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大淀萌衣子
その2
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「っていう夢を見たんだよ」
夢を見たその日の朝。いつも通りの気だるい朝を迎えた俺は、もしかして本当に大淀が死んでしまったんじゃないかとか、この世界で生きているのが俺だけなんじゃないかとか、ちょっと本気で疑って見たりして家で大騒ぎした。けど、あんまりうるさく騒ぎすぎたので妹に怒られてしまった。せっかく人が心配してやったのにあんなに怒ることはないと思うけど、騒いだ俺も悪い。反省。
「それは災難だったね」
いま目の前で俺の愚痴を聞いているのは鳴鳥奏斗。爽やかで良い奴なんだけど、時々天性の腹黒さを見せるのが玉に瑕の竹馬の友。
腹黒鳴鳥は心配そうな顔をしているが、実際は何を考えているやら分かったもんではない。多分、何も考えていないだろうけど。
「でも、胤史って大淀と仲が良かったか? 少なくとも、俺には他人同士に見えるけどな」
鳴鳥が不思議そうに顔をかしげる。
「・・・別に、俺が誰の夢を見ようが俺の勝手だろ?」
俺の反論に鳴鳥は首を振る。その表情が無知を憐れむものだったのが非常に頭にくる。
「いいか? 夢ってのは、その日印象に残った事とか心を悩ませることなんかが細切れに再生されるものなんだ。なんだって、あんまり交流の無いお前が大淀の夢を見るんだよ。見るんだったらあいつの方がまだ納得がいくってもんだ」
ほれ、あいつだよ。と鳴鳥の視線の先にいるのは胡蝶縁。
常に星座の本を小脇に抱えている無類の星座好きで、様々な星の名前や由来、そしてそれに関連する神話の知識を豊富に蓄えている。
一人でいることを好み、人から話しかけられるのを極端に拒んでいる変人だが、何故か、俺とは少しだけ会話をしてくれる。本当に分からない人間だ。
胡蝶は今もよく分からない星座の本を読んでいる。いったい何が面白いのだろう?星なんかを眺めてなににときめくというのか。
「なんで俺が胡蝶の夢を見なきゃなんないんだよ」
胡蝶から視線を逸らして鳴鳥を振り返ると、彼はニヤニヤと笑ってこちらを見ている。
「知ってるか? 夢に異性が出てきたら、それはその相手が自分の事を思っている。という証なんだよ」
彼の笑顔の実に楽しそうな事このうえない。
「それはつまり、俺が胡蝶の事を好きだと。そう言いたいのか?」
「いやー? 俺は別にそんな事は言ってないぜ? ただの一般論を話したまでだ」
その一般論とやらも古典の世界の話だがな。そうツッコミたかったが、間違いなくスルーされるのでやめた。
「でも、その話が本当なら大淀は俺に恋をしていることになるな。きっと一目惚れだ」
代わりにこんな事を言ってみたら、鳴鳥は苦しそうにうずくまってから突然大爆笑しだした。
「アッハハハハハハハハ!お前にか?大淀が?お前に?アハハハハハハハ!中々面白い冗談を言うじゃないか!胤史のくせに」
なんと失礼なやつだろうか。大淀が俺に恋をしている可能性だって、10の10乗の124乗分の1%くらいある。それをこいつは大笑いしやがったのだ。
「おい、そんなに笑う事はないだろ。あいつが俺に恋してる可能性だって、なくはないんだ」
笑い続ける鳴鳥は俺の苦情など何処吹く風に聞き流し、ドアの方をみていた。
「まあまあ。確かにその可能性も無きにしも非ずだな。ほぼないだろうけど。でも、笑って悪かったよ。お前にだって妄想する権利はあるもんな」
ひどい言われようである。なんだってこいつは俺をバカにしなければ気が済まないのか?
「お前・・・大分ひどいぞ」
こんなやつと話していても気が滅入るだけなので教科書やら筆記具やら色々な物を机の中に雑多に詰め込むことにした。
しばらくカバンの中を漁っていると、ふとクリアファイルの中に宿題が入ったまんまになっているのを思い出した。教科はたしか数学だったと思う。
高校二年ともなると、少しだけ授業も難しくなる。分からないところもポツポツと出てきた。宿題をやる意味は分かる。復習が必要なのも分かる。がしかし、俺は花の高校生を謳歌しているのだ。なんだってこんなまだるっこしいことに血道を上げなければ行けないのだろうか?今回のプリントだってそうだ。いやしくも教師お手製のプリントの上端には、必ず自分の力で解くこと!と書いてある。余計なお世話だ。バーカ。
夢と同じく真っ白なプリントをボーッと眺めていると、突然鳴鳥に肩を叩かれた。
「おい、来たぜ!」
ヒリヒリする肩を抑えて鳴鳥を睨むように振り返る。いったい誰が来たというのか
「痛い痛い。なんだよ急に叩くなよ。なんだ?金髪転校生でも現れたのか?」
鳴鳥はお構い無しに今度は肩を揺さぶってくる。
「違う、お前のお姫様の登場だ」
「お姫様ァ・・・?」
それはいったい誰のことだと尋ねようとした時、その人物はまっすぐ俺の前まで来た。
「胤史くん・・・」
小ぶりでしっとりとしたポニーテールが特徴的な女子生徒。顔を向けなくてもわかる。この、爽やかでくすぐったいような香りは覚えがある。
「よお、大淀」
大淀萌衣子。俺の〝元〟幼馴染だ。
夢を見たその日の朝。いつも通りの気だるい朝を迎えた俺は、もしかして本当に大淀が死んでしまったんじゃないかとか、この世界で生きているのが俺だけなんじゃないかとか、ちょっと本気で疑って見たりして家で大騒ぎした。けど、あんまりうるさく騒ぎすぎたので妹に怒られてしまった。せっかく人が心配してやったのにあんなに怒ることはないと思うけど、騒いだ俺も悪い。反省。
「それは災難だったね」
いま目の前で俺の愚痴を聞いているのは鳴鳥奏斗。爽やかで良い奴なんだけど、時々天性の腹黒さを見せるのが玉に瑕の竹馬の友。
腹黒鳴鳥は心配そうな顔をしているが、実際は何を考えているやら分かったもんではない。多分、何も考えていないだろうけど。
「でも、胤史って大淀と仲が良かったか? 少なくとも、俺には他人同士に見えるけどな」
鳴鳥が不思議そうに顔をかしげる。
「・・・別に、俺が誰の夢を見ようが俺の勝手だろ?」
俺の反論に鳴鳥は首を振る。その表情が無知を憐れむものだったのが非常に頭にくる。
「いいか? 夢ってのは、その日印象に残った事とか心を悩ませることなんかが細切れに再生されるものなんだ。なんだって、あんまり交流の無いお前が大淀の夢を見るんだよ。見るんだったらあいつの方がまだ納得がいくってもんだ」
ほれ、あいつだよ。と鳴鳥の視線の先にいるのは胡蝶縁。
常に星座の本を小脇に抱えている無類の星座好きで、様々な星の名前や由来、そしてそれに関連する神話の知識を豊富に蓄えている。
一人でいることを好み、人から話しかけられるのを極端に拒んでいる変人だが、何故か、俺とは少しだけ会話をしてくれる。本当に分からない人間だ。
胡蝶は今もよく分からない星座の本を読んでいる。いったい何が面白いのだろう?星なんかを眺めてなににときめくというのか。
「なんで俺が胡蝶の夢を見なきゃなんないんだよ」
胡蝶から視線を逸らして鳴鳥を振り返ると、彼はニヤニヤと笑ってこちらを見ている。
「知ってるか? 夢に異性が出てきたら、それはその相手が自分の事を思っている。という証なんだよ」
彼の笑顔の実に楽しそうな事このうえない。
「それはつまり、俺が胡蝶の事を好きだと。そう言いたいのか?」
「いやー? 俺は別にそんな事は言ってないぜ? ただの一般論を話したまでだ」
その一般論とやらも古典の世界の話だがな。そうツッコミたかったが、間違いなくスルーされるのでやめた。
「でも、その話が本当なら大淀は俺に恋をしていることになるな。きっと一目惚れだ」
代わりにこんな事を言ってみたら、鳴鳥は苦しそうにうずくまってから突然大爆笑しだした。
「アッハハハハハハハハ!お前にか?大淀が?お前に?アハハハハハハハ!中々面白い冗談を言うじゃないか!胤史のくせに」
なんと失礼なやつだろうか。大淀が俺に恋をしている可能性だって、10の10乗の124乗分の1%くらいある。それをこいつは大笑いしやがったのだ。
「おい、そんなに笑う事はないだろ。あいつが俺に恋してる可能性だって、なくはないんだ」
笑い続ける鳴鳥は俺の苦情など何処吹く風に聞き流し、ドアの方をみていた。
「まあまあ。確かにその可能性も無きにしも非ずだな。ほぼないだろうけど。でも、笑って悪かったよ。お前にだって妄想する権利はあるもんな」
ひどい言われようである。なんだってこいつは俺をバカにしなければ気が済まないのか?
「お前・・・大分ひどいぞ」
こんなやつと話していても気が滅入るだけなので教科書やら筆記具やら色々な物を机の中に雑多に詰め込むことにした。
しばらくカバンの中を漁っていると、ふとクリアファイルの中に宿題が入ったまんまになっているのを思い出した。教科はたしか数学だったと思う。
高校二年ともなると、少しだけ授業も難しくなる。分からないところもポツポツと出てきた。宿題をやる意味は分かる。復習が必要なのも分かる。がしかし、俺は花の高校生を謳歌しているのだ。なんだってこんなまだるっこしいことに血道を上げなければ行けないのだろうか?今回のプリントだってそうだ。いやしくも教師お手製のプリントの上端には、必ず自分の力で解くこと!と書いてある。余計なお世話だ。バーカ。
夢と同じく真っ白なプリントをボーッと眺めていると、突然鳴鳥に肩を叩かれた。
「おい、来たぜ!」
ヒリヒリする肩を抑えて鳴鳥を睨むように振り返る。いったい誰が来たというのか
「痛い痛い。なんだよ急に叩くなよ。なんだ?金髪転校生でも現れたのか?」
鳴鳥はお構い無しに今度は肩を揺さぶってくる。
「違う、お前のお姫様の登場だ」
「お姫様ァ・・・?」
それはいったい誰のことだと尋ねようとした時、その人物はまっすぐ俺の前まで来た。
「胤史くん・・・」
小ぶりでしっとりとしたポニーテールが特徴的な女子生徒。顔を向けなくてもわかる。この、爽やかでくすぐったいような香りは覚えがある。
「よお、大淀」
大淀萌衣子。俺の〝元〟幼馴染だ。
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