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本編
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村までようやく帰った私たちは、当然のように疲弊していた。パーティーとしては成体の飛竜と戦って生き残ったのは成果だが、依頼目標は達成していないし、もう一度戦う可能性も高い。流石に、今回の戦闘はみんなも堪えたようで道すがらも会話は少なかった。エミリーとカリン以外は…。
「じゃあミゾジカってごちそうなんだね~」
「今日の奴は結構草むらとかから離れてたけど、普通はもっと草むらの近くにいてすぐ逃げられちゃうんだ」
「ふ~ん、前に取ったのはいつ?」
「前は3週間ぐらい前かな?その時も2人でだからホントに運が良かったよ」
あれだけの戦いの後でも元気なのがうらやましい。こっちは次出会ったらどうしようとそんなことばかり考えてしまうというのに。無事村の入り口までついた私たちは後回しにしていた、ケガの治療をエミリーに行ってもらった。
「村までついたがみんなは休むだろう?」
「カークスはどうするの?」
「俺は飛竜の件を報告する。あれは予想してはいたが、簡単にいくものじゃないからな」
「そう、悪いわね。私はとりあえず着替えるわ。こんな格好じゃ何もできないし」
そういってもう一度自分の格好を確認する。本当にひどいぐらい汚れている。バッグには着替えもあるし、すぐに着替えよう。
「そうだよね。ティアはそれが一番先だよね」
「カリンやエミリーもだろ?」
「う~ん。私も服は血で汚れてるしそうかな」
「わたしはあんまり服無いからな~。それにわたしもカークスについていって長老様に報告するよ」
「そう?なら簡単だけど、洗えるから後で着替えを持ってきて洗濯してあげる」
「ありがとうティア。終わったら行くね」
「じゃあ、一旦俺は報告に行ってくる。みんなは休んでいてくれ。ただし、あんなことの後だ個別に動かないようにな」
「了解」
私たちは小屋へ、カークスとカリンは長老の家へとそれぞれ向かう。
「それにしても疲れたわ。早く着替えて休みましょう」
「そうだな。私も今回は肝が冷えた」
「フォルトもかい?僕なんて心臓止まるかと思ったよ」
「キルド、ありがとう。あなたのおかげで助かったわ」
「そうそう、あの一撃はすごかったよ。あの飛竜の目を突き刺すなんて」
「そういえば、あのナイフ突き刺さったままよね。大丈夫なの?」
「高いものじゃないから大丈夫だよ。それに、本来僕は戦闘には絡まない補助要員だったからね。できることがあって良かったよ」
「だが、2人とも無茶をしすぎだ。ただでさえ軽装なのにあんな硬い飛竜に肉薄するなんて」
フォルトにキルドと一緒に頭を小突かれる。
「仕方ないじゃない?傷を与えるにも他に良い案浮かばなかったんだし」
「そうそう。それに結果うまくいったわけだし」
「でも、ティアもキルドも無茶ばっかりしちゃだめだよ。わたしも見てるだけでとても心配したんだから」
「今後はもう少し注意するわ。この依頼が終わったらね」
「もう!」
エミリーは私の返事が気に入らなかったのか早足で小屋に向かう。実際、またあいつとは会うことになるだろう。その時は今日と違って決着をお互い求めるはずだ。今日以上に難しい戦いになるかもしれない。何か対策も考えないと。
「ティア。また、難しい顔してるよ。今日ぐらいはゆっくりしなよ」
「ん、顔に出てた?」
「ティアはかなり顔に出る方だな。私達の中ではおそらく一番だろう」
「うそ!?エミリーよりも?」
「断然だね。エミリーはああ見えてポーカーフェイスなところもあるから」
「そんな…知らなかった」
私が結構ショックを受けているうちに小屋までついたみたいでみんなで入っていった。
「じゃあ、申し訳ないけど私とエミリーは今から着替えも兼ねて簡単だけど水浴びしてくるから」
「お風呂なんてあったっけ?」
「簡単だけど水をためておく大きい桶みたいなのを使うわ。あなた達も使いたかったら言ってね、準備するから。さあエミリー用意しましょう」
「は~い」
着替えを準備した私たちは小屋の裏にある桶のところへ行く。まずはちょっと汚れているのを私の水魔法とエミリーの浄化魔法できれいにする。こういう時、魔法は本当に便利だ。この水と浄化の魔法の混合した魔道具なんかが、日本で売れれば大金持ちだろうなあ。母さんも大変だって言ってたし。
こっちの世界では風呂に入る文化自体はあるものの、どちらかといえば洗い流す感じで長時間入るものではなく、そんなに汚れてなければ大丈夫程度だ。月の宮亭では私が頑として譲らず、衛生観念を植え付けたから大丈夫だが。やっぱりお風呂はくつろぐ時間でなければ!
「よし、桶自体はきれいになったわね。じゃあ、後はと…」
今度は水の魔法と火の魔法でお湯を作り出す。熱くなりすぎないように少し加減しながらっと。この世界の魔法が全て適正により決まるものでなくてよかった。魔力さえあれば苦手な属性でも初歩的なもの位なら使えるのだ。
エミリーに頼んで水を出してもらうことはできるが、火を操れなければ水風呂にしか入れないところだった。カークスも少しだけ魔法は使えると言っていたが、火は使えないと言っていたしこの世界の神様に感謝だ。
「エミリー、準備できたわよ。先に体を洗って入っていいわよ」
「え?私が先でいいの?ティアの方が疲れてるでしょ」
「私が入ってしまったら、確実に入れ直しよ。何度も用意するのも手間だしね」
「わかった、じゃあ先に使わせてもらうね」
そう言いながら、エミリーは服を脱いで布を使って体の汚れを落とす。エミリーも傷こそないもののここに来てからお風呂に入れていないので念入りに洗っている様だ。
「ティアあんまり見ないで。気が散るしはずかしいよ」
「あっ、ごめんなさい。あっち向いてるわね」
「…ふ~。あ~久しぶりに入れて気持ちいいよ~。あっ、もうこっち見ても大丈夫だよ」
「エミリー熱かったりしない?」
「だいじょう.。o○」
顔を半分お湯につけて返事をするエミリー。蕩けたような顔でくつろいでいる。
「ビデオとカメラがあればなあ…」
思わずつぶやいてしまう。そう、この光景はスマホじゃだめ。ちゃんとしたビデオとカメラじゃなきゃ。そんな可愛いエミリーに私は癒されていた。
「ん~、ぷはぁ」
顔をお湯から出してエミリーが大きく伸びをする。こんな気持ちよさそうにするなら、さっきのお湯の温度を覚えておくんだった。疲れていたし熱くなければいいやと結構適当にしてしまったのが悔やまれる。
「ティア~どうしたの?なんか難しい顔してるよ?」
「なんでもないわ」
本当にエミリーには何でもないことだったのでそう返しておく。
「ふ~ん。ふぁあぁ」
「ダメよエミリーお風呂で寝ちゃ」
「分かってま~すぅ」
そんなことを言っているけれど、だんだん目が怪しくなってきた。
「エミリー、もう上がったら?このままだと寝ちゃうわよ」
「う~ん。もったいないけどそうする。ティアありがとね」
「どういたしまして。じゃあ、早く体を拭いて着替えなさい」
お湯から上がったエミリーの体が湯冷めしないように風で膜を作りながら、終わるのを待つ。
「着替え終わりました~」
「お疲れさま。じゃあ、先に戻ってて。別に疲れてるならそのまま寝ててもいいわよ」
「は~い」
「あ、でもフォルトとキルドにこの後ですぐお風呂入るか聞いておいて」
「りょ~かい」
パタパタとエミリーは小屋の方へ戻っていった。私はそれを見送ってから体を洗うため服を脱ぐ。
「しかし、よくもまあここまで汚れたものね」
もう一度、体を見ると汚れだらけだ。最初に弾き飛ばされた時と最後に地面を転がった時に破れた服の隙間から入ったであろう砂が付着している。
「ちゃんと洗わないと桶が大変なことになるわね」
念入りに髪から順に下へと洗っていき、ちゃんと汚れが落ちたことを確認してお風呂に入る。
「でも、今日は本当に大変だったわ。最初に飛ばされたときは死ぬかと思ったし、この世界に転生して一番の危機だったわね」
前世の自分が死んだと思った時のことを思い出す。あの時は無我夢中だった。その後、転生して今の母親のもとに生まれ、何事もなく今日まで過ごしてきた。転生してこの世界の人間として生きてきたつもりだった。でも、前世の空想上の生き物がいると分かって、結局親の反対を押し切る形で冒険者になった。
それが、今日は本格的な危険に自分から飛び込んでいったのだ。この世界に生まれたものとして生きようとしても、どうしても無視できないことがある。
「結局、前世のことに引っ張られちゃうのよね…」
言葉遣いや性別の差は生活する中で、簡単に慣れたけど鏡を見るとやっぱり思いを馳せてしまう。
「あの子そっくりだもんね…ちょっと歳は勝っちゃったけど」
いつも朝、鏡を見るたびに妹のことを思い出す。あの後、彼女はどうなったのだろう?発作が起きてなければいいけど。強いショックや急激に疲労したときにも症状が起きていた。生きてくれていればいいのだけど。
「まあ、時間がどう流れてるかもわからないし、知りようもないけどね」
そんなことを考えながら湯船につかっていた。
「結構時間経ってるわね。私ものぼせないうちに上がりましょう」
お風呂から上がって、丹念に体を拭いてから着替える。来ていた服は残念ながら穴や破れがひどくて着れそうにない。
「さすがにこれは捨てるしかないわね」
その後、小屋に戻るとフォルトとキルドがリビングにいた。
「フォルト、キルド。地図作ってたの?ちょっとは休んだら」
「お帰りティア。でも、記憶がはっきりしているうちに作らないとね。とはいっても戦ったせいでうろ覚えなんだけど」
ははっと笑うキルド。フォルトも肩をすくめている。やっぱり2人とも疲れている様だ。
「それなら、まずちょっと休んでからしたら。今なら入れ直すわ」
「ほんと?なら、フォルトには悪いけど僕はちょっとお風呂に入ってくるよ」
「ああ、ゆっくりしてくるといい。ティアには悪いけど私は熱い方が好きだからカークスが帰ってきたら入るよ。頼めるか?」
「分かったわ。じゃあ、私は部屋で少し休んでるから呼んでね」
「すまないな」
そう言ってフォルトたちと別れて寝室へ向かう。寝室では疲れていたのかエミリーがすやすやと寝息を立てていた。私は机に座り昨日書いていた魔法の使い方の冊子の作成に入る。今日の戦いを経て色々書き加えないと。
カリンの為と思っていたけど、自分用にも書こう。飛竜との戦いで思ったよりも書くことが増えたし、どんな対処が可能か考えることもできる。そう思って書いていると、リビングの方から声がする。どうやらカークスとカリンが報告を終えて帰ってきたようだ。
「じゃあミゾジカってごちそうなんだね~」
「今日の奴は結構草むらとかから離れてたけど、普通はもっと草むらの近くにいてすぐ逃げられちゃうんだ」
「ふ~ん、前に取ったのはいつ?」
「前は3週間ぐらい前かな?その時も2人でだからホントに運が良かったよ」
あれだけの戦いの後でも元気なのがうらやましい。こっちは次出会ったらどうしようとそんなことばかり考えてしまうというのに。無事村の入り口までついた私たちは後回しにしていた、ケガの治療をエミリーに行ってもらった。
「村までついたがみんなは休むだろう?」
「カークスはどうするの?」
「俺は飛竜の件を報告する。あれは予想してはいたが、簡単にいくものじゃないからな」
「そう、悪いわね。私はとりあえず着替えるわ。こんな格好じゃ何もできないし」
そういってもう一度自分の格好を確認する。本当にひどいぐらい汚れている。バッグには着替えもあるし、すぐに着替えよう。
「そうだよね。ティアはそれが一番先だよね」
「カリンやエミリーもだろ?」
「う~ん。私も服は血で汚れてるしそうかな」
「わたしはあんまり服無いからな~。それにわたしもカークスについていって長老様に報告するよ」
「そう?なら簡単だけど、洗えるから後で着替えを持ってきて洗濯してあげる」
「ありがとうティア。終わったら行くね」
「じゃあ、一旦俺は報告に行ってくる。みんなは休んでいてくれ。ただし、あんなことの後だ個別に動かないようにな」
「了解」
私たちは小屋へ、カークスとカリンは長老の家へとそれぞれ向かう。
「それにしても疲れたわ。早く着替えて休みましょう」
「そうだな。私も今回は肝が冷えた」
「フォルトもかい?僕なんて心臓止まるかと思ったよ」
「キルド、ありがとう。あなたのおかげで助かったわ」
「そうそう、あの一撃はすごかったよ。あの飛竜の目を突き刺すなんて」
「そういえば、あのナイフ突き刺さったままよね。大丈夫なの?」
「高いものじゃないから大丈夫だよ。それに、本来僕は戦闘には絡まない補助要員だったからね。できることがあって良かったよ」
「だが、2人とも無茶をしすぎだ。ただでさえ軽装なのにあんな硬い飛竜に肉薄するなんて」
フォルトにキルドと一緒に頭を小突かれる。
「仕方ないじゃない?傷を与えるにも他に良い案浮かばなかったんだし」
「そうそう。それに結果うまくいったわけだし」
「でも、ティアもキルドも無茶ばっかりしちゃだめだよ。わたしも見てるだけでとても心配したんだから」
「今後はもう少し注意するわ。この依頼が終わったらね」
「もう!」
エミリーは私の返事が気に入らなかったのか早足で小屋に向かう。実際、またあいつとは会うことになるだろう。その時は今日と違って決着をお互い求めるはずだ。今日以上に難しい戦いになるかもしれない。何か対策も考えないと。
「ティア。また、難しい顔してるよ。今日ぐらいはゆっくりしなよ」
「ん、顔に出てた?」
「ティアはかなり顔に出る方だな。私達の中ではおそらく一番だろう」
「うそ!?エミリーよりも?」
「断然だね。エミリーはああ見えてポーカーフェイスなところもあるから」
「そんな…知らなかった」
私が結構ショックを受けているうちに小屋までついたみたいでみんなで入っていった。
「じゃあ、申し訳ないけど私とエミリーは今から着替えも兼ねて簡単だけど水浴びしてくるから」
「お風呂なんてあったっけ?」
「簡単だけど水をためておく大きい桶みたいなのを使うわ。あなた達も使いたかったら言ってね、準備するから。さあエミリー用意しましょう」
「は~い」
着替えを準備した私たちは小屋の裏にある桶のところへ行く。まずはちょっと汚れているのを私の水魔法とエミリーの浄化魔法できれいにする。こういう時、魔法は本当に便利だ。この水と浄化の魔法の混合した魔道具なんかが、日本で売れれば大金持ちだろうなあ。母さんも大変だって言ってたし。
こっちの世界では風呂に入る文化自体はあるものの、どちらかといえば洗い流す感じで長時間入るものではなく、そんなに汚れてなければ大丈夫程度だ。月の宮亭では私が頑として譲らず、衛生観念を植え付けたから大丈夫だが。やっぱりお風呂はくつろぐ時間でなければ!
「よし、桶自体はきれいになったわね。じゃあ、後はと…」
今度は水の魔法と火の魔法でお湯を作り出す。熱くなりすぎないように少し加減しながらっと。この世界の魔法が全て適正により決まるものでなくてよかった。魔力さえあれば苦手な属性でも初歩的なもの位なら使えるのだ。
エミリーに頼んで水を出してもらうことはできるが、火を操れなければ水風呂にしか入れないところだった。カークスも少しだけ魔法は使えると言っていたが、火は使えないと言っていたしこの世界の神様に感謝だ。
「エミリー、準備できたわよ。先に体を洗って入っていいわよ」
「え?私が先でいいの?ティアの方が疲れてるでしょ」
「私が入ってしまったら、確実に入れ直しよ。何度も用意するのも手間だしね」
「わかった、じゃあ先に使わせてもらうね」
そう言いながら、エミリーは服を脱いで布を使って体の汚れを落とす。エミリーも傷こそないもののここに来てからお風呂に入れていないので念入りに洗っている様だ。
「ティアあんまり見ないで。気が散るしはずかしいよ」
「あっ、ごめんなさい。あっち向いてるわね」
「…ふ~。あ~久しぶりに入れて気持ちいいよ~。あっ、もうこっち見ても大丈夫だよ」
「エミリー熱かったりしない?」
「だいじょう.。o○」
顔を半分お湯につけて返事をするエミリー。蕩けたような顔でくつろいでいる。
「ビデオとカメラがあればなあ…」
思わずつぶやいてしまう。そう、この光景はスマホじゃだめ。ちゃんとしたビデオとカメラじゃなきゃ。そんな可愛いエミリーに私は癒されていた。
「ん~、ぷはぁ」
顔をお湯から出してエミリーが大きく伸びをする。こんな気持ちよさそうにするなら、さっきのお湯の温度を覚えておくんだった。疲れていたし熱くなければいいやと結構適当にしてしまったのが悔やまれる。
「ティア~どうしたの?なんか難しい顔してるよ?」
「なんでもないわ」
本当にエミリーには何でもないことだったのでそう返しておく。
「ふ~ん。ふぁあぁ」
「ダメよエミリーお風呂で寝ちゃ」
「分かってま~すぅ」
そんなことを言っているけれど、だんだん目が怪しくなってきた。
「エミリー、もう上がったら?このままだと寝ちゃうわよ」
「う~ん。もったいないけどそうする。ティアありがとね」
「どういたしまして。じゃあ、早く体を拭いて着替えなさい」
お湯から上がったエミリーの体が湯冷めしないように風で膜を作りながら、終わるのを待つ。
「着替え終わりました~」
「お疲れさま。じゃあ、先に戻ってて。別に疲れてるならそのまま寝ててもいいわよ」
「は~い」
「あ、でもフォルトとキルドにこの後ですぐお風呂入るか聞いておいて」
「りょ~かい」
パタパタとエミリーは小屋の方へ戻っていった。私はそれを見送ってから体を洗うため服を脱ぐ。
「しかし、よくもまあここまで汚れたものね」
もう一度、体を見ると汚れだらけだ。最初に弾き飛ばされた時と最後に地面を転がった時に破れた服の隙間から入ったであろう砂が付着している。
「ちゃんと洗わないと桶が大変なことになるわね」
念入りに髪から順に下へと洗っていき、ちゃんと汚れが落ちたことを確認してお風呂に入る。
「でも、今日は本当に大変だったわ。最初に飛ばされたときは死ぬかと思ったし、この世界に転生して一番の危機だったわね」
前世の自分が死んだと思った時のことを思い出す。あの時は無我夢中だった。その後、転生して今の母親のもとに生まれ、何事もなく今日まで過ごしてきた。転生してこの世界の人間として生きてきたつもりだった。でも、前世の空想上の生き物がいると分かって、結局親の反対を押し切る形で冒険者になった。
それが、今日は本格的な危険に自分から飛び込んでいったのだ。この世界に生まれたものとして生きようとしても、どうしても無視できないことがある。
「結局、前世のことに引っ張られちゃうのよね…」
言葉遣いや性別の差は生活する中で、簡単に慣れたけど鏡を見るとやっぱり思いを馳せてしまう。
「あの子そっくりだもんね…ちょっと歳は勝っちゃったけど」
いつも朝、鏡を見るたびに妹のことを思い出す。あの後、彼女はどうなったのだろう?発作が起きてなければいいけど。強いショックや急激に疲労したときにも症状が起きていた。生きてくれていればいいのだけど。
「まあ、時間がどう流れてるかもわからないし、知りようもないけどね」
そんなことを考えながら湯船につかっていた。
「結構時間経ってるわね。私ものぼせないうちに上がりましょう」
お風呂から上がって、丹念に体を拭いてから着替える。来ていた服は残念ながら穴や破れがひどくて着れそうにない。
「さすがにこれは捨てるしかないわね」
その後、小屋に戻るとフォルトとキルドがリビングにいた。
「フォルト、キルド。地図作ってたの?ちょっとは休んだら」
「お帰りティア。でも、記憶がはっきりしているうちに作らないとね。とはいっても戦ったせいでうろ覚えなんだけど」
ははっと笑うキルド。フォルトも肩をすくめている。やっぱり2人とも疲れている様だ。
「それなら、まずちょっと休んでからしたら。今なら入れ直すわ」
「ほんと?なら、フォルトには悪いけど僕はちょっとお風呂に入ってくるよ」
「ああ、ゆっくりしてくるといい。ティアには悪いけど私は熱い方が好きだからカークスが帰ってきたら入るよ。頼めるか?」
「分かったわ。じゃあ、私は部屋で少し休んでるから呼んでね」
「すまないな」
そう言ってフォルトたちと別れて寝室へ向かう。寝室では疲れていたのかエミリーがすやすやと寝息を立てていた。私は机に座り昨日書いていた魔法の使い方の冊子の作成に入る。今日の戦いを経て色々書き加えないと。
カリンの為と思っていたけど、自分用にも書こう。飛竜との戦いで思ったよりも書くことが増えたし、どんな対処が可能か考えることもできる。そう思って書いていると、リビングの方から声がする。どうやらカークスとカリンが報告を終えて帰ってきたようだ。
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