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 王都から戻ってきた私は早速、お兄様に事の成り行きを話して侯爵家の資金から邸の建設資金を出させる。作業自体はすでに進んでいるから職人たちに早く渡してあげないといけない分だ。

「おお、イリス帰ったか? ケイトも元気そうでよかったよ」

「侯爵様。今しばらくケイトはお借りします」

「ああ。そうだケイト! これが終わればいっそ新婚旅行にでも行かないか?」

「ですが、領地のことなどは……」

「そっちは放っておいてもいずれやるようになるんだろう? なら、今ぐらいはゆっくりした方が楽しいよ」

「で、でしたらまた今度……」

「侯爵様はその時までに今着ているドレスよりも贅沢でなくとも構わないので、似合うドレスを着させてくださいませ」

「ほう? ちゃんと仲良くやってくれているようだね」

「違います! これを機にドレスの選び方などを教えてあげて欲しいのです。私では力になれませんので」

「お前も大したものだと思うが?」

「お忘れですか? すでに私はカーナヴォン子爵ですよ? 遊べる時間があるわけないでしょう!」

「まあ、妻の服を選ぶのは紳士の務めだし構わないよ。それじゃあ……」

「やれやれね。それじゃあケイト、エマと一緒に準備をしてて。悪いけどまた明日には子爵領に向けて出発するから」

「はい、わかりました!」

「お嬢様、ではわたくしたちも……」

「そうね。就任式用のものも必要だろうし、三着は必要ね」

 てきぱきと準備を進めていく。ドレスに関していえば私は引きこもりだったので、すでに作られたものがたくさんある。お披露目もしていないので、ケイトの分もあるはずだ。

「イリス様、このドレスちょっと合わないんですけど」

「あら? それはちょっと前のだけど大丈夫なはずよ?」

「あの……胸のところが……」

「ほう? それは仕方ないわね! エマ、牛刀を!」

「イリス様、お気を確かに!」

「ああ~、こんな前妻の子をいびる親がいるなんて見てみたいもんだわ。だってそうでしょう? あと数年はこれを言われ続ける身にもなりなさいよ!」

「お嬢様お気持ちはわかりますが……」

「テレサ、あなたはこっち側よね?」

「私は動きやすいですし、仕度が進めばどちらでも」

「ぬぐぐ。い~わ、あとはやらないから!」

 私は準備中のバッグを蹴飛ばして、ベッドにダイブする。もう今日は寝るだけだしいいんだもん。


 
 翌日、不貞腐れたまま私は馬車に乗り込んだ。

「さあ、行くわよ」

 馬車が順調に進んでいく。ただし今回に関しては途中で寄る町が違う。クレーヒルの町に寄ってから領都に向かう。

「そういえばどうしてクレーヒル経由なんですか?」

「あそこの代官はこちら側に引き込めそうだから先に挨拶に行くのよ」

「そうなのですか? 私たちメイドでもあちらの代官の情報は知らないもので」

「ええ、会計の収支を見たけど不正の履歴もないし、いけそうなのよ」

 こうしてクレーヒルの代官に私は目通りをすることとなった。

「これはレイバン侯爵夫人様にレイバン侯爵令嬢様よくぞいらっしゃいました。私は代官を務めておりますカインズです」

「急な話なのに時間をくれて感謝するわ。早速で悪いんだけど、あなたは現状この領地のことをどう思っているのかしら?」

「どうとは?」

「あれから八年。いい加減この領地をよくしたいとは思わない?」

「……それは確かにそうは思いますが、この町だけで改革はとてもできません。こうして流通を集めてはおりますが、それでもうまくいかないのです」

 ちらちらとケイトのことを見ながらカインズは言う。彼とすればケイトの前で下手なことは言えないという形なのか。

「ケイトのことは気にしなくて大丈夫よ。彼女はもうこの領地の人間ではないし、噂で聞いているかもしれないけれど、私がアレンと結婚してこの領に入るから」

「……それならば。失礼を承知で申し訳ありませんが、正直領民が出て行く一方で延命に近いところもあり本当に困っています」

「収支のごまかしはないのよね?」

「ないといいたいところなのですが、エルマン子爵への反感が大きく、取り締まりは行っていますが、実際の出来高はもしかすると報告より多いかもしれません」

「父がご迷惑を……」

「ケイト! また謝らないの。親がしたことは親がしたことよ。それにもうあなたには関係ないことよ!」

「レイバン侯爵令嬢……。あなたにならこの領地をお任せできます。実は友人が王宮に勤めておりまして、あなた様のことは伺っております。破天荒な意見もあるが、他人には思いつけないことを持ってきて下さるとか」

「そ、そんな変な意見はないわよ! 多分……」

「良かったですわね、イリス様。それではこちらの書類を確認してください。今後お嬢様が行うことで当然ですがこの領地の方にも手放しで喜べないこともあります。特に領地の商会員の方たちにはつらい思いをする者もいるでしょう。不正が入らないように情報の統制をする過程でこのことだけは了承ください」

「こ、これは……これでは不正を働いていない商会員まで!」

「でも、この改革が遅れればまたさっき言っていたように不正の温床が生まれるわ。それに、優良商会とそうでない商会を選別できる? 選別中に生まれるダミーの商会だってあるでしょう」

「……確かに」

「これは私から言わせてもらえれば、あなたたち領民の罪でもあるわ」

「我々の?」

「そう。確かにあの時の領主の行動は褒められたものではないわ。でもそのあとにそのイメージを払しょくしようとせずに、領主の子供にまで当たり散らして今の状況があるわけでしょう?領主がだめでもあなたたち領民がもう少し外部に働きかけていたら、もっと違う結果を生んでいなかったかしら?」

「……それは外から見た意見ですか?」

「ええ。だからこそ、この痛みにも耐えてもらうわ」

「本当にあなたは変わった方だ。そのようにおっしゃって下さったのはあなただけですよ。他の者は陰口だけでした。やはりこの改革にはあなたが必要です」

「そんなに買わないでよ。私は隠居生活を楽しみにしているんだから」

「隠居! そうですね。その時までには立派に成果をあげませんと!」

 ん、なんだか誤解があるようだけどまあいいわ。話がスムーズに進む方が今は大事だもの。

「しかし、子爵様たちはどうなさいます?」

「今新しい邸を建てているからそこに住んでもらうわ。とっても安心安全でセキュリティーもばっちりなところよ」

「なるほど。それなら安心です」

「あと、あなたはここの代官のままだけど、代替わりしたらここを領都にするから対応お願いね。私はこの先、地方を回る予定だから」

「ここが領都ですか? しかし、領都はずっとあの町で……」

「そういうところがいけないの。領都なんてそこが一番栄えてて地理的に重要ならどこでもいいの。すぐに変えるのはどうかと思うけど、少なくとも今の領都には何か魅力があるかしら? 他の貴族が来た時に見せることができるものがある?」

「確かに、ここクレーヒルであれば大きな倉庫や領中の品が一手に集まります」

「それを見せるだけでも向こうはこの領のことをすごいと思うでしょう? みんな頭が固いのよね」

「分かりました。これ以上領地が荒れ果てることのないよう粉骨砕身いたします」

「期待しているわ。ああそうそう、連絡はここのテレサとして頂戴。私なんかより使えるから」

「テレサ様ですか?」

「敬称は不要です。ただの平民ですので」

「あ、いえ、レイバン侯爵令嬢付きのメイドの方を呼び捨てにはできません。それではよろしく頼みますテレサ様」

「はぁ、ではよろしく。とりあえずの連絡はこちらの商会を使ってください」

「この商会は?」

「お嬢様が立ち上げたもので、優秀なものが運営しております。連絡員もきちんとした者ですので」

「分かりました」

 こうして私たちはこの領において強力な味方をつけて再び領都へと向かう。もうすぐ私のぐ~たらライフの始まりだ!
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