魔王と結婚したい勇者の話

餅月

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世界を取り戻せ!

魔王との戦い

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イリヤたちがミラと対峙しているとき、カラルはマグノリアを介抱していました。

「大丈夫? マグノリア。私がわかる?」

マグノリアは苦しそうに呻きます。

「う...うぅ...カラル...? なの?」

「!!! マグノリア!良かった!気がついたのね!」

マグノリアは弱々しく瞼を開け、苦しそうに歪めた口元をなんとか開いて問います。

「イリヤは? みんなは...どうしてる?」

その言葉に、カラルはゆっくりと後方を振り向き、苦しそうに零します。

「今、ミラと戦っているよ。...でも、状況は芳しくない...かな...」

マグノリアは「そう...」とだけ呟いて、目を閉じました。

「マグノリア...?」

カラルが不思議そうに聞きます。

「悔しいけど、今の私がいっても足でまといになるだけ...。だから、少しでも体力を回復させないと...ね」

「マグノリア...。そうだね。焦ってもしょうがないもんね」

カラルは頷いて、イリヤたちの方を向きます。

(イリヤ、クズラ、ボルカ、それにポラリスも...みんな頑張って...)

少女たちは、精一杯祈ります。



さて、激しい攻防を繰り広げるイリヤたちですが、カラルの言う通り、状況は思わしくないようです。

「くそっ!なぜ当たらないのだ!」

ボルカが放つ高密度の弾幕は全てミラをすり抜けます。

暗黒弾の当たる度に霧散するミラの体はすぐに元通りになり、何事も無かったかのように、再び彼らに襲いかかります。

「無駄だよ!今の兄さんは魂だけの状態なんだ!どうにかして『兄さんの遺体』を見つけないと!」

「なに!ミラの『遺体』だと? そんなものどこにあるんだ!?」

「おそらく、あの世界のあの村に...うわぁ!」

ミラの謎の力による鉱石の弾丸がポラリスを掠めます。

「この!地球最高温度の灼熱をくらえ!」

クズラの腕から、輝く白に燃え上がる業火の渦が繰り出されます。

焔は的確にミラを捕らえ、霧の体を焼き尽くします。

「ぬっ!ぐ...くぁあ。愛宕の火か...!魂さえも焼き尽くすとは恐ろしいものよ!だが、無駄だ!」

ミラの腹部からいく本もの腕が伸び、空気を焦がす灼熱を避けてクズラを締め付けました。

「ふんっ!こんな、霧なんて!今すぐぶち切ってやる!」

がんじがらめにされたクズラは必死にもがきますが、その努力も虚しく腕はビクともしません。
そこへ、高速で飛来する玉虫色の鉱石が直撃し、はるか後方へ吹き飛ばされてしまいます。

「ぐはあ!」

最高速度のジェットコースターがぶつかってきたかのような衝撃に、クズラは意識を失ってしまいました。

「クズラ!くそっ!」

ミラを囲んでいた炎の渦は消えてしまいます。

「いかに硬い鱗をもつ竜人といえど、この衝撃には耐えられまい!」

高笑いをする魔王の背後からイリヤが襲いかかります。

「魔王、覚悟!」

勇者が吠え、フェルミニオンを構えました。

「イリヤ!貴様の力は戦闘向け出ないことぐらいすぐに想像がつくだろうが!」

「はっ!俺の力が過去を覗くだけだとでも思っているのか!」

フェルミニオンが小さく光り、ミラの体が数箇所小さく揺らぎます。そして、次の瞬間、バシュッ!という破裂音とともにミラの体が散り散りになってしまいました。

「どうだ!見たかこのヤロウ!」

反動で後ろに飛ばされたイリヤは体勢を立て直し、得意げです。

「ぬぅ!こんなもの!」

魔王は、霧散する己の体を必死に集めようとしますが、あまりにバラバラに吹き飛ばされたため上手く行きません。

「デカした!イリヤ!」

うぞうぞともがくミラを巨大な光線が縦に貫きます。

その威力は凄まじく、アーカーシャ層の地面ごとミラを消し飛ばしてしまいました。

「おおっ!すげぇな!お前」

古代ローマのような神秘的な装束に身を包み、背後に光の輪を纏ったポラリスが片手を伸ばした状態で宙に浮いています。

「気を抜かないで!みんな!兄さんは死んじゃいない!」

先程の技で、かなりの体力を消耗したのでしょう。額に玉のような汗を浮かべて、ポラリスが叫びます。

その瞬間でした。何も無いと思われた空間から五本の巨大な腕が伸びてきて彼らを捕らえます。

「カラル!」

その腕は、マグノリアを守っていたカラルまでも捕らえてしまいました。

「マグノリア!逃げて!」

マグノリアは必死に腕を伸ばしますが、カラルはその手を弾きます。

「あなただけが...希望なのよ!」

「カラル!そんな!」

五本の腕は、根元を中心に同心円状に伸びています。

「体が霧状だから...ぐっ!...一点に体を集めて高密度にし、ポラリスの光線を防いだのか...!」

ボルカが苦しそうに喘ぎながら呟きます。

「あーはははははは!残念だったな!貴様ら!この程度の攻撃で私を倒せると思うな!」

腕の中心から魔王が姿を現します。

「悔しいか? 悔しいだろうなぁ!私を倒せると踏んでここまでやってきた訳だからな!」

魔王の高笑いがアーカーシャ層にコダマします。

「く、そぉ!魔王のやつ、好き勝手言いやがって!」

あまりに強く握り絞められているため、思うように力が使えない彼らは、ただもがく事しか出来ません。

「んー? どうだね? 屠殺直前の畜生共のように、何も出来ずにただ殺されるのを待つだけというのは? 最高に惨めじゃないか!なあ!勇者よ!」

「はんっ!、俺達が畜生だってんなら...さしずめお前は穢い穢い屠殺業者ってとこか...!」

勇者が精一杯の嫌味を呟きます。

「ふん!つまらぬ減らず口を!」

「ぐぁぁ!」

腕の締め付けが強くなり、イリヤが苦しそうに呻きました。

「イリヤ!...この、魔王!私達をどうするつもり?」

カラルが思わず叫びます。

その言葉に、ゆっくりとカラルの方を向いた魔王は不敵に笑います。

「どうするつもり...か。ふん。どうしてくれようかねぇ? このまま貴様らを殺してやってもいいが、それではつまらぬ。しかし、ふむ、五人いるな...なら、ちょうどいい、世界が滅ぶまで私の『遺体』を守ってもらおう!」

魔王がそう宣言すると、五人を捕まえている腕が大きく広がり、彼らを包み込むと、そのまま小さくなって消えてしまいました。

「あの世界には私の『遺体』がある。あれに万一の事があれば私は...」

と、そこで魔王はマグノリアに気づきます。

「ふん、万に一つも利用価値のないこの小娘が残ったところで意味は無い。貴様も、あの世界に帰るがいい」

おぞましい闇がマグノリアを包み込みます。

「なんだ? その反抗的な目は。貴様とてここで殺しても構わぬのだぞ?」

その言葉にさえマグノリアは反応せずに、ただ魔王を睨みつけています。

「愚かなガキが!貴様が怒りに震えたところでできることなど何も無い!」

ミラがマグノリアの顔を鷲掴みにして言います。

「...あなたは...」

「うん? なんだ? 言いたいことがあるのか?」

意地悪く笑うミラはマグノリアを放り出します。

「あなたは...イリヤに適わないわ...絶対に」

上体だけ起こして、目に怒りを湛えたマグノリアが言います。

「ほぅ? 貴様今なんと言った? 私がイリヤに適わないだと? はははっ!バカもここまでくるといっそ清々しいな!」

「...なんですって?」

「いいか!そのイリヤは!今!貴様の目の前で私に敗れたのだぞ!手も足も出ない圧倒的敗北だ!力の差など歴然であろう!」

「そんなことはない!イリヤは必ずあなたを倒すわ!」

「分からん小娘め!そんなに言うなら、自分の目で確かめるがいい!お前の信じるイリヤが今どうなっているか!」

マグノリアを包み込んだ闇が地面に溶けます。

「絶対に...許さないから...」

マグノリアの呟きは魔王には届きませんでした。

そして、薄れていく意識の中でイリヤのことを思いながら、彼女は眠りにつきました。

マグノリアを包んだ闇が完全に地面に溶けてしまうと、ミラは、一人笑います。

「ふふふ、はははははは!これでいい!あの娘は何も出来ん!私の安寧は約束されたのだ!」

あーはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!

生ける者のいないアーカーシャ層に、狂った笑い声が響き続けました。
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