鎧が痛んでいるカークスがゴブリンと正面から向き合い、対応し易くする。フォルトは側面から不意を突こうと気を引く。ゴブリンの注意を一手に引き受ける気だ。

その間に私は魔法で正面の敵をカークスとともに減らしていく。キルドはいったん下がってから、弓で主にフォルトの援護をし、エミリーは防御魔法で自分とその前にいるフォルトに、ゴブリンの矢が当たらないよう盾を水で作り出す。水の盾に当たった矢は完全に勢いを奪われ下に落ちていく。

「ゴアァァ!」

仕方なくゴブリンたちは弓矢を捨て短剣でエミリーに向かおうとするが、その足元に矢が突き刺さる。

「行かせないよ!」

キルドの放った矢にたじろいだところをフォルトが槍で突いて、側面のゴブリンたちを圧倒する。その間に正面の敵を片付けた私たちが合流して、一気に残りを片付けた。

「ふぅ~、助かったよ。ティア」

「どういたしまして」

「ごめんね、キルド。もうちょっとわたしが早く気づければよかったのに」

「エミリーは悪くないよ。僕だってほとんど気づけなかったからね。変な音がして立ち止まったけど」

「でも、エミリーの探知魔法は結構な精度のはずよね。やっぱり森だと難しいのかしら」

「う~ん。森っていうのもあるんだけど、ゴブリンってさあんまり魔力ないよね。だからかな?木とかに張り付かれちゃうと、森が持ってる魔力に隠れちゃうんだよね」

「森の魔力?」

「うん、入り口の方はほとんど感じないんだけど、奥に来るとちょっとずつ強くなっててもやがかかったみたいになって、うまく探せないんだよね」

「そうだったの」

私も目を閉じてあたりの様子に集中する。軽く風の魔法を唱えてその跳ね返りを見る。魔力が霧散していくが、確かにその後も魔力が残っている感覚がある。これがエミリーの言う森が持っている魔力なんだろう。ここの樹齢の長い木が持っているのかもしれない。なんにせよこの周辺は今後も気を付けないと。

「それにしてもこの辺のゴブリンたちは確かに妙だな。さっきの待ち伏せにしてもまるで狩人だ。いくら集団で生活するとはいえここまでの知能を持っているのか?」

「この魔力が関係しているのかもしれないわね。入り口近くにはいないからいいけど、そっちや街の方まで広がったら面倒ね」

「確かに。帰ったら一応、ギルドには報告しておくか」

そう言いながら、ゴブリンの角を回収する。この角が素材として売れるのだが、今回に関してはギルドへの報告用もだ。この角を調べてもらえば理由がわかるかもしれない。その後は森ウサギがいた程度で、そこまでの戦闘はなく森を抜けた。

「ん~」

エミリーが大きく伸びをする。つられて私も伸びをした。やっぱり森は通れる道も狭いし、窮屈だ。日の光が当たるところに来るとこうしてしまうのも仕方ないだろう。

「とりあえず森を抜けたけど、ここから先はカークスが先頭でいい?」

「ああ。キルド、交代だ」

途中で休憩しようという話も出た。だけど、以前と違って村で休めると分かっているから、一気に進むことにした。私も早くカリンに会いたかったから思わずガッツポーズをしそうになった。したところで何かわからないと思うけど。

「一応あれから数日経っているからな。みんな注意して進むぞ」

カークスの合図とともに再び私たちは進む。以前は引いたものの、あの飛竜も襲ってこない保証はない。緊張に包まれたまま村への道のりを歩き出す。幸い、村への間に飛竜に出会うことはなかった。ほっとして村の入り口へと向かう。

「じゃあ、ここで入れ替わりだな。ティア」

「はい?」

カークスが立ち止まり、私に先に行くように促す。

「べ、別に先頭じゃなくてもいいわよ?」

「そんなこと言って、森での休憩も取らないってカークスが言った時、嬉しそうにしてたくせに」

「み、見られてた?」

「見られてというか、先に進むといった後のテンションがまるで違っていたからな」

「ほらほら、そんなこと言ってないで行って行って」

エミリーに押されながら村の入り口へと向かう。すぐそこには門番のハーピーがいる。いつも私たちを見送ってくれていた人だ。

「だれだ!…ってあんたたちか、ちゃんと戻ってきたんだな」

「ええ、道中、ゴブリンには襲われたけどね」

「そりゃあ災難だったな。あいつら最近知恵をつけて来てな。この前もカリンがいたからよかったものの、森の入り口で集団で襲って来やがったんだ」

「そうだったの、あなた達も気を付けてね」

「おう!ちゃんと気を付けるさ」

そう言いながら村の方へと通してくれる。来た時から私たちへの偏見もなくとても付き合いやすい人だ。とはいえずっと門番をしているらしく、私たちとも挨拶してすぐに別れるだけだからまだ名前を知らない。後で暇なときにでも聞きにこよう。そう思いながら村の中心へと向かって歩く。

「あっ!ティア姉ちゃんだ」

「おねえちゃん久しぶり~。ずっと待ってたんだから」

「2人とも久しぶりね。ごめんなさい、時間がかかってしまって」

「ううん、約束守ってくれたからゆるしてあげる」

2人と軽く抱き合った後、カリンがどこにいるか聞いてみた。

「そう言えばカリンは今日はどうしているの?」

「カリン姉ちゃん、この前ゴブリンに襲われた子をかばってちょっとケガしちゃったんだ。今は家にいるよ」

「そう言えば門番の人もそんなこと言ってたわね。ありがとう、行ってみるわ」

「またあそんでね~」

2人に手を振って答えながらカリンの家へと向かう。子供たちはああいっていたけれど無理をしていないかしら。

コンコン

「誰?入っていいよ~」

「じゃあ、お邪魔します」

「へ?ティア!いつ来たの?」

「たった今よ。それより子供たちから怪我したって聞いたわよ。大丈夫なの?」

「うん。そんなにひどい傷じゃないよ。翼の先と、足だから」

見ると翼に血がにじんだ跡が見え、足にも布がまかれている。布も少し色が変わっており、そこまで前の傷でもないのだろう。

「エミリー、お願いできる?」

「はいは~い」

エミリーが杖を持ち出して、癒しの魔法を唱え、カリンの傷が少しずつ治っていく。最終的には翼の傷も癒え、足も布を取ると跡形もなくきれいに治っていた。

「ふわぁ~。相変わらずすごいね、エミリー」

「でしょでしょ。もっと褒めて褒めて!」

得意げにエミリーが胸を反らす。まあ、この子の場合は本当に得意なんだけれど。数日経った傷を治してしまう場合は雑菌が残ったり、傷口が完全には治らなかったりすることも多い。貴族や女性などはその為、高額な治療費を支払いかつては教会に依頼をしていた。教会によっては完全に商売の一部にしているところもあり、今も問題視されることもある。

「そう言えばキルドたちは?」

「キルドとフォルトは荷物を小屋まで運んでくれているわ。カークスは長老様にあいさつをしに行ってもらってる」

「2人は真っ先に来てくれたんだね!うれしい」

「半ば押し付けてきたけどね…」

ぽつりとつぶやくエミリーの言葉は聞こえなかったふりをしよう。

「それで、なぜこんな傷を?」

「それなんだけど、あれから森まで行けるようになったから、子供2人と大人たちで行ってたんだ。そしたら、ゴブリンたちが急に襲ってきて」

「でも、私たちが帰るときはあなた達の匂いにおびえて出てこなかったわよ」

「そうなの。今まではティアの言う通りだったから、安心もしてたんだけどあいつら最近知恵を付けたみたいで。」

「たしかにゴブリンって武器とか使うし、頭いいのかも」

「だからといって、上位の魔物には普通手を出さないでしょ。それに今日戦ったゴブリンも木の陰に隠れて一気に襲ってきたでしょう」

「ティアたちも襲われたの?」

「ええ、倒したけど確かに変なゴブリンよね。獲物を歩き回って探すことはあっても、木の陰に隠れて待ち伏せするなんて聞いたことないわ」

「わたしたちの時も、木の実を取ろうと思ったら急に矢で襲ってきて。すぐに風の魔法で散らしたけど、何人かは怪我しちゃってね。わたしもなんだけど」

「それは災難だったわね。他のケガした人たちは?」

「あれからティアが置いて言ってくれた魔導書で、子供の中から1人光の治癒魔法を使える子がいて、ひどいけがの人だけはその子に治してもらってるの。無理させちゃうと倒れちゃうし、わたしみたいなケガの軽い人はこうやって薬草を塗って対処してるんだ」

「そうだったの。他にもまだケガしてる人がいるのね」

「うん、もしよかったら…」

「エミリー」

「うん!任せて」

私とエミリーは立ち上がってカリンに先導され、ケガをしている人のもとへと向かう。
2人がひどい傷で、あとの4人は軽傷だという。回ってみれば確かに軽傷だが翼に切り傷がある人もいる。矢で襲った後に突っ込んできたのだろう。

「痛いと思うけどちょっと我慢してね」

布を取って傷がどんな状態かを確認して治す。カリンの時はすぐさま直してしまったけど、こちらの方が魔法の効きも良く魔力の消費も抑えられる。私もその横の細かい傷を治す。エミリーと比べられないが、そこそこなら治すことができる。1軒終われば次へという形で軽傷者の傷を治し終える。

「カリン、ちなみにひどいけがの人は今はどんな状態なの?」

「傷は痕が残っているけど、動けるようにはなってるよ」

「そう、エミリーまだいけそう?」

「大丈夫だよ」

「カリン、悪いけどその人たちのところにも案内してもらえるかしら?」

「いいけど…」

そう言ってケガを治した人のところへ行く。偶然にもそこにはよく懐いてくれる2人のうちの一人の家で出迎えてくれた。

「おねえちゃんどうしたの?」

「お母さんのケガを見に来たのよ。今いる?」

「いるよ。でも、ケガは私が治したけど…」

「あら、癒しの魔法が使えるのはあなただったのね。ちょうどいいわ一緒に見ててくれる」

一旦、奥に行って母親を呼んでくる。

「これは、どうも娘がいつもお世話になってます」

結構若い母親だ。言葉もうまくしゃべれるようでこれなら問題ないだろう。

「あの、この子が治した傷なんですが…」

「はい、ティアさまのおかげですっかり動けるようになりました」

「あ、いえ、私は魔導書を書いただけですので、カリンやこの子の努力の成果だと思います。それで、傷を見せてもらえますか?」

「はい?」

動けるようになったので、特に気にしていないのだろうと思われるが、翼と太もものところを見せてくれる。

「どうエミリー?」

「多分大丈夫だと思うけど、一回やってみるね」

「あの?」

「ちょっとそのままでいてください」

よくわからない顔をしている母親に私はそのままでいて欲しいとお願いする。

「あなたもエミリーがこれからすることをよく見てるのよ」

「うん!」

いい返事とともにじっとエミリーの手元を見つめる少女。その横でエミリーが魔法を唱えると母親の傷跡が少しずつ消えていく。元のケガ自体がひどかったのだろう。少しだけ線のように残ってしまったが、目立たなくなった。それを見て母親も驚いている。きっと、治したこの子は傷跡は消せるものという認識ではなかったのだろう。

「どう?今みたいにもっと上手に使えるようになったら、傷だけじゃなく跡も残さないようにできるのよ。ちゃんと覚えててね」

「エミリーおねえちゃんもすごい!女神様みたい」

「女神様?」

「この村の守り神なんです。2対の翼をもって生まれたと伝えられています。そして、癒しの力を使えたといわれています」

そう言えば長老の家にそんな像があったような気がする。

「何にせよ、傷が目出たなくてよかったわ」

「本当にありがとうございます」

「ありがとうおねえちゃん」

「きみも頑張ってできるようにね」

私とエミリーは少女の家を後にしてもう一軒の家へと向かう。傷を治すのを間近で見る方が、能力の伸びが高いのだ。教会の方でもこういった傷を治すときは、多くの人間が集まって治すという。患者からしたらつらいかもしれないが、後々役に立つのである。

「次の家は言葉がうまく話せない人のところだから、わたしが話すね」

「お願いねカリン」

家に着くと、ほとんど言葉は話せないようで、キィーと鳴いたりしてコミュニケーションを取る。ちょっとして私たちも中に招かれたので入っていく。

「話はついてるから、お願いできる?」

「は~い」

エミリーが杖をもって傷口へとかざす。魔法を唱えるとそこがどんどん治っていく。傷を負ったハーピーはそれを見てとても驚いている様だ。治療が終わって、エミリーが一息つく。

「ふ~、これで大丈夫だと思う。さっきのお母さんよりは浅いから、傷も消えたと思うよ」

「ありがとう!エミリー」

カリンがハーピーに再度説明している。うんうんと頷いているが、こっちを見て何度も頭を下げてくる。エミリーが手を振って大丈夫と示すが、奥から何か持ってきたようだ。

「これはこの家に伝わる宝石なんだって。エミリーにもらってほしいって言ってるよ」

「そんな。別にこれくらい…」

なおもハーピーは突き出してくるので、仕方なくエミリーも受け取った。

「ごめんね。こんな貴重なもの」

「何十年も前に山の近くで見つけたってさ。よかったねエミリー」

「うん。でも、大したことしてないのになんだか悪いことしちゃったね」

家を出て小屋の方に向かう道すがら、エミリーはしきりに言っている。あの後、家を出るときも翼をぶんぶんと大きく振って見送りまでしてもらった。

「あの人は結構、身なりに気を使ってる人だったからうれしかったんだよ。宝石だってわたしたちじゃ使えないしね」

「そっか。じゃあ今度来るときはお礼に何か買ってくるよ」

「ほんと?外の世界のものだったら喜びそうだよ」

「でもケガだけでよかったわね。私たちの帰りにあったんだけど、その時はパーティー1つが壊滅させられてたわ」

「人間たちも倒せるほど強いの?」

「カリンは私たち以外を知らないでしょうけど、そこまで人も強くないの。飛竜を倒せるのは王都といっても、多くのパーティーは倒せないわ。当然あんな戦い方をするゴブリンなんて、なりたての冒険者じゃ自力からして負けてるわね」

「そうなんだ。みんなティアたちぐらい強いと思ってた」

「こう見えて私たち結構強い方なんだから」

ちょっとおどけるように言って見せる。実際のところDランクになりたてのパーティーでは勝てないだろう。Dランクでも野営や森での戦いに慣れてないとあっという間に分断されて倒されてしまう。正直なところ、兵法を学んでいるようで気味が悪い部分もある。

「そう言えばティアたちは今日はこれからどうするの?」

「そうね。結構遅い時間だし、明日また他の人には挨拶しようと思ってるわ」

「たしかに。回ってたら結構時間過ぎちゃってるもんね」

「なら、サーリにも伝えとくね」

「お願いするわ」

荷物などの整理も済ましたいので、名残惜しいが一旦カリンと別れる。小屋に着くと、すでに荷物はきれいに分けられてリビングのところと寝室に置かれている。食料品などはリビングにまとめられて、以前より快適に過ごせそうだ。

「おかえりティア、エミリー。結構遅かったね」

「ただいま。なんでも昼間戦ったゴブリンたちに襲われたらしくてね。さっきまでエミリーにけがを治しに行ってもらってたの」

「ティアも手伝ってくれたけどね」

「そうだったのか。しかし、ゴブリンごときがハーピーに戦いを挑むとはあそこの種はやっぱり何かおかしいな」

「ええ、王都に戻ったらすぐにでもギルドに申請して調査してもらった方がいいかもね」

「そうだな。カークスも今ちょっと出てるが、戻り次第話をしておこう」

「お願いね。そうそう、カリンたちには今日は遅いからまた明日挨拶するって言っておいたわ」

「もうすぐ日も暮れちゃうしね。じゃあ、お土産も明日渡すの?」

「そうなるわね。ちょっと日持ちしなさそうな物はある?あったらここでちょっと冷やしとくわ」

私はちょうどいいサイズの木箱を開けてそこに氷の魔法をかける。冷蔵庫のように新鮮なまま冷やしておくためだ。
じゃあ、といって2人とも少量のものを入れていく。私たちも寝室の荷物から必要なものを入れておいておく。

「今日はもう日も暮れそうだし、夕食は各自食べちゃおうか?」

「それがいいな。王都と違って煌々と火をつけるわけにもいかないし、必要なことはまた明日だな」

「じゃあ、私たちも部屋の方で食べるわね。また明日ね」

「ばいば~い」

私たちはそのまま寝室で軽い夕食を食べて、ちょっとだけ話す。今日のところは結構動いたこともあって、微睡んだところで話もお開きになり寝ることにした。

「じゃあ、明日また」

「お休みエミリー」

「そうそう、明日はちゃんと起きてね」

「分かってるわよ、もう」

そう言って私たちはまた村での1日目を終えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?

伽羅
ファンタジー
 転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。  このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。  自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。 そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。 このまま下町でスローライフを送れるのか?

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

転生調理令嬢は諦めることを知らない

eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。 それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。 子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。 最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。 八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。 それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。 また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。 オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。 同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。 それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。 弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。  主人公が酷く虐げられる描写が苦手な方は、回避をお薦めします。そういう意味もあって、R15指定をしています。  追放令嬢ものに分類されるのでしょうが、追放後の展開はあまり類を見ないものになっていると思います。  2章立てになりますが、1章終盤から2章にかけては、「令嬢」のイメージがぶち壊されるかもしれません。不快に思われる方にはご容赦いただければと存じます。

公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)

音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。 魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。 だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。 見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。 「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

捨てられた転生幼女は無自重無双する

紅 蓮也
ファンタジー
スクラルド王国の筆頭公爵家の次女として生を受けた三歳になるアイリス・フォン・アリステラは、次期当主である年の離れた兄以外の家族と兄がつけたアイリスの専属メイドとアイリスに拾われ恩義のある専属騎士以外の使用人から疎まれていた。 アイリスを疎ましく思っている者たちや一部の者以外は知らないがアイリスは転生者でもあった。 ある日、寝ているとアイリスの部屋に誰かが入ってきて、アイリスは連れ去られた。 アイリスは、肌寒さを感じ目を覚ますと近くにその場から去ろうとしている人の声が聞こえた。 去ろうとしている人物は父と母だった。 ここで声を出し、起きていることがバレると最悪、殺されてしまう可能性があるので、寝たふりをして二人が去るのを待っていたが、そのまま本当に寝てしまい二人が去った後に近づいて来た者に気づくことが出来ず、また何処かに連れていかれた。 朝になり起こしに来た専属メイドが、アイリスがいない事を当主に報告し、疎ましく思っていたくせに当主と夫人は騒ぎたて、当主はアイリスを探そうともせずに、その場でアイリスが誘拐された責任として、専属メイドと専属騎士にクビを言い渡した。 クビを言い渡された専属メイドと専属騎士は、何も言わず食堂を出て行き身支度をして、公爵家から出ていった。 しばらく歩いていると、次期当主であるカイルが後を追ってきて、カイルの腕にはいなくなったはずのアイリスが抱かれていた。 アイリスの無事に安心した二人は、カイルの話を聞き、三人は王城に向かった。 王城で、カイルから話を聞いた国王から広大なアイリス公爵家の領地の端にあり、昔の公爵家本邸があった場所の管理と魔の森の開拓をカイルは、国王から命られる。 アイリスは、公爵家の目がなくなったので、無自重でチートし続け管理と開拓を命じられた兄カイルに協力し、辺境の村々の発展や魔の森の開拓をしていった。 ※諸事情によりしばらく連載休止致します。 ※小説家になろう様、カクヨム様でも掲載しております。

処理中です...